リーガエスパニョーラといえば、レアル・マドリーとバルセロナの2強ならぬ、2超時代が続いていました。しかし、シメオネ率いるアトレチコ・マドリードが2超への乱入に成功します。そして、今季は首位にビジャレアル、3位にセルタが位置する状況になっています。もちろん、レアル・マドリー、バルセロナ、アトレチコ・マドリードの三国時代が終わったなどど言うつもりはありません。彼らの出遅れ(要因はチームによって様々)とあいまって、スタートダッシュに成功したビジャレアルとセルタ(両チームともに内容の評価も高い)という構図が現状を表しています。
そんな両チームの試し合いを見ていきます。
■ビジャレアルのペースが崩れていった要因
ビジャレアルは4-4-2。マルセリーノ監督に率いられたビジャレアルはあらゆる状況に対応できることをチームカラーとしています。相手にボールを保持されても、自分たちがボールを保持しても、困ることはありません。前線に配置されたスペシャルなソルダードとレオも守備をサボることは基本的にありません。バルセロナにボールを持たせ、マンマークで徹底的に苦しめたセルタ。そんなセルタに対して、ビジャレアルはセルタにボールを持たせて、4-4-2のゾーン・ディフェンスで勝負を挑むという局面を増やすことで試合に臨みました。
セルタの中盤はアウグストがアンカー。ビジャレアルの2トップの間にポジショニングします。ヴァスは相手のFWとSHの間や、サイドバックの上がったスペースにポジショニングすることが多かったです。パブロ・エルナンデス(スペイン国籍のパブロ・エルナンデスはUAEにいるはず)は相手の四角形(相手のセンターバック、サイドバック、サイドハーフ、ボランチを頂点とする)の真ん中に位置するか、オレジャナとポジションチェンジする役割でした。
4-4-2対4-3-3の試合では2トップの間にポジショニングする選手(今日の試合ではアウグスト)をどのように抑えるかを準備する必要があります。ビジャレアルは2列目のラインを高めに設定することで、相手の4列で構成される攻撃を3列で抑える狙いを見せました。平たく言えば、1列目のプレッシングに対して、2列目が見殺しにしないで連動する。また、ビジャレアルのプレッシングは、センターバックへのバックパスに対してスイッチが入り、セルタがキーパーに戻してもそのまま寄せ切る場面が見られました。アウグスト対策でビジャレアルが準備した対策のもうひとつが、1列目の執拗な守備によって、相手に思考の時間を与えずに、ロングボールを蹴らせるものでした。確かにセルタの前線トリオは高さでは不安が残るので、論理的な計算だったと思います。
ビジャレアルのボールを保持した攻撃は、相手の守備が安定しているとき、安定しないときで変わります。安定しないときはフリーな選手を使いながらボールを前進させていきます。相手の守備が安定しているとき、つまり、セルタの選手がマンマークで数的同数エリアが発生しているときのビジャレアルの攻撃はレオ、ソルダードへの放り込みがメインでした。中央ではアウグストの守備参加によって数的同数でなくなってしまうので、レオとソルダードは中央エリアに固執しないポジショニングを見せます。
もしも、すべてのエリアで数的同数だったらどこで勝負をすべきか。この問の答えは2つあります。もっとも自陣から遠いエリアで勝負する(ボールを失っても危機にならない)と、勝てる可能性の高い数的同数で勝負するです。つまり、ビジャレアルはその両方を満たすエリアを自分たちでつくり、セルタのマンマークに対抗します。バルセロナがビルドアップの局面で相手にボールを奪われてカウンターをくらうような状況を避けるという意味でも、ビジャレアルの攻撃はボディブローのようにきいていきます。
攻守において自分たちの狙いを機能させたビジャレアルは、得点という結果が出てもおかしくはありませんでした。しかし、サッカーはロースコアーのスポーツであり、論理的であるからこそ結果がでるスポーツでもありません。セルタはボールを保持しながらしぶとく耐えていきます。
