全てを破壊したレアル・マドリーの同点ゴールと、それでも試合を壊させなかったノイアー【バイエルン対レアル・マドリー】

マッチレポ1617×チャンピオンズ・リーグ

国内リーグは独走状態のバイエルン。2位がライプツィヒ、3位がホッフェンハイムという時点で、優勝争いを繰り返していくようなライバルチームは国内にいないといっても良いかもしれない。そうなれば、自然と興味はチャンピオンズ・リーグにうつっていく。そのためのアンチェロッティの就任と考えれば、この試合の大切さは言うまでもないだろう。不安要素があるとすれば、レヴァンドフスキの欠場か。選手層も盤石で、バイエルンの控えの選手は、他のビッククラブに狙われるような逸材だらけだ。ただし、レヴァンドフスキの代役だけはバイエルンのベンチにもいない。グアルディオラ以降に元気のないミュラーにとっても正念場か。

試合内容と結果が一致しないことで、有名なレアル・マドリー。気がつけば、いつも勝っている不思議なチームだ。ジダンにとって、アンチェロッティは指導者としての師匠と言ってもいいだろう。師匠に挑むジダンの心境やいかに。ペペ、ヴァランの欠場によって、ナチョがスタメンへ。その他はいつもメンバーが揃っている。チャンピオンズ・リーグの連覇のかかるシーズンだが、国内リーグもクラシコが控えているなど、なかなかハードな日々をこれからも過ごしていく予定だ。

ハーフスペースへのポジショニング

ボールを保持しているときのバイエルンのポジショニングは、かなり特徴的だった。左右不均等は言いすぎだが、それに近い形で行われた。

基本形は4-2-3-1のバイエルン。ボールを保持しているときは、チアゴ・アルカンタラとリベリがハーフスペースにポジショニングする。リベリの移動によって発生した空白のエリアにはアラバが登場し、ロッベンはサイドにはったポジショニングを行っていた。両サイドバックが攻撃参加を頻繁に行う関係で、ビダルとシャビ・アロンソは自陣に残ってトランジションに備えつつ、攻撃のサポートとしての役割を愚直にこなしていた。攻撃の枚数を見てみると、アラバサイドよりも、ロッベンサイドのほうが簡単に人数を集められる仕組み(ラームが走ってくればいい)になっている。レアル・マドリーの守備の弱点を考えると、クリスチャーノ・ロナウドサイドから攻撃を行なうほうが効率がいい。よって、ロッベン&ラームのコンビネーションやロッベンのカット・インの機会を増やすように、バイエルンはしっかりと準備をしてきた。

バイエルンの攻撃に対するレアル・マドリーの仕組みは、両サイドで異なるものだった。アラバサイドはベイルが頑張る。途中で交代したベイルはリベリをマンマークで抑えたり、アラバについていったりと、守備をいつも以上に献身的に行っていた。ロッベンサイドは、クリスチャーノ・ロナウドが守備に帰ってきてくれれば、枚数的には解決する。しかし、相変わらず不安定なポジショニングをするクリスチャーノ・ロナウドだった。よって、マルセロの側にいる選手たちのサポートによって、ロッベンのカット・インとラームとのコンビネーションを防ぐ仕組みになっていた。

スペシャルな選手を起用することによる代償

 

レアル・マドリーのクリスチャーノ・ロナウドの守備が怪しいとするならば、バイエルンのウイングのポジショニングも怪しかった。下ってこないことはあまりないのだけど、ポジショニングが対面の選手に左右されすぎてしまう傾向が強かった。よって、セントラルハーフ(ビダル)とウイング(リベリ)の間に、パスラインをレアル・マドリーに見つけられてしまう場面が多数だった。また、噛み合わないカゼミーロをビダルがマークしにいくと、モドリッチがそのまま空いてしまう場面も見られた。ビダルの動きに誰も呼応しない。よって、4-4-2に変化して守備を行なうものの、守備の強度を考えると、バイエルンの守備も何ともいえないものだった。バイエルンのホームでもレアル・マドリーが10分過ぎからボールを保持できたのは、バイエルンの守備の強度不足によるものだった。17分のベンゼマのヘディングは、ノイアーがスーパーセーブで防ぐ。今日のノイアーはいつも以上に神ががっていた。

