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結果は、ポルトガルの勝利。延長戦後半に途中出場のエデルが決勝ゴールを決めて、優勝が決定した。試合の分岐点があったとすれば、クリスチャーノ・ロナウドの離脱だろう。クリスチャーノ・ロナウドの離脱はポルトガルのシステム変更と一致団結を生み、試合を膠着状態にすることに成功する。それでもフランスの圧力のほうが強かったが、ペペとルイ・パトリシオを中心とするポルトガルからゴールを決めることができなかった。中二日の法則を信じたポルトガルが味方にしたのは時間。延長戦になると、フランスのゴールに迫る回数が増える。そして、途中出場のエデルが存在感を示し始め、決勝ゴールが決まった。
決勝戦の雰囲気に飲まれるポルトガル
中二日のフランスからすれば、出来る限り早くスコアを動かしたかったのだろう。その狙いは、開始の合図とともに現象としてピッチに現れた。ジルーとグリーズマンのハイプレッシングに驚いたのかどうかはわからないが、ポルトガルの面々はジュニアのようなミスを連発し、ボールを失い続けてしまう。ビルドアップやボールを保持することに定評のあったポルトガル。フランスのプレッシングが強烈だとか、連動しているというようには見えなかったので、ミスをした原因は、自分たちにあったのだと思う。
フランスからすれば、ポルトガルが混乱状態のときに先制点がどうしても欲しかった。しかし、高い位置からの連動した守備が炸裂することはなかった。恐らく、ポルトガルの菱型で構成されるポジショニングに対して、守備の基準点をうまく設定することができなかったのだろう。また、セドリックのロングパスからナニが抜けだした場面のように、全体のラインを上げれば、クリスチャーノ・ロナウドとナニに裏抜けチャンスを与えてしまう。リスクを考えれば、ひとまずはジルーとグリーズマンに頑張ってもらうという姿勢は、わからなくもない。
よって、時間がたてばたつほど、ポルトガルは落ち着きを取り戻してく。得意のビルドアップ、ボール保持で平常心を取り戻していくと、サイドバックの高い位置からの攻撃を見せるようになっていく。ただし、準備万端で待ち構えるフランスの守備に対して、決定機を作ることはできていなかった。ポルトガルの混乱に対して全力で破壊しに行く姿勢を取らなかった代償が、ポルトガルに決定機を与えなかったとすると、フランスの計算も悪くはなかったと言えるだろう。ただし、試合を安定させるということは試合を長引かせることにも繋がってしまう。中二日の法則を考慮すると、フランスがどのように振る舞うべきだったかは疑問が残る。
セドリックとラファエル・ゲレイロ
ポルトガルが徐々にボールを保持する時間が長くなっていったといっても、基本的にはフランスがボールを保持してルイ・パトリシオまで届く場面のほうが圧倒的に多かった。フランスがボールを保持した攻撃を仕掛けていく中で、目立っていたのはパイエとシッソコだろう。特にシッソコはこれまでの試合は眠ってたのかと思わせるほどのパフォーマンスで、ポルトガルを震撼させた。
ポルトガルのサイドバックは、セドリックとラファエル・ゲレイロ。両者の違いがフランスの攻撃にも影響を与えていた。
ヴィエリーニャよりも守れることで起用されているセドリックは、中央に移動するサイドハーフを捕まえ続けることができる。もちろん、マークの受け渡しをするときはついていかない。つまり、状況に応じて、最適な判断をすることができる。よって、パイエが中央に移動してもあまり意味はなさそうだった。しかし、セドリックを動かせることには意味がある。その動きに意味を持たせるためのプレーが、ジルーの裏抜けだった。
ジルーの裏抜けは、ペペとセドリックの間をフリーランニングですり抜けていく。特にクリスチャーノ・ロナウド退場後は何度も見られた現象だった。ジルーの裏抜けのもつ意味は、ペペをゴール前から剥がすこと&セドリックがパイエについていってできたスペースを狙うことにあった。なお、ゴール前にいるときのジルーは、フォンテとの競り合いを選んでいた。ペペを嫌がるフランスの策は、好手だったと思う。セドリックからすれば、ついていけば自分の持ち場を狙われるので、パイエに対してどのように振る舞うべきかが怪しくなる。怪しさはパイエに時間を与えることになる。
攻撃に定評のあるラファエル・ゲレイロは、自分の持ち場を離れない。ただし、相手を自由にしてしまうことが多い。シッソコとのフィジカル差を考慮すると、ついていっても弾き飛ばされそうなのだが。結果として、中央に移動すると相手がついてこない、つまり、自由なシッソコは気分を良くしたのだろう。圧倒的なパフォーマンスを放つようになる。さすがにシッソコが自由すぎるだろうとラファエル・ゲレイロが動くようになると、サニャが飛び出してくるようになる。このように、フランスはしっかりと準備はしていた。計算ミスがあるとすれば、グリーズマンが疲れていたことだろう。パイエとシッソコが中央で躍動するなかで、自分の役割を見失っているようだった。
