【攻撃のデザイン】ウクライナ対北アイルランド【弱みをついて弱みをつかせない】

EURO2016

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初戦で敗北してしまったチーム同士の対決。つまり、サバイバルマッチ。

初戦のスタメンと比べると、ウクライナは1トップを変更した。交代で出てくるセレズニョフに期待。他のメンバーで変更はなし。ドイツを相手にしても決して悪くなかった初戦だったので、特にメンバーを代える必要はないと判断したのだろう。

北アイルランドは、がらっと選手を替えてきた。2試合目が重要になってくることはわかりきっていた北アイルランド。2試合目の会場であるリヨンにキャンプ地を構えている。ポーランドの長所を消した5バックを封印し、正面衝突的な4-3-3でウクライナに臨んだ。初戦でのプレー時間が少ない選手が多いので、まさに準備万端でサバイバルマッチを迎える。

ウクライナのボックスビルドアップの前に

試合開始の笛とともに、激しいプレッシングを見せた北アイルランド。まさに、この試合にかける意気込みを感じさせる場面だった。だが、序盤の慌ただしい時間帯を、ウクライナは無事に過ごすことに成功した。その後の試合の姿は、ウクライナがボールを保持し、北アイルランドがハーフラインからのプレッシングで対抗する形となっていった。ポーランド対策のように、北アイルランドが何か特別なことをしてくることはなかった。普通の4-1-4-1で、ウクライナのボール保持に挑んだ。

北アイルランドは、高い位置からのプレッシングを行なう意思も見せる。基本はハーフからだが、ボールを奪えそうな雰囲気になると、4-4-2に変化して相手の2センターバックにプレッシングをかける。しかし、ほとんどの場面でそのプレッシングは効果的でなく、4-4-2に変化する意味も感じさせる場面はなかった。ウクライナのボール保持の強みは、2センターバックと2セントラルハーフで完結させられることだろう。サイドバックが高いポジショニングをとるウクライナの形に対して、北アイルランドは後手な対応が増えていってしまう。

2センターバックと2セントラルハーフのビルドアップで、ウクライナはボール保持を安定させ、攻撃の起点を作っていった。時にはラインを下りて3バックを形成する。時にはサイドバックのプレーエリアにセントラルハーフが移動して、相手のインサイドハーフから自由になるポジショニングをする。ビルドアップの最初の形は四角形だったが、変幻自在のポジショニングによって、北アイルランドはボールの奪いどころ、というよりは、どのようにプレッシングを仕掛けるかが定まらなかった。だったら、インサイドハーフがどこまでもついていく作戦で対応する。しかし、インサイドハーフがセンターから移動してしまうと、トップ下のコバレンコが登場する。コバレンコはラインの枚数を調整できる選手のようだった。コノプリャンカ、ヤルモレンコがセンターに移動してくる影響もあって、コバレンコがビルドアップをサポートする役割は機能していた。

北アイルランドの攻撃は、ボールを繋ぐというよりは、相手のサイドバックの裏にボールを蹴る。相手のセンターバックとワシントンのど付き合いが中心だった。背の高いハチェリディをサイドに引きずりだしたいためか、ウクライナの右サイドを徹底的に狙い続けていた。狙いとしては、センターバックを動かすとかサイドバックの裏を攻略するというよりは、ボールを前進させることによる陣地回復とスローインを含んだセットプレー狙いだったのだと思う。

ワシントンの奮闘もむなしく、サイドバックの裏を執拗に狙い続ける攻撃が形になり始めたのは前半の終わり頃だった。デザインされた攻撃によって、ウクライナも攻め立てるのだけど、センターフォワードが微妙問題は、解決されなかった。また、北アイルランドの4バックは全員がセンターバック適正の選手だったこともあって、クロス爆撃はどうもうまくいきそうにもない。それゆえのコノプリャンカ、ヤルモレンコの中央への移動だったのだけど、噛み合うまでは時間がかかりそうだった。

よって、時間がたてばたつほど、ウクライナはイライラがつのる。ボールを支配し、仕掛けまくっているけど、ゴールに届かない。いらつきは攻守の切り替えを遅らせる。北アイルランドは殴り続けた右サイドの狙いに変化が生まれてくる。味方のサポートが相手のカバーよりも早くなっていく。北アイルランドのクロスは大外にクロスを待つ選手がいることが特徴だ。カウンターとサイドバックの裏攻撃がフィニッシュに繋がるようになり、スタッツでは北アイルランドのほうがシュート数が多いという結果で前半が終了した。