チアゴ・アルカンタラのポジショニング

20分くらいから、バイエルンのボール保持の時間が増えていく。レアル・マドリーはハーフからのプレッシングで対抗する。アウェイのレアル・マドリーが前からボールを奪いに行く理由はあまりない。というか、前から奪いに行く技術があるかも微妙だが。

24分にコーナーキックからビダルのヘディングが炸裂。シンプルにナチョが競り負けていた。バイエルンの攻撃の中心はハーフスペースのチアゴ・アルカンタラ。ビルドアップの出口として機能していた。クロースとモドリッチは、シャビ・アロンソとビダルにマンマークのような役割だったこともあって、チアゴ・アルカンタラはフリー状態であることが多かった。ハビ・マルティネス→チアゴ・アルカンタラ→ロッベン&ラームという場面が何度も何度も繰り返される。繰り返していけば、いつかは壊れるものだ。44分にはクイックリスタートから繰り返されるロッベンとラームのコンビネーションでクロス。ボールはリベリのもとにこぼれ、個人技からのフィニッシュはカルバハルの手に当たったと判定される。無情な判定であった。

しかし、このPKをビダルが宇宙開発してしまう。前半を振り返ってみると、レアル・マドリーはチアゴ・アルカンタラをビルドアップの出口とするバイエルンの攻撃を防ぐ手立てがなかった。そして、繰り返されたロッベン&ラームの攻撃から、結果として、PKを与えてしまっている。試合内容としては、バイエルンは再現性をもった攻撃ができている。レアル・マドリーはカゼミーロの獅子奮迅のボール奪取能力は流石だったが、カウンターをする機会も少なかった。この試合のチアゴ・アルカンタラはポジショニング、ボールを持ったときのプレーと、バイエルンの中心選手になっているという言葉を裏付けるものだったと思う。

反撃に出るレアル・マドリー

46分にレアル・マドリーが唐突に同点ゴールを決める。バイエルンの不安要素であったサイドハーフ(この場面ではリベリ)がカルバハルに背中をとられ、カルバハルのクロスをクリスチャーノ・ロナウドがボレーシュートを決める。確かシャビ・アロンソのカウンター潰しから始まったリスタートからの攻撃だったはず。集中力の欠如と言われれば、それまでだが、前半から見られていたサイドハーフの守備問題を狙い撃ちにしたカルバハルのポジショニングが見事だった。

同点に追いつかれたことで、バイエルンの攻撃は安定したものから、不安定なものになっていく。前半に見られたような再現性のある攻撃は姿を消し、強引な攻撃からレアル・マドリーにボールを奪われるようになった。アウェイゴールを許してもそんなに焦る必要はないのだが、バイエルンの攻撃はどこか歯車を狂わせたものとなってしまう。55分にはベイルのヘディングをノイアーがスーパーセーブで止める。この日のノイアーは尋常ではないプレーを連続させていた。歯車が噛み合っていない象徴のようなプレーが57分。ハビマルが運ぶドリブルでボールを失い、レアル・マドリーのカウンターを発動させる。このカウンターを自分のファウルで止めてイエローをもらう。このイエローがターニングポイントとなった。

60分。ラームのクロスから始まった攻撃を防ぐレアル・マドリー。クリアーボールを拾ったクロースにプレッシングをかけるシャビ・アロンソ。いわゆるボールを奪われたときのファーストディフェンダーがシャビ・アロンソだった。ボールが移り変わる瞬間のデュエルは超重要局面となる。シャビ・アロンソがボールを奪えれば、レアル・マドリーのカウンターを防ぐ&バイエルンの攻撃が続く。もしも、クロースが相手のファーストディフェンダーをかわせれば、大きなスペースを得た状態でのカウンターが可能となる。この局面で勝利したのがクロース。あくまで冷静にベンゼマにボールを繋いだ。クロースから始まったカウンターの終わりは、ハビ・マルティネスのファウルで訪れる。このファウルで、ハビ・マルティネスは退場する。数分で2枚のイエローをもらってしまったハビ・マルティネスであった。前半はチアゴ・アルカンタラへの楔のパスで攻撃の起点として機能していたのだが。

