はじめに
FIFA Club World Cup 2025でも、圧倒的な強さを見せたPSG。しかし、決勝戦で「いつもと違う表情」を見せるチェルシーに敗れてしまう。それでも人生は、続く。今回の相手はスパーズ。リーグ戦では絶不調だったものの、ヨーロッパリーグの優勝という、大博打に勝利。
チャンピオンズリーグに参加するのなら、シーズンが開幕する前に欧州最強と触れ合っておきたい。ちょうどチェルシーと似たような境遇というと怒られそうだが、昨年はチャンピオンズリーグに参加していなかったチェルシーとスパーズにとって、PSGとの公式戦は有意義になりそうである。それだけ昨年のPSGの衝撃はえげつなかった。
相手陣地でのマンマークはスタンダードになりえるか
【442】のハイプレッシングで世界で行われていますか?
そんな問いを受けて、少し考えてみた。実際に眺めてみると、【442】というよりは、【424】のようだ。CFもCBを見るというよりは、相手の中盤を背中で消すことを優先しているように見える。相手のCBは放置したり、ウイングやシャドーの外切りがスタンダードになってきている気がしている。
PSGとスパーズの振る舞いは、いわゆるマンマークだった。デンベレがキーパーまで追いかけ続ける姿勢は、この試合でも健在。ボール保持マイスターのルイス・エンリケが、マンマークを実行するところは興味深い。自分が一番やられたら嫌なことを相手に実践しているようで。
スパーズの振る舞いも同じ。ヴィティーニャにマンマークは言うまでもなく。守備の基準点の交換もなるべく行わないスタイルは、ガスペリーニのスタイルを彷彿とさせた。このスタイルだとウイングバック対サイドバックのスライド対決が、起こることになる。つまり、めっちゃ走るウイングバックとなると、僕は攻撃で長所を発揮したいんです!という選手の居場所はサイドではなくなるかもしれない。
同数なら蹴っ飛ばす。
サッカーの原則のようだけど、どこも同じようなことをやってきている感はある。そうなると、選手の質で勝負が決してしまう。ボール保持が弱者の逆転手段とするならば、蹴っ飛ばしている場合では、ない。
スパーズサイドでロングボールで強さを見せていた選手はリシャルソン。同郷のマルキーニョスに勝ちまくっていた。逆にPSGは蹴っ飛ばしても良いことはない。ゴールキックを蹴っ飛ばすことが目立っていたけど、競り勝てる選手がいるわけでもない。しかも、相手はプレミアリーグで空中戦に慣れていそうとなると、話はさらに辛くなる。
しかし、ハイプレッシングが永遠に続くことなく、撤退からのゾーンディフェンスに移行も現在のスタンダードになってきている。問題はマンマークからのゾーンディフェンスへの移行。時間の経過とともに、PSGがボールを保持するようになる未来は、両チームともに見えていたに違いない。
マンマークからのゾーンディフェンスへの移行のタイミングは?
