レイソルの躍進を支える2人のキーマン【柏レイソル対浦和レッズ】

マッチレポ2017×Jリーグ

下部組織出身者かつ若い選手が多いため、東京ヴェルディとともに学徒動員と揶揄されることもある柏レイソル。しかし、結果が出ればそんな批判もどこ吹く風。茨田、秋野、古くは工藤、そしてユースから中村くんの大脱出が行われ、何が起きているんだとサポーターをドギマギさせたが、結果が出ればそんな批判もどこ吹く風。さらに言えば、ハモン・ロペス、ディエゴ・オリベイラ、クリスティアーノで殴るはずが、スタメンに残ったのはクリスティアーノのみ。中川をプレッシングの尖兵とする相手陣地からの守備を基本とすることで、チームの戦い方が一気に整理された印象を受ける。そして、大谷の相方に手塚が台頭し、キーパーではとにかくシュートを止めるマンの中村が君臨している。

アジア・チャンピオンズリーグにおいて、大逆転劇と乱闘劇になってしまった浦和レッズ。さすがにコンディション不良だろう、というわけで、高木、関根が起用されている。ミシャはスタメンを固定する印象があるので、ターンオーバーはこれだけで大丈夫なのか!!!!と、外野がどうこういってもしょうがない。捨て試合とは言わないが、割り切ることで得られるものもあると思うのだが。序盤にあったヴィッセル神戸戦のように、首位攻防戦というよりも、首位にいる資格があるかどうか試すために、浦和レッズが存在しているような。そんな巡り合わせが多いのは、ちょっと面白い。浦和レッズを倒したら首位にいても良いみたいな。そんなコンセンサスがあるかどうかは知らないが、浦和レッズを倒したら本物感は間違いなくありそう。何だその番人感は。

小さな巨人こと、中川寛斗

コンディションが良くないだろう浦和レッズに対して、休養十分の柏レイソル。コンディションの差が目に見えるレベルで現れるのは、やはり運動量になるだろう。というわけで、柏レイソルはいつものように4-4-2で浦和レッズの陣地からプレッシングをかけた。西川をポゼッションの避難場所として活用してきた浦和レッズ。しかし、柏レイソルは避難場所までプレッシングをかけてくる。プレッシングの中心は中川寛斗。クリスティアーノも中川寛斗に引っ張られるようにプレッシングをしていたことが印象に残っている。キーパーまでプレッシングをかけると、プレッシングの連動性が欠けてしまう傾向がある。しかし、相手のキーパーまでプレッシングをかけることを日常にしている柏レイソルにとって、キーパーまでプレッシングに行ったからって、連動性がかけるなんてことはまるでなかった。

チャンピオンズ・リーグのセミ・ファイナル、マドリード・ダービーにおいて、アトレチコ・マドリーがレアル・マドリーを追いつめたきっかけもプレッシングだ。自陣での数的な優位性を担保するために犠牲になるのは前線の選手と相場が決まっている。つまり、前線の選手は余分に走らなければならない。それが日本では2度追いと呼ばれている。2度追いを辞さない中川とクリスティアーノの献身性が、柏レイソルの好調の原因となっていることは間違いないだろう。柏レイソルのプレッシングに対して、浦和レッズは正面から向き合う場面もあれば、ロングボールで回避する場面もあった。現象として、浦和レッズの選手たちがまったりとボールを保持するいつもの景色はピッチには見られなかった。運動量によって、相手がボールを保持して思考する、または休憩する時間を作らせなかった柏レイソルのプレッシングは、脅威的な強さを誇っている。流行りの言葉を使えば、インテンシティが高いとなるだろう。

脅威的なプレッシングによって、浦和レッズに日常的なボール保持を許さないこと、という柏レイソルの目標は達成された。浦和レッズはプレッシングをかいくぐったり、ロングボールで裏抜けを狙ったりする。李忠成の裏抜けからのクロスや、序盤の高木のこぼれ球シュート、そして、森脇のミドルと浦和レッズに決定機がなかったわけではない。ただし、柏レイソルのプレッシングの激しさの影響もあったにせよ、浦和レッズの面々はイージーな技術的なミスが目立ったことも、また事実であった。ボールを持てど落ち着けないならば、ボールなんていらなかったんや!となる浦和レッズ。序盤こそはシャドウ+興梠で前からボールを奪いに行くそぶりを見せていたが、気がつけば、5-4-1の撤退に落ち着いた浦和レッズ。柏レイソルがボールを保持する展開となっていった。

