【時代とともに変化する両チームのスタイル】アーセナル対バルセロナ

マッチレポ1516×チャンピオンズ・リーグ

アーセナルのスタメンは、チェフ、ベジェリン、メルテザッカー、コシェルニー、モンレアル、コクラン、ラムジー、エジル、アレクシス・サンチェス、チェンバレン、ジルー。アレクシス・サンチェスやコクランなどの怪我人が復活。主力ではカソルラくらいだろうか。ベンチにもキャンベル、ウェルベック、ウォルコットと、アーセナルなりに役者は揃っている気がする。そういえば、ウィルシャーはどこへ消えた。

バルセロナのスタメンは、シュテーゲン、ジョルディ・アルバ、マスチェラーノ、ピケ、アウベス、ブスケツ、イニエスタ、ラキティッチ、ネイマール、スアレス、メッシ。泣く子も黙るようなスタメンが勢揃い。セルタに大敗して悲観論があふれていたころは、今は昔。リーガでも独走状態に入り、旬の時期を謳歌しているような状況。チャンピオンズリーグで変なくじを引かないかぎりはチーム状態に変化も訪れなそうだ。そういう意味で、アーセナルがそういう存在になれるかは注目。

■撤退守備で魅せるアーセナル

バルセロナのシステムは4-3-3。メッシとネイマールはサイドにはらない。むろん、はるときもあるけれど、基本的にちょっと中にいる。基本的に定位置攻撃を繰り返し続けるのだけど、定位置攻撃で得点を取る気があまり無いように見える。定位置攻撃によって、相手の守備を分断するというよりは、相手のボールを奪ったときに相手の守備が整っていない状態でメッシたちが攻撃を仕掛ける形を狙っているような。気のせいかもしれないけれど。

アーセナルのシステムは4-4-1-1。別に4-4-2でも良い。アーセナルの守備で悪い意味で目立っていたのがアレクシス・サンチェス。サイドバックへのパスコースをきりながら、センターバックによせる。定跡として間違っていないが、後方の選手はちっとも連動してこなかった。よって、アレクシス・サンチェスの独断でこのプレッシングを行っている可能性が高い。エジルはブスケツとデート。ラムジーとコクランは、対面のインサイドハーフ(イニエスタとラキティッチ)をボールサイドに近いときにそれぞれが捕まえる役割になっている。

バルセロナの最初の手は、コクランとラムジーの間(どまんなか)に選手(ネイマール、メッシ、スアレス)をポジショニングさせることで、ラムジーたちの役割を狂わせる。ただし、ラムジーたちはしっかりと準備をしていた。ラムジーとコクランの間にバルセロナの選手がポジショニングしたら、すぐにゾーンに変更して守備をしていた。バルセロナのインサイドハーフのポジショニングに従属しすぎない。ダブルボランチが相手のインサイドハーフのポジショニングに奴隷になると、インサイドハーフ同士の距離が離れる→ポジショニングが奴隷状態なのでダブルボランチの距離も離れる→空いた中央のスペースにゼロトップで使われる形は初歩の初歩の罠として重宝されている。つまり、この罠にはしっかりと引っかからないアーセナル。

アーセナルはゴールキックを蹴っ飛ばす。ジルー対ブスケツ。ボールを回収してポゼッションに持ち込む。ロングキックによる前進が狙い。後方からのビルドアップもできなくはないけれど、空中戦のミスマッチのほうがうまくいくと計算したのだろう。でも、基本はカウンター。相手の守備が整っていないときに攻撃を素早く仕掛ける。ボールを奪ってからのカウンターとゴールキックによる速攻の共通点は、相手の守備が準備万端でないということ。もちろん、相手のゴールキックは定位置でバルセロナは守っているのだけど、空中戦という不確定要素発生からの整った守備への移行は、全員の帰陣意識が高いわけではないバルセロナにとっては、ちょっとした弱点と言える。あくまでちょっとした。

アレクシス・サンチェスの暴走プレッシングによって、たびたびアウベスからボールが運ばれる。この問題をジルーが列を降りて発生した不安定を解消していた。アレクシス・サンチェスがプレッシングに行かないで問題を解決しないところが面白い。また、アレクシス・サンチェスは、モンレアルに連動しろと頻繁に指示をしていた。その後はモンレアルも連動する場面が出てくるのだけど、相手はメッシなので、非常に嫌そうであった。実際に引き出されすぎてやられる場面も出てくる。

