ユルゲン・クロップ、トーマス・トゥヘルと良い監督を連続して招くことができているドルトムントです。ちなみに、クロップ、トゥヘルともに前所属はマインツになります。トゥヘルは無所属機関を挟んでいますが、基本的にはマインツの監督を引っ張ってきたと表現しても、問題は無いと思います。ドルトムントが良い監督を見つけてくるというよりがは、マインツがどのように彼らを発掘してきたか、または彼らに監督を任せてみようかと考えたのかは興味がありますが、そんな情報はあまり転がっていません。
前節にバイエルンに大差で負けてしまったドルトムント。A代表ウィークを挟んでのマインツ戦。シュメルツァーが怪我のため、懐かしのパク・チュホがスタメンに抜擢されています。アジア予選をともに戦った武藤、香川は共にスタメンです。良い監督を連れて来ているマインツの今の監督は、マルティン・シュミット。ブンデスリーガで流行りのスイス国籍です。レーヴがスイスでライセンスを取得したことと、この流行には繋がりがあるかもしれません。
そんなマルティン・シュミットのドルトムント対策を見ていきます。ちなみに、レバークーゼンの監督はロジャー・シュミットです。
■左右不均等でサイド攻撃を壊すマインツ
ドルトムントのシステムは4-1-4-1。相手陣地からプレッシングをかけるときは、4-4-2に変化します。自陣で守備をするときは、4-1-4-1。
マインツのシステムは4-2-3-1。相手陣地からプレッシングをかけるときは、4-4-2に変化します。そして、自陣で守備をするときは4-1-4-1に変化します。マリがヴァイグル番をします。
立ち上がりのドルトムントは、その変換が上手くいきませんでした。相手のバウムガルトリンガーたちに香川とギュンドアンがマンマークのように対応したり、1列目の2枚のプレッシングに対して、2列目が連動できずに、1列目と2列目の間のエリアをあっさりと相手に渡してしまっていました。
マインツの狙いとしては、ヴァイグル周りのスペースを狙う動きが多く見られました。4-1-4-1崩しとして定石です。特に、ドルトムントは香川とギュンドアンがインサイドハーフで起用されています。両者ともに攻撃に長所を持っています。また、香川は4-4-2への変換役割もありますので、この変換にかかる時間は守備が整備されていない状況と定義できます。もちろん、ボールが外に出ているときに変換するのが基本なので、その整備されてない状況はあまり見られないはずなのですが、久々の試合ということもあって、イレギュラーなことが起こる序盤戦となりました。
マインツとしては、ドルトムントのインサイドハーフが前に出てきたら、ヴァイグルの周りのエリアを使う。インサイドハーフが前に出てこなかったら、ビルドアップ隊が落ち着いてプレーすることができる。その場合はサイドから攻撃を組み立てることで、次はロイス、ムヒタリアンが起用されているサイドハーフを牽制します。
ロイスとムヒタリアンのポジションニングを下げることができれば、ドルトムントのカウンターの威力は半減します。そのためには、サイドバックが高いエリアに行く必要があります。そのためには、後方でのポゼッションが安定する必要があります。ドルトムントのインサイドハーフが出てきたら、ヴァイグル周りを使うという意志を見せることで、ドルトムントは非常に困った展開となりました。インサイドハーフが前に出てこなくなれば、後方のポゼッションは安定します。そして、マインツのサイドハーフが相手の四角形にポジショニングするようになると、ムヒタリアンたちはパスコースを消すために中央に絞ります。こうして、サイドバックへのパスラインを確保してマインツはサイドからの攻撃を成り立たせます。
バイエルン戦では徹底的にフンメルスの裏に放り込まれて瓦解してしまったドルトムントですが、守備面では他にも粗が目立っています。プレッシング開始ラインをどこにするか、サイドハーフのカバーリングを誰が行うか、全体の距離をどれくらいに保つのかなどなど。よって、条件が整うと、ヴァイグル周りのスペースが空になる。香川、ギュンドアンの前のスペース(1列目と2列目の間のエリアを相手に支配される)を使われるの悪循環に陥ります。マインツが選んだのは裏ではなく、このような空間を狙った攻撃でした。よって、時には密集することもあるマインツの攻撃でしたが、教科書に載りそうな攻撃を仕掛けることで、ドルトムントのゴールに論理的に迫っていきました。
こういった問題を隠すために、トゥヘルはボールを支配することを重視しています。ボールを保持することで、相手の攻撃機会を削りましょうという考え方によるものです。ギュンドアンと香川がビルドアップで助けにくるのも、ポゼッションを安定させるための方法になります。もしも、香川がトップ下で起用されているなら、相手の2列目と3列目の間のエリアをうろちょろしたり、中央にいる場面が多くなると思います。しかし、現状は左サイドよりでプレーしていることが多いです。香川が中央に移動するのは、4-4-2変換からのトランジション、相手を完全に押し込んだときくらいになっているのが現状です。
つまり、ドルトムントにボールを持たれたら、マインツは自分たちが準備してきた攻撃を出せなくなってしまいます。ではドルトムントのビルドアップに対してどのように対応するか。
