【サランスクのSSR】日本対コロンビア【西野監督の修正】

2018 FIFA World Cup

さて、今回は日本対コロンビアを振り返っていく。なお、開始3分で退場&PK献上という試合はどれくらいの確率で訪れるか誰か調べてほしい。

11対10という設計図

どこかの偉い人がこんなことを言っていた。

「プレッシングにくる枚数なんて決まっているんだよ!もしも、こちらのビルドアップ隊の枚数と同じ枚数を相手が揃えてきたら、前線が同数になっているんだよ。だったらショートパスなんてやめて蹴っ飛ばせば良いのだ。」

他の偉い人がこんなことを言っていた。

「ボールを保持していれば、基本的に11対10で試合をしていると考えるべきなんだよ。キーパーのフィールドプレーヤー化がいくら進んでも、こっちのセンターフォワードのマークをキーパーがすることはないだろう。そんな日が来ない限り、サッカーは11対10と考えるべきなんだ」

この試合の最初の注目点は、11対10になったのにも関わらず、日本はうまく振る舞えなかったことだろう。そんな理由について考えていく。

コロンビアのビルドアップ対日本のプレッシング

10人になってからのコロンビアのシステムは4-4-1。トップ下だったキンテーロがそのままセントラルハーフに配置された。11人のときからゴールキックを蹴らずに繋いでいたコロンビア。10人になってもその姿勢は変わらなかった。なお、「ゴールキックの振る舞いを見ていれば、そのチームのやりたいサッカーは見えてくる」という格言もある。つまり、コロンビアは1人減ろうが減るまいが、ビルドアップをする気満々であった。

コロンビアのビルドアップの特徴は、2センターバックと2セントラルハーフによるものだった。個人的に「ボックスビルドアップ」と呼んでいる。今大会ではこのボックスビルドアップを採用しているチームがなぜか多い。ボックスビルドアップは2枚のセントラルハーフのポジショニングが重要となる。セントラルハーフがレーンを横に移動したり、列を縦に移動したりすることで、相手の1列目を無効化する作戦となっている。

日本のプレッシングは4-4-2で行われた。プレッシングの枚数は2枚だ。よって、この2枚をボックスで囲んでビルドアップを行っていくコロンビア。コロンビアの選手が退場したのにも関わらず、コロンビアのビルドアップ対日本のプレッシングでは、日本に優位性がまるでない状態となっている。さらに、この位置にキンテーロがいることで、コロンビアの攻撃の精度が増すというおまけ付きであった。

日本からすれば、無理矢理にプレッシングに行くよりも後方での数の優位性を優先したのだろう。1列目のハイプレッシングに2列目が連動すると、3列目がついてこない悪癖が日本にはある。よって、ワールドカップの初戦だということを考慮しても、1列目を多少は見捨てることはわからなくもない。相手が退場しようがしまいが、その姿勢に変化はなかった。というわけで、1人多いから相手の攻撃は余裕をもって跳ね返せるけど、、という試合展開になっていく。

日本のビルドアップ対コロンビアのプレッシング

4-4-1で日本のボール保持に対抗するコロンビア。長谷部、もしくは柴崎をセンターバックの付近でプレーさせる日本。コロンビアが2トップならば定跡とも言える手だが、相手が10人になっても繰り返された手となった。コロンビアは自陣に撤退し、ファルカオもプレッシングを行う気がほとんどなかった。中央に鎮座することで、パスコースを遮断!という意図はファルカオにあったかもしれないが、圧倒的な数的優位の前にほとんど意味はなかった。

さて、攻撃の起点、つまり、オープンな選手からボールを前進させない日本。しかし、相手の2.3列目にアタックする手立てがみつからない日本だった。さらに、ビルドアップ隊が得た時間とスペースを前線に届けていくことは必須だという雰囲気もなかった。フリーの選手から優位性のないエリアへのロングボールは切ない場面だった。よって、コロンビアのスライドによって、優位性を消された状態でボールを受ける日本の選手たち。よって、効果的でない攻撃はコロンビアにボールを渡すことになり、カウンターや速攻、ボール保持の機会を与えることに繋がっていった。