12分が過ぎると、ボールを保持するバルセロナのセンターバックを放置するアーセナル。

バルセロナのビルドアップの出口は、コクランとラムジーと3列目(ディフェンスライン)の間。いわゆる2列目と3列目の間のエリア。メッシやラキティッチがこの位置でボールを引き出し始める。よって、アーセナルはサイドハーフを中に絞らせて、中央からライン間にボールを届けさせないように圧縮する。次に、バルセロナはサイドバックを起点に外からメッシやネイマールにボールを届ける。相手が中央圧縮なら外からボールを運ぶ。メッシサイドではラキティッチが暗躍。相手の裏への飛び出しでコクランを動かす。コクランがいなくなったエリアにメッシやアウベスを侵入させる。または、メッシを相手にブロックの外に出してボールを受けさせる。メッシの運ぶドリブルで相手をひきつけて、アウベスやラキティッチにスペースと時間を与える。

基本的には、アーセナルのセントラルハーフとサイドハーフの間にポジショニングするバルセロナの面々。単独でこの位置でボールを受けられたら吉。それが不可の場合は、アーセナルのセントラルハーフに守備の基準点を2つ用意することで、ポジショニングに迷いを与えることで、ライン間にいる選手にボールを届ける。このライン間攻撃にメッシとラキティッチの右サイドコンビが迫ってくるバルセロナの攻撃。ネイマールはときどきであった。

コクランはラキティッチのメッシとのポジションチェンジに苛立ちを隠せない。ついていかないとラキティッチにボールが出るかもしれない。でも、中盤にスペースができてしまう。よって、このエリアをジルーが日常的に埋めるようになる、働き者のジルー。ジルー、ときどきエジルの働きによって、メッシの独力くらいでしか試合が動かない雰囲気になっていく。ただし、バルセロナも攻撃の枚数をかけているかというとそんなこともない。ファーストレグらしい試合となっていく。

アーセナルはカウンターやセットプレー(スローインを含める)で、バルセロナの陣内に侵入していく。キーマンはジルー。身体の強さで空中戦を闘いながら、確かなポストプレーで、攻撃を加速させる。特攻隊はエジル。プレッシングの勢いそのままに、ドリブルでボールを運んでいく。仕上げはエジル。フィニッシュに繋がるパスの正確性は尋常ではない。しかし、フィニッシュをチェンバレンが失敗。最近のバルセロナは、このように相手に勝てるんじゃないか?という希望を与えることがうまい。かつてのレアル・マドリーのように相手に勝てると希望を与えながら、最終的に負けているみたいな。

23分にブスケツが2トップの脇から攻撃の起点となる動きをする。センターバックの運ぶドリブルでリスクをゆっくりと冒し始める。その後もブスケツを左センターバックに置く3バックでのビルドアップは継続。でも、基本はマスチェラーノが左センターバック。両脇のセンターバックにボールを運ばせることで、大外(サイドバック)、ライン間(インサイドハーフ)の2択をアーセナルのサイドハーフに迫りながら攻撃の起点になっていく。この動きは2センターバック+アンカーの形でも繰り返されるようになっていく。相手の形によって、どのエリアから運ぶドリブルをするかが明確になっているのだろう。

チェフのロングキックが続いてチェンバレンの元へ。そしてチームメイトたちからジルーに蹴るようにたくさんの指示を浴びる。

アーセナルにチャンスが生まれながらも、バルセロナのボールを保持する時間が長くなっていく。また、メッシも徐々にドリブルでファウルをもらう回数が増えていく。やっぱり省エネだったのだろうか。残り時間が10分をきると、一気に攻勢に出るバルセロナ。特にアウベスのポジショニングがバロメーターになりそう。かつてのグアルディオラ時代に見られたイニエスタからのアウベスの裏への飛び出し。38分過ぎからようやく上がり始めるアウベス。ロスタイムには懐かしの形で決定機を演出。さらに、攻勢に出たバルセロナに焦ったアーセナルはミスからカウンターをくらう。そんな危なっかしさをなんとか乗り切って、前半はスコアレスで終了した。

■真の狙いはカウンター、それともたまたま?

