【呼応する両者のシステムと再びの退場劇】バルセロナ対アトレチコ・マドリー

マッチレポ1516×チャンピオンズ・リーグ

チャンピオンズ・リーグのクォーターファイナル。日本語で言えば、準々決勝。相まみえるのは、バルセロナとアトレチコ・マドリー。ルイス・エンリケ以降のバルセロナにとって、決して相性が悪い相手ではないアトレチコ・マドリー。パリ・サンジェルマン、レアル・マドリー、バイエルンと比べればマシな相手とは言える。だが、厄介な相手であることは間違いない。

バルセロナのスタメンは、シュテーゲン、ジョルディ・アルバ、マスチェラーノ、ピケ、アウベス、ブスケツ、イニエスタ、ラキティッチ、ネイマール、スアレス、メッシ。クラシコからスタメンの変更はキーパーのみ。考慮されるのは南米勢の疲労。そして、クラシコの敗戦による精神的なダメージから立ち直っているかどうか。ルイス・エンリケにとってマネージメント力が試される試合となっている。

アトレチコ・マドリーのスタメンは、オブラク、ファンフラン、ゴティン、ルーカス・エルナンデス、フェリペ・ルイス、コケ、ガビ、サウール、カラスコ、グリーズマン、フェルナンド・トーレス。シメオネ体制が長いアトレチコ・マドリー。同じ監督に長年率いられると、マンネリ化などによって、チームの結果が著しく低下する現象がある。シメオネがその現象から無縁な理由は、その原始的な戦術とスタメンの選手の入れ替わりがあるからなのかもしれない。

アトレチコ・マドリーの守備の変化

アトレチコ・マドリーのボールを保持していないときのシステムは4-4-2。フェルナンド・トーレスとグリーズマンが1列目に配置されている。プレッシング開始ラインは相手陣地に設定し、バルセロナの陣地深くまでボールを奪いに行く。各々の守備の基準点をはっきりさせていることがアトレチコ・マドリーの守備の特徴だ。例えば、フェルナンド・トーレスたちはバルセロナのセンターバックにプレッシングをかけ、双方の選手がブスケツへのパスコースを制限する。チームの約束事として、センターバック同士のパス交換は1列目で見る、サイドバックへのパスは、サイドハーフが担当することになっている。よって、そのどちらの役割にもなっていないブスケツへのパスコースの制限を優先したポジショニングを1列目の選手が行なう。

ブスケツへのマークは、ボールサイドではないセントラルハーフが担当することもある。恐らく、1列目の状況(ボール保持者へのプレッシングでブスケツへのパスコースを制限できているか、ブスケツへのパスコースをボールサイドでない1列目の選手が間に合っているか)によって、前に出てくるかどうか決まる。なお、前に出てこない場合は、中央でカバーリングに備える。ボールサイド、例えばジョルディ・アルバがボールを持っているときは、アトレチコ・マドリーのボールサイドにいるセントラルハーフがバルセロナのインサイドハーフ(イニエスタやラキティッチ)を捕まえることが特徴。バルセロナのインサイドハーフはボールを引き出すためにサイドに流れるので、その動きに対応することが目的だ。もしも、ビルドアップの出口となるべくサイドに流れているインサイドハーフのマークをサイドバックに任せてしまうと、ネイマールとメッシを見るべき選手がいなくなってしまう。

相手陣地からのプレッシングが回避されたときは、全員で自陣に撤退する。4-4-2-0と表現してもいいくらいに、1列目の選手も守備に参加する。2.3列目の選手は、ペナルティエリアの幅にポジショニング。サイドにボールが出たら、まずはサイドハーフが出て行くことも特徴。3列目の選手は出来る限り、ペナ幅から動かしたくないのだろう。

これらの相手の論理を利用して、バルセロナは攻撃を仕掛けていく。この論理が機能しない状態をトランジション(守備が整っていないとき)と定義することもできる。または、4分のイニエスタにボールが渡った場面のように、相手の戦術的役割をこえた暴走(シュテーゲンまでのプレッシング)によって発生した役割のずれ(インサイドハーフをみるべきが役割を前にずらされた)を利用する。または、相手の集中力不足(メッシのワンタッチ→ラキティッチ)の場面のように、マークの受け渡しミスを狙う。アトレチコ・マドリーの守備の論理を、自分たちの論理や個の能力によって破壊したり、時間の経過とともに低下する集中力を利用して破壊するかことが定跡と言える。