べケルマンの誤算その1

疲労を考慮すると、後半は厳しそうなコロンビア。しかし、前半は省エネでときどき日本のゴールに迫るというおまけ付きであった。日本のボール保持に対してもうまく守れている。ここまではペケルマンの計算通りであった。しかし、ゆっくりとめんどくさい状況に気がついていくペケルマンであった。

10対11で10人のチームがボールを保持するときの最大の懸念事項は、カウンターである。少数による攻撃を延々としていたとしても、そこでボールを奪われるのかい!という状況に10人で対応することは難しい。コロンビアは安全にボールを保持しながら、ボールを失っても致命傷にならない位置でボールを失う必要があった。

しかし、ボールを失ってしまう選手がいた。クアドラードとキンテーロである。特にキンテーロのボールを柴崎に奪われた場面は乾の決定機に繋がっている。前半の日本はボール保持からフィニッシュまでの道筋は見つけられなかったが、カウンターではゴールまでの道筋を見つけることができていた。

というわけで、ペケルマンは迷う。クアドラードもキンテーロも守備の大穴にはなっていない。そして、攻撃の中心でもあるのだが、ボールを失うと日本にチャンスを与える。安全にプレーしてくれれば安心だが、クアドラードは特に謎。というわけで、ペケルマンはクアドラードを交代し、セントラルハーフが本職のバリオスが登場する。ビルドアップは優位性をもって進められているので、キンテーロでなくても問題ないし、本職のセントラルハーフによって、日本の攻撃に耐えるには効率がいいだろうという策だ。

さすがペケルマン。しかし、攻撃の迫力はない。キンテーロがライン間でプレーできるとしても、左サイドは酒井宏樹と原口に止められていた。孤立するファルカオはそれでも活路を見出す。ボールを前進させるために空中戦の的になりながら、相手のファウルを誘う。そして、枚数の関係ないセットプレー勝負に持ち込む。ファルカオがロングカウンターを完結できるタレントだったら、話は違ったのだろう。ロングカウンターはできないけれど、キープでファウルをもらうことはできるとファルカオ。できることを愚直にこなす選手だ。そして、長友のクリアーミスをファウルにつなげると、キンテーロが直接フリーキックを決める。

そういう意味では最初の誤算はうまく凌いだペケルマンであった。

ペケルマンの誤算その2

ハーフタイムを挟んだことで、日本はボール保持の形を修正することに成功する。むやみにロングボールを蹴らない。サイドチェンジを延々と繰り返す。相手にボールを渡さない。前半からできればよかったのだが、まだ無理なようである。

後半から右サイドハーフのキンテーロは、攻め残りを画策するようになる。しかし、日本のビルドアップの前に、これは守備をしないとやばいだろうと長友に対応したりしなかったり。結果として、非常に曖昧になってしまっていた。コロンビアの非ボール保持のシステムが、4-4-1もしくは4-3-2と解釈する人で分かれたのはこの曖昧さにある。

前半は落ち着いてボールを保持できなかった日本だが、後半はボールを落ち着いて持てるようになった。その最大の理由は香川真司のポジショニングにある。後半の香川真司は左インサイドレーンにポジショニングしていた。この位置に香川がいることで、相手のセントラルハーフをピンどめすることに成功する。このピンどめによって、さらに時間とスペースを得たのが長谷部と柴崎だ。後半の香川真司は相手をひきつけることで、味方に時間とスペースを供給し続けた。その代わりに試合から消えたけれど。消えてないんだけどね。

つまり、後半はおちついてボールを保持する日本。安全な状態で何度もボールに触れることによって、チームにリズムが生まれていった。特に柴崎は時間の経過とともに存在感を増していったと思う。しかし、ボール保持者にプレッシングがかかったら、焦ってしまうかもしれない。だったら、プレッシングがかからないようにしようぜと香川を有効利用していた。この修正によって、日本は数が多いことを利用したボール保持攻撃ができるようになる。よって、日本はパスを何本も繋いでからのフィニッシュができるようになっていった。つまり、日本はボール保持で活路を見いだせるように変化した。ペケルマンからすれば、かなり痛い修正だっただろう。

