【クーマンの狙い】エバートン対アーセナル【今季のアーセナルの強さの理由】

マッチレポ1617×プレミアリーグ

チャンピオンズ・リーグ、国内リーグともに好調のアーセナル。チャンピオンズ・リーグのファイナルラウンドではバイエルンとの対戦が決まった。ファーストレグでぼこされ、セカンドレグで結果を出すも惜しくも突破はできないというスタイルを、今季は打破できるのか注目されている。ただし、同じグループを2位で通過したパリ・サンジェルマンの相手がバルセロナだということを考慮すると、1位抜けも2位抜けも差がなかったな、という悲しい現実に行き着いてしまう。

スタートダッシュに成功したエバートン。気がつけば、勝てない日々に突入し、カップ戦もとっくに敗退している。定位置は5位です!というのはすでに昔のお話。群雄割拠のプレミアリーグにおいて、徐々に存在感を消していっているのが現実か。しかし、ホームでは無類の強さを維持している。相手が好調のアーセナルならば、それを踏み台にして高く飛びたい。監督はクーマン。プレミアリーグのなかで、ゆっくりとステップアップしている監督だ。

アーセナルのビルドアップ

昨シーズンのスパーズのビルドアップの形に似ている。通称、ボックスビルドアップ。2センターバックと2セントラルハーフでビルドアップを行なうことが特徴だ。2セントラルハーフのポジショニングがキーとなる。アーセナルの場合は、セントラルハーフがサイドに流れることが多かった。サイドバックが高いポジショニングをとる関係で、セントラルハーフの選手がサイドに流れることで矛盾が生じないように設計されていた。

エバートンはルカクと2インサイドハーフで何とか抑えようと、相手陣地からプレッシングをかける。しかし、数的優位の論理とときどきヘルプに来るエジルによって、オープンな状態でのボールの前進を許していた。基本的には4人+チェフでボールを運べるようになっている。カソルラの離脱によって、個人任せでなく、チームでボールを運べる仕組みを作れたことは大きいだろう。

前線の役割は、初期のグアルディオラに似ている。初期グアルディオラの特徴は、サイドバックは横幅をとる。サイドハーフはハーフスペースにポジショニングを取りながら、フォワードのように振る舞う。この形にアレクシス・サンチェスの個性が足されている。横幅、センターバックとの殴り合いという役割から解放されているアレクシス・サンチェスは、0トップのように振る舞う。アレクシス・サンチェスが自由に動いても、空けたエリアをつかう関係性はしっかりしている。相手からすれば、マッチアップの相手が変わっていくのは非常にめんどくさい。さらに、ゾーンにとらわれない動きをするエジル、アレクシス・サンチェスをフリーにすれば、何をされるかわかったもんじゃない。だからといって、マンツーのようについていけば、空いたエリアを使われると、非常に良く練られたアーセナルとなっている。

前半のアーセナルはこの形によって、ボール保持&定位置攻撃を徹底的に仕掛け続けた。エバートンにボールを奪われてもすぐに奪い返す場面が多く、延々とアーセナルのターンが続いた。ホームなのに防戦一方になったエバートンの反撃は、アーセナルにないものを利用した形がメインとなっていった。19分にアレクシス・サンチェスのフリーキックでアーセナルは先制する。ウィリアムズに当たって方向がかわる幸運なゴールだったが、定位置攻撃&果敢なトランジション姿勢がもたらしたゴールと言えるだろう。

ルカクの空中戦

アーセナルの基本コンセプトは、ボールを保持する。そして、相手陣地からの積極的なプレッシングだ。エジル、アレクシス・サンチェスともに自分の前にボールがあるときは、果敢にボールを奪いに行く。周りの選手も連動する雰囲気はあった。よって、エバートンはショートパスでボールを前進させていくと、アーセナルの狙いと正面衝突するようになってしまう。よって、エバートンはルカクに放り込む。サイドバックとの空中戦を望むルカクだったが、相手がコシェルニー、ガブリエルだろうが、ほとんど関係なかった。

ロングボールでボールを前進させてくエバートン。アーセナルは撤退守備に切り替えるようになる。撤退守備のアーセナルの弱点がエジルとアレクシス・サンチェスの守備の役割にある。平たく言うと、下ってこない。よって、1.2列目の間を相手に明け渡してしまう。カウンターのためだと言えばそれまでだが、このエリアを相手に与えてしまうと、撤退守備の時間はどうしても長くなってしまう。また、アーセナルのサイドハーフはあまり守備が得意でない。チェンバレンは何度もコールマンに裏を取られ、ウォルコットはベインズにたじたじとなってしまう。

