201516シーズンの欧州各国リーグやチャンピオンズ・リーグから見る欧州サッカーのトレンドとは?

マッチレポ1516×チャンピオンズ・リーグ

トレンド。トレンドとは「時代の流行、潮流」という言葉として使われている。と、分かる人には分かる懐かしい言葉を枕として、欧州サッカーのトレンドについて考えていきたい。

ボール保持はすでに目標にはならない

チャンピオンズ・リーグの常連だったころのバレンシアは、堅固な守備と速攻を最大の武器としていた。そんなチームのアイデンティティを、ボールを保持するサッカーに展開しようとして、バレンシアが大失敗したことは懐かしい記憶となっている。

ボールを保持するサッカーをするためには、高い能力のある選手が必要だという考えが一般的だった。高い能力のある選手を平たく言うと、給与の高い選手となる。しかし、スウォンジーが見せたように、ボールを保持することに決して給与の高い選手は必要でないことが証明された。ボールを保持することに大切なことは、準備されたトレーニングによって、型を取得することであった。そして、その型を覚えるために特別な能力は必要でない。

全ては状況の認知にある。3列目の形は、ビルドアップを2、または3バック。そして、2列目は1アンカー、または2セントラルハーフ、または、1アンカー&2インサイドハーフが基本型となる。つまり、ビルドアップ隊の枚数は、3枚から5枚で構成される。サポートとして、サイドバックの横幅、キーパーの深さも考慮される。それぞれの形は、相手のプレッシング枚数、自チームの選手の個性によって、決定される。プレッシングの枚数は最大でも4枚。さすがに5枚のスーパーマンツーマンを仕掛けてくるチームは、なかなかいない。

つまり、3対1、3対2、4対2、4対3、5対2、5対3、5対4でのボール前進の形をトレーニングすれば、ボール保持は決して困難ではないというのが現状になっている。かりに相手がマンツーマンの死なばもろともで仕掛けてきたならば、キーパーを利用したビルドアップや、前線の数的同数を活かした深さを使った攻撃で仕掛けていけば良い。そのためのメッシ、スアレス、ネイマールを準備したバルセロナは、やるせないほどに正しいと思う。

時代の流れが相手の守備が整っていないときに攻撃を仕掛けようだとしても、相手、試合展開によってはボールを持たなければならない場面が出てくる。例えば、ボールを保持しない局面で最大の強さを発揮するアトレチコ・マドリードは、よりにもよって、チャンピオンズ・リーグのファイナルでボールを保持する状況に遭遇した。つまり、ボールを保持することから逃げることはできない。ボール保持から逃げれば、どこかで手痛いしっぺ返しを食らう。ボールを保持することはできる。相手がボール保持を妨げようとしても、マンツーマンでこなければどうとでもできる。つまり、ボールを保持できなければ、話にならない流れがきている。

準備された守備の強度アップ

レスターや、アトレチコ・マドリーの躍進を取り上げるまでもなく、準備された守備の強度は、さらに増してきている。相手の守備が整っているときと相手の守備が整っていないときという考えが生まれたように、守備レベルの向上が、速攻やカウンターの重要性を高めたと言えるだろう。しかし、ボールを奪う、奪われたの局面を意図的に生み出すような戦術は、より洗練されたボール循環やセカンドボールへの準備によって、再現性を持って取り組むことが難しくなっている。ボールを奪われた際にボールを奪いに行くのは必須だが、全員で行ってしまうと、バイエルンがアトレチコ・マドリーのカウンターに沈んだように、トランジションのプレッシング回避手段さえも時代は手に入れようとしている。

ビルドアップの共有化による発展とともに、ボールを保持した、つまりデザインされた攻撃もだんだんと世界中で似通ってきている現状がある。ボールを保持した攻撃の特徴として、相手の守備の約束事を逆手に取った形や力技が見られるようになっている。

相手の守備の約束事を逆手に取るとは、主に守備の約束事によってどうしても発生してしまうエリアを利用する考えだ。かつてモウリーニョが行っていたように、フィールドプレーヤー10人で完璧な守備を準備することは難しい。11人いれば、どうにかなるかもしれない。5-4-2とかなかなかえぐい。5-5-1も相当エグい。4-4-3のプレッシングも考えるだけで嫌になる。しかし、ノイアーがどれだけ奮闘しても、フィールドプレーヤーは10人だ。

守備はボール保持者の位置によって規定される。ボールの位置によって、全体のポジショニングは移動を繰り返す。そして、誰かがボール保持者にプレッシングをかければ、そのプレッシングをかけた選手の空けたエリアを誰かが埋める必要がある。その仕組みを逆手に取るデザインされた攻撃が増えてきている。例えば、2列目の選手が前に出て行ったらどのようにカバーするのか。1列目を下げるか、2列目同士で距離を縮めるか、3列目が加勢するか。注目されるのは、センターバックとサイドバックの間のエリアになる。センターバックを動かすか、セントラルハーフを下げるか、サイドハーフを下げるか。それぞれセンターがあく、またはサイドハーフのいたエリアがあく。そのエリアをどのように埋めるか。レスターやアトレチコ・マドリーはこのカバーリングの後に空いたエリアを誰が埋めるかを献身的に行なう。そのための4-4-2-0や4-1-4-1が準備されている。

