今季の欧州サッカーを振り返ろう企画。今回はチャンピオンズリーグのグループステージから、マンチェスターシティ対バイエルンを対象。バイエルンは既にグループリーグの突破が確定。マンチェスター・シティはどん底の最下位でこの試合に勝たなければグループステージ敗退が濃厚という崖っぷちに追い込まれた状況。突破が確定しているのに、ロッベンとリベリを起用するあたりがえぐいグアルディオラ。崖っぷちのペジェグリーニは気持ち労働者が多めのスタメンを選択。そんな両者のぶつかり合い。
■斬り合いのマンチェスター・シティ
マンチェスター・シティの守備の形は不安定。ランパードを前に出す4-4-2か、ミルナーと同じ列になっての4-1-4-1なのか。相手のボールを保持するエリアによって、双方のシステムを使い分けているようにも見えなかったので、恐らくアドリブで対応していたのだろう。
勝つしかない状況のマンチェスター・シティ。自分たちがボールを保持しているときは、ボールをできるだけ繋ぐ。バイエルンがプレッシングをかけてくる。猛烈なプレッシングをかいくぐることができれば、ご褒美が待っている。そのご褒美を手に入れるために、繋ぐリスクを恐れない。相手がボールを保持しているときは、できるだけ高いエリアからボールを積極的に奪いに行く。ランパード、ミルナーはエリアを飛び出してボールを奪いに行く。フェルナンジーニョは後方に控えてリスクマネジメントをする。
繋ぎに関しては、非常に危なっかしかった。バイエルンの猪突猛進プレッシングを正面から受け止めたので、ボールを奪われる場面や攻撃の精度を下げさせられてしまう場面も多数。しかし、ときどきはプレッシングを回避することに成功し、そのときはスペースを得ることができていた。プレッシングを回避できた場面は例外なくフィニッシュに限りなく近づけていた。よって、危険な賭けは成立していたと言っていいだろう。危なかったけど。
守備面に関しては、相手の攻撃を遅らせることはできれど、徐々にバイエルンのボール保持が高まっていったことを考えると、アドリブ満載の守備が機能していたとはいえない。相手から一秒でも早くボールを奪い、ボールを保持しながら相手の隙を伺う、いつものバイエルンが時間とともにその姿を表していく序盤の展開となった。
バイエルンは2つの形で相手に迫る。ポジションチェンジしながら、お互いのポジションをクロスさせながら、移動するふりして移動しなかったりと、相手と駆け引きをする。ボールの位置に応じて、味方のいるべきエリアが決まっている印象を受けた。ボールを前進させられないときは、サイドチェンジとポジションチェンジを併用する。または、バックパスの連続でポジションニングを整えてからシティに迫っていく。
攻撃面でシティが見せた勇敢さを帳消しにするかのようなバイエルンのいつもの表情を曇らせたのはランパードのスルーパス。抜けだしたアグエロをエリア内で倒したベナティア。痛恨のレッドカードとPK献上。そして、アグエロが決める。
■10人になっても、数の理論
10人になったバイエルン。勝たなくてはいけない11人のマンチェスター・シティ。ビルドアップの前提が数的優位ならば、その前提は崩れ去っている。また、ゲームプランとしての高い位置からのプレッシングはこの状況に対して理にかなっているので、マンチェスター・シティが一気に動き出す。対抗するはバイエルン。ロングボールをレバンドフスキでも悪くはないかもしれないが、人数の少ない状況でトランジションが起こりやすい状況は歓迎できない。よって、この状況でも繋ぎ倒す道を選んだ。
形は一定ではないが、基本形。10人になってからのノイアーのボールタッチ数は飛躍的に増えていった。最初にセンターバックが横幅をとる。アグエロたちの距離を離すことが目的。守備の基準点がずれれば、ラッキー。そして、シャビ・アロンソを落とす。ときにはホイビュルクが落ちることもある。シャビ・アロンソがマンマークで対応されたら、ノイアーに戻してやり直すか、ホイビュルクも落ちて4バックになる。
