【1列目の守備問題と不可解なベニテスの采配】アトレチコ・マドリー対レアル・マドリー

マッチレポ1516×リーガエスパニョーラ

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結果は1-1の引き分け。前半にレアル・マドリーが先制するも、試合の終了間際に、アトレチコ・マドリーが同点ゴールを決める、という流れの試合でした。

ビジャレアル、ベンフィカと負けが続くアトレチコ・マドリー。新戦力と現有戦力からくる最適な選手配置、ベストメンバーの策定に苦戦している印象があります。そして、レアル・マドリー。ベイルが怪我しても維持した4-2-3-1がマラガ戦で失敗。マルメ戦ではスタメンを眺める限り、4-3-3で試合に臨んだ(試合は見ていない)のでしょう。この試合も4-3-3でアトレチコ・マドリーに対抗しました。両者の戦いはレアル・マドリーがボールを保持し、アトレチコ・マドリーが耐え忍ぶ形がデフォルトなのですが、この試合ではアトレチコ・マドリーがボールを保持して優勢に試合をすすめる時間が非常に長かったです。その理由はアトレチコ・マドリーの準備にも、レアル・マドリーの欠陥にも求められます。では、その理由とは何だったのでしょうか。

■こだわりの4-3-3

アトレチコ・マドリーは4-4-2で守備を行いました。中央圧縮スタートの守備でボールサイドに圧縮していくアトレチコ・マドリーの形は、彼らの長所でもあり代名詞でもあります。圧縮することによって発生するボールのないエリア(ボールサイドと逆のエリア)にボールを運ぶことができれば、レアル・マドリーは時間とスペースを日常的に得ることができる計算がなりたちます。アトレチコ・マドリーを相手にしてボールを保持する相手は、相手のゾーンの外や中を経由してサイドチェンジを繰り返す形が非常に多いです。その形が効果的になってくると、アトレチコ・マドリーは逆サイドのスペースをケアするために4-5-1に変化するという流れも、定型化してきています。

レアル・マドリーはサイドチェンジを繰り返し行うことによって、相手にポジショニングの修正という判断を何度も強いる形で試合に入りました。カゼミーロがセンターバックの前に配置されたことで、アトレチコ・マドリーの2トップの守備はセンターバックにマンマークのようにプレッシングを行いたくても、カゼミーロのポジショニングによって牽制される場面が多く観られました。カゼミーロはセルヒオ・ラモスとヴァランの間に落ちることで、相手の2トップの守備を無効化しようとポジションニングします。

次に、クロースやモドリッチは相手の2トップの脇のエリアを利用することで、相手の1列目の守備を突破する出口として、そして、2列目3列目へ仕掛ける起点としての狙いをもったポジショニングを取りました。特にインサイドハーフで起用されたモドリッチは、相手のサイドバックの裏に飛び出す(インサイドハーフ突撃)を行うなど、4-2-3-1との役割の違いを、プレーで見せてくれます。レアル・マドリーはビルドアップの枚数を図りながらポゼッションを安定させ、サイドチェンジを繰り返しながら、サイドのスペースを有効利用できるタイミング、サイドからのクロス、中央が空くことを待ち続けました。

その場面が9分に訪れます。右サイドでボールを受けたカルバハル。サイドチェンジの流れでボールを相手が受けたときの対応方法は、チームによって異なります。重要なことは、誰(サイドバック、サイドハーフ)がよせるか、そして、誰(サイドバック、サイドハーフ、ボランチ、センターバック)がボール保持者に寄せた選手のカバーリングを行うかです。カルバハルがボールを受けたときのアトレチコ・マドリーの守備はこの役割が狂いました。オリベル、それともフェリペ・ルイスがよせるのか。結果として2人が寄せに行ってしまい、カバーリングがいないことを認知したカルバハルはドリブル突破を決断し、そのクロスをベンゼマがあわせてレアル・マドリーが先制します。

ダニーロの長期離脱もカルバハルが穴を埋めています。この試合のキーマンはサイドチェンジを受ける選手であり、レアル・マドリーの場合はサイドバックがその役割を行うことが多いです。よって、カルバハルとマルセロの役割はとても大きかったです。そして、前半終了とともに姿を消したことを考慮すると、この場面で役割を間違ってしまったのはオリベルだったのかもしれません。

