アトレチコ・マドリーの過去と向き合うレスターと、似た者同士でも目にうつしてきた景色の違い【レスター対アトレチコ・マドリー】

マッチレポ1617×チャンピオンズ・リーグ

レスターのスタメンは、シュマイケル、フクス、ベナルアン、モーガン、シンプソン、ドリンクウォーター、ディディ、マフレズ、オルブライトン、岡崎、ヴァーディ。セカンド・レグの会場は、キングパワースタジアム。昨シーズンから始まったおとぎ話が、この試合で終わるのか、もう少しだけ続けることができるのか。おとぎ話がこの試合で終わるとすれば、それはどんな終わり方になるのか。ファースト・レグの結果、内容を受けて、レスターがどのように反抗するのかが非常に楽しみだ。

アトレチコ・マドリーのスタメンは、オブラク、フェリペ・ルイス、サビッチ、ゴティン、ファンフラン、ヒメネス、ガビ、コケ、サウール、グリーズマン、カラスコ。途中でカメラにぬかれたように、フェルナンド・トーレスがベンチにいることはサプライズだった。また、センターバックの印象の強いヒメネスが、セントラルハーフで出場していることも、個人的にはサプライズだった。最近はポリバレントな選手が多い。なお、フェルナンド・トーレスの代わりにフォワードを務めたのはカラスコ。ファースト・レグのリードをどのようにプランに組み込んで、シメオネが試合を計画していくかが、非常に楽しみだ。

違う意味でのミラーゲーム

アトレチコ・マドリーとレスターは、4-4-2を使って大きな結果を残したチームだ。アトレチコ・マドリーはバルセロナ、レアル・マドリーの2強体制に終わりを告げ、チャンピオンズ・リーグでも安定してファイナルラウンドで結果を残してきた。レスターは、プレミアリーグでまさかの優勝を成し遂げている。また、4-4-2でしっかりと守備をする両チームの試合内容が、世界中に大きな影響を与えた。11人によるハードワークという当たり前といえば当たり前の約束事を愚直にこなすことで、大いなる結果を残すことができると、この両チームは証明した。そんな両チームがチャンピオンズ・リーグの舞台で対戦することになるとは、想像していなかった。両チームの差は、結果を残してきた年月の差がそのまま現れる格好となる。レスターよりも長い間、アトレチコ・マドリーは4-4-2と、そして、多くの局面と向き合い続けてきた。

ファースト・レグのレスターは、0-0で終われれば良いというプランがあったのだろう。そのプランは、1列目のプレッシングをほぼ見捨てる形でピッチに現れた。相手陣地でボールを奪うよりも、自陣に人海戦術という壁を築くことで、アトレチコ・マドリーの攻撃を防ごうとした。0-1という最小失点の敗戦は想定の範囲内だろう。また、失点場面もカウンターからのPK献上(しかも誤審の雰囲気)だったので、レスターの作戦は決して間違っていたと断罪されるものではなかった。ただし、その一方で、失点にこそ繋がらなかったが、アトレチコ・マドリーのボール保持攻撃の前に、手も足も出なかったほどの差を見せつけられたことも現実であった。よって、セカンド・レグのレスターは、アトレチコ・マドリーのボール保持攻撃を破壊するために、相手陣地からのプレッシングという策で試合に入った。

相手陣地からのプレッシングに対して、アトレチコ・マドリーはロングボールによるプレッシング回避を狙った。レスターの狙いとしては、アトレチコ・マドリーのビルドアップミスが起きるような状況を起こしたかったはずだ。しかし、アトレチコ・マドリーはボールを蹴っ飛ばした。ファースト・レグでも見られたように、ロングボールで強さを見せるのはレスターのセンターバックたちだ。さらに、アトレチコ・マドリーの最前線にはカラスコという布陣になっている。高さの優位性がなければ、アトレチコ・マドリーのロングボールは効果的とは言えない。シメオネの準備はサイドハーフで起用したサウールを空中戦の的とすること&前線の4枚を中央に絞らせることで、セカンドボール奪取を狙った。そして、セカンドボールを奪えれば、俊英たちによるカウンターを狙うことができる。

