さて、プレミア・リーグが開幕した。最初にマッチレポされるのは、レノファ山口対徳島ヴォルティス。なんでやねん!という流れだが、神の見えざる手によるものなので、致し方あるまい。両チームの状況を簡単に整理しよう。レノファ山口は勝ちから遠ざかっている。徳島ヴォルティスは3連勝。また、ボールを保持することに執着していた徳島ヴォルティスだが、ウタカやバラルの加入、灼熱の日々など様々な要因によって、ボール保持にこだわらなくなっているらしい。そんな両チームのぶつかり合いは、レノファ山口の徳島ヴォルティス対策、ポジショニングおじさんことリカルド・ロドリゲスの修正、絵に描いた餅大会の三本立てでお送りします。
レノファ山口のボックスビルドアップ
普段は4-1-2-3らしいレノファ山口だが、この試合では4-2-3-1のような形で試合に臨んだ。徳島ヴォルティスのボールを保持していないときのシステムは5-3-2、自陣に撤退すると、5-3-1-1となる。よって、4-1-2-3だと、アンカー対トップ下がしっかりと噛み合う形になる。さらに、レノファ山口のインサイドハーフは、徳島ヴォルティスのインサイドハーフと噛み合う形となるだろう。しかし、4-2-3-1にすることで、自陣のビルドアップの安定と、相手陣地での噛み合わせを避けることに成功している。この形によって、前と三幸がオープンな形でボールを持つ場面を何度も作ることができたレノファ山口。最初の選手のポジショニングで、ポジショニングおじさんことリカルド・ロドリゲスを苦しめたのは、レノファ山口が策士だったことを意味している。
5-3-2の殴り方講座:レノファ山口編
40秒くらいに徳島ヴォルティスが岩尾のゴラッソで先制する。スコアの変動によって、徳島ヴォルティスは5-3-2で撤退するようになった。と言いたいところだが、その後のスコアの変動によって、徳島ヴォルティスの守備の方法に変化はなかった。よって、5-3-2の撤退守備が徳島ヴォルティスのデフォルトの形になっていると考えるほうが妥当だろう。
レノファ山口は後方の優位性を味方に繋いでいく意識がチームで統一されていた。特に前と三幸のパウサは非常に見応えがあった。前線へのパスコースが空いていたとしても、ボールを保持している自分よりも時間と空間を得られないならパスをしない。ときにはピタっと止まることもある両者のプレーは、非常に洗練されているように感じた。
5-3-2で撤退する徳島ヴォルティスに対して、明確な狙いを見せるレノファ山口。特に繰り返された形が藤原の裏だ。5バックは迎撃(自分のエリアを離れてでも守備の基準点を守る)をルールとしているチームが多い。徳島ヴォルティスも例外ではなかった。そのルールを利用しながら、レノファ山口は攻撃を組み立てていった。センターバックを孤立させることが目標とも言える。
・ボックスビルドアップで三幸や前をオープンな形にする→相手のインサイドハーフをピンどめする。寄せられそうで寄せられない。もしも、インサイドハーフが出てこなかったら、前線の4人の下りる動きでインサイドハーフを動かす。
・サイドバックの高い位置によって、相手のウイングバックを引き出す。もしも、引き出されなかったら、サイドハーフと連携して数的優位で迫る。
・相手のウイングバックが引き出されたら、空いたエリアにボールを供給する。広いスペースで勝負させる。
再現性のある攻撃とボール保持によって、試合の流れはレノファ山口に傾いていった。そして、あっさりと逆転に成功する。40秒の失点から、16分が経過したことの話だ。レノファ山口の攻撃の設計で興味深かったのは、自分たちの動きによって→相手が動く、動かないときの選択肢が整理されているように感じさせられたことだ。よって、やべえ、どうしたらいいかわからないよ!みたいな選手はいないように見えた。つまり、判断に迷いがないし、何が起こるかをすでに知っているようなプレーたちであった。素でエグい。
リカルド・ロドリゲスのどこに誰が立つか?という修正
