【22勝4分0敗の実力を証明】パリ・サンジェルマン対チェルシー

マッチレポ1516×チャンピオンズ・リーグ

パリ・サンジェルマンのスタメンは、トラップ、マクスウェル、ダビド・ルイス、チアゴ・シウバ、マルキーニョス、チアゴ・モッタ、ヴェラッティ、マテュイディ、ルーカス、ディ・マリア、イブラヒモビッチ。他の追随を許さないほどに、リーグ戦で独走しているパリ・サンジェルマン。22勝4分0敗という数字がその独走っぷりを示している。大きな変化は、トラップがスタメンに定着。ゴールキーパー大国ことドイツの産んだ代表歴はあまりないけれど化物の1人。その他ではルーカス、マルキーニョスがスタメンに定着している模様。気がつけば、ブラジル人が多い。フランスの香りがまったくしないが、国内でどのような評価を受けているかは非常に興味深い。

チェルシーのスタメンは、クルトワ、イバノビッチ、ケイヒル、ババ、アスピリクエタ、ミケル、セスク・ファブレガス、ウィリアン、アザール、ペドロ、ジエゴ・コスタ。気がつけば怪我人が多数。ババはガーナ代表。ドイツでの活躍が認められ、いつのまにか加入していた。ベンチにもオスカルくらいしか主力はいない。そんな台所事情のヒディンク。センターバック以外はいつものメンバーを揃えられたのは、ぎりぎりのところで幸運だったといえるか。リーグ戦が散々な結果になっている現状。今季は良かったよねとするためには、チャンピオンズリーグで結果を残すしかないという状況。

■チャンピオンズリーグ優勝に向けて

チェルシーは4-4-2。1列目は、ウィリアンとジエゴ・コスタ。3列目は、アスピリクエタが右サイドバックで、ババが左サイドバック。イバノビッチとケイヒルがセンターバックとなっている。相手陣地からのプレッシングは偶発的に行なうのみで、基本的にはハーフからのプレッシング開始だった。アウェーの戦い方として、定跡と表現していいだろう。また、セスク・ファブレガスとミケルが2列目のセンターコンビなので、彼らをさらさないためにも、1列目の守備が重要になる。しっかり守って、セスク・ファブレガスのパスからジエゴ・コスタ、ウィリアン、アザール、ペドロが走り回るプランだったのだろうか。

パリ・サンジェルマンは4-1-2-3。チアゴ・モッタをアンカーとして固定せずに、ヴェラッティとポジションを入れかえることがある。チェルシーが自陣に引いていることもあって、センターバックのビルドアップでの出番はほぼなし。ボールを保持することができたパリ・サンジェルマンは、自分たちの型を相手に押し付けることで、試合を優勢に進めていった。おそらく、リーグでも同じように圧倒的なボール保持を基本とするサッカーをしているのだろう。その完成度はかなり高いものだった。

パリ・サンジェルマンのボール保持のスタートは、モッタ、ヴェラッティ、マテュイディとなる。3人のポジショニングは、攻守の場面でフレキシブルに入れ代わる。この試合では、マテュイディをチェルシーの2トップの脇に配置することで、ボールを効果的に前進させることができていた。マテュイディはボールを味方に預けながら前線に突撃していくこともできる。ヴェラッティとモッタとの違いを考慮すると、マテュイディにボールを運ばせるほうが効率が良いとしているのだろう。

相手の4-4-2の守備を中央に寄せるために、パリ・サンジェルマンのイブラヒモビッチ、ルーカス、ディ・マリアは、ライン間にポジションをとる。イブラヒモビッチはそのまま2列目におちてポゼッションを助ける場面も多い。ルーカスたちがライン間にいるので、チェルシーのサイドバックとサイドハーフは中央に絞らないといけない。中央に圧縮しなければ、狭いスペースでも活動できてしまうのがパリ・サンジェルマンの前線トリオだ。さらに、中央にセスク・ファブレガスがいることを考えると、相手がライン間にいようがいまいが、チェルシーのサイドの選手は、中央圧縮を実行する必要がある。

そして、パリ・サンジェルマンはサイドバックに高いポジショニングをとらせる。相手は中央に絞っているので、パリ・サンジェルマンのサイドバックは時間とスペースを得られる。左サイドのマクスウェルは、攻撃の起点になることができる。右サイドのマルキーニョスは怪しさがあったためか、ディ・マリアのサポートを得る場面が多かった。チェルシーのサイドハーフがパリ・サンジェルマンのサイドバックに対応すれば、チェルシーは6バックのようになる。6バックになってしまえば、中盤のエリアを支配することは簡単だった。セスク・ファブレガスとミケルが担当するエリアが増えれば、あとはゆっくりと自分たちが有利になる状況を作れるようにボールを動かして、相手を動かし続ければいいとなる。

