グアルディオラ以降のバルセロナが負けると、世界中でニュースになっている気がしている。それはグアルディオラがバイエルンに移動してからも同じだ。特に、今季のバイエルンはリーグ戦で14戦無敗。チャンピオンズ・リーグではアーセナルに敗戦したものの、すぐにリベンジに成功している。
しかし、そんなバイエルンがとうとう負けた。そんな試合を振り返っていく。試合前に両チームの状況を共有する。
バイエルンは怪我人が多い。ベンチの人数も、相手より1人少ない。さらに、怪我人は攻撃の選手に集中している。ベンチには、キルヒホフ、バドシュトゥバー、ローデ、キミッヒ。そして怪我からようやく復活した病み上がりのリベリとなっている。今季にブレイクしたドグラス・コスタも残念ながら怪我で離脱している。
ファブレ監督に率いられて、昨シーズンに躍進をとげたボルシア・メンヒェングラッドバッハ。そのため、チャンピオンズ・リーグにも参加している。しかし、主力(クルーゼ、クラマー)を放出などの要因によって、絶不調の開幕スタートとなった今季。そして、ファブレ監督はさり、∪23のアンドレ・シューベルトが監督に就任。すると、あれよあれよと9戦無敗。チャンピオンズ・リーグで負けを取り返すことは難しいが、長いリーグ戦ではすでに4位と、昨年の勢いを取り戻している。グアルディオラ曰く、アンドレ・シューベルトのボルシア・メンヒェングラッドバッハは、以前よりも縦の意識が強くなり、別のチームになっていると解釈すべきだと発言している。
そして、解説がチョウ・キジェ。オフ・シーズンになったことを実感させる解説者となった。
■ビエルサ×チルドレンではないけれど
クラシコに勝利したことで、一気に世界の中心となっている雰囲気を感じるバルセロナ。しかし、そんなバルセロナが大敗したチームがあった。そのチームはセルタ。ビエルサ×チルドレンに率いられたセルタは、マンマーク戦術を使うことで、バルセロナを撃破することに成功した。バルセロナのプレーモデルは数的有利を前提としている。特にグアルディオラ時代のトレーニングは、そのほとんどが数的有利で行われていた。試合が数的有利を前提としているならば、練習も試合と同じようにあるべきという考えによるものだろう。その前提である数的有利を撃破する守備戦術がマンマークとなる。
ブンデスリーガでバイエルンと試合をするチームは、基本的に自陣に撤退して守備を固めるチームが増えてきた。ドルトムントもボールを保持するチームに変貌したこともあって、ブンデスリーガではどのように撤退して守るべきかの研究が進んでいるように見える。プレッシング開始ラインの設定。3列の距離の基準。サイドを捨てるか、均等に守るか。4-4-2か5-4-1か。日本ではポピュラーな5-4-1だが、欧州ではあまり観ることができない。しかし、バイエルンとドルトムントのボール保持に対抗するために、5-4-1が登場してきている、というのが最近のブンデスリーガとなっている。
ボルシア・メンヒェングラッドバッハは4バックを基準としてきたチームだ。しかし、スタメンを眺めると3バックに見える。そして、実際に3バックだった。面くらう実況と解説者のチョウ・キジェ。それくらいに、4-4-2の代名詞となりつつあったボルシア・メンヒェングラッドバッハの3バックは衝撃的であった。しかし、本当の衝撃はその先にあった。ボルシア・メンヒェングラッドバッハは5-4-1の撤退ではなく、3-2-3-2による高い位置からの攻撃的な守備を見せた。つまり、バイエルンにいつものようにボールを前進させないように、試合に臨んできた。その形はビエルサ×チルドレンを彷彿とさせるようなマンマークで行われた。
ボルシア・メンヒェングラッドバッハの役割を見て行く。
1列目のシュティンドルとラファエルは2トップ。バイエルンのセンターバック(ベナティアとボアテング)を担当する。彼らをマンマークのように抑える役割。ボアテングはそれでもサイドチェンジなどを見せたが、マンマーク守備の前に、運ぶドリブルを行うスペースはほとんど与えられなかった。
2列目のダフードはトップ下。2トップの中央にポジショニングするシャビ・アロンソを徹底的に抑えた。そして、ウイングバックのコルプとヴェントは相手のサイドバックまで飛び出していくことで、守備の基準点(ラームとラフィーニャ)を見つけている。つまり、バイエルンの4バックとシャビ・アロンソにはマンマークで対応していた。ノイアーにボールを下げたときに、フリーの選手が誰もそばにいない現象が、何度も繰り返されていた。