下部組織を具体例に出すまでもなく、柏レイソルの真の正体はボール保持攻撃にある。前からのプレッシングを採用した理由は、撤退守備における高さ不足をごまかすためだろう。また、守る機会を減らすという意味でもボール保持攻撃は適している。ビルドアップの中心は手塚&センターバックコンビ。手塚のポジショニングによる可変式ビルドアップと小池のときどき行われるアラバロールが巧みだ。そして、この試合ではボックスの形(2センターバックと2セントラルハーフ)でビルドアップが行われる場面が多かった。2センターバックには興梠が根性で寄せる。ときどき李忠成がサポートにくる。でも、柏レイソルのセンターバックコンビはとくに苦労していなかった。苦労しそうなエリアが、2セントラルハーフエリアだった。阿部と柏木の同数のマッチアップになっていたからである。

ここで登場するのが小さな巨人こと中川寛斗。阿部と柏木の間にポジショニングする芸当をみせることで、浦和レッズのセントラルハーフコンビに迷いを抱かせる。浦和レッズの約束事では槙野が対応することになっていたのだろうけど、槙野がどこまでついてくるかを見極める中川寛斗。槙野がついてきにくいポジショニングまで下がることによって、ビルドアップの出口になるというよりは、セントラルハーフに時間とスペースを与えるポジショニングをしていた。見えないものを見える選手なんだなと。プレッシングの出発点として絶え間ない運動量で注目される選手だけれど、非常に賢いポジショニングもできる選手だということを証明している。さすが、柏レイソルの下部組織出身者と言うべきか。

浦和レッズの守備で違和感を感じさせられたのは李忠成と高木の役割の差だろう。李忠成はハーフスペースに位置することが多く、高木はサイドまで守備に移動することが多かった。柏レイソルのサイドハーフの特性を考慮した役割だったかもしれない。しかし、関根がサイドの守備で移動する→森脇も移動する→遠藤も→となっていくなかで、ずらされていきそうな浦和レッズの左サイドの守備であった。ただ、クリスティアーノの個人技から生まれた決定機くらいで、柏レイソルはボールを効果的に保持していたけれど、フィニッシュまではなかなか辿り着けない展開となっていった。しかし、前半の終了間際に試合が動く。問題だった左サイドではなく、右サイドからゴールが生まれたのは何の皮肉か。小池の縦突破からのクロスにファーサイドで合わせた武富の折り返しを中川が決める。ファーサイドの守備のマークはどうないなっとるねんみたいな森脇と関根のコンビネーションだったのが浦和レッズからすると、辛いところであった。

試合を破壊する中村航輔

後半の序盤に小池のアラバロールからの突破から最大の決定機をつかむ柏レイソル。しかし、決めるだけのシュートをクリスティアーノが外す。クリスティアーノの能力に疑いの余地はまるでないが、簡単なシュートを思いっきり外す印象が強い。リードされたこともあって、浦和レッズが攻勢に出ることは明白だ。よって、柏レイソルは前からのプレッシングを行いながらも、相手にスペースを与えないように撤退しながらの守備を行なうようになっていく。前半に見られたように、ロングボールから裏一発で相手にチャンスを与えることは避けたかったのだろう。自分たちでボールを保持する場面も減り、クリスティアーノの単騎突撃が目立つようになっていく。そのときのクリスティアーノの迫力は半端じゃない。

浦和レッズのボール保持攻撃の機会と精度をプレッシングで削りながら、浦和レッズの攻撃を受け止めていく柏レイソル。幸運だったのは、サイドバックの高さのミスマッチを狙われなかったことだろう。李忠成が多少はそんな雰囲気を出していたが、基本的には大外のウイングバックがボールを受けて勝負の浦和レッズ。ユベントスのマンジュキッチ大作戦ではないが、がんがんロングボールをサイドバックに狙い撃ちにしてきたときに柏レイソルの真価が問われるのかもしれない。それをさせないためのボール保持と前からのプレッシングなんだけども。