2トップと2トップ下のような形で、最前線にボックスを作る。そして、ロングボールでセカンドボール争いを優位にすすめ、さらに陣地回復を同時に行なう方法は、ライプツィヒの得意技となっている。シメオネの狙いもまさにライプツィヒとそっくりであった。最初にレスターの狙いであるビルドアップミスが起きないようにする。だから、ロングボールを蹴って相手陣地でサッカーをする。さらに、ロングボールを跳ね返されることを計算して、セカンドボール拾う隊を用意する。そして、セカンドボールを拾えたら、カウンターとポゼッションを使い分けて、レスターの陣地に侵入していくプランとなっていた。

アトレチコ・マドリーのロングボールを跳ね返しつつ、レスターも攻撃を仕掛けていく。ボールを保持したときにアトレチコ・マドリーが見せた隙をうまくつけていた。その隙は、1.2列目のライン間にスペースができることだった。レアル・マドリーやバイエルンほどではないが、アトレチコ・マドリーもときどき緩さを見せるようになってきている。その隙を見逃さないドリンクウォーター。20分にはシュマイケルを使ったビルドアップから岡崎のフィニッシュまでボールを繋ぐこともできていた。しかし、ボールを保持したレスターの攻撃は単発で、効果的とはいえなかった。攻撃の中心はマフレズと岡崎のライン間ポジショニングになるのだろう。このコンビがポジショニング優位を活かせるかどうかになるのだが、時間がたつにつれてアトレチコ・マドリーに対応されてしまったのが現実だった。

そして、先制点はアトレチコ・マドリー。トランジションの連続からサウールのポストプレー成功がきっかけとなる。フェリペ・ルイスのクロスをサウールがヘディングで決めて、アトレチコ・マドリーが貴重なアウェイゴールを決めた。よって、勝ち抜けのためにレスターは3得点が必要となる。先制したことで、守備の意識が高まったアトレチコ・マドリー。レスターにボールを持たせる姿は、昨年のチャンピオンズ・リーグファイナルを思い起こさせた。先制したレアル・マドリーは、アトレチコ・マドリーにボールを持たせた。相手がボールを保持したときに強さを発揮するアトレチコ・マドリーからすれば、困難な状況に操作されたと言えるだろう。だからこそ、今季のアトレチコ・マドリーは、ボール保持攻撃を磨いてきた。だからこそ、ファースト・レグで似た者同士のレスターの守備を相手にしても効果的な攻撃をすることができていた。

そして、今度はレスターがボールを持たされる番となった。アトレチコ・マドリーが体験してきた困難な作業をレスターも追いかけているようだった。その姿はまるで過去のアトレチコ・マドリーをみているようだった。その試練を与えているのが、アトレチコ・マドリーというのもなかなか趣深いものがある。そんな過去と対面するという意味でのミラーゲームは、アトレチコ・マドリーの思惑通りに試合が進んでいった。前半はスコアが動かずに、ボールを持たされたレスターは、過去のアトレチコ・マドリーに苦戦濃厚だった。しかし、レスターは、アトレチコ・マドリーではない。レスターの過ごしてきた日々は、アトレチコ・マドリーとはまるで異なる。その違いが後半に大きく影響を与えることとなる。

プレミアリーグが教えてくれたこと

後半からレスターは、チルウェル(ベナルアンと交代)とウジョア(岡崎と交代)を登場させる。センターバックだったベナルアンの代役は誰だろうと見ていると、炎の3バックだった。しかも、フクス、モーガン、シンプソン。いわゆる、真ん中は本職のセンターバックだが、両脇はサイドバックだった。なお、チルウェルは左ウイングバック、オルブライトンが右ウイングバックになり、前線はウジョア、バーディ、マフレズとなった。つまり、4-4-2を代名詞としていたレスターは、その代名詞をあっさりと捨てる。後半に3点を入れなければならないというハードルの高さが、思い切った采配を可能とした。