クリスチャーノ・ロナウド離脱による4-1-4-1
ボールを保持していないときのポルトガルのシステムは4-3-1-2。1列目の役割が、ポグバとマテュイディをみる。しかし、クリスチャーノ・ロナウドがやっぱり熱心でない。そのずれがチームに面倒な状況を与えていた。また、ジョアン・マリオが極端にサイドバックにつられるポジショニングをしていたこともあって、シッソコへのパスコースが空いてしまったことは計算外だったと思う。
1列目が相手のセントラルハーフをみる。相手のサイドバックにはインサイドハーフがスライドで対応する。中央へのパスコースを制限することで、グリーズマンたちへはパスを通させない。しかし、1.2列目の守備が曖昧だったので、パイエやシッソコへのパスコースが空いてしまっていた。このような守備が機能しなかった面も、ポルトガルの混乱を助長したような気がする。そういう意味では試合の分岐点はこのときに得点をできなかった&全力で得点を取りに行かなかったことだろう。ただし、決定機はあったわけで、この場面で仕事をしたルイ・パトリシオが優秀だったという結論でも問題はない。
何度もピッチに戻ってきたクリスチャーノ・ロナウドだったが、25分にクアレスマと交代する。この交代によって、4-1-4-1に変更するポルトガル。レナト・サンチェス、アドリエン・シルバはインサイドハーフになり、フランスのセントラルハーフをみる。サイドハーフのクアレスマとジョアン・マリオがサイドバックを担当すると役割が明確になると、ポルトガルの守備が一気に安定した。ただし、フランス側からしても同じことだった。観るべきマークがはっきりするので、フランスの守備の圧力がかなり強まるようになる。
しかし、ポルトガルのビルドアップは、落ち着きを取り戻していた。ゾーンを横断するポジショニングでフランスの守備の基準点を乱し、時間と空間を個々の選手が得ると、フランスの陣地にあっさりと侵入していく。あと一歩でフィニッシュだ!という場面まではいくのだが、そこからさきのフランスの守備は固い。皮肉にもクリスチャーノ・ロナウドの離脱が、ポルトガルに安定をもたらすことになった。もちろん、クリスチャーノ・ロナウドが健康なままピッチにたっていれば、ポルトガルの得点を取る可能性は離脱するよりは高かっただろう。しかし、ルイ・パトリシオの出番が多かったように、守備の安定が試合に与えた影響は大きかった。結果をわけた第二の分岐点がクリスチャーノ・ロナウドの負傷になるだろう。
サイドバックを上げるフランス
前半とは違い、後半のフランスはサイドバックを上げて攻撃を構築するようになる。しかし、役割がはっきりしているポルトガルの守備に対して、有効打とはならなかった。ポルトガルのサイドバックとサイドハーフは、マークを受け渡しながらしっかりとフランスのサイド攻撃に対応する。怪しいのはポルトガルの左サイドで、前半ほどではないがシッソコ無双は後半も続いた。だからこそ、4-3-1-2のポルトガルのときにサイドバックの積極的な攻撃を仕掛けられればと考えると、やるせなくなる。
膠着状態を打破するのは突破のドリブルを相場が決まっている。57分にコマンが登場する。サイドにはっとけ仕事をバイエルンでこなしているコマン。しかし、フランスでは中央への移動も行なう。これまでの試合ではサイドにはっているほうが良いような印象のあるコマンだが、中央でもサイドでもきっちりとチャンスメイクをこなしていた。
コマンのプレーで決定機が生まれていくフランス。最大の決定機は、グリーズマンのヘディングが外れた場面だ。クロスに対しては、ファーサイドにジルーで殴り続ける作戦だったが、この場面では位置関係が逆になっていた。フォンテを動かすジルーにフリーになるグリーズマン。恐らくとっておきのパターンだったんだろうけど、無情にもシュートは枠を外れていった。
フランスのほうがシュートに至る場面は多かったが、後半の大部分を有利にすすめたのはポルトガルだった。得意のボール保持からの攻撃で時間を潰していった。時間を稼ぐというよりは無理をしない。相手が守備の穴をあける、前に奪いに来るまでは、ゆったりとボールを回していた、延長戦も歓迎だろうし、ルイ・パトリシオを使ったビルドアップによって、自陣ではボールを奪われない自信があったのだろう。前半の混乱が少し懐かしくなる。フランスが前に出てくれば、サイドバックを上げてしっかりと攻撃に枚数をかけるのだから、不思議なチームである。ウィリアム・カウバーリョが2トップの横でプレーするのは、クロースのリスペクトのように見えた。アンカーだけど、ポジショニングは移り変わるポルトガルらしい好例だと思う。
