パコ・ヘメスは攻撃的な姿勢を緩めない、ということは各メディアの記事で伝えられている。遠く離れた日本でも、パコ・ヘメスでぐぐれば、いくつかの記事が出てくるだろう。結論から言えば、この試合は多くの人が想像するようなラージョっぽい試合であった、ということはできる。その一方で、ラージョっぽくない試合であったと、同時にいうこともできるという、非常に複雑な試合となった。
試合が本来の姿を見せるまでに、この試合は動きを見せた。前節のアトレチコ・マドリーのように、ラージョのビルドアップミスをデポルティーボ・ラ・コルーニャは狙い、高い位置からの攻撃的な守備を見せた。ラージョは、この無秩序状態でのミスをなくすために、空中戦の的であるマヌーショをスタメンで起用。試合が落ち着くまでの策として、または困ったときのロングボールとして、チームに心の余裕を与える起用と言える。
しかし、ボールの奪いどころとして、相手に狙われたアブドゥライエ・バ。ちなみにセネガル代表。デポルティーボ・ラ・コルーニャのワントップは、ラージョのセンターバックの間にポジショニング。パスコースを遮断してから、アブドゥライエ・バに向かってプレッシングを決行。狙われた焦りか、それとも試合を落ち着かせたい一心か。アブドゥライエ・バのバックパスをかっさらってデポルティーボ・ラ・コルーニャが先制に成功する。いわゆる、ジュニア年代で起こるようなビルドアップミスをしてしまったラージョ。ただし、ビルドアップミスを税金みたいなものと考えているラージョなので、メンタル的なダメージは少ないのだろう。
試合中に強制的に変化するものがある。それは時間。そして、ときどき変化するものがある。それはスコア。先制したデポルティーボ・ラ・コルーニャはゆっくりと守備にシフトしていく。それまではラージョのマンマークプレッシングを交わすような場面も見られたが、徐々にラージョがボールを支配するようになっていった。この現象はラージョのボールを保持する意志が勝ったとも言えるし、スコアが動いたことによるデポルティーボ・ラ・コルーニャの変化とも言える。
前節のアトレチコ・マドリー戦で見せたような変化を、ボールを保持したラージョは今節でも見せた。しかし、言うまでもなく相手のポジショニングは異なる。また、相手を研究してきたであろうデポルティーボ・ラ・コルーニャはラージョ対策を見せる。
サイドに移動した中盤の選手まで捕まえるとは想像しなかった。4-4-1-1で試合に入ったようなデポルティーボ・ラ・コルーニャだったが、その正体は4-1-4-1。ラージョの中盤トリオを逃さないぜ、マンマーク的な感じでポジショニングを無効化してやるといった気迫を見せた。
相手のポジショニングに従属するということは、パスコースもできるというお話。しかし、デポルティーボ・ラ・コルーニャは読みきっていた。ビルドアップ隊がきつくなったときのフォロー隊であるアキーノ、カクタ、ラージョのボールを引き出す動き、ビルドアップ隊に加わるための落ちる動きに激しくマークすることで対応。ガッツリ守ってカウンター!の準備はできているという姿勢を見せたデポルティーボ・ラ・コルーニャであった。先制したことで相手にボールを渡したデポルティーボ・ラ・コルーニャの行動も理解はできる。
ポゼッションチームの監督のセリフでこのようなものがあった。ボールを保持し、自陣を支配できていれば、ゆっくりと相手は疲弊していく。特に1列目の守備は心がきつくなってくる。彼らは本来は攻撃の選手だからね。また、こちらがポジショニングを変更することで、相手は移動を強いられるだろ。本来のポジショニングから離れて守備をすることはカウンターの準備に苦労するし、ストレスのたまることなんだよ。もちろん、監督がモウリーニョだったら選手はそんなことは思わないだろうし、シメオネだったら本来のポジションを守ったまま、守備を行う組織を構築するだろうね。