5-3-2の泣き所である相手のサイドバックに誰がプレッシングをするんだ問題。どうやらウイングバックがプレッシングすることは狙われているようだなとインサイドハーフの選手を果敢に動かすこともあった徳島ヴォルティス。しかし、リードされてからも徳島ヴォルティスに大きく流れが来るような場面はほとんどなかった。よって、大きく修正でもしないといけない。というわけで、徳島ヴォルティスの恒例であるシステム変更の時が訪れた。立つ位置ですべてが変わると考えていそうなリカルド・ロドリゲス。34分にシステムを変更し、選手も交代(小西→大本)もした。システム変更をこの時間まで引っ張った理由は不明だ。シンプルに最適解を見つけるのに時間がかかったのかもしれない。非ボール保持は4-4-2。レノファ山口の狙い所を一気に消したシステム変更となった。サイドで数的優位も作りにくくなるし、藤原の裏のエリアも使えなくなった。
ボール保持は左右非対称システムとなっている。強引にシステムを解釈すると、3-1-4-2。4-4-2対策としては王道のシステムとなっている。ただし、岩尾とシシーニョは横並びでプレーする場面も多く、井筒もサイドバックのように振る舞う場面が多かった。このようなシステムを行き来するような選手がいると、相手は非常に困るものだ。パターンで列を移動することも、時には相手を惑わすことに繋がる。センターバックがボールを持っているときにセンターバックの間に下りること。でも、ときどき下りるな!という原則があると、下りるときのトリガーを相手は見つけることができない。そもそもトリガーがなければ、発見もされないという策もこの世には存在する。このシステム変更によって、徳島ヴォルティスは後半を優位に進めることに成功し、最後に同点ゴールを決める展開となる。レノファ山口は選手の交代はすれど、仕組みを大きくいじることはなかったので、試合の流れに影響を与えるようなことはなかった。
レノファ山口の後半の整理
サイドバックの大本の高いポジショニングに対して、レノファ山口は高木を下げることで対応する。いわゆるハリルホジッチ時代の原口元気の得意技だ。サイドハーフをサイドバックの位置まで下げるデメリットは高い位置からの守備の枚数が減ることと、攻撃に出ていくことが困難になることだ。しかし、原口元気は走りに走れるので、このタスクが大きな問題にはならなかった。
なお、前半のレノファ山口の守備タスクとなる。前半は高い位置から守備を行えていた。特に前線の4枚の献身性(特にジャンプ)とサイドバックの縦スライドを使うことで、徳島ヴォルティスのボール保持に対抗できていた。
赤丸エリアが非常に怪しい。島屋とバラルとセンターバックが同数は厳しい。よって、ボールサイドでないサイドバックのカバーリングが必要になるだろう。さらに、シシーニョと岩尾対高井&3バック対アドも怪しい。このエリアで前を向かれるようだと、フルボッコにされそうである。もちろん、これらのかみ合わせを機能させないためのスピードによる解決も手としてあると言えばあるのだが。ちなみに、後半の徳島ヴォルティスのプレッシングの肝はこのスピードによる解決だった。
やはり策としては間違っていない。しかも、リードしているわけだし。トップ下から島屋がいなくなったことで、バラルが下りる動きでチームを助けるように変化していった。レノファ山口の守備を観ていると、人への意識、守備の基準点の設定へのこだわりを強く感じさせられた。その守備方法はちょっとハリルホジッチを思い出すものだった。逆にスペース管理という点においては、非常に怪しい。むろん、高い位置から守るチームにおいて、同数によるプレッシングなどを考慮すれば、人への意識が強いが正解なので、そういう流れなのかもしれないけれど。ただ、相手陣地ではマン・ツー・マン気味、ミドルからはミックス、ペナルティーエリアはマンマークなどなど、エリアによって守備タスクも変更できれば最強なんだけれど。
このような人への意識の強さはポジションチェンジや列を下りる動き、守備の基準点の喪失に非常に弱い。よって、列を下りる動き、密集、変幻自在のポジショニングにレノファ山口の守備は苦労してきたのかもしれない。よって、列の移動ができる狩野を入れ、広瀬とのツーシャドウにして、さらに選手の移動を増やしたリカルド・ロドリゲスの采配は見事だった。