後半の頭から、ブスケツは3列目に降りてバルセロナはビルドアップを開始する。イニエスタからのスルーパスでネイマールの決定機が生まれたように、守備の準備ができていない(この場面はチェンバレンが帰陣していない)と、あっさり崩されそうなアーセナル。そんな場面の直後にチェンバレン→ウォルコット。バルセロナに相性が良いイメージがあるウォルコット。

ウォルコットの登場をきっかけにプレッシング開始ラインが高くなるアーセナル、ただし、アレクシス・サンチェスの暴走と、相手のゴールキックからのビルドアップだったゆえだった。

その後の試合は膠着状態。自陣に撤退して4-4-2でプレミアリーグの強豪を葬り去ってきたアーセナルの守備に、バルセロナも四苦八苦。3バックビルドアップによる起点形成、右サイドのトライアングル、ネイマール、メッシの個人技以上のことはせずに、カウンターの機会を待ちながら試合を進めていく。アーセナルもときどきセットプレーやカウンターでバルセロナのゴールを脅かす場面があり、どちらにとっても悪く無い展開。

65分から70分までは、アーセナルのほうがチャンスが生まれそうな展開。しかし、ラストパスがずれる。バルセロナの守備は隙があり、それは罠でもあるんだけど、その隙から得点が奪えてしまいそうだということもまた事実。肉を切らせて骨を断つつもりが、骨ごと切られてしまったでござるになりそうところは、アーセナルの望みになる。

しかし、70分に試合が動く。やっぱりカウンター。クロスを跳ね返されてからのネイマール、スアレスにカウンターの起点を作られ、ネイマールとメッシにチャンスを与える。そして、最後はメッシ。クロスに対して、メッシのファーストタッチが足裏だったのが印象的だった。

失点直後にジルー→ウェルベック。ウェルベックの突撃にも手をやくバルセロナ。ウェルベックの落としをラムジーが飛び込んだ場面は惜しかった。バルセロナはボールを奪ったらカウンター。リードしているので、ボールを保持しても問題ないのだが、メッシたちの能力を考えると、攻め切ったほうが収支が良いと計算しているのだろう。スアレスのポスト直撃の場面のように、相手からするとこれはこれで嫌かもしれない。

83分にバルセロナに追加点。クリアーかパスが中途半端になったところをメッシに拾われる。そんなメッシを倒したのはいつのまにか登場していたフラミニ。判定はPK。これをメッシが決めて、2-0になる。

残り時間も試合は同じように推移。アーセナルがボールを保持する場面も出てくるが、バルセロナも準備万端で待ち受ける。そうなれば、なかなかゴールまで届かない、逆にネイマールのヘディングなどで失点の危機もあったが、チェフのセーブで失点にはならなかった。試合はそのまま終了。カンプ・ノウでもセカンドレグで結果が決まる。

■ひとりごと

アーセナルはジルー、アレクシス・サンチェス、エジルが違いを見せていた。特にエジルのパス能力の高さは尋常ではない。チェンバレン、ウォルコットを含めて右サイドをどうするんだ問題がセカンドレグの鍵になりそう。ウェルベックとジルーを並べて身体的強さで迫るのも面白いかもしれないけれど。

バルセロナは良くも悪くも変わったなと。フィジカルコンディションの差もあってのゲームプランだと思うのだけど、グアルディオラがバイエルンで見せているいかにして相手の準備された守備を破壊するか大会には無理矢理に参加するつもりはありません、みたいな。でも、ボール保持よりも攻め切ることを優先するスタイルはちょっとおもしろかった。ただし、ボールを大切にするという意味でお互いにリスペクトしあっていたチームが自陣に撤退守備を手に入れ、もう一方はカウンターを超得意とするように変化していくとはなかなかおもしろい。

コメント

  1. 匿名 より:

    日程の厳しいバルサからすればロースコアゲームに持ち込めれば十分な空気がありましたが、アーセナルの方が我慢比べに負けた感じです。
    質的優位の戦い方にも慣れた印象があり、エンリケのバルサはアウェーでも成績が安定していますね。

    一方で、ペップは変わらずアウェーで粘れず、アッレグリはペップに対して強いので今回の1stレグはスリリングな内容とは裏腹に予定調和に落ち着いた印象です。

    • らいかーると より:

      匿名様

      エンリケのバルセロナは、メッシ、スアレス、ネイマールと心中するシステムであることが、ここにきて致命傷となるとは予想がつきませんでした。イニエスタ、ラキティッチの位置を交代しても変化は生まれにくいですもんね。

タイトルとURLをコピーしました