サイドバックは基本横幅。ただし、リベリ、ロッベンが相手の隙間でボールを受けられないときはポジションチェンジをする。六ベリーが横幅、サイドバックがライン間でボールを受ける。ミルナー、フェルナンジーニョ周りに相手がたくさんいる。マンチェスター・シティはサイドバックやセンターバックが助けに行きたいが、さすがに持ち場を離れすぎ。センターエリアなら持ち場を離れていたかも。ここはバイエルンのエリア。恐らく、マンチェスター・シティのディフェンスラインからヘルプが来たら、レバンドフスキに放り込む準備があったと思う。
基本的には数の理論。ポジショニング、角度も大切だが、数で勝ればボールを前進させられる、という考えはブレンダン・ロジャーズの得意技。正確には数と角度。
相手のポジショニングがセットされる前に強襲できれば、マンチェスター・シティは相手の攻撃の精度を狂わすことができる。でも、ノイアーに下げられる。ノイアーまで突撃する場面は少なかった。ノイアーが蹴っ飛ばしてくれればマンチェスター・シティ的にはOKだが、そのプレッシングがショートパスで剥がされたら悲劇の始まり。よって、マンチェスター・シティもリスクを冒しまくるなんてことはなく、気がついたら自陣までバイエルンがボールを運ぶ場面が多くなっていった。
■オチはヒューマンエラー
マンチェスター・シティのなかで暴走気味だったのがナスリ。マンチェスター・シティの攻撃がサイドチェンジからのヘスス・ナバスに偏ったこともあり、寂しそうだったナスリ。相手が10人になったこともあって、ポジショニングが自由になっていく。いるべき場所にナスリがいなくても相手の枚数が足りないのだから問題ないという判断だろう。最低限の矜持。しかし、華麗にスルーされていた。ヘスス・ナバスサイドに移動した後に、ミルナーにサイドの守備は任せた!と指示をしても、自分で戻れ!と言われるナスリが目撃されている。
四苦八苦しながらも相手陣地に辿り着いたバイエルン。相手のファウルから直接フリーキックを得ると、シャビ・アロンソが叩き込んでまずは同点。そして、ナスリが守備をサボり、フリーのボアテングから中央のレバンドフスキへクロス。これを頭か肩で合わせて一気に逆転に成功したバイエルンだった。重苦しい雰囲気になるマンチェスター・シティだったが、幸か不幸かすぐにハーフタイム。そして陣容が変化する。
いっそのこと中央にナスリを配置するというペジェグリーニ。この采配は当たった。後半のバイエルンは4-4-1で撤退。前半のようにボールを保持する場面は数少なかった。ボールは渡されたマンチェスター・シティはナスリのポジショニング、サイドからの外外循環でバイエルンのゴールに迫っていく。ナスリのポジショニングで一気にフィニッシュに繋げる場面もあり、マンチェスター・シティが試合の主導権を握るかと思われた。
そして次にミルナー→ヨベティッチが登場。ナスリはサイドにおいやられたが、気がついたらヨベティッチがサイドにいる。よくわからない采配だったが、狭いエリアでもプレーできる選手が増えたことで、マンチェスター・シティは密集からチャンスを掴みそうになる場面も見られた。バイエルンは選手を交代しながらも、ナスリサイドから攻撃を仕掛けるという誘惑に負けることなく時間を潰していった。
そんな我慢の試合。試合を動かしたのは個人のミス。シャビ・アロンソのバックパスが奪われて、アグエロが独走。ボールを奪ったのはヨベティッチ。そして、次のミスはボアテング。繋ぐかクリアーかの判断ミスからくる技術ミス。繋ぐチームの宿命。グアルディオラからすれば、シュバインシュタイガーを出し、ロッベンを前に出して、相手の攻撃に対応させたのに自滅から逆転を許すやるせない展開。ペジェグリーニからすれば、相手の守備に苦しんでいたのにひょんなことから一気に逆転までいけた幸運な試合であった。
■独り言
振り返ろう第一弾のドルトムント戦でも正しい手を打っているのに勝てないグアルディオラ。なんとこの試合も似たような展開になってしまった。こういう流れって意外と大事。優勝できるチームはなぜか勝ち点を拾う試合を繰り返す。でも、バイエルンはリーグで優勝し、シティはたぶん無冠で終わったはず。だから、偶然性に期待しても普通はいいことないぞ、というお話でした。
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