3列目のジョンソンとシャカ。ジョンソンとシャカの役割は、相手のインサイドハーフ(ハビ・マルティネスとビダル)を捕まえること。ここも基本はマンマークで行われた。ただし、シャカはディフェンスラインへのカバーリングを行うタスクもあったので、ハビ・マルティネスにべったりというよりは、中間ポジション(ボールが出たらハビ・マルティネスにもいけるし、ディフェンスラインを埋めることもできる)にいることが多かった。
4列目の3バックは、相手の前線(ミュラー、レヴァンドフスキ、コマン)をマンマークで抑える。まじか!!という場面だが、理屈ははっきりしている。前線からマンマークで抑えれば、バイエルンの前線にオープンな形でボールが供給されることは少ない。よって、後方からロングボールが飛んで来る形がメインとなる。ロングボール(ボールが蹴られてから目的地までに届く時間が長い)が相手に渡る前に寄せていく。そして、シャカがディフェンスラインに入ることで、カバーリングに移動する距離を短くする工夫もされていた。オールコートマンツーマンというと、実際の形とは異なるのだが、それくらいの勢いで、バイエルンのポゼッションにボルシア・メンヒェングラッドバッハは対抗した。
前線にスペースと時間を繋いでいくことをビルドアップの定義とする。スペースと時間が後方にあるのは、相手がいないからだ。ビルドアップは数的有利を前提としてどのチームも設計している。なお、さきほどの数的有利を前提としているグアルディオラのくだりは、ピッチのいたるところで(だからこそのゼロトップ)という注意書きが加わる。ボルシア・メンヒェングラッドバッハを相手にして、バイエルンはビルドアップの数的有利が破壊されてしまった。ボール保持者の周りにフリーな選手がいないのだから、これは困った話となる。さらに、ボール保持者へのプレッシングも強烈となるわけなので、バイエルンはいつもの姿を失っていくこととなった。
■展開対決
ピッチのいたるところで数的有利がない、数的同数だらけとしたら、どこで勝負をするべきか。答えは2つ。明らかな質的有利なエリアか、自陣のゴールから遠いエリアでの勝負をするべきだ。相手の守備のやり方を観て、グアルディオラはすぐにロングボールを蹴るように指示を出している。時間がたつにつれて、バイエルンはショートパスの割合を減らし、ロングボールをハビ・マルティネスとレヴァンドフスキに蹴っ飛ばしながら試合を進めていった。それはバイエルンがショートパスによるビルドアップを諦めたと言える。
バイエルンにいつもの形を捨てさせたことで、ボルシア・メンヒェングラッドバッハの狙いは成功したと言えるだろう。しかし、まさかの落とし穴は違う局面に存在した。バイエルンがボールを保持しているとき対ボルシア・メンヒェングラッドバッハがボールを保持していないときの局面は、ボルシア・メンヒェングラッドバッハの狙い通りとなった。しかし、ボルシア・メンヒェングラッドバッハがボールを保持しているとき対バイエルンがボールを保持しているときの展開は、バイエルンに優勢に傾いていった。
ボールを保持しているときのボルシア・メンヒェングラッドバッハは、ゾマーにボールを下げながらビルドアップを試みた。ロングボールの的はヴェント対ラームが延々と繰り返された。サイドバックにもサイズが必要だ理論は、サイドバックを空中戦のターゲットにされるとめんどくさい状況となるからだ。恐らく、ボルシア・メンヒェングラッドバッハのボール保持の狙いは、バイエルンの前線を前におびき出すことで、体力を削る&空中戦のサポートを遅らせることが狙いだったのだろう。バイエルンはどこまでもボール保持者を追いかけてくるので、ゾマーに下げて蹴っ飛ばすはバイエルンの前線からすれば、めんどくさい作業となった。
この現象の繰り返しによって、バイエルンの守備を不安定なものにすると、ボルシア・メンヒェングラッドバッハはショートパスによるビルドアップも試みた。しかし、どちらかと言えば、バイエルンが走り切ることに成功し、ショートカウンターをくらう場面が目立つようになった。この循環は最悪と言っても良い。相手にボールを前進させないことに成功はしたが、ボールを奪われてカウンターを許すようになったのでは、ボールを保持していないときの苦労が水の泡となる。前半にバイエルンが創りだした決定機(ゴールが決まってもおかしくなかった)は何度もあり、それがゴールに決まっていれば、番狂わせは起きなかっただろう。
