【展開の操作とカメニ、ときどきアムラバト】レアル・マドリー対マラガ

マッチレポ1516×リーガエスパニョーラ

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気がつけば、怪我人が多数のレアル・マドリー。絶好調のベイルの怪我がチームにとっては特に痛手でしょうか。結果、内容とともにあまり期待されていなかったという意味で、ハードルが下がっていたベニテス監督ですが、蓋を開けてみれば、その低いハードルは楽々と飛び越える結果を示しています。しかし、欧州での戦いが始まる過密日程になってから、本当の評価がくだされるものでしょう。多くのチームが苦しむ過密日程の中で、ベニテス監督はどのように対応していくのでしょうか。ターンオーバーの印象が強いですが、ここまで怪我人が多いと、ターンオーバーの実行もなかなかむずかしそうな現状です。

■いるべきエリアに、誰かがいるのと特定の誰かがいるのと

レアル・マドリーのシステムは4-4-2。ただし、イスコがサイドハーフというよりはインサイドハーフとして振舞っていたので、いびつな形になっています。モドリッチも同じようにインサイドハーフとして振舞っていたのですが、相手のDFラインの裏に飛び出すようなプレーはなかったので、前半は抑え気味にプレーしていた可能性が高いです。

このシステムのメリットは、相手がボールを保持しているときに4-4-2にすぐに変換できることでしょう。

本来のレアル・マドリーは、左サイドハーフにクリスチャーノ・ロナウドを配置しています。クリスチャーノ・ロナウドが守備の役割を放棄すれば、4-3で守ることになり、時には右サイドハーフの選手も戻ってこないなんてこともありました。この守備の隙はレアル・マドリーを攻略する上で重要なポイントになっています。むろん、肉を切らせて骨を断つスタイルという罠にもなっているのですが、罠を突破できるかどうかは自分たち次第でありますので、虎穴に入らずんば虎児を得ずでチャレンジする価値はあります。

しかし、このポイントを今日のレアル・マドリーは最初から封じます。イスコもインサイドハーフ、時にはサイドハーフとしての役割でのプレーでした。また、右サイドハーフのヘセが守備をあからさまにサボるなんてことはありません。前線にクリスチャーノ・ロナウドとベンゼマを残すスタイルでの守備は、レアル・マドリーに安定感を与えることになります。怪我人が多数いたことから失点を嫌がったのかもしれません。

では、手に入れた安定感と引き換えに失ったものは何でしょうか。

今季のレアル・マドリーはベイルを中心とした前線の選手のポジションチェンジを長所としています。与えられた役割の多様化は相手に慣れを許しません。同じ相手とのマッチアップが続けば、相手のプレーへの予測能力の精度も上がっていくものです。また、同じテンポ、リズムの攻撃が続けば、相手の集中力は時間がたてばたつほど高まっていくものです。しかし、ポジションチェンジやシステム変更により相手に自分たちの攻撃に慣れさせない状態が続くと、このような集中力が徐々に高まっていく現象を避けられる可能性が高まります。

この試合のレアル・マドリーは役割が単一である選手が非常に多く見られました。もちろん、決められた役割を愚直にこなし続ける強さもあります。相手の守備ブロックを同じ方法論でも殴り続ければ、いつか壊れるという考え方もあります。特にチーム力で相手を凌駕する場合は、可能性を考慮してもありな考え方と言えます。

しかし、この試合のレアル・マドリーは役割の単一さがチームにメリットをもたらしませんでした。試合内容を追っていくと、レアル・マドリーがボールを保持する。マラガは4-4-2で自陣に撤退する。それはバスを並べるという表現を使ってもいいくらいに自陣に撤退していました。レアル・マドリーはクロース経由でサイドチェンジを行い、ボールを前進させていきます。右サイドからはヘセとカルバハルがコンビネーションで、左サイドはイスコがチャンスメイクに奔走していました。

役割が単一でなかった選手がイスコです。インサイドハーフとして、相手の四角形(相手のサイドハーフ、サイドバック、センターバック、ボランチを頂点とする)の前でプレーしながら、サイドハーフとしての役割も同時に行うというものでした。マルセロが横幅を取ってくれれば中央でのプレーに集中できたのかもしれません。けれども、前半からリスクを冒す必要がなかったからなのか、マルセロは後方に控えていました。もしかしたら、クリスチャーノ・ロナウドかベンゼマが左サイドにもっと流れる予定だったのかもしれませんが、彼らは中央に居座ることのほうが多く見られました。

中央に配置されたクリスチャーノ・ロナウドとベンゼマは相手の四角形のなかでボールを引き出したり、味方のクロスに合わせたりが主な仕事になっていました。よって、彼らがサイドに流れると、誰が四角形のなかや中央でプレーするんだと、なります。別にいなくても良い場面ももちろんありえますが、彼らが中央にいばければ、モドリッチとイスコをインサイドハーフのように起用しパスの出し手として配置する意味がかなり薄くなってしまいます。

