はじめに
バイエルン×フリックの試合は何度も見ていたはずだった。でも、あんまり記憶に残っていない。こういうときのためにフリック分析でも書いておけばよかった。後の祭りである。
その後のフリックとの再会は日本対ドイツであった。あの前半戦はなかなかの衝撃とともに、フリックすげーなと改めて感じさせられた試合であった。
再録になるが、自分はボール保持の原則を知りたがる修正があるので、そんな角度からバルセロナを追っていこうと思ったのと、「ハイライン」について思いを馳せたくなった。
でも、現実は甘くない、そんな試合であった。
バルセロナとハイライン
最初に良い画角の試合であったことはお伝えしたい。
欧州のほうがサッカー文化があるので、試合映像を俯瞰で見られる場合がある風潮を否定するつもりはない。特にリーガは俯瞰なイメージがある。欧州でもときどきは画角が狭いこともある。ケース・バイ・ケースなのか、画角にこだわりがないのかは闇の中である。
両チームともにボールを保持しようとするなかで、両チームともにハイプレの構図となった。
バルセロナはヤマルとラッシュフォードの両ウイングコンビがしゃかりきに相手の3バックにプレッシングをかけ、相手のウイングバックにバルデたちがスプリントするJリーグでもおなじみの形である。
セルタが3バックだったこともあって、レヴァンドフスキが相手の中盤を背中で消して、みたいなニュアンスはあまり感じなかった。相手のビルドアップ隊の配置で、プレッシングルールを微調整しているのかもしれない。
Jリーグでもおなじみの景色になっている、相手のウイングバックに味方のサイドバックが根性でプレッシングをかける形は、サイドバックからするとなかなか辛いものがある。最初から相手のウイングバックのマークに付けば、前線にロングボールが飛んでくる原則にさらされてしまう。だから最初の立ち位置はどうしても後ろ目になり、スプリントする距離は長くなる因果となる。
ラッシュフォードのプレッシングがあまい、ゆるい、遅いのは事実かもしれない。実際にヤマルのほうが熱心にやっている。でも、ヤマルサイドからも普通に崩されることは多い。結局のところ、ヤマルの熱心で解決できるほどではない問題をバルセロナは抱えている。たぶん、ラッシュフォードが熱心になっても状況はそんなに変わらない。
この最初のプレッシング問題をかつてのリヴァプールの「早さ」ではなく「速さ」で解決することも一興だろう。ラフィーニャのほうがさらに熱心にプレッシングにいってくれるかもしれない。
そんなことよりも、バルデたちがもっと高い位置をとり、相手のサイドバックやウイングバックのプレッシング仕事を容易にこなせるようにする必要がある。そのためにこのしあいでは途中からフレンキー・デ・ヨングがリベロのように、3バックの中央で振る舞っていた。もしかしたら、最初からその計画だったかもしれないけれども。
プレッシングのかけあいのなかで、どちらに分があるといえばバルセロナ。特に左サイドは個で無理が効くメンツが揃っているのと、ヤマルサイドは明らかに警戒レベルが高いこともあいまっている。
前を向ければ、内側にボールを運ぶことができるバルデと、相手を背負えるラッシュフォードのコンビの相性はよく、レヴァンドフスキもときどきポストプレーで活躍していた。セルタは無理が効く部分がわかりにくく、バルセロナのハイラインをどのように攻略するかで優位性を引っ張れるか?となった。
レヴァンドフスキがPKを決めると、セルタがハイラインの攻略に成功して同点に追いつく。バルセロナのハイラインの最大の特徴はその状況でラインを下げないんだ!という定跡の逆をいっていることだろう。センターラインを最終ラインに設定し、相手が裏を狙うときもラインを下げないどころか、上げるので狂気である。
定跡の反対は相手を苦しめる奇襲になるが、さすがに奇襲も毎日やっていれば奇襲ではなくなる。セルタはワンツーアタック、自陣から長い助走で相手の裏に飛び出す、オフサイドラインを見通すことができる逆サイドへのサイドチェンジ、最初からオフサイドの位置において、フィニッシャーとして振る舞わせるの合せ技であった。バルセロナのハイラインの攻略手段は実際にこんなところだろう。
ボールを持たれているから悪いんだ!ともなるが、ボールを持たれないなんてことはあまりないので、ラインを下げたほうが良さげ。フレンキー・デ・ヨングがラインを下げまくっていた面白かった。たぶん、勝手にやっていたのだろう。