ペケルマンと西野の誤算その3

数の論理でボールを保持されると、それはそれはきつい状況のコロンビア。キンテーロの位置に守備的な選手をいれても解決できる問題ではない。というわけで、ハメス・ロドリゲスが登場する。そして、ハーフタイムに決まっていたかのようにこのタイミングで攻撃を再開するコロンビア。しかし、コンディション不良のハメス・ロドリゲスにいつものキレはなく、枚数もたりないので攻撃が実ることはなかった。バッカもいれるが、ボールを奪い返せないと、どうしようもない状態であった。

香川がプレーエリアを下げてプレーを始めたところで、その香川と交代で本田が登場する。本田は右のインサイドレーンにポジショニングしていて、ちょうど香川と逆の形になっていた。ただ、もしかするとだけど、本田を右のインサイドレーンに、柴崎に左のインサイドレーンを使わせようとした可能性がちょっとだけある。ちょっとだけ。そして、ボール保持からの攻撃で酒井宏樹がフィニッシュを迎えて得たコーナーキックで、日本が追加点を取る。

こうなったら死なばもろともだ!となりそうなコロンビア。実際にハメス・ロドリゲスが最大の決定機を迎えるのだが、この場面はなかなかおもしろい場面だった。直前に柴崎が足を痛める。コーナーキックの守備に戻ろうとすると、本田に前にいていいよと言われる。柴崎は指示通りに本田の守備のタスクを実行しようとする。コーナーキックの流れから本田は自分の守備タスクにさっそうと戻る。柴崎はびっくりする、このタイミングかよと。そしてカバーリングのいなくなったエリアにハメス・ロドリゲスが登場する。いわゆるコミュニケーションミスだった。大迫の超スライディングで事なきをえたが、本当に危険な場面であった。

試合はそのまま終了。11対10で追いつかれながらも勝ち越しに成功した日本代表であった。

ひとりごと

前半はトランジションでしかチャンスを得られなそうな日本だったが、香川をオトリ作戦でボール保持攻撃でもチャンスを作れるようになった修正が大きかった。この修正によって、コロンビアはかなり厳しい選択を迫られたと思う。5-4の塹壕守備で引き分けを狙う手立てもあったとおもうが、ファルカオを交代し、ハメス・ロドリゲスを試合に出さない!という選択は難しかったのだろう。

日本について見ていくと、4-4-2の守備は非常に怪しい。相手陣地からプレッシングをする必要がないようにも思える。3列目が勇気をもって迎撃は難しいことはわかりきっているので、しっかりと下がらないと、計画されたビルドアップをしてくるチームには苦戦しそうな予感がする。

コメント

  1. 素晴らしい より:

    ◆ペケルマン監督

    前半のうちにクアドラードを下げて守備的なバリオスを投入した采配については、
    「香川は非常に強力なのでバリオスを入れて組織力を高めたかった」と説明。

    • らいかーると より:

      でもね、試合を見ているとね、香川が脅威になった場面はトランジションの場面くらいだったの。また、キンテーロが守備で足を引っ張る場面もなかったの。おかしいのね。

  2. 匿名 より:

    非常に分かりやすいマッチレポートありがとうございます、いつも勉強になっております。
    スタメンにホセ・イスキエルドを入れた意図はなんだったのでしょうか?DHもできて二列目ではバランスのとれるウリベやスピードのあるムリエルだと踏んでいたのですが…
    結果的には退場後すぐに攻撃を組み立てられなかった日本に対して「これはイケるんじゃないか?」とペケルマンの強気の采配が裏目に出たわけですが、日本が前半からスムーズに展開していればまた違った采配になったのかな と思っています。「無秩序さ、不安定さ」がある種相手を惑わしていて面白かったです、コレを西野監督の手腕とは認めたくないところではありますが。

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