バルセロナの最初の手は、イニエスタとラキティッチが相手の1列目(グリーズマンたち)の背中に隠れる。アトレチコ・マドリーの2列目からすれば、グリーズマンたちの傍に行ったので、その位置まで相手を追いかけ回すのは得策ではない。追いかければ中央にパスラインができ、スアレスへのパスラインを相手に与えることになる。だからといって、グリーズマンたちは近づいてくるイニエスタたちの対応までできない。隣にいるブスケツや前にいるセンターバックたに注意を払うことで精一杯だった。さらにバルセロナは追い打ちをかける。インサイドハーフの相手の1列目の近づく動きに呼応して、ブスケツはディフェンスラインに落ちて、ビルドアップをするようになっていく。

アトレチコ・マドリーはこの状況を解決するために、1列目と2列目の間を狭くする必要があった。定跡は、相手のセンターバックへのプレッシングを弱める代わりに1列目を下げる。そして、相手に1列目と2列目のプレーエリアを与えない。バルセロナ側からすると、アトレチコ・マドリーはこのようにプレーすると考えたのだろう。よって、ブスケツが列を降りてセンターバックからの攻撃の起点を増やした。しかし、アトレチコ・マドリーの手は4-5-1への変更だった。グリーズマンを右サイドに移動させ、サウールとコケに、バルセロナのインサイドハーフの対応をさせることで、状況の解決をはかった。なお、ここまで15分で起きている。

4-5-1の撤退をアトレチコ・マドリーが見せたことで、バルセロナはセンターバックの運ぶドリブルを起点とした攻撃が見え始める。また、相手の守備ブロックの外にメッシやネイマールが登場することで、ポジションチェンジによる撹乱とボールポゼッションを安定させる。しかし、アトレチコ・マドリーも人海戦術で守備を固めているので、簡単には崩れそうもない。

アトレチコ・マドリーの攻撃は、基本的にカウンターと速攻。ときどきポゼッション。ボールを奪ってからの攻撃の特徴は、同サイドで攻撃をやり切ること。もともと攻撃の枚数をかけられない事情もあって、サイドチェンジを行なうこと(ポゼッションではやる)はあまりない。その代わりに、各々の突破スキルは非常に高い。ジエゴ・コスタ、アルダのドリブルでボールを前進させていたことが懐かしいが、今のアトレチコ・マドリーの面々もそういう仕事はできる。また、同サイドで攻撃を完結する仕組みのため、逆サイドのサイドハーフがボールサイドに移動し、サイドハーフ同士のコンビネーションが見られることもある。

25分にアトレチコ・マドリーが先制。バルセロナは前線トリオが守備に戻ってきたり来なかったり。それは計算済のバルセロナのはずだったけれど、失点場面ではブスケツがサイドにひっぱられたけれど、ラキティッチがカバーしてこなかった。その隙を見逃さずにコケがそのエリアでボールを受け、センターバックを引き出して、フィニッシュはフェルナンド・トーレス。ラキティッチの動きを見ていると、サイドハーフのような守備をしていたので、チームの約束事としては4-4-2で守ることになっていた可能性も高いバルセロナ。味方の位置によって守備の役割が変わる(4-4-2→4-3-3)というのは複雑すぎるので、大変というお話。クラシコでも見られた守備の粗を利用された場面だった。

35分にフェルナンド・トーレスが退場。怒るシメオネ。先制点を決めてヒーローになったフェルナンド・トーレスだったが、明らかに気負いすぎだった。1枚目のイエローをもらってからも、ファウルにこそならなかったが、荒々しいプレーを連発。恐らく審判の印象も悪かったのだろう。だとすれば、しっかりとファウルをとって注意をすべきだったかもしれない主審。