途中交代で出場したジニャックはヒーローになりそこねた。エデルはイエローをもらったユムティティを狙い撃ちにし、ポルトガルに足りなかったパワーを是線にもたらしたところで、90分は終わりを告げる。両者の完成度に違いがあったとすれば、相手がボールを保持しているときの形だろう。フランスは4-4-0-2のようになるが、ポルトガルは10人でしっかりと距離を保っていた。ポルトガルがボールを保持できた理由は、こんなところにもある。ただし、物量的にボールを奪うには枚数が足りないので、フランスが4-3-3をやらないかなと期待していたが、デシャンは動かなかった。
エデルの重さ
センターバックとセンターフォワードには、重さが必要だと聞いたことがある。よって、フランスはラミを起用していたが、途中からユムティティに代わっている。ラミよりは軽いユムティティだが、左利きでビルドアップに貢献できるのが特徴だ。ただし、勝負パスをほとんどしないので、異様に成功率の高いパスという一面も持っている。相手がドイツのときは重い選手がいなかったので、ユムティティの軽さが目立つことはなかった。
そんなユムティティの軽さを狙い撃ちにするかのように登場したエデル。大会を通じて存在していたことさえ忘れられていたエデルは、決勝戦で抜群の強さを見せる。ファウルでしかエデルを止められないユムティティ。そのフリーキックからペペの強襲と嫌な予感が漂い始める。また、フランスの攻撃も停滞感がましていくなかで、デシャンは動かない。
延長後半のデシャンの手はカンテの投入だった。得点が必要なのに守備的な選手を投入することは難しい決断といえる。しかし、明らかに攻撃参加したがっていたマテュイディ、ポグバを解き放つためには、カンテは絶好の手だった。中央のグリーズマンもまるで機能しないとなると、サイドに配置換えも理にかなっている。3トップでの死なばもろともプレッシングなら、ポルトガルのビルドアップを防げるかもしれない。
デシャンがその策をする前に、エデルのシュートが炸裂する。コシェルニーを吹き飛ばし、ミドルシュートを放つ。ユムティティのカバーリングの位置が、、となりそうだが、あの位置からのシュートはロリスに任せると判断ても間違っていない。思ったよりも強烈なシュートはロリスを持ってしても防ぐことはできなかった。
それでもカンテを入れて欲しかったのだけど、さすがにマーシャルが登場する。マーシャルとコマンでサイドから殴ることも可能性を感じさせたが、延長になってからのフランスの決定機は印象に残っていない。ポルトガルはセットプレーからのペペ、フリーキックをラファエル・ゲレイロ、エデルのミドルのあとも、カウンターでチャンスを作れそうだった。延長戦の後半という最後の最後で時間を味方につけたポルトガルが優勝し、大会は終わった。
ひとりごと
チャンピオンズ・リーグでは時間を味方につけたアトレチコ・マドリーが破れている。PKだったけれど、延長戦でも違いを見せたのはレアル・マドリーだった。レアル・マドリーとポルトガルに共通することは、ボールを保持することもできるし、相手にボールを渡すこともできるという姿勢だろう。ポルトガルのサッカーをひたすらに守ってカウンターやセットプレーのチームと考えると、不思議なデータが存在する。南アフリカワールドカップの日本がそうだったように、守りに守ってカウンターのチームのパスの成功率は非常に低い。パスの成功率が低いことは当たり前で繋ぐ必要が無いからだ。
しかし、ポルトガルはそれぞれの試合でもパスの成功率は決して低くない。そしてパス数も多い。守りまくってカウンターだけならば、このパスの成功率とパス数は必要がなくなる。後半戦にボールを繋いでフランスを消耗させたように、ポルトガルの強さは様々な状況に対応できる力があったことにあるだろう。かつてのギリシャにボール保持をさせたように、フェルナンド・サントスの考えがはまったことで、優勝という結果にたどり着くことができたのではないかと思う。
コメント
初めまして!
とても面白く素晴らしい内容の記事を、いつも楽しく読ませていただいております。
更新を毎日楽しみにしております。
EUROレポートお疲れ様でした。
期間中毎日の楽しみでした。
これからも楽しみにしております。
ありがとうございました。
ねぎらいのことばありがとうございます。
ぶっちゃけ疲れました(・∀・)
NUMBERでハリルホジッチがポルトガルの戦術はロナウドだけで、スケジュールに恵まれて優勝しただけだとかボロカスでした・・・・。てめえは大きなタイトルなんか獲ったことないくせに、なんでこんな偉そうなのか頭を抱えます。60超えて物凄い重圧の中結果を出したフェルナンドさんとすに対して微塵もリスペクトを見せないのは本当に不快です。
WOWOW解説もですが、総じてポルトガルがなんで優勝したかとか、そもそも興味ないし分析する気もない感じの小遣い稼ぎみたいな人が多い中、無償でここまで一生懸命分析しているあなたは素晴らしい!!
そこまでほめられると、かえっって不気味です(・∀・)
ポルトガルはなかなか興味深かったと思うのですが、世間にはあまり響かなかったようで残念です。