そして、ボールを保持したら何もできないならば、がんがんウジョアにボールを放り込もうぜ作戦となる。アトレチコ・マドリーの2トップに対して、3バックでボールを繋ぐレスター。前線に放り込むだけの時間を作ることはできる。アトレチコ・マドリーからしても、3トップへの変化で同数プレッシングを行なうほどリスクを冒す必要はない。こうして、レスターは思惑通りにプレミアリーグの得意技である空中戦の連続でアトレチコ・マドリーのゴールに迫っていった。アトレチコ・マドリーのセンターバックも屈強で有名だが、プレミアリーグを過ごしてきたレスターのパワープレーもかなりの迫力であった。さらに、フクスのロングスローという飛び道具も相まって、レスターはアトレチコ・マドリーのエリア内で何かを起こせそうな場面を作り続けていった。

ある意味で防戦一方となってきたアトレチコ・マドリー。こぼれ球をフィニッシュまでつながれてしまう場面がたびたび出てくる。さらに、大外でクロスを待つチルウェルにボールが流れていく場面が何度も繰り返された。5トップによる大外を狙ったクロスは、ポゼッション攻撃でも最後の手とされてきた策だ。追い込まれつつあったアトレチコ・マドリーは、ファンフラン→リュカで右サイドバックにサビッチが出てくる。アイシングをしていたことを考えると、ファンフランが負傷した可能性は高い。ただし、相手の空中戦に対して、サイドバックにも高さのある選手を配置できたことは大きいだろう。個人的には5バックにするかと思ったが、シメオネは4バックを変更しない。

しかし、61分にはレスターが同点ゴールを決める。繰り返されたチルウェルへボールがこぼれる場面からの、最後はヴァーディ。盛り上がるキングパワースタジアム。アトレチコ・マドリーにはあるようでなかったプレミアリーグらしいパワープレーをレスターは策として持っていた。また、3-4-3での死なばもろともプレッシングによって、アトレチコ・マドリーはボールを保持することもできなくなっていた。困難な状況のアトレチコ・マドリーの策は、カラスコ→フェルナンド・トーレス。そして、フェリペ・ルイス→コレアだった。コレアの登場でヒメネスがセンターバックに下りて、リュカが左サイドバックに、サウールがセントラルハーフと変更された。

1列目にフェルナンド・トーレスとコレアを配置したことで、ゆるくなりがちだった1列目のプレッシングを補強する。交代で登場したコンビは、相手の3バックに迷いなく襲いかかった。そして、4バックが4センターバックになり、サウールとガビが固めるセントラルハーフコンビも空中戦仕様となっていく。シメオネの策は空中戦の優位性を確保しながら、空中戦の起点を潰しにかかった。この采配によって、レスターの放り込み機会は減らされてしまう。また、サイドハーフに入ったグリーズマンとコケがボール保持の意思をときおり見せるようになる。つまり、試合の流れをゆっくりと取り戻しにかかる。残りの15分は両チームが生き様をみせつけた。レスターはスクランブルアタックで勝機を狙い、アトレチコ・マドリーは優位性を確保しながらもボール保持とカウンターを最後まで忘れなかった。そんな両チームの姿勢にスコアが動くことはなく、試合は1-1のまま、終了する。似た者同士のようで、目にうつしてきた景色の違う両チームの戦いは、アトレチコ・マドリーの勝利で終わった。

ひとりごと

後半のレスターの猛反撃は、面白かった。アトレチコ・マドリーもあっけにとられたようだった。ここまで割り切るのかと。さすがに前半からやるのは難しかったのだろう。レスターの劇的な変化にさすがのアトレチコ・マドリーも対応に苦戦した印象だ。それでも、4-4-2で対応しきるシメオネは流石だったけれど。それにしても、グリーズマンの髪型がフォルランにしか見えない。

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