両チームのスタメンはこちら
結果は2-0でポルトガルの勝利。一言で言うと、完勝。両チームともに怪我や累積によって、これまでスタメンで出場していた選手がいなかったが、ラムジーの不在が何よりも痛かった。グループリーグと比べると、ポルトガルのスタメンがかなり入れ替わっている。センターバックに至っては、ペペ、リカルド・カルヴァーリョ→フォンテ、ペペのコンビに代わっている。それでも、チームとしての機能性を失わない層の厚さとチームとしての完成度が、ポルトガルの完勝を導いたと言っていいだろう。
プレッシング開始ラインの設定
北アイルランドが示したように、高い位置からの守備にウェールズは決して強くない。アシュリー・ウィリアムズ、ジョー・アレンと標準以上にボールを繋げる選手がいる一方で、相手からのプレッシングを受けると慌ててしまう選手も多い。だからこそ、ウェールズは3バックを採用している。3バックのビルドアップに対して、数的同数で迫ってくる相手は、決して多くはない。さらに、システムがかみあわないことを利用したボール循環は、ボール保持者、パスの受け手に自然と時間と空間を与えてくれる。選手の質を考慮すればするほど、3バックでのビルドアップを採用するウェールズの考えの確かさを実感する。
システムのかみあわなさを考慮しない守備を見せたのがベルギーだった。ベルギーの狙いは、ハーフラインからのプレッシングによって、相手を自陣から誘い出す。そして、空いたスペースを利用したカウンター、速攻を考えていたのだろう。しかし、ウェールズのボール保持に対して、ベルギーはボールを奪えずに逆転を許してしまった。ウェールズの準決勝の相手のポルトガルも、ベルギーと同じ策をとった。ハーフラインからのプレッシングだ。ラインを下りる動きにも不必要についていくことはなかった。ただし、ベルギーとは違い、ポルトガルはウェールズの攻撃を抑えてみせた。
フェルナンド・サントスのウェールズ対策
ウェールズは3-4-2-1のような形を今までは行ってきた。しかし、ラムジーの離脱によって、3-1-4-2に変化している。キング、ジョー・アレン、レドリーは3センターと考えるほうがいいだろう。
ポルトガルのシステムは、4-4-2のダイヤモンド。これまでも行ってきた形だ。しかし、守備の場面に注目すると、ほとんど4-1-3-2のようになっていた。レナト・サンチェス、アドリエン・シルバ、ジョアン・マリオの3センターと考えたほうがいいだろう。奇しくも両チームが3センター同士のぶつかりになっていることが興味深い。
3バックへのビルドアップへの対策としては、広く知られた方法論を採用するフェルナンド・サントス。守備に熱心でない1列目には最低限の仕事を与えた。3バックのビルドアップは、両脇のセンターバックからの運ぶドリブルがキーになる。よって、運ぶドリブルをさせないために、クリロナとナニにしっかりと仕事を与える。にくいところがべたつきのマンマークでないことだった。ウェールズのセンターバックに、ボールをもたせるのは問題なし。でも、前にはいかせない。ボールを奪うのではなく、ボールを効果的に前進させないことに注力するポルトガルの守備に、ウェールズはボールを前進させるときの選択肢を削られてしまう。
ポルトガルの守備を見ていると、ドルトムントのクロップが、3バックへのビルドアップに4-3-3で対抗したことを思い出す守備の仕組みだった。1列目はボールをサイドに誘導&運ぶドリブルをさせない。2列目は3センターで気合のスライドを行なう。1列目がサイドチェンジをさせない(各駅停車はOK)ことを守れば、3センターでのスライドでも間に合う。
ポルトガルの場合は、サイドバックがマークすべき対象を持っていない。よって、3センターのスライドが間に合わない場合は、サイドバックが前に出てきて対応していた。3センターのスライドだけで対応しよう、という約束事だと隙ができてしまった可能性は高い。ポルトガルの保険は、サイドバック以外にもあり、もうひとつの保険がダニーロ。1列目を3トップで対応しなかったために発生した保険によって、ポルトガルは3センターでのスライドで発生するだろう穴を懸命に埋め続けた。
ウェールズの手としては、ロブソン・カヌへの放り込みが見られた。しかし、初スタメンのブルーノ・アウベスが跳ね返しまくる。ウェールズの次の手は、ラインを下りる動きで相手の守備の基準点を破壊する策だ。しかし、レドリー、キングが下りていっても、アドリエンはついていったり、いかなかったり。どちらかというと、放置が多かった。ウェールズの最後の策は、2列目からの飛び出し。しかし、ラムジーがいない。ラムジーは受け手と出し手の両方でチームに貢献していた。ラムジーの仕事をベイルが行っていたが、ベイルが作ってベイルが飛び出してベイルがフィニッシュしてでは、さすがに仕事量が多すぎる。それでも、フィニッシュまで行く場面がたびたびあって恐ろしかったけれど。もちろん、ポルトガルの面々はベイルの下りる動きは注意深く対応していた。
でも、ジョー・アレンたちの列の下りる動きによって、パスコースは創出できそうなウェールズ。しかし、ポルトガルの守備は、人への意識が非常に強い。ライン間やシステムをかみあわせない戦い方への天敵が、ほぼマンマークの戦い方。ポルトガルの面々は、マークを受け渡す場面では受け渡し、そうでない場面ではマークを続けることで、ウェールズの得意技を封じていった。マークがはっきりしているときこそ、ファイクの動きで撹乱したいのだが、ここでもラムジーの不在が痛かった。ポルトガルの守備によって、ウェールズはいわゆる相手のライン間やバイタルエリアにボールを入れることがほとんどできずに、試合を終えることになる。