つまり、レアル・マドリーの選手配置は守備を考えれば、安定はします。しかし、攻撃面を考えると、今までに見られたような、いるべき場所に誰かがいる状況を失ってしまいました。それでも、右サイドから攻略できればすべてがまるっと解決するのですが、ヘセとカルバハルのコンビネーションではサイドを制圧することはできませんでした。それでも自力で勝るレアル・マドリーは個人の仕掛け、サイドからのクロスを大量にゴール前に送り込むことに成功します。しかし、残念そこはカメニ。そして、ときどきどうしても得点が入らないクリスチャーノ・ロナウド状態によりにもよって突入してしまいます。

マラガの考えとしては、レアル・マドリーにカウンターのチャンスを与えたくない。よって、自分たちのボールを保持する時間を極端に減らす。そのためにはレアル・マドリーがボールを保持する時間を増やすような守備を行う。だから、自陣にバスを止めるような守備を行う。問題は引いた位置からどのように攻撃を組み立てるか。その役割が懐かしのアムラバト。ロンドン・オリンピックで頑張っていたアムラバトはナチョサイドに流れ、孤独にロングボールをマイボールにし、マラガのカウンターの起点となっていました。このように攻守の仕組みが矛盾していないマラガに対して、レアル・マドリーはなんとも言えない時間を過ごすことになっていきます。

これは無理だとベニテスが動いたのは60分。ヘセ・ロドリゲスが怪我したこともあって、コバチッチを投入し、4-3-3に変更します。前線のイスコ、クリロナが好き勝手に動くとしても、相手のゾーンの外でプレーするのはモドリッチとコバチッチに固定します。そして、サイドの横幅はサイドバックの高いポジショニングで解決しました。いるべき場所に選手がいないならば、いるべき選手を固定することで問題を解決します。ときどき見られるレアル・マドリーの4-3-3は攻撃の合図で一気にレアル・マドリーの攻撃が加速します。

レアル・マドリーの攻撃はサイドを攻略してからのクロスとライン間でボールを受ける動きからの仕掛けが多いのですが、4-3-3になると、中央からのワンツーゴリ押しが攻撃の選択肢に加わります。モドリッチ、コバチッチが運ぶドリブルで相手を釘付けにできること、そして狭いエリアにも平気でボールを通せるためにできる芸当です。そしてレアル・マドリーは決定機を増やしていきますが、カメニがスーパーセーブで対抗したり、ファンサカだったらクリアーボーナスがもらえるようなぎりぎりの守備で耐え忍んでいきます。

中央からワンツー攻撃も加わったレアル・マドリーの攻撃に対して、マラガは5バックで迎撃スタイルを取ります。密集エリアの突破に対して、ゾーン・ディフェンスのチャレンジ&カバーで対抗しようとすると、超圧縮が必要になります。サイドを捨てると、サイドからクロス爆撃でファーサイドからクリスチャーノ・ロナウドが強襲してくるので、枚数を増やすのが得策です。5バックでアムラバトに攻撃の全てを託したかったマラガですが、マルセロの肘打ちをしてアムラバトは退場してしまいます。

こうなったら後は守り倒すだけのマラガに対して、レアル・マドリーはカメニが疎ましい展開になっていきます。中央を固められても、それでもシュートまでいける、相手のエリアに侵入できるのが今季のレアル・マドリーの良さでもあるのですが、入らないときは入りません。マラガによる展開の操作、レアル・マドリーがカウンターをできないように試合を展開するといったゲームプランがお見事としか言いようのない試合でした。自己の不甲斐なさにゴールポストを蹴っ飛ばし、最後にイエローをもらうクリスチャーノ・ロナウドで試合は終了します。

とにかく得点が入りませんでしたという試合は2度目です。しかし、相手のエリア内に侵入したり、4-3-3になってからは相手のサイドバックとセンターバックの間を執拗に狙ったりと効果的な動きもできているので、また次の試合は爆発するかもしれない(過去にクリスチャーノ・ロナウド祭りが実際に開催されている)という流れにはなりそうです。ただ、頭から4-3-3を行う日が来るのかどうかは気になります。試合の途中に行うから効果的とも言えますし、そんなことは関係ない破壊力が4-3-3にはありそうなので、ベニテスの采配に注目です。前半に狂った歯車を修正する采配は持っていますので。

■気になった選手

アムラバト。孤独でもポストプレーよし、裏抜けよし、ドリブルによる仕掛けよしと、気がつけば何でも屋。この試合でレアル・マドリーを一番苦しめたのはカメニで間違いありませんが、ナチョ・フェルナンデスとヴァランを苦しめ、マラガを防戦一方の状況にさせなかった存在感はピカイチでした。ロンドン・オリンピックを思い出させる懐かしい名前の選手が頑張っているのを見ると、日本のロンドン・オリンピック世代も頑張ってもらいたいところです。アムラバトはオーバーエイジで出場していたので、世代は違いますけど。

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