【第30節】川崎フロンターレ対ヴィッセル神戸【ボール保持対決で大事なこと】

リージョの日本でのチャレンジを観測していこうのコーナー。いつの試合だ!という気がしないでもないが、ぎりぎり間に合った感がある。両チームともにボールを保持するチームの対決となった。ボールを保持するチーム同士の対決で差となって現れるものは「ボールを奪い取る力」と「ボールを奪われない力」となる。ボール非保持でも強いよ!というような多様性を持つか、ボール保持周りなら最強です!という一点豪華主義を目指すのか?という問いにも繋がってくる試合となった。

ヴィッセル神戸の守備の狙いとえげつなさ

ヴィッセル神戸のボールを保持していないときのシステムは【4-3-1-2】。前線のトリオの狙いは少し面白かった。

2トップを相手にビルドアップをするときの定跡として、「2トップの間のエリアにポジショニング」という策がある。2トップの間に選手を配置することで、2トップの距離を狭くし、大外エリアに時間とスペースが生まれる。もしも、2トップが距離を狭くしなければ、そのままビルドアップの出口として利用すれば良い。

よって、ヴィッセル神戸は最初からその位置にポドルスキを配置した。川崎フロンターレはどちらのセントラルハーフがアンカーとして振る舞うかは定められていない。時と場合による。よって、目的地までの移動に時間がかかる。時間がかかるけれど、目的地にはポドルスキがいるという仕組みになっている。さらに、その時間を相手に与えないために、2トップで2センターバックにプレッシングをかけられるような仕組みになっている。

しかし、これらの仕組みは中央からの前進を許さないという狙いで、ボールを奪い切るという狙いがあるようには見えなかった。

ボールを奪い切るための策ではないと考えた理由は、川崎フロンターレの「サイドバックがフリー」だったためだ。登里の才能に疑いはないが、変幻自在のポジショニングも含めて、川崎フロンターレの攻撃面を評価すると、エウシーニョのほうが上だ。さらにエウシーニョに対応するのはイニエスタとなる。悪夢のかみ合わせだ。古橋やウェリントンが登里サイドにボールを誘導するような素振りもなかったので、悪夢のかみ合わせを受け入れることとなった。なお、前節でも驚異の【4-3】での守備を見せていたヴィッセル神戸。さらに、そのメンバーにイニエスタが加入となる。

悪夢のかみ合わせに拍車をかけたのは、大島と中村憲剛の攻撃参加であった。ヴィッセル神戸の前線トリオは撤退しない。チームとしての決まりごとなので、前線トリオが悪いわけではない。彼らが守備に下がらないことを知っていたかのように、大島と中村憲剛の後方からの攻撃参加は、川崎フロンターレのボール保持に厚みを加えていた。そして、12分に小林悠のPKで川崎フロンターレが先制する。しかし、14分にヴィッセル神戸もオウンゴールですぐに追いつくことに成功する。ちなみに、イニエスタとポドルスキのコンビネーションがきっかけであった。

撤退する川崎フロンターレ

同点に追いつかれたことや天候が不安定だったこともあって、川崎フロンターレは少し様子を見るように変化していった。川崎フロンターレのボールを保持していないときのシステムは【4-4-2】。相手陣地では【4-4-1-1】のようだが、どちらでも構わない。攻撃的なプレッシングをやめた最大の理由は、ヴィッセル神戸がゴールキーパーをビルドアップに組み込んだだめだろう。頑張ってプレッシングに行く→相手がキーパーに下げる→キーパーが蹴っ飛ばす→ウィリントンが空中戦をするの流れになると、プレッシングで失われる体力のリターンがあるのかは微妙と言えるだろう。

ヴィッセル神戸の特徴は、3センター(ポドルスキ、イニエスタ、三田)のポジショニングにある。基本のコンセプトは、相手の間にポジショニングすること。その位置を出発点にして、列やレーンを移動したりする。藤田がサリーを行うこともあるけれど、3センターのサリーで+1を作られることに川崎フロンターレは手を焼いていた。よって、むやみに攻撃的なプレッシングをかける場面は時間の経過とともに減っていった。

ボール保持を許されたヴィッセル神戸は3センターを中心にゴールに迫っていく。ポドルスキが右インサイドレーンを住処にしていることもあって、右サイドに若干の数的優位を作る意図はあるのかもしれない。右サイドでためてイニエスタ経由で橋本の攻撃参加という場面が目立っていた。また、困ったときの古橋の裏抜けもチームの攻撃の多様さをもたらす意味で機能していた。そして、27分に古橋が決めて、ヴィッセル神戸が逆転。ウェリントンによるピンどめが効いたけれど、川崎フロンターレは全体の足が止まってしまっていた。まさかあの姿勢からシュートを打つ!とは思っていなかったのかもしれない。その気持ちはわかる。