また、スコアの変化は試合に影響をもたらせる。安定していたアーセナルのビルドアップに対して、エバートンは深追い、2度追いで対応するようになっていく。アーセナルからすれば、冷静にプレッシング回避をできれば褒美が手に入る状況だ。しかし、リードしていることもあって、アーセナルはロングボールで回避する場面が増えていく。すると、空中戦の的になってくれていたサニャはもういない。ジルーはベンチにいる。空中戦に競り勝てるかというと、やっぱり競り勝てない。よって、セカンドボールはエバートンに渡るようになり、アーセナルは徐々に押し込まれるようになっていく。

そして前半の終了間際にベインズのクロスをコールマンにヘディングで決められて、同点に追いつかれてしまう。サイドバックからサイドバックへのクロスという流行のような気がするが、エバートンはサイドバックを同時に攻撃参加させることをほとんどやっていなかったので、たんなる偶然だ。ベインズの左足を警戒しすぎたウォルコットの対応がなかなか切ないものだった。右足でもアシストするベインズが巧みすぎるけれど。

クーマンの采配の狙い

同点に追いつかれたことで、後半にはアーセナルが反撃を見せるようになっていく。アーセナルのビルドアップをときどきは狙いながらも、撤退守備で耐え忍んでいくエバートン。恐らくクーマンの狙いは、ルカクの質的優位を徹底的に活かす作戦だったに違いない。

試合展開はアーセナルがボールを保持する→エバートンが撤退守備で対抗する→ルカクに放り込む→マイボールになったらカウンターかポゼッション攻撃に移行するという流れがほとんどだった。この展開において、アーセナルのカウンターが消えている。アーセナルはハーフライン付近からの守備がうまくない。理由はアレクシス・サンチェスとエジルにある。ただし、彼らが前からプレッシングをかけようとしても、周りが連動しない場面もあった。否がどちらにあるかは、継続しておいかけないとわからないだろう。

ハーフラインからの守備が苦手だとすれば、守備の方法は相手陣地からの守備か、自陣に撤退となる。だったら、撤退してもらおうぜというのはエバートンの狙いだ。この展開を増やすことで、アーセナルの志向する相手陣地からの守備という局面を削ることに成功する。さらに、ルカクがいることで、このエバートンの作戦は見事に機能することとなった。

中央圧縮で撤退するエバートンに対して、アーセナルはジルーとイウォビを入れる。クロスにジルーという場面はあまりなく。左サイドからのアレクシス・サンチェスのチャンスメイクが目立つようになっていく。アーセナルの攻撃の中心はエジルとアレクシス・サンチェス。2人を経由しないと何も起きそうにない。カソルラ待ちか、ジャカの覚醒待ちか、両サイドバックに期待か。どのみち時間はかかりそうである。

相手の志向する局面を削りながら、自分たちの良さを出していくエバートン。そして後半の終了間際にセットプレー連打のチャンスを得る。そして、コーナーキックから点を決めたのはウィリアムズ。失点に責任を感じていたウィリアムズのゴールでスタジアムはヒートアップする。

残り5分で猛攻を見せるアーセナル。チェフも攻撃参加したセットプレーからチャンスを掴むが、ぎりぎりのところでクリアーされてしまう。そんな生死をかけたまさに決闘はスコアを動かすことはなかった。エバートンが逆転勝利に成功し、アーセナルは久々の敗戦となった。

ひとりごと

今季の強さの理由を証明しつつも敗れたアーセナル。負けるとしたら、今日のようなセットプレーでの失点なので、致し方ないだろう。ただし、カウンターや速攻、ボールのある位置に適した守備の方法などなどまだまだレベルアップは見込めそうなので、バイエルン戦までに期待したい。

エバートンはルカクが異次元だった。デ・ブライネ、アザール、ルカクが同時代に存在するだけでベルギーは反則だろう。フィジカルの強さをプレースタイルに活かせているし、単純に足も速い。エバートンから引き抜かれるとすれば、どこのチームに移籍するのかはちょっと楽しみだ。それとも、骨を埋めるのかどうか。

コメント

  1. かにえせいや より:

    この試合書いてもらいたかったのでとても嬉しいです

  2. ベジェりん より:

    いつも見てます。
    すごく参考になります。
    できればまたプレミアについて書いてください。

  3. ajars より:

    はじめまして!
    今回初めて拝見致しましたが、
    とても興味深い記事で、大変参考になりました。
    次回も楽しみにしています。

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