【ルシアーノ・ナルシン】PSV対アトレチコ・マドリー【変幻自在】

マッチレポ1617×チャンピオンズ・リーグ

PSVのスタメンは、ジュルーン・ズート、イシマ・ミラン、エクトル・モレーノ、イェトロ・ウィレムス、ジョシュア・ブレネット、プレッペル、アンドレス・グアルダード、ヘンドリクス、シュワープ、ルーク・デ・ヨング、ルシアーノ・ナルシン。コク監督のチームを見た記憶がなかったこと&昨年のチャンピオンズリーグのファイナルラウンドの再現となった試合だったので、観戦を決めた。アヤックス、フェイエノールトと欧州の舞台で出会う機会は減る一方だけれど、PSVは頑張り続けている印象がある。

アトレチコ・マドリーのスタメンは、オブラク、フェリペ・ルイス、ゴティン、ヒメネス、ファンフラン、ガビ、コケ、サウール、ガイタン、グリーズマン、ガメイロ。リーガ・エスパニョーラでは出遅れている感があるアトレチコ・マドリー。昨年のチャンピオンズリーグのファイナリストだが、グループリーグには、PSVとあのバイエルンがいる。曲者揃いのグループリーグを突破するには、出遅れている感を出してしまったら致命的だ。新戦力をなじませながら、バルセロナ、レアル・マドリー退治に取り組む今季のシメオネの命運やいかに。

スペースがなければ作ればいい

チャンピオンズリーグのファイナルでボールを持たされて苦労した記憶が新しいアトレチコ・マドリー。ボールを保持することにも尽力してきているが、その精度が高いとは未だに言えない昨シーズンだった。時がたつにつれて、必要とされる戦術にも変化が訪れている。ただし、原理原則的に言えば、相手からボールを奪い返すこと。ゴール前に撤退して相手の攻撃を防ぐこと。守備が整っていないときに、カウンターでゴールを奪うこと。そして、相手の守備が整っているときに、速攻やボール保持攻撃でゴールを奪うこと。それらが求められている。高いレベルになればなるほど、自分たちの苦手な局面になるように相手が仕込んでくる。アトレチコ・マドリーでいえば、ボール保持攻撃の局面を苦手としていて、レアル・マドリーがアトレチコ・マドリーにボールをもたせたことは必然であった。

PSVのボールを保持していないときのシステムは、5-4-1。ボールを保持しているときは、3バックによるビルドアップを行っていた。よって、列の移動によるシステム変換よりも、最初から3バックで守備もそのまま行いましょうという結論に達したのだろう。Jリーグではおなじみの5-4-1だが、欧州で見かけると、少し不思議な気持ちになってしまう。世界の流行が勝手にJリーグの流行と重なっていくのか否かみたいな。ちなみに、プレミアリーグの早い展開が世界の流行と重なったときに、プレミアリーグがチャンピオンズリーグで結果を残しまくっていたことも懐かしい記憶だ。

5-4-1で相手陣地からボールを奪いに行くことは難しい。サンフレッチェ広島の森保監督がえげつない苦労をしていることからもよくわかる。よって、PSVのこの試合のプランは、撤退守備でアトレチコ・マドリーのボール保持攻撃に抗戦する。そして、自分たちがボールを保持したときは3バックによるシステムのずれをいかしてボールを運んでいこうというものだった。どこのサンフレッチェ広島だ。よって、アトレチコ・マドリーはボールを持たされた格好となった。ただし、ここはPSVのホーム。オランダのクラブチームでもホームでこのような戦い方をするのかと驚いたけれど、PSVのは良い意味でオランダらしくない印象があったので、勝手に納得してしまった。

5-4-1攻略の第一歩は、4と1の間のスペースを自分たちが使えるかどうかにある。PSVのワントップのルーク・デ・ヨングはなぜか全く守備をしなかった。よって、アトレチコ・マドリーは4と1の間のエリアを自由に使うことができた。アトレチコ・マドリーのボールを保持しているときのシステムは4-1-4-1。よって、相手の1.2列目の間をプレーエリアとするガビは、自由にプレーすることができた。

