マンチェスター・シティ対ナポリ ~スーペルなボール保持対決の仕組みを探る~

マッチレポ×マンチェスター・シティ1718

いけいけ!ぼくらのマンチェスター・シティ。お馴染みのメンバーがお馴染みの位置で出場だ。バイエルン時代のグアルディオラのスタメンは、試合が始まらないと誰がどこに配置されているかわからなかった。しかし、マンチェスター・シティ時代のグアルディオラは、誰がどこに配置されているかがはっきりしている。この差が何を意味するかは、いつか考えてみたい。

ナポリのスタメンもお馴染みのメンバーがずらり。ナポリを追い続けているわけではないので、このメンバーがガチの11人なのかは不明だ。ジョルジーニョとアランが試合に出ていてもおかしくないくらい。守備をできるやつがいねえじゃねえか!で心が折れていったストークの二の舞いにはならなそうだ。

アラバロールで狂わされたナポリのプレッシング

ボールを保持することを長所とするナポリ。よって、守備戦術はできるかぎりボールをすぐに奪回する形を取りたい。よって、ナポリのプレッシング開始ラインはマンチェスター・シティの陣地から積極的に行われた。ナポリの守備の論理は、ゾーン・ディフェンス。4-1-4-1から4-4-2に変換(インサイドハーフが前列に移動)することも多い。なお、この写真ではジエリンスキが前列に加わっている。

ハーフスペースの入り口にポジショニングする選手にどのポジションの選手がプレッシングに行くか。論理としては、サイドハーフがサイドを捨ててハーフスペースの入り口に立つ。もしくは、セントラルハーフ、またはインサイドハーフが中央エリアからハーフスペースへ突撃していくことが定跡となりつつある。前者のメリットは中央エリアからセントラルハーフたちを動かさなくて済む。後者のメリットはサイドにスペースを与えないことができる。サイドバックの守備能力や相手の攻撃の形によって、それぞれを使い分けるのがベターだろう。ナポリの場合は、基本的にはインサイドハーフが前に出てくる形になっている。

マンチェスター・シティの陣地からナポリがプレッシングをかけてくるので、エデルソンを使いならがビルドアップの出口を探すマンチェスター・シティ。マンチェスター・シティがビルドアップの出口として設定したのは、アラバロールのデルフだった。上の図のようにサイドバックのデルフが中央エリアにポジショニングしていることがよくわかる。

エデルソンがデルフをビルドアップの出口としている場面だ。この場面では、カジェホンが1列目にいる。インサイドハーフは前列に移動するはずのナポリの形から離れた形となってしまっている。その理由は、カジェホンが守備の基準点をなくしてしまったからだ。カジェホンの守備の基準点、マークすべき対象はデルフだ。しかし、デルフはフェルナンジーニョとセントラルハーフを担っている。カジェホンの選択肢は2つ。デルフについていくか。オタメンディをみるか。この場面ではエデルソンまで寄せてしまっているけれど、カジェホンの気持ちを言えば、オタメンディへのパスコースをきりながら、エデルソンにプレッシングをしている。デルフのマークはオレじゃない。だったら、誰なの?という答えをナポリはなかなか出せなかった。ちなみに、このパスからマンチェスター・シティの追加点が生まれる。

33分になっても状況は変化しない。ジエリンスキが前に出てこないからなのか、カジェホンがオタメンディを捨てるべきなのかは、チームとして整理しなければならない問題だろう。ジエリンスキが出てこない理由は、シルバとデ・ブライネをスルーできないからだ。シルバとデ・ブライネをフリーにしてしまうと、エデルソンからのロングボールをフリーの状態のデ・ブライネたちがセカンドボールを回収というロングボールによる前進をマンチェスター・シティは持っている。非常にえぐい。

カジェホンが狙われた形となったが、ハムシクもかなり困っていた。前列に移動したいけれど、フェルナンジーニョとデルフがいる。でも、相手のセンターバックは2枚いる。ウォーカーはインシーニェが担当してくれるからほっておくとしても、枚数が足りない。ジエリンスキとディアワラが前に出てきれくれれば、枚数は足りる。しかし、デ・ブライネとシルバが待っている。とくにシルバはサイドにポジショニングすることが多く、ジエリンスキはそれをほっておくことができなかった。ヒサイはサネにピン止めされているし。