マインツは4-4-2で決死のプレッシングを見せます。相手がロングボールを蹴っ飛ばすのは問題なしです。レヴァンドフスキはもういません。ビュルキもめちゃくちゃ繋げるというわけではありませんので、フンメルスたちはバックパスを多用しません。よって、前からプレッシングをかけることに意味が出てきます。
マインツはヴァイグル経由でボールを前進させたいですが、マインツの2列目の守備は連動してきます。ボールに近いエリアはマンマーク気味に対応することが見られる昨今ですが、マインツもその流れにのっています。ボール保持者の近くの選択肢を削ることで、遠くの選択肢(そもそも遠くまで認知できるかどうかはそのボール保持者次第)を強います。さらにプレッシングをかけていけば、思考の時間も削ることができるので、一石二鳥といったところでしょうか。
しかし、香川とギュンドアンまで落ちてくると、マインツの枚数も足りなくなります。香川たちにまでついていったら、今度はロイスたちへのパスラインができてしまうかもしれません。そんなマンマークの弱点は織り込み済みのようで、マインツはドルトムントのサイドバックへのパスラインは捨て気味で守っていました。ただし、ギュンドアンにはサイドハーフが香川にはバウムガルトリンガー(セントラルハーフ)の選手が対応しているのがキーとなります。
香川やギュンドアンにサイドハーフが対応する作戦は、かつての対戦相手にも見られました。香川とギュンドアンを経由させない、中央を密集することで、中央に移動するロイスたちへのパスラインを分断し、ドルトムントの攻撃をサイド経由にすることが狙いの守り方です。マインツでユニークだったのは、ギンターへのパスラインが確保されていて、パク・チュホのパスラインは確保されていなかったことです。ドルトムントの攻撃のひとつに大外からのクロスに大外の選手があわせるというものがあります。この動きによって、ギンターが得点に絡みことが非常に増えています。
つまり、左サイドからボールを運ばれてしまうと、ギンターはフィニッシュに絡める状況になります。しかし、右サイドからボールを運ばせれば、ギンターはクロスを上げる役割でクロスの的になることはできません。そして、左サイドバックはパク・チュホです。シュメルツァーに比べれば、攻撃能力で落ちるのは言うまでもありません。さらに、クロスの的になれるかと言われると、非常に微妙です。実際にパク・チュホは守備を重視したポジショニングをしていました。よって、ギンターサイドで仕事をしても大外に人がいません。こうして、中央閉塞とサイド攻撃対策を見事に両立させたマインツでした。
あとは得点を取るだけです。マインツは決定機を作っていきますが、なかなか得点が生まれません。武藤は献身的な動きで多彩な役割をこなしていました。恐らくスタメンを奪われることはないでしょうけど、岡崎のように得点を決められないと、いつの日かという展開になるのかならないのか。どのみち、得点を決められないとステップアップは不可能ですので、頑張ってもらいたいです。自分たちの流れのときに得点を決められないと、試合の流れは変化していきます。このレベルだと、相手が修正してしまうからです。
ドルトムントは守備で割り切るようになっていきます。ボールが外に出ないかぎり、変換作業はせずに4-4-2のままプレーしよう。しかし、これではボックス(センターバックとセントラルハーフ)でビルドアップするマインツに苦戦します。2人の間をパスで通されたり。そしてまたまた修正していきます。オーバメヤンと香川の距離を近づけて縦関係になったり。マインツのように2列目が連動したり、ウイングの選手がサイドバックへのパスコースをきりながら加勢したりすることで、ドルトムントはゆっくりと自分たちの守備を機能させていきます。
守備が機能してきた、つまり、相手の選択肢を削れるようになってきたことで、ドルトムントの後方の選手の守備の勢いも増していきます。パスコースがひとつしかなければ、思い切ってパスカットを狙えるように。こうして、ドルトムントはボールを奪ってのカウンターが増えていきます。いつもの形とは少し違いますが、現実にあわせて変化していったことは賞賛されるべきでしょう。逆にマインツはゆっくりとボールを運べなくなるようになり、確実性のある攻撃はゆっくりと姿を消していきました。
この試合はドルトムントが2-0で勝利した試合なのですが、得点場面は少しの切なさが残るものでした。守備に追い込まれたというのもありますが、どちらかというと、マインツの軽率なビルドアップミス。トゥヘル時代もこのようなミスで敗戦することがあったので、懐かしいといえば懐かしいのですが。ロイスが後半に得たPKを外し、いつもの型を出せなかったという意味ではネガティブなドルトムントでしたが、相手のミスを見逃さずに、大敗のあとに勝利したことは大きいと思います。ただし、ドルトムント対策が目の前に観えるようになってきているので、これからがトゥヘルの腕の見せどころといえそうです。
■気になった選手
パク・チュホ。水戸、鹿島、ジュビロ、バーゼル、マインツを経由してドルトムントです。大出世。トゥヘルの元でプレーしていたこともあると思うので、監督のリクエストによるドルトムント加入だと予想されます。しかし、この試合では大ブレーキ。攻撃の起点になれず、前半には相手にパスをしてしまうなど、ピンチも招いています。ライバルはシュメルツァー。あと、最近はみないドゥルム。Jリーグ出身選手として頑張ってもらいたいです。
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