守備の時間が長くなるチェルシー。序盤に中央からミドルシュートを連続して打たれる嫌な展開。さらに、相手のプレッシングにたじたじ。ウィリアンがボールを守りながらプレーすることでファウルで時間を稼いでいた。試合の流れを強引にぶった切るウィリアンのファインプレーで、なんとか息継ぎに成功するチェルシー。時間が経つと、相手の3枚の中盤に対して、4-4-1-1で対抗するようになる。スペース管理がめんどくさくなると、数合わせに走る理論炸裂。ただし、ジエゴ・コスタが守備をなんとなくやっていたから、4-4-1-1に見えるようになっていただけかもしれない。

パリ・サンジェルマンはアンカーを列としてカウントすると、4列表記になる。パリ・サンジェルマンの選手たちの動きで頻繁に見られたのが列の移動。特に列を下げるプレーが多かった。イブラヒモビッチはゼロトップのようにポストプレーでチームを牽引。ヴェラッティはセンターバックからのボールを受けるために、モッタの近くに降りてプレー。ディ・マリアとルーカスはライン間から降りてボールを受けて、ポゼッションを安定させるプレーを多く繰り返していた。

列を上げるプレーは、サイドバックの高いポジショニングやマテュイディの飛び出しなどが上げられる。こうした縦の上下動がチェルシーを苦しめることになる。チェルシーはゾーン・ディフェンスで基本的に対応しているのだが、自分のエリアを離れていってしまう選手を捕まえ続けるかどうかに苦労していた。3ラインができていれば、降りる選手に気を使う必要もないのだが、1列目の守備が機能していなかったこともあって、効果的に相手の前進を邪魔できなかったし、さらにボールを奪うこともできなかった。ウィリアンがたびたび苛ついている姿が目撃されている。

相手がボールを保持しているときのパリ・サンジェルマンのシステムは、4-1-4-1。マテュイディとヴェラッティは、対面のセスク・ファブレガスとミケルを捕まえる役割。セスク・ファブレガスたちが列を下げる動きをしてもそのままついていき、4-4-2に変換してプレッシングを発動させる。セスク・ファブレガスとミケルが捕まっている状況のチェルシーは四苦八苦。ウィリアンがファウルで試合の流れを分断したように、各々がどうにか頑張るといった状況。パリ・サンジェルマンの人への意識が強い守備と効果的なポゼッションに苦しんだ序盤戦となった。

20分過ぎからチェルシーが攻撃の時間を作るようになる。パリ・サンジェルマンの守備は人への意識がとても強い。よって、ある程度はボールを受ける前に自分で時間とスペースを作る作業が必要となる。その現実をようやく受け入れたチェルシーは、ボールを保持できるようになる。具体的に言うと、パリ・サンジェルマンの選手がやっているように、基本はゾーンの横断。人への意識が強いといっても、どこまでもついてくるわけではない。相手の最終ラインに近づけば近づけば近づくほど、その傾向は強くなる。さらに、アザール、ジエゴ・コスタも無理矢理に突破を狙うプレーは減り、ボールを守りながら自分たちのボールを保持する時間を長くするように、プレーの優先順位が変化していった。さらに、セスク・ファブレガスが列を降りてプレーするようになる。マテュイディたちに捕まる前に、セスク・ファブレガスはボールを前線に供給。ボールを受ける選手も相手から離れる動きを長い距離で行なうようになり、ようやくチェルシーが目を覚ましたような展開へ。そして、ジエゴ・コスタのヘディングでバー直撃という決定機を作り、反撃の狼煙を上げる。

ボール保持で殴り返せるようになっていったチェルシー。相手の攻撃機会を削る意味でもこれは大きな変化だった。しかし、守備の問題が解決しているわけもない。パリ・サンジェルマンがボールを保持しているときは、危険極まりない展開が続いた。パリ・サンジェルマンの選手はポジションチェンジも行なうので、マッチアップの相手を変えながらリズムチェンジも行なう。そんな展開で先制したのは、やっぱりパリ・サンジェルマン。ルーカスの突破からえたフリーキックをイブラヒモビッチが決めて、39分にチェルシーが先制。ルーカスを倒したのはミケル。フリーキックを避けてシュートが自分に当たりそのせいでゴールになってしまった原因もミケル。