カウンターを許さないポルトガルのボール保持プラン
ポルトガルのビルドアップは、理詰めで行われた。ウェールズの2トップの間にダニーロを配置する。2センターバックが横幅を取ることで、攻撃の起点となる。ポルトガルのサイドバックには、ウェールズのウイングバックが前に出てくる。サイドを攻撃の起点とするときは、インサイドハーフとサイドバックの縦のポジションチェンジで、時間と空間を得ていた。
ただし、ポルトガルは攻撃で無理をする気がなかった。攻撃のパターンは、ウイングバックが出てきたことで空いた前線にボールを放り込むこと。そして、相手を押し込めたときはクリスチャーノ・ロナウドに放り込むことに終始していた。
ポルトガルのプランとしては、ボールを保持することにこだわりがなかったのだろう。それは同時にウェールズの厄介なところは、カウンターと認識していた可能性が高い。実際にベイルが単騎突撃でフィニッシュまで行く場面はたびたび見られた。前述のように、ウェールズのボールを保持した攻撃は怖くない。ならば、相手にボールを持たせたほうが、相手のカウンターの機会は減る。自分たちがボールを保持することに自信はあれど、攻撃の終わり(ボールの移転)が必ず訪れる。そのときに、しっかりと守備の準備ができているかの保証はない。だとすれば、自分たちの守備の準備が完了しているような攻撃を繰り返せばいいとなる。
よって、ポルトガルの攻撃は、どこか迫力不足であった。代役のコリンズを狙い撃ちにしていたのも単なる偶然かもしれない。クリスチャーノ・ロナウドのプレーエリアとコリンズのプレーエリアが重なっただけとか。もしかしたら、コリンズのモチベーションを考慮して、クリスチャーノ・ロナウドにぶつけたのかもしれないけれど。
ポルトガルの攻撃で可能性を感じるとすれば、サイドバックの攻撃参加だった。ウェールズの5-3の守備はどうしてもサイドの頭数が足りない。よって、サイドに人を集めると、突破できるかどうかは別として、ボールを奪われる気配は減る。ボールを前進させると、ボールを保持するが異なるように、ポルトガルはボールを保持しながら相手のカウンター機会を削るようにフィニッシュまで持って行っていた。
後半になると、試合が動く。こういう膠着状態を動かすのは困ったときのセットプレー。ショートコーナーからのちょっとした工夫というよりも、クリスチャーノ・ロナウドの高さが際立ったヘディングシュートでポルトガルが先制する。
そして、連続してゴールが生まれる。ポルトガルの速攻が炸裂し、狙い続けたサイドからの数的優位でクロスポイントを得ると、最後はクリスチャーノ・ロナウドのシュートかクロスをナニがあわせて一気に2点差となった。50.53分と連続したゴールはウェールズの動きを加速させる。
ウェールズの策とクリスチャーノ・ロナウド
ウェールズは一気に3枚替えといってもいいくらいに交代を急いだ。前線の選手を投入し、4バックでポルトガルに迫る。ウェールズがやるべき策は、サイドに選手を投入することだったろう。ポルトガルのサイドバックにマークすべき対象を用意すれば、ポルトガルの保険を削ることはできた。サイモン・チャーチは左サイドにいることが多かったが、右サイドは誰がいるべきかいまいち整理されていないようだった。いわゆるスクランブルアタックである。その中でもベイルの存在感はやっぱり異常だった。
ポルトガルは疲労しているだろう選手を交代しながらも、特にシステムの変更はなし。さすがにこの場面ではクリスチャーノ・ロナウドも守備をするんだなという場面が出てくる。10人で守備をするようになったポルトガルは、ウェールズのスクランブルアタックに動じることはなかった。空中戦勝負でも安定感をみせ、カウンターで3点目が入ってもおかしくない場面を何度も作り続けた。
ウェールズが猛攻を見せたというのも嘘にはならないが、ポルトガルが最後まで試合の主導権を渡さない。つまり、相手に応じて自分たちのやるべきことを完結させ、準決勝を完勝で終えた。初めての90分間での勝利をものにしたポルトガルは、これから準決勝を戦うチームよりも休息十分で決勝戦に臨むアドバンテージを手に入れることとなった。
ひとりごと
23人で戦うものだというけれど、ポルトガルのフィールドプレーヤーの入れ替わりは凄まじいものがある。ペペがいなくなったことで、ナニとクリスチャーノ・ロナウド以外は、日替わりでスタメンを交代している。全試合に出場した選手も少ないので、他のチームに比べると、疲労も少ないだろう。やるべきことがはっきりしているからこそ、できる芸当なんだと思う。途中からアンドレ・ゴメス、モウチーニョが出てくるのはずるい。そして、ウィリアム・カウバーリョがいなくても、ダニーロが平然と代役を務めるから凄い。そんなターンオーバーみたいな采配もここまでこれた要因になるのだろう。
ウェールズは完敗。いろいろあるがラムジーの不在が痛かった。ラムジーがいれば、もう少しウェールズの良さが出たと思う。勝てたとはいえないけれど。それでもベスト4は立派。ギグスが何を思うかは誰か聞きに行ってほしい。そして、今後にも期待ができそうだ。
コメント