ボルシア・メンヒェングラッドバッハの攻撃は大外のウイングバックが中心となった。前線のカルテット(シュティンドル、ラファエル、ダフード、ジョンソン)は自由に動き回る一方で、横幅はウイングバックがとった。彼らのクロスもウイングバックからウイングバックと大外を狙う形が多かった。バイエルンの前線(サイドハーフ)が戻りきれない、または3バックによる守備の基準点のずれによるマークミスを狙った攻撃はなかなか機能していた。しかし、決定機という意味では、バイエルンのほうが質が良かった印象の前半戦であった。
■走る意志
後半になると、バイエルンはシャカの空けたスペース(ディフェンスラインに入る動きで発生する)を狙うようになる。ジョンソンのカバーリングが遅くなると、ヴェントが中央に移動してくる。そうすると、サイドが空くので、バイエルンはミュラー強襲を狙うが、あまり再現はされず。それよりも、シャカのあけたスペースから中央へ侵入する形のほうが目立っていた。
そんな試合展開が動いたのは54分。後半のボルシア・メンヒェングラッドバッハは前線のカルテットがまとまって動く場面が見られた。いつも通りにラームを狙った空中戦から始まり、裏に抜けだしたジョンソンのクロスから最後はヴェントが決めて、ボルシア・メンヒェングラッドバッハが先制する。ボルシア・メンヒェングラッドバッハのシステムが通常でなかったこともあって、バイエルンは守備の基準点がずれてしまうことが見られた。完全ゾーンで守れば問題ないのだろうけど、前から奪い返しに行くスタイルはどこかでバランスが崩れることが往々にしてある。
同点ゴールを狙うバイエルンは、ミュラーとコマンをいれかえて攻撃に変化を加えたい意図を見せる。ビルドアップはマンマークに苦しんでいたので、基本は放り込みとオープンになったらサイドチェンジ。なお、シャビ・アロンソは完全に試合から消えていた。前線から相手を追いかけ回すことは、メンタルを上昇させることもあるらしい。後方で待ち構えるよりも、気持ちが積極的になると誰かから聞いた。わからないでもない。というか、もともと走る意志の強いチームだったので、ボルシア・メンヒェングラッドバッハは走りに走る。特にセカンドボール争いで後半は優位にたった。よって、バイエルンのロングボールで発生するセカンドボールを回収し、あとは前線のカルテットとウイングバックが突撃していくカウンターはかなりの迫力であった。
それでも、徐々にバイエルンが攻勢に出ていきそうな雰囲気があった。しかし、その雰囲気を破壊したのはセットプレー。セットプレー崩れから最後はシュティンドルが押し込んでまさかの2-0となる。バイエルンはローデを入れて、セカンドボール争いと中盤の強度アップをはかる。しかし、そのローデがやってしまう。2列目から飛び出すジョンソンについていけずに、独走をゆるし、ジョンソンが決めて3-0となった。
試合はほとんど終わったのだが、最後にリベリが登場。15分だけ出場することが決まっていたのだろう。得意のドリブルを見せるが、さすがの病み上がり。それでも、味方とのコンビネーションで1点を取り返すことに成功する。さすがリベリ。しかし、反撃もここまで。こうしてリーグ戦でとうとう負けたバイエルン。そして、快調のボルシア・メンヒェングラッドバッハ。チャンピオンズ・リーグは敗退してしまったようだけれども、2年連続のチャンピオンズ・リーグ出場獲得となれば、大成功のシーズンtなりそうだ。
■独り言
セルタ、ボルシア・メンヒェングラッドバッハがポゼッションチーム(バイエルンとバルセロナ)を倒した手法の根っこは同じ。数的有利という前提をいかにして壊すか。特にビルドアップを破壊することが大きい。トゥヘルもマインツ時代に行ったことのあるマンマーク気味のビルドアップ破壊は世界にどのような影響を与えるか。ちょっとだけ興味がある。相手のビルドアップの形に応じて自分たちの形を変容させる必要のある形なので、各々が何をすべきかを理解していないと瓦解してしまうけれども。ただし、セルタはいつだって自分たちの守備だけど、ボルシア・メンヒェングラッドバッハは恐らく普段は一般的なゾーン・ディフェンスはなずなので、この形をやろうと思えばできますということを証明したことはなかなか凄いと思う。
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