困ったときのセットプレー

雨が激しく降るなかで、始まった後半戦。開始直後にセットプレーから北アイルランドが先制に成功する。殴り続けた右サイドで得たセットプレー。競り勝ったのはマコーリー。競り負けたのは殴られ続けたハチェリディだった事実は、なかなか切ない。想定外の状況に、一気に攻勢を強めるウクライナ。しかし、ウクライナのセットプレーはキーパーの正面へ。

前半のリプレーはゴメンだと北アイルランド。動きまわる相手のセントラルハーフを前線の3人で捕まえるようになる。また、彼らの空けたスペースを後方の選手が迎撃姿勢で対応したことによって、前半よりはウクライナが効果的に前進できなくなっていった。後は試合の時間が過ぎるのを待つだけの北アイルランド。最悪でも引き分けに持ち込まなければならないウクライナ。まさかの雹によって、試合がほんの少しだけ中断した後は、両チームの采配勝負となった。

最初に動いたのは北アイルランド。69分にウォード→マッギン。ウォードがイエローをもらったためだろう。また、70分以降の北アイルランドは5、6バックを厭わない形となっていく。ウクライナはゾズリャとガルマシュを投入。基本的に同じポジションの入れ替え。相手が下がってきたこともあって、セントラルハーフにビルドアップよりもチャンスメイクをできる選手を入れたかったのだろう。北アイルランドの次の手は、ワシントン→マゲニス。サイドに流れるワシントンに対して、マゲニスは空中戦で戦う選手だった。空中戦ならラキツキーサイドで戦うのだとばかりに、マゲニスはウクライナの左サイドで存在感を見せていく。

北アイルランドのいやらしいところが、空中戦ならラキツキー、裏に走らせるならハチェリディと、しっかりと相手の弱みを整理しているところだろう。交代で出場した選手たちは右サイドで起用されており、突然始まる右サイドの攻撃にウクライナは少し嫌な雰囲気となる。基本は攻撃を延々と続けているのだけど、相手のクリアボールや速攻に対する精度を少しでもあげたいという北アイルランドの采配だった。

時間がたてばたつほどに、ウクライナは北アイルランドのゴールに迫っていく。クロスの連続、ミドルシュート、ドリブルによる突撃などなど繰り返していくが、全員守備と4センターバックの北アイルランドをどうしても崩せない。そして、長すぎるロスタイムには、交代で入った北アイルランドのコンビに右サイドを崩され、まさかの追加点で試合は終了した。ロスタイムに時間を稼ぐのではなく、稼ぐふりをして突破をはかるのはいつかのフロンターレの中村憲剛のプレーを思い出させるものだった。こうして3位への挑戦権を手に入れた北アイルランドは、最終戦でラスボスことドイツとの決戦に挑む。

ひとりごと

守備が整っていないときに、相手が攻撃を仕掛けてくるような状況を生み出さないような攻撃をデザインする。そして、その攻撃のデザインが相手の弱みに当たるようにもデザインする。北アイルランドの攻撃の変化を思い出すと、陣地回復による前半のアタックは、相手のカウンターの発動に繋がりにくかった。そして、後半は少ない人数による時間のかかる攻撃と考えると、質的優位のある空中戦を相手の弱みにぶつけてボールサイドで攻撃を完結させるとしっかりと準備されていたと思う。ただし、守り切れるかどうはか別の話で、ウクライナからすれば、もったいない試合だったと言えるだろう。そういう意味でドイツの決戦でどのような策でドイツを封じれるか、それとも力負けするかは、非常に楽しみだ。精一杯の反抗を見せられることを期待している。

コメント

  1. NNS より:

    何をもって、レベルが高い、低いと判断していますか?

    単純にミスが多いとか、アウトプレーが多いなどですか?

    ツイートされていて、気になったので。

    • らいかーると より:

      ・デザインされた定位置攻撃の精度、有無。
      ・相手の守備の構造を利用した攻撃の有無
      ・相手がボールを保持したときのバランス
      ・相手のビルドアップへの対策
      ・セットプレー
      などなど

      • NNS より:

        なるほど…。
        ありがとうございます。

        目の付け所が違うなぁとつくづく思います。

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