ラージョは中盤のサイドへの移動、3バック化、ときにはまったく変化しないの3種類の前進のスタートの形を使いながら、そして時にはマヌーショに放り込んだり、サイドハーフを相手の裏に走らせたりしながら、時間を過ごしていく。デポルティーボ・ラ・コルーニャは復元性のないカウンターを仕掛けるくらいで、ただし、ラージョに決定機を与えることはないのだが、徐々に怪しい雰囲気が試合を支配していった。
ラージョの中盤を抑えるために、捨てたのはラージョのセンターバック。ワントップの選手の守備が緩み始めると、ラージョのセンターバックが動き始める。特にゼ・カストロ。相手の陣地でプレーしたり、運ぶドリブルで相手の守備網を動かしたりと、リスクを冒し始める。ゼ・カストロが中盤の位置でプレーするということにより、ゼ・カストロ対応を強いられるデポルティーボ・ラ・コルーニャ。そして、誰かが対応すれば、誰かが空く。この時間とスペースを前線に繋いでいくことがビルドアップの使命。時には変てこなミスをしながらのラージョの攻撃だが、前半の時間が経つにつれて、相手の陣内に入り込むようになっていく。
この流れを加速させたのが、デポルティーボ・ラ・コルーニャにボールを保持させなかったラージョの気合プレス。相手のキーパーまで追い回すプレスでデポルティーボ・ラ・コルーニャの攻撃構築を苦しめた。そして、とうとう同点ゴールが決まる。決めたのはブエノ。レアル・マドリーの下部組織出身者の他のチームでのブレイクというデジャブで前半を終える。
後半も基本的な試合の流れは変わらず。同点に追いつかれたことで、デポルティーボ・ラ・コルーニャも反撃の狼煙を上げたいのだが、ラージョのボール保持と気合プレスの前に動くことはできなかった。前半よりは前に出る場面も見られたデポルティーボ・ラ・コルーニャだったが、ほとんど誤差のようなもの。ラージョはボール保持攻撃と気合プレスからのカウンターでデポルティーボ・ラ・コルーニャのゴールに迫り、後者の形からブエノが追加点を決める。
この試合の問題はここから。ボールを保持するチームならば、ボールを保持して時間を潰せばいい。しかし、リアソールで負けられないデポルティーボ・ラ・コルーニャが動き出す。愚直にボールを繋ぎながら攻撃を仕掛ける。ラージョは前線の選手を入れ替えながら、試合の強度を保つ道を選ぶが、デポルティーボ・ラ・コルーニャのボールを繋ぐ仕組みの前に沈黙気味になってしまった。
デポルティーボ・ラ・コルーニャの仕組みもラージョに似ている。昨年のレアル・マドリーから始まったインサイドハーフ落としと仕組みは同じ。日本人に説明するなら、長友の上がったスペースに遠藤!というザッケローニ時代の日本代表を思い出せばいいだろう。ラージョは前から追うので、ここも追いかける。リードしているので、後方で待ち構えていもいいのだが、そうは問屋がおろさないのだろう。積極的な姿勢というのは、ボールを保持するだけでなく、ボールを奪いに行くことも意味している。
そしてデポルティーボ・ラ・コルーニャの猛攻をしのぎながら、カウンターを仕掛けるラージョ。ボールを保持しない、またはできないラージョはらしくないのかもしれないが、この積極的な守備の姿勢はまたラージョらしいといえるのかもしれない。で、試合の結末はロスタイムにアブドゥライエ・バがエリア内で相手のシュートをハンド。アブドゥライエ・バの後方にキーパーもカバーリングのディフェンダーもいたのにハンド。そして、PKを決められて、2-2で試合は終了した。始まりも終わりもアブドゥライエ・バという試合は、こうして終わった。
ボール保持してなんぼということをラージョらしさと言うならば、この試合でそのらしさは継続されたかというと、最後の最後にされなかった。しかし、攻撃的な守備は継続された。それが正しいかどうかということはおいておいて、自分たちの意志を最後まで貫いたとは言えるのかもしれない。ボールを保持するのが攻撃だとしたら、では、相手がボールを保持している時にどのような形でやるのが君たちの意志なのか?と問われているような試合であった。
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