パコ・ヘメス対4-4-2 ~ラージョ対アトレチコ・マドリー~

Paco Jémez

ボールを保持するサッカーをするためには、優れたタレントが必要だ、という説がある。結果は別にして、中堅くらいの戦力だったとしても、ボールを保持するサッカーをすることが可能であることは、スウォンジーがプレミアリーグで既に証明済みしている。大切なことはどんな強豪を相手にしても、という点だ。最近のスウォンジーはベクトルの向きが変わってきているが、当時のスウォンジーはマンチェスター・シティ、アーセナルを相手にしても、自分たちのサッカーを押し通すことができていた。

リーガ・エスパニョーラではラージョがスウォンジーの役割を果たしていた。あのバルセロナを相手にしても、その姿勢を崩すことなく、ボール保持率で勝ってみせた。もちろん、サッカーはボール保持を競うゲームではない。ただし、バルセロナを相手にしてボール保持で勝つことは、ある意味試合に勝つことよりも困難かもしれない。

いや、それは別に困難ではないよ、断固たる決意と正しい知識さえあれば。

リーガの中ではプレミアのようなサッカーをしていたビルバオも、ビエルサの元でボールを保持するサッカーに豹変した。昨年までは蹴っ飛ばしていたのにもかかわらず。ビエルサも断固たる決意と正しい知識があれば、ボールを保持することなんて簡単だと言うかもしれない。

日本サッカー協会が発表したように、折しも日本はポゼッションサッカーと決別するようだ。岡ちゃんはその流れに反対していそうだけども。ポゼッションサッカーから卒業するのか、諦めるかでは決別の意味が変わってきてしまう。果たして、我々には断固たる決意と正しい知識があったのか。ここではラージョのサッカーからボールを保持する上での知識を学んでいく。

今日の試合はリーガの開幕戦。相手は昨年のリーガの覇者であるアトレチコ・マドリー。

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序盤はアトレチコ・マドリーのプレッシングに苦しむ展開が目立った。ただし、逆もまた真なりといったもので、アトレチコ・マドリーもラージョのプレッシングに苦しんだ序盤戦となった。つまり、試合開始直後の落ち着かない展開がこの試合でも繰り返されたということになる。

雲間からようやく太陽がでてきたときのように、試合が本来の姿を表したのは10分過ぎ。予想されたように、ボールを保持して攻撃を仕掛け続けるラージョの姿がピッチに現れた。ラージョはキーパーのアルバレスをビルドアップに組み込みながら、相手の一列目の守備に牽制を続ける。あなたたちのプレッシング開始ラインはどこですか?と。どこまで深追いしますか、味方がついてきていないのに。

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ラージョのビルドアップの変形から。最初は公式にもなっている形。センターバックが横幅を取ることで、相手の1列目の距離を広げる。センターバックが横幅をとれるので、サイドバックを前に出す。このときにサイドバックがいつものポジショニングをしていると、センターバックとの距離が近過ぎになってしまうので、良くない。

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次に相手の形にあわせて、中盤の選手が移動する。サイドバックの位置にインサイドハーフが落ちる形は最近の流行になっている。ラージョは4-2-3-1なので、インサイドハーフはいない。よって、中盤のセントラルコンビがそれぞれ動き出す。相手の1列目の間にポジショニングすることで、相手は両方のセンターバックとの距離感を近くすることで強烈なプレッシングをかけることはできない。もしも、横幅をとっているセンターバックにあわせたポジショニングをしてしまえば、バエナにボールを通されて詰むからだ。なお、状況によっては、そのままセンターバックの間にポジショニングする形も見られる。

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相手の守備を分断した後も決して急ぐことはない。アトレチコ・マドリーは1列目と2列目の距離が空いた状態でプレッシングを行っていた。それは放置した理由は不明。2トップを前線に残すことで、カウンターの威力を高めたかったのかもしれない。実際にラージョは何度もビルドアップミスをしていた。そしてアトレチコ・マドリーに決定機が与えられる。つまり、前から守備をしないとちょっともったいない思いにさせられるのがラージョである。

ボール保持率の高いチームは急がない。バックパスも多い。逆に言えば、ポジショニングがセットされた状態なら、ボールを奪われるという恐怖がまったくないのだろう。ときどき奪われていたけど。この試合で言えば、センターバックの横幅、サイドバックの高いポジショニング、相手のツートップに合わせた中盤のポジショニングをセットすることが重要だった。つまり、相手にあわせて最適なポジショニングを取ることがすべてのキーになっている。

そのために、キーパーへのバックパスを有効利用する。もちろん、プレッシングがはまったら蹴っ飛ばす。相手が前に来ている証拠なので、ブエノ、カクタ、懐かしのホナタンペレイラが空中戦でこぼれ球にできれば、回収できる計算になっている。

後半の中盤にアンゴラ代表のマヌーショが登場。役割は清水エスパルスの長沢と一緒。いくら繋ぐといっても、90分間も繋ぐ試合展開は考えにくいし、ポジショニングを常にセットできるとは限らない。よって、イレギュラーな状態に陥る機会の多い後半に困ったときの空中戦の的をいれながら、同時に前からのプレッシングを強化する采配を見せたパコ・ヘメスであった。

ちなみに、結果はスコアレスドロー。前半はビルドアップミスから危険な場面を作られたが、後半はラージョのほうが相手ゴールに迫る機会が多かった。昨年のリーグの覇者、チャンピオンズ・リーグのファイナリストにこのような試合をしてしまうのがラージョ。選手のタレントの差は圧倒的でも自分たちのサッカーを具現化することは別に関係無いようだ。

おしまい!

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