点差が動いたといっても、時間はまだまだあります。さすがに引いて守備をするには早過ぎる時間帯です。レアル・マドリーがボールを保持する展開が続いていきますが、徐々に試合の展開が変化を見せ始めます。アトレチコ・マドリーは、1列目の守備ができるかぎり相手のセンターバックを強襲することとなっていた可能性が高いです。その役割を狂わせたのがカゼミーロならば、カゼミーロを抑えればいい、となります。アトレチコ・マドリーは途中からガビが前に出てくることによって、レアル・マドリーのビルドアップを破壊するために動き始めます。

ガビが前に出てくれば、どこかが空きます。まず、ケイラー・ナバスのキック精度は怪しくて仕方ありませんでした。その姿はカシージャスを思い出させて懐かしくなるのですが、キーパーのキック精度が低ければ、遠いエリアの選手は捨ててもそこまでのリスクはありません。次に、セルヒオ・ラモスです。右利きの左センターバックは身体の向きが生命線です。アトレチコ・マドリーは相手の身体の向きによって制限されるパスコース(その身体の向きでは出すことのできないパスコース)にいる相手の選手を捨てて、積極的に相手を追いかけ回しました。モドリッチとクロースが中盤の底に配置されていれば、それでも柔軟なポジショニングでどうにかしてしまいそうですが、今日はインサイドハーフです。カゼミーロはこういう場面で動けないようだったので、ボール保持は次第にアトレチコ・マドリーに傾いていきます。

最大のチャンスはPK。1列目の守備でレアル・マドリーのセンターバックを追い込み、セルヒオ・ラモスのミスを誘うと、ティアゴが倒されて同点のチャンスを迎えます。しかし、ケイラー・ナバスが見事なセーブでグリーズマンのシュートを止めます。

ボールを保持したアトレチコ・マドリーは、レアル・マドリーの欠陥をしっかりと理解していました。そして、それを更に広げるように攻撃を仕掛けていきました。レアル・マドリーの守備は4-1-4-1になります。しかし、クリスチャーノ・ロナウドは今日も守備をしません。よって、4-4-2で前線の選手ではイスコだけが理不尽な負担(本当はすべき負担)をおうのかと眺めていると、守備は4-1-4-1でした。つまり、クリスチャーノ・ロナウドのポジションに選手がいないけれど、4-1-4-1を維持するという罠なのか欠陥なのか何とも言えない形で、アトレチコ・マドリーの攻撃に対抗しました。クリスチャーノ・ロナウドがマークすべきファンフランが攻撃参加してきたらモドリッチが飛び出してきます。

ボール保持が安定してくると、アトレチコ・マドリーのサイドハーフのオリベルとグリーズマンは中央に移動します。そして、カゼミーロの横のエリアではなく、レアル・マドリーのインサイドハーフ付近をうろちょろします。レアル・マドリーの3センターを中央に寄せてサイドにスペースを作り出すこと、インサイドハーフの守備の基準点となることが目的の動きです。サイドのスペースを作り、ファンフランたちが飛び出せば、モドリッチはグリーズマンとファンフランを観ることになります。そして、レアル・マドリーをさらに苦しめたのが後者の動きになります。

レアル・マドリーの守備は非常に気まぐれでクリスチャーノ・ロナウドが守備をしないのは日常としても、ベンゼマもときどきサボります。得点をしたことで張り切るかと思いましたが、今日はダメな日でした。よって、レアル・マドリーの1列目の守備はほぼ機能していませんでした。よって、アトレチコ・マドリーのビルドアップ隊は何の苦労もなくボールを前進させることができました。つまり、ガビやティアゴがフリー状態でボールを持つ機会が多いということです。ボール保持者にプレッシングがかからなければ、フェルナンド・トーレスが裏抜けを執拗に続け、そこにタイミングのあったパスが通ることはそのうちに起こるかもしれません。彼らによせるのはモドリッチとクロースしかいません。近くにオリベルやグリーズマンがいるのに。

そして、ゆっくりとずらされていきます。カゼミーロがカバーリングすればいいのですが、彼の近くにはコレアが配置されていました。このコレラが完全に曲者で、まさにライン間でプレーするために生まれてきたかのようなプレーをします。オリベルたちのポジショニングで相手のインサイドハーフのポジショニングを操作すると、スペースか人かを迷っているカゼミーロを尻目に、コレアはボールを引き出して攻撃をフィニッシュに繋げていきました。前半は得点こそ生まれなかったものの、レアル・マドリーは完全に後手後手の展開となっていきます。