ガビが自由にプレーできたとしても、ボールの受け手をしっかりと捕まえていれば、PSV側に問題は起こらない。そのための5-4-1と言っても言いだろう。しかし、アトレチコ・マドリーは変幻自在のポジショニングでPSVの陣地にボールを前進させていった。アトレチコ・マドリーはサイドバック、インサイドハーフ、サイドハーフのトライアングルによるポジションチェンジを活発に行なった。狙いは、相手のハーフスペース。ただし、このエリアにいきなりポジショニングしても、相手に狙い撃ちにされるだけだ。よって、ハーフスペースにポジショニングした選手が相手のサイドバックの裏に飛び出していく。相手を動かして、中央へのパスラインを作る&ハーフスペースを空けることで、ほかの選手がこのエリアを有効利用するようになっていた。

また、ビラノバドリルで見られたように、選手同士が交差することで、フリーになる動きが何度も見られた。パスを出す→他の選手と交差する→トライアングルの形は変わっていないが、点に位置する選手が変更されている。相手の守備はボールと自分のマークすべき相手を同一視野にいれなければいけない。しかし、アトレチコ・マドリーの動きはスペースの横断も含まれているので、どこまでもついていくと、自分たちが本来のポジションから離れさせられてしまう。だからといって、ついていかなければ、移動した選手のマークが曖昧になってしまう。このようなアトレチコ・マドリーのオフ・ザ・ボールの動きの連続は、PSVの守備を崩すことに成功する。ゴールこそ流れのなから生まれなかったが、ボールを持たされても大丈夫!というレベルに向かってアトレチコ・マドリーが邁進していることを示す試合となった。

変幻自在の守備は顕在だった

アトレチコ・マドリーがボールを保持する時間が長い試合の様相だった。しかし、PSVも3バックのビルドアップで自分たちの時間を作るようになっていく。4-1-4-1のアトレチコ・マドリーは、サイドハーフを前の列に移動させる策で、3バックのビルドアップに対抗した。ウイングバックへのパスコースが空いてしまうが、プレッシングに行く本人&サイドバックのスライドでどうにかするという計算になっていた。つまり、数的同数プレッシングによって、高い位置からの守備を狙ったアトレチコ・マドリーだった。

その狙いは悪くなかった。PSVがロングボールに逃げれば、ルーク・デ・ヨングを圧倒するゴティンという構図になる。この試合で何度も繰り返されたゴティン対ルーク・デ・ヨングの迫力は、凄まじいものがあった。ただし、アトレチコ・マドリーに誤算があったとすれば、ルシアーノ・ナルシンの存在だろう。右ウイングに配置されていたルシアーノ・ナルシンは、驚異的なスピードを見せた。前から奪いに行く策をとったアトレチコ・マドリーは、どうしても裏にスペースができてしまう。ヨーイドンになったときに、ルシアーノ・ナルシンに勝てそうな選手はいなかった。裏をとられると一か八かの勝負になってしまうアトレチコ・マドリー。

よって、15分には守備の方法を変化させる。相手の3バックにスライドする選手をサイドハーフからインサイドハーフに変更する。ガメイロが中央の選手を見ることで、サイドチェンジをさせない。ボールサイドへのスライドを完了させれば、相手の攻撃を止めることができる。さらに、サイドハーフが前にでなくなったので、サイドバックは相手のウイングとの勝負に集中することができる。この守備の変更によって、アトレチコ・マドリーは裏へのスペースのケアに成功する。その代わりに、PSVがボールを保持する時間が長くなっていった。だが、ルシアーノ・ナルシンに走らせることが最も失点に繋がりそうだったので、この変更はPSVを苦しめることとなった。