なお、ジエリンスキとディアワラが登場しても、上記のようになってしまっていた。この場面ではストーンズからフリーのシルバにボールが通される悪夢の始まりだった。

まとめると、アラバロールをビルドアップの出口とすることによって、マンチェスター・シティはビルドアップをスムーズに行うことができた。相手陣地から守備をするナポリのプレッシング隊は下がりながらの守備をしいられるようになり、マンチェスター・シティの独壇場とも言えるような試合内容となっていった。

ナポリの反撃のきっかけ

自陣までボールを運ばれてしまったナポリの守備は、どの選手に誰が守備の基準点を置くかがはっきりしていた。よって、周りと連動しない二度追いがほとんどない。また、パスカットをするという意味でのボールを奪うプレーを捨てている代わりに、相手に列をスキップさせるパスを許さない守備のポジショニングで対抗している。ナポリのスキップを許さない守備の前に、マンチェスター・シティはロングボールによるサイドチェンジを試みるようになっていく。中央圧縮の圧縮を緩めるためのサイドチェンジ。サイドを捨てているなら、サイドから質的優位で勝負するというゾーン・ディフェンスへの対抗策としての定跡で、マンチェスター・シティはナポリに迫っていく。

8分にマンチェスター・シティが先制する。デルフのサイドチェンジ(左サイドから右サイド)でボールを前進させて、中央にボールを戻す。フェルナンジーニョは中央から左サイドにロングボール。サネがボールを受けると、インナーラップ発動はシルバ。シルバのクロスを最終的にスターリングが決める。ロングボールを大外で受ける→インナーラップというバイエルン時代からの得意技でゴールを決めるマンチェスター・シティだった。

13分にマンチェスター・シティが追加点を決める。ナポリの守備の論理は、ゾーン・ディフェンスを忠実に。よって、選手と選手の間のパスは通しにくい。その代わりに大外にはボールが通る。サイドでボールを受けたスターリングのクロスで発生したセカンドボールを回収したデ・ブライネ。いつも通りにピンポイントクロスを通し、ジェズスが追加点を決める。デ・ブライネがあっさりとボールを回収できた理由は、ナポリのプレッシング隊の帰陣が間に合わなかったからだ。相手陣地でプレッシングをするけれど、プレッシングがはまらないと、整った状態で相手を迎え撃てないというデメリットが発揮されてしまった場面だった。

20分くらいになると、ナポリもボールを保持できるようになる。マンチェスター・シティが緩んだのもその理由だろうが、ビルドアップの出口を見つけたことが大きい。そのネタはマンチェスター・シティと一緒で、相手のサイドハーフがセンターバックまでプレッシングをかけてきたときにサイドが空くというネタであった。最近のマンチェスター・シティは、インサイドハーフの前列への移動よりも、サイドハーフの前列への移動を行うことが多い。ただ、スターリングもサネも帰陣は遅いし、守備のポジショニングが良いわけでもない。よって、プレッシングのスピードが相手の能力を凌駕していれば問題ない。だが、凌駕できないときは、ビルドアップの出口として使われてしまう。

ナポリのビルドアップの出口は左サイドバックのグラム。写真のようにスターリングがマークを捨てて(正確にはグラムへのパスコースはきっているのだけど)、相手のセンターバックへプレッシング。この後のボールの流れは、クリバリ→ハムシク→グラムでプレッシング回避成功のナポリ。この場面が何度も繰り返される。なお、クリバリがビルドアップの達人過ぎていつ見ても驚かされる。ちなみに、セネガル代表。ワールドカップで日本代表と対戦するチームにはこんな化け物がいる。

24分にはマンチェスター・シティのカウンターが炸裂。デ・ブライネのミドルはバーに直撃。32分にはナポリがボールを保持攻撃を見せる。この試合で初めて。なお、この時間までにナポリのシュートは0本だった。36分にコーナーの流れから、ウォーカーがファウルをしてPKを与えてしまう。ストーク戦のオウンゴールといい、悪い目立ち方もするウォーカー。ただ、このピンチを救ったのはエデルソン。メルテンスのPKを止める。ナポリが攻勢に出られた理由は、2-0になり、はらをくくったことが大きい。ボール保持したときはボールを大事にしよう作戦を敢行する。マンチェスター・シテが緩んだことも事実だろう。それまではボールを失ってもすぐに奪回できていたが、徐々にプレッシングがゆっくりになっていた。さらに、ビルドアップの出口も与えてしまったので、めんどくさい状況となる。ただし、43分にはビルドアップミスからマンチェスター・シティにチャンスを与えてしまうナポリであった。