攻撃のデザインを狂わせるための守備の変化は2段階

無秩序状態が続くとしても、サッカーは同じような展開が続くことが往々にしてある。それらはスコアや残り時間によって、変化を強いられる。例えば、自陣に撤退して守り続けていたチームが、失点によって、得点をとるために戦い方を変更することは見たことがあるだろう。今までボールを保持してなかったチームが、ボールを持たす展開になると、慣れるまではどうしても時間がかかってしまう。つまり、局面の変化によって、今までになかった展開を強いられると、なかなか厳しいという状況がある。

では、守備の約束事(カバーリングシステムや全体の形)によって、どうしても発生する構造上の弱点をどのように隠すか。約束事を変更すればいい。つまり、カバーリングシステムや全体の形を変えて守備をする。この変化の厄介なところは、ボールを保持したチームが見ていた景色が変わることにある。今まではセンターバックとサイドバックの間をカバーリングしていた選手がサイドハーフだったのに、今までは存在しなかったインサイドハーフがカバーリングに現れる。この約束事の変更は、相手にデザインされた攻撃の変化を強いる。

守備の形を変化するときは、大抵の場合は残り時間が少ないとか、相手に決定機を与えているときに行われる。しかし、守備が整っているときにさらに4-4-2→4-1-4-1や4-4-2→5-4-1の変更で、相手の攻撃の流れに変化を強いる考えは、なかなか興味深いと感じさせられた。なお、1列目のプレッシング開始ラインによって、約束事が変化していくのは当たり前なので、特に言及しない。相手陣地では4-4-2、自陣では4-4-1-1などなどよく見られるでしょう。

コンセプトでサッカーをする

最後の項目は、バイエルンのグアルディオラについて。サイドでのデュエルに強いこだわりを見せたのは、選手によっチーム戦術が決まるという考え故か。ラームがサイドバックからセントラルハーフに移動した年明けの戦い方のように、試合が始まらないとチームの全体図が見えてこなかったバイエルン。相手の個性や形によって、自分たちの形が決定されるように感じるけれど、どうも共通性がない。よって、ボールを保持するというコンセプトを達成するためにはかなり自由に動く約束事になっていた可能性が高い。選手ごとに役割が決まっているというよりは、エリアごとに役割が決まっている。つまり、そのエリアにいる選手が自分のポジションに関係なく、エリアごとのプレーをする。

バイエルンは守備を4-4-2で行なうのだけど、別に誰がどこにいてもいいみたいな。埋めるべきエリアを順々に埋めていきましょうみたいな考えで行われていた。もちろん、決まったポジションで守るよりは、強度は落ちる。けれども、柔軟なポジショニングと守備を両立するには、適した方法と言える。マンチェスター・シティでは、どのようなサッカーをするのか、非常に楽しみである。

ひとりごと

相手の守備なんか関係ないよ、クロスを大外に放り込むんや!という力技も多く見られた。特に序盤のドルトムントが得意技にしていた。ギンターはどこへ消えた。グアルディオラは大外からの折り返しで、相手の視野をリセットする力技を何度も行っていた。

EUROでは、スペインに注目。ポゼッションサッカーなんて終わったんやという風潮に一石を投じてほしいなと。もちろん、速攻が大事だけれど、速攻を相手に許さないような攻撃や守備が発達してきている。というか、全部大事なんや!という時代にいつなるんだろうか。

コメント

  1. you より:

    どうもこんにちは。福島出身のものです。らいかーるとさんの詳しい分析をいつも感嘆しながら読ませてもらっています。
    私は何か福島のためになることをしたく思っています。しかし、いかんせんサッカーにしか興味がなく生きてきたのでサッカーにまつわることでしか貢献できません。また現在の自分の未熟さも痛感しており、考えの次元を上げていきたく思っています。
    自分のサッカー観や福島の復興にまつわる考え方などに対して世の方々がどのような反応をされるか確かめたくて、ブログなどで情報発信&評価をいただくことに挑戦してみようと思っています。しかし私は全くの素人で、自分の考えの発信、またそれを評価していただく方法手段がブログ、ツイッター等しか思い浮かびません。
    またサッカーや福島での生活に関して自分が発信した考えが誰か一人でも心に残り、考えや行い、習慣が変わるきっかけになってくれれば幸いだとも考えています(まだまだ未熟者の私ですが)。ブログによる収入などは全く考えてません。
    ここでらいかーるとさんにしたい質問は、
    軍資金ゼロで始められる、自分の考えをより多くの方々に知ってもらい反応・評価をいただける方法
    を教えてください!サッカーに関する質問でなくてごめんなさい(;´・ω・)。こんな質問をここでしてよいものか迷いましたが、ブログにおけるらいかーるとさんのお人柄ならいけるかな?と…
    初めてこういうコメントみたいなことしました。若干手汗が湧き出してます(笑)

    • らいかーると より:

      こんにちは。

      早速ですが、ご質問にお答えいたします。

      >>軍資金ゼロで始められる、自分の考えをより多くの方々に知ってもらい反応・評価をいただける方法
      を教えてください

      わかりません。というか、自分は全く有名でもなんでもない存在ですので、質問をする相手を間違っているような気がします。
      多くの方に意見を届けたければ、アクセス数の多いブログ(スポナビ)や、ネットメディアに投稿する形がベターだと思います。どちらかと言うと、ネットメディアのほうが気軽に行けると思います。

      頑張ってください。

タイトルとURLをコピーしました