絵に描いた餅
さて、ここからは新コーナーである。サッカーにたらればはないが、もしもこうしていたらどうなったのだろうコーナー。なお、ここからは論理もへったくれもないので、絵に描いた餅だとして解釈してください。
現実的なところでは、大外の選手を誰が見るのかを変える。5バックは後方に重たすぎるし高木は攻撃で長所を発揮する選手だったはずだ。というわけで、逆にする。本当は高木のポジショニングで広瀬へのパスラインをきるで対応したいのだけど、ビルドアップ隊がフリーな状況は変わらないので、それはさすがに絵に描いた餅すぎるので却下。なお、大外はサイドバックが担当するはアトレチコ・マドリーの得意技だった。最近は知らない。
位置的優位?数的優位?なにそれ?おいしいの?どうせこっちのゴールに来るんでしょ?待ってるから大作戦。ただし、レノファ山口が5-4-1の撤退をやったことがあるのかどうかは知らない。
通称・トラップディフェンス。2トップで3バックを担当することは可能なようで不可能なようでよくわからない。結局はそのエリアにいる選手の質によるし、どのみち2トップが疲れることは間違いない。ならば、何を捨てるか。もしくはどのように誘導するか。サイドバックかセンターバックかの振る舞いで厄介だった井筒をアドでピンどめ。アドは井筒とデート。井筒がもしも上がっていったらスルーでカウンターの殴り合い。高井は石井と藤原をみる。2バックに1トップはタスクオーバーになりがちだが、このエリアの狭さならばいける。
というか、藤原がボールを運ぶことは捨てる。そのころにはスライド完了で迎撃。逆サイドのアドに展開して殴り合いに勝利する作戦。欧州ではよくある守り方であるし、ベルギー対フランスのフランスの方法論はこれに非常に近い。相手にボールを保持させるけれど、サイドチェンジはさせないし、攻撃方向も限定するぜ!という策になる。3バックに2トップでどのように守るかはしっかりと整備しなければいけない。根性では無理。片道燃料で交代が前提ならばいけるかもしれないけれど。
普段が4-1-2-3ならば、相手が4-4-2に変更したときにもとに戻せばよかったのに、というのはずっと思いながら観ていた。前半のボール保持を観ていると、ボール保持に慣れていないなんてことはない。相手が守備の基準点を噛み合わせてきたならば、また変化すれば良い。ときどきアラバロールしていた選手もいるので、非常に慣れているはずだ。もちろん、リードしている状況でボールを保持にこだわる必要があるかは疑問だが、相手がボールを保持する⇔プレッシングで対抗よりも、実は結果を連れてきてくれる可能性が高かったのではないかと感じた。でも、本当にレノファ山口が4-1-2-3かどうかは知らない。
ひとりごと
両チームに変化が見られたので、非常に面白い試合となった。前半はレノファ山口、後半は徳島ヴォルティスの良さが存分に楽しめた試合だったので、第三者からすれば、良い試合だった。惜しむらくは、後半のレノファ山口の振る舞いだろうか。もしも、もっと早い段階で追いつかれたときにどのように反撃をするか?のプランがあったかどうかは非常に気になるところ。また、最初の布陣でリカルド・ロドリゲスを殴ったら、布陣の変更でリカルド・ロドリゲスに殴り返されたでござる!という関係性も非常に面白かった。オススメ!!
コメント
今回の、記事も楽しく読ませていただきました。
レノファの監督は、ハリルホジッチを呼んだ責任者ですし、何よりハリルホジッチの最大の理解者であったため、影響を受けていたり、発想が近いのだろうと思います。
P.S 僕は、指導者ライセンスを取りたいと考えているのですが、らいかーるとさんから、講習会のことや、実践において何かアドバイス等ありますか?是非、教えていただきたいなと思います
P.S2 あと、リンクに貼ってあるブログの記事に感想いただけたら幸いです
長々と失礼しました