カラスコを1列目にする4-4-1に変更するアトレチコ・マドリー。バルセロナは両サイドバックを高い位置に上げる。ネイマールとメッシを自由にプレーさせることで、特別な選手のプレー機会を増やす狙い。決定機までは行かないが、バルセロナは徐々に相手のペナルティエリアに侵入していく。さすがに枚数の減ったアトレチコ・マドリーはカウンターの機会が減る。さらに、審判へのフラストレーションもたまり、ファウルのアピールが増えていく。ブスケツがファウルをした場面ではカードを要求。もちろん、フェルナンド・トーレスの退場に意義はあるんだろうけど、一番はカードの基準が一定でないことに最大の不満があるのだろう。前半は1-0のまま終わる。

繰り返される10人での戦い

リーグ戦に通じて、退場者を出したアトレチコ・マドリー。4-4-1で引き続き中央閉塞しながら、守備を固める。基本的な流れは前半と変化はなし。メッシとネイマールが中に切れ込んできて、サイドからはアウベスとジョルディ・アルバが虎視眈々と機会を狙う。

52分にカラスコ→アウグスト・フェルナンデス。グリーズマンを1列目にする。アウグスト・フェルナンデスを中央に配置することで、守備の強化を狙ったのだろう。この試合のアトレチコ・マドリーはボールを奪う色気を見せずに、ひたすらにゴールを死守することを優先する。しかし、ネイマールの個人技から徐々に失点の雰囲気が漂い始める。

攻撃に枚数をかけたときのバルセロナのエグいところは、相手の守備基準点よりも、多く枚数を横に揃えるところだろう。メッシのゼロトップによる中盤制圧も含めて、数的優位によって、どのポジションの選手が時間とスペースを得られるか。そして、得た時間とスペースをどのように繋げていくかが共有されている。マスチェラーノ、ピケも横パスに加わることで、さらなる数的優位から攻撃の起点を作るバルセロナに、アトレチコ・マドリーは耐えて耐えて耐えまくる。

しかし、同点ゴールが決まる。63分にスアレスのセカンドポスト。クロス大外からの、ジョルディ・アルバの折り返しというかシュートというか。クロスは大外まで飛ばし、相手の視野、身体の向きを変えさせ、さらに折り返すことで、混乱状態を作り出す場面だった。

74分にスアレスの逆転ゴール。スアレスのポストプレーからのクロスを自分でヘディング。相手にあたってアウベスにボールが渡る幸運もたしかにあった。ただし、クライフ御大も言っていたが、ワンタッチプレーによるリズム変化はアトレチコ・マドリーを苦しめていた。

75分にグリーズマン→トーマス・パルティ。ここはカンプ・ノウ。アウェーゴールを決めているので、2-1でも問題ないといえば問題ないと考えたシメオネ。主力を温存する。トーマス・パルティははっきりとしたプレーをしていた。成功不成功は別として。

バルセロナの采配で興味深かったのが、クラシコで失敗したアルダではなく、最初にラフィーニャ。そして、セルジ・ロベルト、アルダ。ブスケツを交代したのは退場を嫌ってだったとして、やはりネイマール、スアレス、メッシは交代できないようだった。むろん、この試合では交代をする必要もなかったので、その証明にはまったくならないのだけど。

試合は2-1で、バルセロナが逆転勝利で終える。ただし、アウェーゴールを許しての勝利なので、まだまだ試合は終わっていない。セカンドレグはビセンテ・カルデロン。またも10人になってしまうのか注目だが、できれば11対11で決着をつけてほしい対戦だ。

ひとりごと

リーグ戦から振り返ると、バルセロナの論理に対抗して、アトレチコ・マドリーが新しい論理で対抗する流れで試合が進んでいる。それはとても興味深い流れだったのだけど、フェルナンド・トーレスがすべてを破壊してしまった。このままアトレチコ・マドリーが敗退してしまうと、全てはフェルナンド・トーレスのせいになってしまうので、ビセンテ・カルデロンでのアトレチコ・マドリーは、シメオネパワー全開でバルセロナに迫ってくるに違いない。セカンドレグも非常に緊迫した試合になるだろう。

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