【第11節】アーセナル対リヴァプール【リヴァプールの守備の仕組みを破壊したアーセナル】

マッチレポ×プレミアリーグ1819

 

ベンゲル以前、ベンゲル以降という区分けがされていそうなアーセナル。「ベンゲル以降」のアーセナルはリーグ戦でしっかりと結果を残している。しかし、いまいち注目が集まらない理由は、同じリーグ戦において、より「華やか」なチームがより結果を残しているからだろう。つまり、アーセナルが自分たちに注目を集めてもらうためには、そんな「華やか」なチームを相手に結果を残すしかない。そして、取り戻せるかかつての「華やかなアーセナル」を。リヴァプールはケイタ、ヘンダーソンが怪我で離脱。ゆえに、モナコから加入したファビーニョがスタメンになっている。懐かしいファビーニョ。バカヨコは元気か!?

アーセナルのリヴァプール対策

アーセナルがボールを保持したときのかみ合わせを図にしてみた。次に選手の動きや配置の特徴を足してみる。

最初にアーセナルのビルドアップ隊から見ていく。基本はボックスビルドアップ(2枚のセンターバックと2枚のセントラルハーフ)で行われた。いざとなったら、レノをビルドアップに組み込むことで、[3-2]ビルドアップと言えなくもない。ただ、レノの出番はゴールキックなどのプレーの再開での出番が多かった。よって、ボックスビルドアップと表現するほうが適切と言えるだろう。

2枚のセントラルハーフ(ジャカとトレイラ)のポジショニングは、リヴァプールのセンターフォワード(フィルミーノ)とウイング(マネとサラー)の間だ。このポジショニングによって、ビルドアップの出口となりたいし、リヴァプールの3トップの距離を圧縮させることができれば、アーセナルはサイドに時間と空間を得られるという計算になっている。

だが、リヴァプールのプレッシングの仕組みは、ウイングの選手がサイドバックへのパスラインをきりながら、プレッシングをかけることだった。よって、サイドに時間と空間ができるように仕組みを作っても、ボールを目的地に届けられなかったら意味がない。

よって、アーセナルの選んだ策は空中を使うことだった。マネやサラーの上空をボールが通過していくことで、サイドバックにボールを届けていくアーセナル。また、ウイングの曖昧なポジショニングによっては、サイドへのパスラインが簡単にできるので、その習慣を狙い撃ちにする場面も散見された。

アーセナルのボックスビルドアップで最もリヴァプールを苦しめていたのが、ジャカのポジショニングだった。ジャカはフィルミーノの側までポジショニングを下げることによって、対面のワイナルドゥムから自由になることができていた。守備で奔走するマネサイドではなく、サラーサイドを狙い撃ちにしたところが非常に憎い。ジャカの列を下りる動きは、リヴァプールの1列目(3トップ)の守備のポジショニングに迷いを与えることに成功していた。こうしてジャカを起点に左サイドから攻撃を仕掛けることは多かったアーセナルである。

問題は、ワイナルドゥムは何をしていたか?となる。リヴァプールの狙いとしては、1列目で外へのボールを規制する。そして、中を経由する相手の攻撃を3センターで奪い切る策となっている。よって、ジャカやトレイラに対しては、インサイドハーフ(ワイナルドゥムとミルナー)が対応する役割になっている。

しかし、この試合のインサイドハーフの役割は多岐に渡っていた。ビルドアップの出口となろうとしているジャカとトレイラをマンマークで止めること。アーセナルのサイドバックにボールが渡ったらボールを奪いに行くこと。さらに、自分の後方にいるムヒタリアンやエジルに気を使うこと。役割過多とはこのことだろう。

前半を振り返ってみると、どの役割に集中したらいいねん状態のリヴァプールの3センターであった。最も問題だったことは何か?と言えば、アーセナルのビルドアップ隊のポジショニングの深さに対して、1列目のプレッシング開始ラインと2列目のポジショニングの距離が離れすぎてしまったことだろう。よって、ジャカの下りる動きについていく判断をワイナルドゥムはすることができなかった。ただし、アーセナルもリヴァプールの1列目を引き出すようにセンターバック同士でまったりパス交換していた(いざとなったらレノ)ので、リヴァプールの列の距離を伸ばそうという狙いはあったのだろうと推測はしている。

さらに、興味深かったのは、アーセナルのセントラルハーフの攻撃参加だった。ビルドアップの出口となった、もしくは相手の1列目を前進できたあとに素早くまた攻撃に関わろうとする場面が何度も見られた。これもリヴァプールの泣き所で、3トップは守備に献身性を見せ続けるタイプではない(リヴァプール以外も大抵はそうである)こともあいまって、列を下がってまで守備をしない(免除されている節はある)ことを利用していた。

