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ポーランドは、地道に戦力を整えてきている。かつては、ドルトムント3人衆が目立っていたが、ミリク、グリク、シュチェスニー、クリホビアクと、クラブチームで主力になる選手も出てきた。そして、バイエルンでエースとして君臨しているレヴァンドフスキは、さらなる凄みを増してきている。躍進しても不思議ではない陣容は、ファイナルラウンドでの躍進をも射程圏内に入れていることだろう。
初登場の北アイルランド。86年のメキシコワールドカップ以来の大舞台らしい。マンチェスター・ユナイテッド育ちの選手が、地味に多い。有名なのはエバンスか。プレミアリーグマニアには、たまらないメンバーになっているかもしれない。監督のマイケル・オニールの評判がすこぶる高いので、采配やスカウティングに期待が高まっている。
北アイルランドの罠
北アイルランドが、ほぼ守りっぱなしの前半戦となった。
ポーランドがボールを保持しているときの北アイルランドのシステムは、5-3-1-1。イタリアが行ったように、5-3-2とは異なるタイプの守り方を北アイルランドは採用した。最前線のラファティは、カウンターやクリアーボールに備えて守備にはあまり参加しない。2列目の前にいるデイビスもサイドチェンジをさせない(ただし、そこまで熱心でない)くらいで、基本は5-3で相手のボール保持に対抗していた。11人で守らない代償は、自陣への撤退をより深くした。イタリアに比べると、3列目の位置が自分たちのゴールに近い撤退の色が強い守備となった。
5-3で気合のスライドを見せる北アイルランド。構造上の問題として、逆サイドのエリアは確実に穴であった。よって、ポーランドはサイドチェンジを繰り返し、サイドバックとサイドハーフの連携で北アイルランドの守備に挑んでいった。ポーランドの攻撃を見ていると、サイドチェンジからの勝負か、ボールサイドをそのまま突撃していく形が見られた。
ポーランドの攻撃の特徴として、恐らくサイド攻撃が長所なのだろう。レヴァンドフスキは、サイドに流れることを好む。ミリクもサイドに流れることを厭わない。さらに、モンチスキ、クリホビアクも積極的にサイド攻撃をサポートする。さらに、サイドバックも上がってくる。サイド攻撃は、サイドバックとサイドハーフの2人による連携の形が一番多い。相手もサイドバックとサイドハーフの関係性で対抗してくる。よって、サイドに3人目を集めることで、サイドエリアでの優位性を確保正しようとする攻撃方法は存在する。3バックによるビルドアップも、サイドに3人目を集める形と根底の考え方は同じだ。運ぶドリブルによるセンターバックがサイドに登場することで、ウイングバックとウイングに+1で3人目の登場となる。
まとめると、ポーランドはサイドからの攻撃を得意としている可能性が高い。多様な選手がサポートに加わることができるので、相手の状況に応じて枚数を調整することができる。北アイルランドの守備を思い出しいてみると、5-3。特徴はサイドが空く。けれど、3のスライドが間に合えば、サイドの守備は4-4よりも堅固となる。3バックによる枚数の余りが、サイドへのカバーリングを容易にするからだ。つまり、北アイルランドは、ポーランドのサイド攻撃に対して、4-4よりも5-3で守ることによって、センターバックのヘルプを行いやすくした。つまり、攻められそうで深入りすると、カバーリングが待っているという状況である。
でも、5-3で守る本当の罠は、ポーランドにサイドチェンジをさせることだろう。5-3の弱点は、逆サイドエリアになる。よって、ポーランドはサイドチェンジを行なう。定跡通りに。しかし、サイドチェンジで向かったエリアに複数の選手を集めることは難しい。普通はアイソレーション状態となる。もしくは、サイドバックとサイドハーフのみ。3人目を集めようとすると、相手のスライドが間に合ってしまう。となると、ポーランドが得意としている形にはならない。よって、突撃してもカバーリング地獄、サイドチェンジしたら自分たちの型を出しにくいという非常にめんどくさい状況となっていた。
ポーランドからすれば、それでも殴り続ければ何かが起きるだろうと、攻撃を繰り返す。相手のゴール前でのプレー機会が増えれば、セットプレーの機会も増えるし、事故だって起きるかもしれない。愚直に攻撃を続けるポーランド。サイドから深入りしないで、アーリークロスも目立つ展開となった。しかし、人海戦術で守る北アイルランドをなかなか突破できない。焦ることはないのだが、北アイルランドも3バックを活かしたエバンスの浮いた状態からのロングボールで反撃を試みる。浮かすならエバンスだろ、という計算が非常ににくい。前半はスコアレスで終わる。
守備の形を変えることの意味
後半の頭から、ダラスを投入。北アイルランドは4-1-4-1に変更した。5-3-2の守備が撤退しすぎだとしても、機能していなかったわけではない。守備の形を変えた理由は、ポーランドのハーフタイムを無駄にするためだろう。ポーランドは5-3-2に対する攻略法をハーフタイムに考えたはずだ。しかし、後半が始まると、北アイルランドの守備の形が変更されている。チェンジディフェンスという概念は、他のスポーツで聞いたことがある。ある意味でノーマルな手法に戻ればいいポーランドだけれど、ハーフタイムに考えて実行しようとしたことを捨てることは難しい。さらに、インサイドハーフをクリホビアクたちにぶつけることで、前半とは違ったラインからのプレッシングを見せる北アイルランドだった。
そんな狙いは、トランジション状態では無効化される。いわゆる守備が整っている状態では問題ないけれど、守備が整っていない状態では、新たな問題が出てくる。50分の一瞬のすきをつかれ、ミリクが先制ゴールを決めることに成功する。
66分までは我慢をした北アイルランドだったが、ワシントンの投入とともに、一気に攻勢に出る。なお、ワシントンは4年前までアマチュアで郵便配達員だったらしい。
4-4-2のようで、ボールを保持すると、3バックに変化する。デイビスをなるべく中央に置きたかったのだろう。ワシントンの突撃であわやの場面を作るなど、前半よりもポーランド陣地に侵入していく場面は増えていった。
最終的にデイビスはセントラルハーフになった。ポーランドは3バックへのプレッシングを整理できていないので、3バックによるビルドアップは維持する。相手がボールを保持したときは、マクローリンが戻り4バックに変化する役割だ。もちろん、ダラスも戻って5バックになることもある。
前半から浮いていたエバンスからボール保持が始まり、ショートパスとロングパスで迫っていく北アイルランドの攻撃は迫力を見せた。ポーランドの交代は至って普通に行われる。正面から受け止める度量なのか、別に怖くないしと考えたかは不明。たぶん、後者だろう。カウンターでとどめをさせるだろうという計算もあったと思う。しかし、カウンターは決まらず。そして、北アイルランドのアイルランドを彷彿とさせる攻撃もポーランドの守備を崩すには至らず。采配で七変化を見せた北アイルランドだったが、一回のトランジションに涙を飲むこととなった。
ひとりごと
北アイルランドの変化が面白かった。選手の質を比べると、圧倒的に劣るわけで、それを埋めるための采配はとてもおもしろかった。
ポーランドは正面から戦わせてもらえなかったこともあって、非常に苦戦。それでも正面から受けきった力を見ると、底力はかなりありそう。北アイルランドに隠された本来の実力がドイツ戦で発揮されることを祈る。
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