似た者同士の似た弱点

後半のマンチェスター・シティは、ハーフラインからのプレッシングで対抗する。ファーストディフェンダーの決定が曖昧なマンチェスター・シティ。おそらく、インサイドハーフを前列に移動させる4-4-2で、ナポリを抑えようとした。デ・ブライネが前列に移動することが多い。だが、ナポリはその変換によって発生するエリアをハムシクに使わせることで、試合を優位に進めていった。この絵でもハムシクがフリーになっている。ディアワラをおとりにしているのもにくい。ただ、クリバリではなく、アルビオルがボールを持っているのが興味深い。そしてジェズスのポジショニングがおかしい。55分にインシーニェが負傷。ピッチに座り込む。代わりにアランが登場する。

シルバとデ・ブライネがこんなに前に出てくるのも面白い。4-4-2の菱型でプレッシングに行くのも同数プレッシングでの定跡となりつつある。インサイドハーフ(サイドハーフがインサイドハーフ化する)が走って死んでタスクとなる。ただ、この試合のマンチェスター・シティは4-4-2の菱型はやってない。この場面がちょっとそんなふうに見えるだけ。その理由のひとつがクリバリとジェズスのデート大作戦。後半のナポリの攻撃が右サイドを中心になったのはこんな理由だ。ただ、ヒサイの奮闘もあって、トラップディフェンスがあまり効果的ではなかったマンチェスター・シティ。アルビオルにボールをもたせよう作戦は、かつてのプジョルにボールをもたせよう作戦を彷彿とさせる。もうひとつの理由がスターリングよ、前に出てくるな!だろう。前半の反省だ。

マンチェスター・シティがハーフラインからのプレッシングに変化したこともあって、後半はボール保持を許されたナポリ。ボールを保持したときのナポリ対ボールを保持していないマンチェスター・シティの対決は、ナポリに軍配が上がりそうだった。前半の試合内容と比べれば雲泥の差だ。右サイドからの攻撃を仕掛けられることを証明したナポリは、得意の左サイドからの攻撃も時間とともに発揮していく。マンチェスター・シティもボールを保持して時間を潰せばいいのだけど、後半はアランが突撃を繰り返したこともあって、アラバロールがほとんど機能しなかった。64分には自陣で見事な鳥かごを見せたマンチェスター・シティ。しかし、最後にはボールを奪われて、ハムシクに決められそうになる。ストーンズのスーパーブロック炸裂。

ビルドアップミスであわや失点!なんて場面があると、ボールを繋ぐことに恐怖を覚えることも当然の流れ。マンチェスター・シティは繋いだり蹴ったりと一貫性のないプレーが増えていく。ボールを渡してしまったことで、ナポリに息を吹き返すチャンスを与え、時間とともに追い込まれていくマンチェスター・シティ。66分に空中戦の競り合いでシルバとヒサイが負傷。しばらくの休憩となる。68分にスターリング→ベルナウド・シルバ。

71分にグラムの強引な突撃をマンチェスター・シティは止めることができずに、最後はエリア内でフェルナンジーニョが足をひっかけてしまう。またも、PK。キッカーはなぜかディアワラ。しかし、インサイドキックで冷静に決める。スコアは2-1。残りは18分。

残りの18分は秩序と無秩序が交互に現れるような試合だった。ボールを論理的に繋いだかと思えば、速攻やカウンターで殴り返す。両チームともに疲労がえぐかったのだろう。ダニーロがナポリの左サイドを止めるために出てきたのはちょっとおもしろかったけれど。スコアは動かずにマンチェスター・シティが2-1で勝利した。

ひとりごと

ボールを保持することを長所とするチームの対決は、ボールを保持したチームが良さを発揮する試合となった。そのままやないか。11対10(キーパーがノイアーでも相手のフォワードにマークはつかない)のゲームをどのように同数にするか、そのためのシステムの変換でできる空間を両チームともに利用していたことが印象的だった。また、相手を背負っているときは前向きの味方を高確率で使う。列を飛ばしたパスによって、前向きの味方がフリーになるのを知っている。守備の基準点のずれも含めて、しっかりと認知できているのだろう。なかなか面白い試合だったけれど、両チームともにもうちょっと守備で破壊力を身につければ、もうちょっとで天下を取れそうな予感。

コメント

  1. NNS より:

    グアルディオラはサッカーの長い長い歴史に名を残す名将ですかね?

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