PSVがセットプレーの流れから先制したかに見えたが、競り合いでファウルの判定でノーゴールに。この試合の審判はこの判定をきっかけに、判断基準がぶれているように感じた。特に、ホームのPSVはストレスをためていたに違いない。

先制点はアトレチコ・マドリー。コーナーキックの流れから最後はサウールが押し込んだ。この場面の競り合いで頭同士の衝突があり、これはファウルではないのかと荒ぶるPSV。さっき取り消したのに!!!みたいな。この帳尻合わせのような判定がすぐに訪れる。トランジションから裏に抜けだしたルシアーノ・ナルシン。ヒメネスがスライディングをするが、届かない。でも、引っかかったのか否かはリプレーでもよくわからなかった。しかし、これがPKの判定となる。しかし、このPKをオブラクが止めるのだから、PSVはついていない。

まだまだ変幻自在の守備をみせるアトレチコ・マドリー

リードしてハーフタイムを迎える。ここはアウェー。ともなれば、別に自分たちが攻撃をする必要もあるまい。というわけで、アトレチコ・マドリーは4-4-2にシステムを変更する。2トップは中央からのボール前進を阻めば良し。相手の3バックを追いかけ回すことなく、守備をするようになる。相手の3バックが運ぶドリブルで出てきてくれれば、カウンターを仕掛けますという策に変更した。

PSVは時間と空間を前線の選手に繋ぎたい。しかし、4-4で撤退しているアトレチコ・マドリーの守備が本当にかたい。誰が誰を観るかがはっきりしているので、僅かなずれが、繋いできた時間と空間をリセットしてしまうことになっていた。困ったときのルーク・デ・ヨングにアーリークロスも何かが起きそうな予感はなし。ルシアーノ・ナルシンをワントップにしてみたけど、相手が撤退している状況では、ほとんど意味をなさなかった。

相手の良さを消しながら、カウンターで追加点を狙うアトレチコ・マドリー。ときにはボールを保持するいやらしさを見せていた。ガメイロとグリーズマンは波長があいそうなのだけど、ぎりぎりのところで合わない。それでも、いいコンビになりそうな気がする。お互いがお互いのことを意識している。決して一方通行ではない。

残り30分になると、アトレチコ・マドリーはティアゴ、そして、カラスコを投入する。システムを4-1-4-1に変更する。そして突然高い位置からの守備をしたり、ボールを保持したりする。鳥かごを楽しむアトレチコ・マドリーもえげつないが、守備の方法をかえることで、相手に変化を強いるアトレチコ・マドリーはもっとえげつない。

もちろん、時間がたつにつれて、PSVもゴールに迫っていく場面が増えていくのだけど、いわゆるオブラクを焦らせる場面はなかった。あっても正面。しっかりと相手をブロックしながら、速攻とボール保持攻撃を組み合わせたアトレチコ・マドリーが、PSVのホームでしっかりと勝利した。

ひとりごと

ビラノバドリル

選手が交差する動きで相手の守備に解決を迫る作戦をみるたびに、ビラノバを思い出して悲しくなる。ビラノバはピッチの上で生きているというお話。

アトレチコ・マドリー

なぜリーガで結果が出ていないのかわからなかった。リーガでは11人ががっつりと守ってくるからかもしれないけど。ルーク・デ・ヨングが1.2列目を使われないようにしっかりと守ってきたら、めんどくさいことになったと思う。この試合では1トップの脇を好きなように使えたことで、オフ・ザ・ボールの動きが効果的だったといえる。

PSV

悪くはなかった。アトレチコ・マドリーに先制されると、それを覆すだけのパワーはない。だからこそ、取り消されたゴールやPKをしっかりと決めたかった。同点のスコアならアトレチコ・マドリーも前に出てきたかもしれない。そのときの押し合いへし合いでどうなるかはわからない。バイエルンも苦戦はすると思う。3.4試合目がバイエルンとの2連戦になるので、命運はそこで決まるだろう。

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