10人になったアンチェロッティの采配

シャビ・アロンソをセンターバック、チアゴ・アルカンタラをセントラルハーフにする4-4-1で応急処置をするアンチェロッティ。チアゴ・アルカンタラのハーフスペースのポジショニングは消えたが、クリスチャーノ・ロナウドの守備の不安定なポジショニングは健在だった。レアル・マドリーは4-4-2で守るのか、4-1-4-1で守るのかがはっきりしない。基本は4-1-4-1なんだと思うけれども。よって、ラーム&ロッベンのサイドからの攻撃は繰り返された。ただし、人数が多いレアル・マドリーは、ラームサイドへ思い切った守備が可能となっている。

62分にシャビ・アロンソ→ベルナト。アラバがセンターバックになった。65分にハンドをしたリベリはドグラス・コスタと交代する。シャビ・アロンソを交代した理由は、イエローをもらっていたからだろう。もう一人を退場にする勇気が審判にあったかは定かではないが、気持ちはわかる。そして、リベリ→コスタで両サイドから攻撃を仕掛けたかったのだろう。しかし、ドグラス・コスタはリベリが行っていたように、サイドにはる場面は少なかった。アラバに比べれば、ベルナトのほうが個人で攻撃を完結できるかもしれない。しかし、ラーム&ロッベンほどの破壊力があるわけではないので、何ともいえない采配となった。

よって、レアル・マドリーの攻勢が続く。2列目が、ロッベン、ドグラス・コスタ、チアゴ・アルカンタラ、ビダルで守りきれるかと言えば、なかなか厳しい。74分にはノイアーの片手でファインセーブが見られた。それだけ追い込まれていったバイエルン。そして、76分に長く続いたポゼッションから、アセンシオのクロスをクリスチャーノ・ロナウドで逆転ゴールが決まる。攻撃参加してきたセルヒオ・ラモスにロッベンがつられて空いてしまったエリアをアセンシオに使われたのが痛かったバイエルン。そういう意味では、特別なウイングの選手たちの守備の甘さをつかれた失点が続いたこととなる。また、セルヒオ・ラモスの攻撃参加はときどき行われ、ミュラーとナチョは二人っきりになる場面があった。ナメられているミュラー。

80分にミュラー→コマン。ロッベンがセンターフォワードへ。ナチョだけで止められるか?というアンチェロッティからの問。でも、もう逆転したからセルヒオ・ラモスの攻撃参加は減っていった。82分にベンゼマ→ハメス・ロドリゲス。クリスチャーノ・ロナウドがセンターフォワードへ。レアル・マドリー恒例の両サイドハーフに守備もしてくれる選手をいれる采配だ。ベニテス時代からのお家芸となっている。追加点を狙うレアル・マドリーだったが、ゴールは惜しくも決まらなかった。

アンチェロッティの采配を振り返ると、ホームで勝ちを狙いに行ったのだと思う。シャビ・アロンソの交代はともかく、リベリ→ドグラス・コスタの交代に攻撃的な意味合いがないとは言えない。ロングカウンターでドグラス・コスタというイメージもあったのだろう。しかし、10人の時点で1-1というスコアも悪くはない。レアル・マドリーにボールを持たれるだろう展開を考えると、両サイドハーフの守備問題を解決するような采配で、引き分け狙いでも良かったかなと思う。ベルナト、ラフィーニャをサイドハーフで起用すれば非難轟々になったのかもしれないが。もちろん、ラーム&アラバを1列あげてもいいのだけれど。または、懐かしのロッベリーを前線に上げて、4-3で斬り合うなんて采配も見たかった。フィジカルモンスターことレナトサンチェスがもったいない。それはそれでリスク高いので、何ともいえないが。

ひとりごと

レアル・マドリーの先制点が、バイエルンの選手たちに大きな影響を与えたように見えた。スコアの変化は両チームのプランと試合内容に大きな影響を与えることを改めて実感させられた試合だった。レアル・マドリーもバイエルンの攻撃に対応できていたわけでもないので、アンチェロッティの次の手はちょっと見えにくい。チアゴ・アルカンタラとリベリのポジショニングで中央に起点をつくる攻撃を止められたときに、プランBがどのような形で披露されるのかは楽しみにしておく。何となく、レアル・マドリーは今日のまま試合に臨みそうだけれども。

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