ミドルプレッシングからのハイプレッシングへの移行は、現代サッカーのスタンダードになってきている。全部、シメオネのせいだ。プレッシングの強度にグラデーションをつけることで、試合のペースを変化させることはプレッシングチームの、かつては必修だった。
相手に前進させない目的→マンマークによるビルドアップの目的地を消す
相手に崩させない→ゾーンディフェンスによって、ライン間や中央3レーンの封鎖
と、変化することは、ガスペリーニでも行っている、はずだ。さらに、ゴールを守るにフェーズが移行すれば、相手を守るよりもゴールを守ることを優先にしなければならない。
この試合ではヴィティーニャとデートをしていたサールが獅子奮迅の活躍。ヴィティーニャを消しながら、PSGがボールを持つ雰囲気になると、3センターの中央でベンタンクールたちを解放していた。
スパーズは、【532】で守り、【32】で囲まれた五角形の面積は小さく設定されていた。PSGはサイドからのボール循環を余儀なくされ、バルコラは意地を見せていたが、右サイドのクヴァは、少し元気がなさげ。ただし、サイドに誘導されている時点で、ベンタンクールたちとウイングバックと、いざとなったら、センターバックもヘルプに来てサイドを固められるとちょっとどうしようもない。
その他で気になった点は、相変わらずプレーの再開でのハイプレッシング実行は嫌がらせとして機能している。2大会前くらいのユーロから流行っている印象だ。相手陣地でのスローインやゴールキックで、突然にハイプレを実行するやつである。当たり前すぎて書く必要もないかもしれないけれど。
大外アタックとゾーンディフェンスの相性とは
PSGのセットプレーの守備は、完全にゾーンで行われている。よって、相手は大外からの奇襲を狙う。大外でボールに合わせる選手がフリーになるように、相手をブロックすることは朝飯前だ。特にPSG対策として、高さ勝負を申し込むチームは、チャンピオンズリーグにおいて増えてくるかもしれない。
結果として、セットプレー2発で2ゴールを奪うのだから、スパーズは計画通りに試合を進めることができた。特に2点目はセットプレーコーチがいるなら、大喜び間違いなし!なくらいに計画通りに物事が進んでいる。この試合ではロングスローも非常に多かった。
昨年はアーセナルのセットプレーがきっかけに、新作を披露するチームが増えていった。今年も色々な新作に出会えることを楽しみにしている。それにしても、大外からの折り返しはまじでうざい。大外に最も競り合いの強い選手を配置するわけにも守備側はいかないルールを逆用している。
9番は必要なのか、否か
ベンフィカ時代から観ていたので、ゴンサロ・ラモスには期待している。でも、昨年は怪我で欠場の日々が続いてしまった。その日々のなかで、デンベレのゼロトップが発明されている。何がチームを強くするかはわからないもの。
純粋な9番の定義は、難しいのだけどハーランドとする。なお、2トップは除外する。昨年のチャンピオンズリーグの勝ち上がりチームを観ていると、純粋な9番としてのタスクを実行している選手は意外と少ない。
ケインやレヴァンドフスキは、今やなんでもできる選手になっている。インテルは2トップなので、ずるい。あの二人なら独立して9番としてもやっていけそうなのだけど。
フィルミーノ時代から純粋な9番に別れを告げたようなリヴァプールは、今季には番の補強に勤しんでいる。アーセナルを見ると、カイハヴァーツが9番かと言われると色々な話がでてきそうだ。でも、ギケレシュを補強している。というわけで、9番が必要なの!という流れになってきていることは間違いない。
2点差がついたことで、PSGのボール保持に押し込まれてもネガティブな雰囲気はないスパーズ。でも、やる気満々の選手が登場すると、段々と怪しげな展開へ。戸田解説員の言う通り、ファビアン・ルイスは裏への飛び出しで違いを見せ、サイドに移動したドゥエは強さを発揮し、エンバィエはとにかく仕掛け、イガンインはブロックの外で何度もボールを動かしていた。
そして最終手段が9番の登場だった。9番の登場でデンベレが右サイドになる。この試合でどのエリアでも最もクオリティを発揮していたデンベレ。中央よりはサイドのほうがボールを受けやすいことはスパーズの守備の設計からも自明だった。
9番の登場とともに、クロス合戦を行うPSG。しかも、無理矢理にクロスをあげないところがにくい。何度もボールを左右に動かし、少しでもゴールに近い位置からクロスを上げることを目指していた。そのこぼれ球をイガンインがミドルで決め、最後はデンベレのクロスをゴンサロ・ラモスが決めて追いつくのだから流石である。
ひとりごと
・マンマークに対して、ビルドアップはどうふるまうの?
・ハイプレやプレーの再開でマンマークを実行するとして、フェーズの変更のタイミングはどうするの?
・セットプレーの守備と大外アタックはどのような結末を迎えるのか
・9番の命運やいかに
こんなところに注目して、今季は欧州サッカーを観ていく予定であります。
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