アラウホとクバルシを見ていると、アラウホのほうが高いラインに忠実。クバルシのほうが少し下げる傾向にある。チームとしてはアラウホが正しくて、現実をみればクバルシのほうが正しい。このあたりの差異はチームの修正点としてトレーニングが積み重ねられるだろう。なお、バルデも残り気味になる傾向があるが、走って追いつく自信があるからかもしれない。
ここから過去の試合を遡っていく予定なんだけど、バルセロナのハイライン問題は、ラインをあげるタイミングがバレていることが一番の問題という仮説であった。
バルセロナのボール保持原則
ビッククラブには純粋なCFがあまりいない!と主張したことがある。
ハリー・ケインもレヴァンドフスキも、CF仕事以外も好んでやっているやんけ!彼らはもはや純粋なCFもではないと言ったことがある。
バルセロナのレヴァンドフスキも動き回る印象が強かった。ラフィーニャが内側にはいり、バルデが大外担当になるなかで、中央の3レーンの選手が立ち位置と役割を交換しながら相手のゴールに迫っていくことにフリックが面白いことをするなと昨年は思っていた。
そして、この試合である。
大外にヤマルとラッシュフォード。レヴァンドフスキは純粋なCF。インサイドハーフにダニ・オルモとフェルミンと随分とオーソドックスなサッカーになっていた。
なお、サイドバックコンビは後方支援からの攻撃参加がメインで、昨年のコンパニ×バイエルンみたいな印象を持った。いつの間にかマイナーチェンジしたのか、この試合だけなのかは、今後に探っていきたい。
というわけで、オーソドックスなバルセロナの配置を見ていくと、ラッシュフォードが地味に効いている。バルデのサポートを得ることで、ペナ角あたりから縦突破やカットインからのクロスがアシストに繋がることが多いのだ。ついでに、コーナーキックも蹴っているのだから素敵である。
右サイドはヤマルへのダブルチームにフェルミンとエリック・ガルシアの常時サポートを添えている。特にダブルチームに裏にフェルミンが走る形は何度も繰り返していた。ゴール前でボールを持ったときに期待感はヤマルが一番高いことは間違いなかった。流石である。
ただ、個人的な期待とは裏腹に定跡通りのバルセロナに少しびっくり。ただし、ボール保持の安定で守備の機会を減らそうぜには間違いなく繋がっていた。特に後半のボール保持の安定感によるハイラインの裏を相手に狙わせる機会を減らそう作戦は完璧にはまっていた。この狙いを成立させた背景にはセルタの事情もありそうだけど。
対ビルドアップとミドルブロックのグラデーション問題
前半戦は殴り合いの様相の試合だったけれど、後半はセルタが撤退守備で耐え忍ぶ展開となった。攻撃的な選手の投入でどげんかしようと企んだけれど、どげんかすることはできなかった。
セルタは【3412】でバルセロナのビルドアップにマンマークで対抗。前述のようにバルデとラッシュフォードに苦戦していたけれど、マンマークのハイプレにバルサも嫌がっている様相ではあった。
問題はミドルブロックで構えたときのセルタは【541】であった。バルセロナのボール保持に対抗するには当然の流れである。
しかし、【3412】と【541】は思いっきり配置が異なっている。つまり、この場面はハイプレ、この場面はミドブロの意思統一が測れないと、プレッシングが全く機能しない展開となる。だったら、前で追いかけ回すよりも、後方で構えたほうが良くない?となるのがサッカー選手の定めとなっている。適当にプレッシングをかけてもボールを奪える、なんてことはないし、相手の攻撃を加速させるだけだからさ。
さらに、ヨーロッパリーグに参加しているセルタ。バルセロナよりも過密日程。となれば、後半に少し走れなくなることも当然の流れ。そういう意味でも前半終了間際のラッシュフォードの仕掛けを出発点とするヤマルのゴールはとても大きかった。
後半のバルセロナが優勢に試合を進めた背景にはそんなところもあるのではないかと。セルタのビルドアップで面白かったことは、配置の歪みを利用すること、ゴールキックでは後ろを重たくして、中盤に空洞を作ること、超ロングキックでイグレシアスで優位性を持ってくることだろうか。
ひとりごと
マンマークからのゾーンの移行って難しいよねって話。対ビルドアップから対相手のボール保持への変換のルールが違いすぎるときに、どっちを取るかみたいな話。
ハイラインの問題解決がボール保持による守備になっていくとバルセロナらしい。そして、ラッシュフォードが妙に得点に絡むのが面白い。
フレンキー・デ・ヨングが王様のようだった。でも、守備でさらされると流石に大変そうだった。

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