良い時間帯に先制したパリ・サンジェルマン。しかし、チェルシーも殴り返す準備はできていた。派手なプレーを封印したアザールたちのプレーに触発されたかペドロ、ジエゴ・コスタ、ウィリアンもボールを大事にしながらプレー。相手がそばにいても、ボディフェイクやステップで相手と駆け引きしながらボールを繋いでいく。そして得たコーナーキック。イブラヒモビッチに跳ね返されてしまうが、不穏な表情を浮かべるジエゴ・コスタ。次のコーナーキックでジエゴ・コスタの復讐が完成する。ニアでボールを跳ね返そうとするイブラヒモビッチの前に入り、フリックに成功するジエゴ・コスタ。そのボールは失点のきっかけになったミケルの元にこぼれ、このボールをミケルが押し込んで、ロスタイムにチェルシーが同点に追いつく。そして、前半は終了。

後半のチェルシーはクルトワへのバックパスを多めに行なう。相手がプレッシングに来なければつなぎ、来れば蹴っ飛ばす。少しでも時間を自分たちで消費したい意図が見える。また、守備でも人への意識が強くなり、相手を早めに捕まえるようになっている。特に相手の陣地にボールがあるときはその傾向が強い。この守備の形は非常にリスキーであった。前半は準備されたチェルシーの守備に、定位置攻撃を繰り返すパリ・サンジェルマンという構図だったが、後半はオープンな打ち合いになる場面が増えていった。打ち合いといえば五分五分な意図が含まれそうだが、パリ・サンジェルマンが打ちっぱなしというのが実情だった。

そんなチェルシーの変化に対して、パリ・サンジェルマンは質的優位で迫る。近くの味方が捕まっているなら、捕まっていても強い最前線のイブラヒモビッチへ。人へマークを付けば、パスコースが空くというルールになっているのが常。さらに、センターバックもどんどん攻撃参加。ダヴィド・ルイスが攻撃参加すると、無駄に盛り上がるスタジアム。チェルシーはロングカウンターとボールキープを織り交ぜながら攻撃を構築。しかし、カウンター返しをくらったり、人への意識の強い守備を剥がされたりと、戦い方の変更による収支を考えると、マイナスが徐々に目立ち始める。57分過ぎからは前半のリピートのような展開へ。ディ・マリアのスルーパスにマクスウェルが飛び込む形を続けて作れるなど、やばい雰囲気が漂い始める。

70分にアザール→オスカル。前半のアザールはらしくないかもしれないが、プレーでチームを牽引していた。でも、後半はミスが目立っていたため交代。

73分にルーカス→カバーニ。ディ・マリアに比べると、中央にいる機会の多いルーカス。よって、餅は餅屋。

70分が過ぎると、パリ・サンジェルマンの攻撃のターンが延々と続いていく展開となっていた。チェルシーは守備固めで投入できる選手もいない。あとは黙って耐えるのみ。クルトワのスーパーセーブやケイヒルとイバノビッチのジョン・テリーの魂が乗り移ったかのような守備でなんとかしのいでいく。チェルシーにとってラッキーだったのは、右サイドバックに急造のアスピリクエタ(もともと右サイドの選手だったけれど)。イブラヒモビッチがアスピリクエタサイドに流れることを得意としていたことだろう。もしも、ババサイドに流れることを得意としていたら、試合はとっくに決まっていたかもしれない。

そんな収支がマイナスの展開で追加点を決めたのは、やっぱりパリ・サンジェルマン。オープンになった展開から、ディ・マリアのスルーパスをカバーニが決めて勝ち越しに成功する。クルトワの飛び出しのタイミングは完璧だったが、まさかの股抜きでゴールが決まった。

選手を交代しながら、追加点を狙うパリ・サンジェルマン。チェルシーからすれば、セカンドレグに望みをつなぐためにもこれ以上の失点は許されない。残り時間をなんとか乗り切って試合は終了。こうして、パリ・サンジェルマンの一方的な試合は2-1で終わった。

■ひとりごと

パリ・サンジェルマンの強さにちょっとおののいた。ボールを保持した攻撃は尋常ではないほどに強くてうまい。ライン間、大外攻撃を両立させながら、質的優位でも勝負できるのだから、ボールを保持させたらかなりの破壊力を見せると思う。ただし、守備面では人への意識が強すぎて、ボールを保持されると地味に弱い。最終局面で跳ね返せるのだろうけど、マークの受け渡しがうまくいかないので、ボールを保持されると、一気に押し込まれる展開になりそう。そうなれば、ルーカスやディ・マリアのカウンターが発動するのかもしれないけれども。

チェルシーはかなり厳しい。ボールを保持できればセカンドレグでなんとかなりそうだけど、そんなチームではない。相手の守備者との殴り合いならなんとかなりそうな雰囲気もあるが、守り切れる人員がいないのが問題か。望みはつながったけれど、ウィリアンが苛立っていたように、この試合の内容によるダメージはなかなか大きいと思う。

コメント

タイトルとURLをコピーしました