両チームのシステムの変更

最初に動いたのは川崎フロンターレ。家長を中央に、小林を右サイドに移動させた。恐らくリードしてからの時間の過ごし方に不満があったのだろう。家長を中央に配置することで、中盤の枚数を増やし、ボール保持を安定させることが狙いだったのではないかと。そして、攻撃的なプレッシングも再開する。スコアが動いたので、当然といえば、当然の変化なのだが。しかし、31分にコーナーキックからのカウンターで三田がスーペルなゴールを決める。トランジションでポドルスキが個人技でデュエルを制し、サイドチェンジで三田のゴールをお膳立てしたのが印象的だった。

39分に古橋が左サイドに移動して、ヴィッセル神戸のシステムが【4-4-2】に変化する。恐らくエウシーニョ対策に古橋とイニエスタの守備の負担を軽減したかったのだろう。しかし、この変更はそれまでは窮屈そうにしていた大島と中村憲剛をビルドアップの面で自由にすることになる。これまでもボールを相手陣地に運んでからの攻撃参加では存在感を見せていたコンビだったが、ヴィッセル神戸のシステム変更によって、ビルドアップの面でも解放されることとなった。つまり、川崎フロンターレが川崎フロンターレらしさを出せる状況が成立してしまうこととなった。よって、42分に家長のゴールが炸裂する。そして、前半は終了した。

ボールを保持できるか否か

後半になると、川崎フロンターレがボールを保持する場面が目立ち始める。その理由はヴィッセル神戸のシステム変更による中村、大島の自由化だろう。ただし、古橋の守備によって、川崎フロンターレの右サイドの攻撃は前半ほどの迫力はみせていなかった。小林悠がほとんどフォワードとして振る舞ったこともエウシーニョを寂しくさせたかもしれない。その代わりに、前半は何をしていたんだ?と記憶にない齋藤学が後半の主役となる。恐らく、チームとしても、「相手がエウシーニョサイドを抑えてきたらから、逆サイドから攻めよう」くらいの意思統一はあったのではないか?と思う。果敢な仕掛けを続けた齋藤学は三度目の正直で同点ゴールを決める。

ヴィッセル神戸からすると、ボールを持てる場面では強さを見せていたのだけれど、困ったときのロングボールが機能しなくなったことが痛かった。後半はウェリントンと奈良のマッチアップだったのだけれど、ウェリントンも簡単には負けない。しかし、前半は古橋が裏でポドルスキがセカンドボール拾う隊だった。しかし、後半は周りに人がいない。よって、川崎フロンターレのプレッシング回避として機能していたウェリントンへのロングボールの精度が落とされたこともヴィッセル神戸からすれば、厳しい状況に繋がる手となった。ゆえに、イニエスタと藤田の役割が過多になり、両サイドハーフが絞ってくれるような本職のサイドハーフでもないので、中央があきがちになり、その位置に家長というのも厳しい噛み合わせになっている。

守備の基準点というかイニエスタ

【4-4-2】でも違和感のないボール保持を見せていたヴィッセル神戸だったが、相手からボールを奪う能力の差が徐々に試合内容に大きな影響を与えていくこととなった。ボールを奪えないヴィッセル神戸はイニエスタが果敢に自分の役割をこえてプレッシングをかけるのだけど、周りが連動することはなかった。よって、イニエスタの空けたスペースを有効利用していく川崎フロンターレ。中村、大島、家長のトライアングルのボール保持能力の高さは言うまでもない。よって、残りの時間はほとんどフルボッコとなったヴィッセル神戸。大島のゴールは素晴らしかったし、エウシーニョのゴールも中盤のオープンな状態から生まれている。

前節の神戸の試合をみた感想が【4-3】で守りきれるわけないだろうだった。この試合は【4-4-2】にしたけれど、前線の選手が撤退守備で機能しないビッククラブ病にヴィッセル神戸がなっていくとは。ACLに出てくる中国のチームもこのような形になるのかもしれない。その形を隠すためのボール保持なんだろうけど、相手のほうがボールを保持することに長けてると脆さをみせる現状になっている。

ひとりごと

川崎フロンターレからすれば、先制点からの振る舞いはかなり不可解なものであった。この試合の前にサンフレッチェ広島が負けた!や早すぎるリード、ヴィッセル神戸のボール保持の形などなど、様々な要因が重なって迷いに満ち溢れた形になってしまったのだろう。その迷いを断ち切るための家長をトップ下に前半で起用した采配は見事だった。知念、小林の仕事が整理されたことで、役割がはっきりするようになった。

ヴィッセル神戸はエウシーニョをどうする問題を解決するために、中村と大島に時間とスペースを与えてしまったことが想像以上に痛手になったのだろう。いっそのこと、イニエスタを懐かしのウイングの位置でスタートさせたいのだけど、ヴィッセル神戸はそれでボールを運べるのか問題が出てくるのだろうか?相手がボールを保持しているときだけ古橋がサイドハーフの仕事をする!なんて策もあるので、リージョがどのようにこの問題を解決していくかは楽しみだ。ただ、ボールを保持することで、解決しそうだけど。その場合は後半の息切れを狙われるに違いない。

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