こうして左サイドをビルドアップの出口としたアーセナルの前線の選手配置は左サイドに偏っていた。たぶん、全部狙い通りだろう。右サイドはペジェリンとムヒタリアンに頑張ってもらう代わりに、左サイドはエジル、コラシナツ、オーバメヤンで強襲だった。さらに言えば、リヴァプールは撤退守備を[4-4-2]で組む事が多い。そのときはサラーは下がってこない。よって、サラーを残すのは怖いが、攻撃では利が生まれる。よって、そのサイドから殴り合い上等のアーセナルは左サイドから何度もチャンスを作ることに成功していた。得点は入らなかったけれど。

前半を振り返ると、リヴァプールも速攻やセットプレーで殴り返していたので、両チームに得点が入ってもおかしくない前半となった。ただし、今季はボール保持でも強さを見せていたリヴァプールだったが、この試合ではアーセナルの同数を受け入れたプレッシングの前に、ボールを繋いで攻撃をすることはできない雰囲気であった。さらに、前述のように、自分たちのプレッシングはなかなかはまらない状況だったので、四苦八苦な展開だったに違いない。

リヴァプールのアーセナル対策

後半のリヴァプールはシステムを[4-2-3-1]に変更した。リヴァプールの狙いは、アーセナルのサイドバックへの守備の役割をはっきりさせたかったのだろう。また、ミルナーをアーセナルの攻撃の起点となっていた左サイドに配置したことは憎い。このリヴァプールの変更によって、アーセナルはボールは持てるけれど、前半よりは好き勝手に振る舞えなそうな展開になっていった。ただし、リヴァプールのボール保持に対するプレッシングは後半も機能していたので、まだアーセナル優勢な試合の雰囲気であった。

リヴァプールの配置の変更は、アーセナルがボールを保持することはしょうがない。でも、サイドをしっかりと蓋をして人数をかけて守ってカウンターで行きましょう!といったところだろうか。なので、果敢にサイドを守るマネとミルナー。特にミルナーはジャカにもプレッシングをかける元気なプレーを見せていた。ワイナルドゥムには過負荷でも、ミルナーの場合は過負荷にならないというくだりが少し面白い。

ミルナーが来たぞー!というわけで、今度は右サイドから攻撃を仕掛けていくアーセナル。マネとミルナーはサイドの守備に熱心で、ファビーニョとワイナルドゥムは下がってこない前線コンビの穴埋めに奔走していた。つまり、持ち場を離れることが多くなっていった。急場のシステム変更で穴を防ぐことは難しく、アーセナルはリヴァプールのサイドハーフとセントラルハーフの間にパスラインを見つける展開を増やしていった。後半のムヒタリアンの目立ちはそんなところにある。

しかし、60分。同数を受け入れているアーセナルの守備。しかし、マネの予備動作で裏をつかれると、マネのクロスのこぼれ球をミルナーが決める。一瞬のゆらぎというよりは、マネがスーペルであった。相手の骨格を後半も殴れそうだったアーセナルはライン間攻略のためにイウォビを入れる。ムヒタリアンよりはイウォビ。最終的にはイウォビとエジルで攻め立てるが、[4-4]で守るリヴァプールのゴールにはなかなか届かなかった。

しかし、ミルナーがサイドなら、サイドバックは別に誰でも良いんじゃないか?と考えそうなスペイン人監督にありがちな発想。最終的にはイウォビが左サイドバックになる。そして、そんなイウォビのアシストからラカゼットがゴールを決めるのだから面白いめぐり合わせと言えるだろう。また、イウォビへの対応をしくじったのがミルナーだったこともまた興味深いめぐり合わせである。なぜ、この位置でも外切りでプレッシングをかけたのか。めぐり合わせといえば、この試合のリヴァプールのゴールは、それまで全く機能していなかったボール保持からの攻撃であった。ゴールは文脈とは関係なく決まる、といえば、決まる。

試合はそのままに終了。最後まで攻勢をかけたアーセナル。フィルミーノと交代で登場したシャキリが守備に奔走する姿は泣けたリヴァプール。決定機が多い試合だったが、結果は痛み分けとなった。

ひとりごと

リヴァプールの特殊系のプレッシングを誰が破壊するか?大会で一気に優勝候補に名乗りあげたのはアーセナルとなった。空中を利用したサイドバックへのパス、3トップの間にポジショニングできる2セントラルハーフ。セントラルハーフのサリー。3列目と2列目の距離によって、相手を間延びさせよう作戦とあらゆる策を使って、リヴァプールのシステムを変更に追いやったことは見事だった。この方法は他のチームでも真似できそうな仕組みになっているので、他のプレミアリーグのチームやチャンピオンズリーグでリヴァプールと戦うチームがどのように振る舞っていくかは非常に興味深い。

コメント

  1. シー より:

    いつも楽しく読ませていただいています。
    リバポの3トップの頭を超えるパスによってプレス回避するのはシティやナポリもやっていたのではないかと思ったのですが、違いって何かありますか?

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