そして前半の残り時間が減ってきたころに、セルタはビジャレアルの隙を見つけていきます。前述のように1列目の守備から1列目への放り込みと、ビジャレアルの狙いを機能させるためには前線の多大な貢献が必要となります。さすがにバテます。では、バテたときにどのように対応するかを準備することが大切になります。ボールを保持するチームは最初に支配を狙うエリアは2トップの脇のエリアと、1列目と2列目の間のエリアになります。前線が疲れてきたことで、プレッシング開始ラインの暴走が起きます。もしかしたら、ビジャレアルとしては、残り時間が少なくなってきたら4-4で耐えることとなっていたのかもしれません。
1列目が機能しないとすれば、中央閉塞で耐え忍ぶのが定跡です。しかし、ビジャレアルはサイドハーフが微妙にサイドを捨てない。つまり、密集してポジショニングができなければ、選手の間をボールを通過していくことになります。それはほんの一瞬の隙でしたが、曖昧なポジショニングを繰り返していたオレジャナが相手の2列目と3列目の間でボールを受け、綺麗な先制点を決めます。その後の前半の残り時間はわずかでしたが、セルタは決定機を作ります。ビジャレアルは3列での守備が崩れたときにどのように振る舞うかでほんのわずかな失敗をし、それが失点に繋がるという前半になってしまいました。
■システムをめくるめく
負けている状況だと、前線の選手が下がって守備をすることは必要なのか不必要なのかと考えると、永遠につづく禅問答となります。ビジャレアルは4-4の形を中央閉塞に意思統一し、レオとソルダードにカウンターを任せる意思統一をして、後半に臨みました。その狙いはセルタを苦しめる雰囲気を出していましたが、47分にエリックが退場。なんだそのハンドは。
ビジャレアルはスアレスとルカビナを投入し、4-3-2に変更します。前線に2枚を残したのがキーです。恐らく1枚残しだったら、セルタに総攻撃をくらったでしょう。相手のセンターバック2枚に対して、前線に2枚残されるのはやはり嫌なものです。しかし、4-3で守る守備に対して、ボールを保持することは難しくありません。セルタはボールを保持しながら落ち着いて追加点を狙い続けます。そのボール保持は圧倒的なものがあり、さすがに4-3で守るのは苦しいとマルセリーノも考えたのでしょう。
レオ→バカンプが登場します。まだ元気なバカンプは4-3の前で守備をします。せめてサイドチェンジをさせないように。4-3-1-1で守備をするようになって多少の安定感はでたビジャレアル。それでも、セルタが決定機を外してくれるおかげで何とか試合の緊張感をもたせ続けます。
相手のマンマークの前に、後半はより苦しむビジャレアル。退場しているので、相手のマンマークにも勢いがあります。この流れをなんとかしようとしたのが懐かしのビクトル・ルイス。運ぶドリブルというよりはほとんど突破のドリブルでした。前線までボールを運ぶと、あとは前半と同じ仕組みです。サイドに流れてボールを受け、戻したボールを途中出場のデニス・スアレスが決めて試合が振り出しに戻ります。
相手が10人なのに追いつかれてしまったセルタは、前線の選手を交代しながら攻勢に出ます。しかし、システムを4-4-1に変更し、中央閉塞で守るビジャレアルの前に、決定機はなかなか作れなくなっていきました。それでも攻め続ければ何かが起きるかもしれないし、起きないかもしれない。今日は起こる日でした。またも、オレジャナ。オレジャナのシュートが枠に弾かれるも、こぼれ球をノリートが決めて、セルタがほぼロスタイムに勝ち越しに成功。むろん、試合はこのまま終わります。同点に追いついたまでのビジャレアルは立派でしたし、システム変更で守りを固めて相手の攻撃を機能させなかったのも見事でしたが、最後に力尽きました。前節も似たような試合だったようなので、ダメージが心配されます。
■独り言
ビジャレアルのセルタ対策はよくできていたと思うのだが、結果が出なかった。結果が出なかったから全てが間違っていたかというとそんなこともない。もちろん、プロは結果で評価されるべきなのだが、結果だけを点のようにおっていると、コイントスをしているようなものになってしまう。そんな神頼みになるのか、自分たちでコイントスの結果をできるかぎり操作しようとするのかはチームのスタイル次第だろう。
何の話だ。
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