この後手後手の展開をさらに加速させたのがカルバハルの負傷離脱でした。代わりに懐かしのアルベロアが登場するのですが、サイドチェンジの受け手として力不足感は異常でした。クリスチャーノ・ロナウドがいるのかいないのかわからない左サイドに比べると、イスコがいるだろう右サイドはストロングポイントにならなければならないのですが、アルベロアの登場がレアル・マドリーの攻撃の選択肢を減らすことになります。だからといって、中央ゴリ押しのワンツーで追加点を奪いに行くリスクを冒すのかどうかの判断の結末は非常に計算しにくいものでした。

後半になると、レアル・マドリーはDFラインを下げて、カウンター仕様に変更します。ただし、システムはそのままです。守るときは守れる選手をサイドハーフに配置するのがベニテスの采配だったのですが、できるかぎり4-3-3を維持したいように見えました。もしかしたら、実験的な要素もあったのかもしれません。欠陥が放置されたけど、プレッシング開始ラインの重心を下げたことによって、前半のようにライン間を使われる場面はゆっくりと減っていきました。

後半のアトレチコ・マドリーはオリベル→カラスコ。カラスコは右サイドにはることで、ファンフランとマルセロサイドを叩き続ける役割。そして、中央をコレアとグリーズマンでライン間でボールを受ける動きをする役割に変更されていました。レアル・マドリーからみたクリスチャーノ・ロナウドサイドが罠だったとしても、ファンフラン、カラスコからボールを奪うのがモドリッチ、マルセロだとすると、ボールを効果的に奪えるのかどうかは非常に怪しいです。レアル・マドリーは決定機を与えながら、カウンターのチャンスを待ちます。

しかし、カウンターになりそうになると、アトレチコ・マドリーはファウル覚悟で対応。イエローが乱発されていきますが、選手を交代しながら、そしてカードを計算しながらプレーすることで、レアル・マドリーのカウンターを防いでいきます。また、クリスチャーノ・ロナウドがヒメネスに止められてしまう場面が目立ち、レアル・マドリーからすると厳しい展開がさらに加速していきます。自陣に撤退しているけど、相手に時間とスペースを与えてしまう守備の形、そしてカウンターも機能しないという状況です。

アトレチコ・マドリーが前線にジャクソン・マルティネス、ビエットを投入し、前線のフレッシュさを維持するのに対して、レアル・マドリーはベイルを投入。ベイルがトップ下になって4-4-2になるのかとおもいきや、ベンゼマが残っています。まさからのそのままでした。カウンターの矢を増やしたんだとなりますが、イスコは撤退して守備に参加していて、ベイルにもそれを行わせると、やはりカウンターは難しくなります。よくわからない采配でした。

最後にベンゼマ→コバチッチ。コバチッチは左サイドの守備を担当。だったら、左からクロース、カゼミーロ、モドリッチ、コバチッチを並べて4-4-2でいいではないかと何度も思わされた試合ですが、4-1-4-1を継続。ベイルが頑張って守備をするわけですが、どうせ気まぐれにしか守備をしないならいないものだとわりきって守備を組んだほうが良いですし、これまではそうしてきたのにと不思議な気持ちにさせられる采配でした。

試合の結末は終了間際にアルベロアがボールを奪われて、アトレチコ・マドリーのカウンターが炸裂。左サイドからジャクソン・マルティネスがクロスを上げて、最後はビエットが押し込んでアトレチコ・マドリーが同点に追いつきます。その後もアトレチコ・マドリーは決定機を作っていきますが、ケイラー・ナバスのセーブの前にジャクソン・マルティネスは哀しみの表情を。試合はそのまま終わります。

■独り言

マラガ戦に続いて、埋めるべきところをしっかり埋めて後は運頼みというところまで試合をもっていけなかったベニテス。マラガ戦の采配はそれでも理解できるが、アトレチコ・マドリー戦で4-4-2に移行しなかったのは解せなかった。いびつな形でも守り切れるかどうかのテストだったとすると、ちょっとこの代償は大きい。もうやらない!ならこのタイミングでの失敗で良かったのかもしれないが。

■気になった選手

アンヘル・コレア。グリーズマンを差し置いて前線で起用されるとは何者??と思ったが、非常に良い選手であった。特に周りの状況を認知してポジショニングを決定できるところが優れている。また、自分の持ち場に決して拘らず、例えば、オリベルやグリーズマンが自分のエリアにきたらすんなりとスペースを空けて移動できる。味方、相手、スペース、ボールを観て最適なポジショニングによって。時間とスペースを得て、勝負できる選手は希少。

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