後半になればコンディションが落ちていきそうな浦和レッズだが、決定機を作っていく。興梠のPK、大外からの関根のボレーシュート、ゴール前でクロスを受けた興梠のシュートと、入ってもおかしくない場面がたびたに続いた。それをことごとく防いだのが中村航輔。ダゾーンによる素晴らしいセーブだ!特集でも、FC東京の林と常連になっている。PKは興梠が枠を外したのだけど。相手の弱点を狙い撃ちというよりは、自分たちの型を貫き通すことで決定機まで行ける浦和レッズは立派といえば立派。その一方で、柏レイソルの弱点(サイドバックの高さとか1.2列目を支配してセントラルハーフを動かすとか)を狙い撃ちにしてこなかったことは、間違いなく柏レイソルを助けていたと思う。内容や決定機の数で言えば、引き分けが妥当な試合でもあった。そういった妥当性を破壊できる選手というのは貴重も貴重。

試合を壊すといえば、両面の意味がある。ポジティブな試合を壊すというのが、今回の中村航輔のプレーと言えるだろう。本来であるならば、引き分けで終わっていただろう試合を個人能力で勝ちにしてしまう。メッシやかつてのクリスチャーノ・ロナウドも、個人能力で試合の内容を破壊してしまう選手と言えるだろう。ネガティブな意味で試合を壊すというのが、ビルドアップミスで相手に得点を献上してしまうような。または、相手の優位性に対して、ただ受け入れるみたいな。何にせよ、前線の選手の頑張りも異次元なレベルに達しているのだが、中村航輔の貢献も半端ではない。ただし、中村航輔はビルドアップやロングボールでチームに貢献できないタイプの予感がひしひしと伝わってきている。キーパーの本分はシュートストップなので、まあいいのかもしれないが、柏レイソルの下部組織出身なのに、もしかしたらキックは得意ではないのか?というのがなかなか面白い。試合は1-0で終了。中川寛斗と中村航輔という柏レイソルの躍進を支えるコンビの活躍で柏レイソルが首位にふさわしいことを証明した。

ひとりごと

柏レイソルは、このプレッシングがいつまで持つのだろう、みたいな心配はある。暑くなってくるし。中川の代役がいるのかどうか。それとも、全く異なるサッカーに変えるのかはちょっと楽しみだ。クリスティアーノとディエゴ・オリベイラによる突撃サッカーと中川によるプレッシングサッカーを使い分けるようになったら、驚く。

浦和レッズは疲れていたのだろう。阿部の交代が全てを物語っている。それでも、引き分けに持っていけそうだった地力は流石というべきか。代表戦によるお休みもあるので、しっかりと休憩して欲しい。

コメント

  1. Jリーグ好き より:

    いつも非常に深い考察ありがとうございます。
    今度ベガルタ仙台の試合についても感想・レポートをいただけませんか?

    当該チームは、今期からポゼッションサッカーを試みており、今のところ成功しているように見えます。
    コンテのサッカーを参考にしているようです。

    浦和レッズやサンフレッチェ広島の3−4−3とは何が異なるのかという視点で、考察していただけないでしょうか。

    • らいかーると より:

      こんにちは。

      ベガルタ仙台の試合の放送があれば、やります!他のチームと比較してみますね!

  2. いつも楽しく拝見させてもらっています。
    >クリスティアーノとディエゴ・オリベイラによる突撃サッカーと中川によるプレッシングサッカーを使い分けるようになったら、驚く。

    それ、私も思っているところです。
    これを使い分けできるようになったら面白いですよね。ただ、序盤では全く通用しなかった形なのでなんとも言えませんが・・・・
    今でもルヴァン、天皇杯ではこっちの形よりですし、リーグでもゲーム終盤では守備はプレスでなく、リトリートして、前でディエゴが暴れるって形をやっています。
    ただやっぱり機能した試合は少ないです。

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