ヴォルフスブルクに敗戦してから、負けが続いているマンチェスター・ユナイテッド。数字で表せば、4連敗中。ファン・ハール解任の声が高まるなかで、始まったボクシング・デー。ストーク戦から中1日で対戦するのはチェルシー。モウリーニョが解任されて、ヒディンクが再登場している。ファン・ハール対ヒディンクという何と形容したらいいかわからないけれど、それなりに興味深そうな対決となった。このチェルシー戦の前に、モウリーニョがマンチェスター・ユナイテッドの監督に就任する!?とメディアを騒がせたが、ファン・ハールはまだ生き残っている。ヒディンクにとどめをさされるのか、それともファン・ハールは砕けないのか。
■守って守ってカウンター
バスケットの言葉をかりれば、前線はスモールラインナップで臨んだ両チーム。マンチェスター・ユナイテッドはルーニーとエレーラ。チェルシーはアザールとオスカル。前線がスモールラインナップだと、ハイボールにどうしても弱くなってしまう。プレミアリーグのセンターバックは屈強である(どこもセンターバックは屈強)ことが多いので、ハイボールのへ相性はより悪くなる。そのため、スモールラインナップに備えた準備、そして狙いがピッチにあるかどうかが注目点となった。
チェルシーの守備は4-4-2。トップ下に配置されているオスカルを前にだす形でシステムの変換は行われた。1列目の守備の役割はかなり曖昧であった。高い位置から追いかけまわしたり、自陣で2列目との距離を縮めたり。どちらの選択(前から行くか、いかないか)をするかの判断基準はなかなかわからなかった。恐らく隙(相手がバックパスしたり、パスがずれたり)したらプレッシングに行けという指示があったのだろう。しかし、2列目がそんなプレスに連動することはほとんどなかった。
いわゆる降格圏内付近に位置しているチェルシー。難しい状況のチームを率いることとなったヒディンク。途中就任の監督の主な仕事は、チームのプレーモデルを単純明快にすること&負けが続いてできたネガティブなメンタル状態をポジティブな状態に持っていくこととされている。セスクの欠場も相まって、この試合のチェルシーは引いて守ることを最優先にチームに準備してきた。いわゆる4-4-2での自陣に撤退。相手にボールを渡すことを厭わない。そして、スモールラインナップのスピードを活かしたカウンターというのが、チェルシーのプランだった可能性は高い。よって、守備力のあるサイドハーフ(ペドロ、ウィリアン)、守れる中盤(ミケル、マティッチ)、繋げなくても守れるセンターバック(ズマ)を起用している。
マンチェスター・ユナイテッドのシステムは4-2-3-1。守備のときはエレーラを前に出す形で行われた。基本的に相手陣地からプレッシングを積極的に仕掛けていく。チェルシーはボールを保持する意図があまりなかったので、ロングボールを蹴っ飛ばし、スモールラインナップが競り負ける場面が目立った。ただし、チェルシーからすれば、ポゼッションからボールを奪われるよりは、相手の深い位置にボールを蹴っ飛ばして、守備を整えた状態での攻撃を相手に仕掛けさせる意図があったのだろう。
よって、ボールを保持する展開になったマンチェスター・ユナイテッド。ときおり、アザールたちが素早いプレッシングを仕掛けてくる時があった。しかし、スモールラインナップにロングボールを蹴らないための準備をしていたファン・ハール。チェルシーの4-4-2に対して、効果的にボールを前進させられる場面が多かった。
マンチェスター・ユナイテッドのキーマンはシュナイデルランとシュバインシュタイガー。特に後者はファン・ハールに抜擢されて中央でのプレーをするようになったと記憶している。いわゆるツーセントラルなのだが、ピッチを均等に配分しない流行りの方法でチェルシーの守備に対抗した。パターンとしてが、片方が相手のツートップの間にポジショニングする。もう一方はサイドによる。または、片方がセンターバックの間に落ちる。もう一方は、相手のツートップの間にポジショニングする。
このような中盤のポジショニングによって、チェルシーの1列目を突破していくマンチェスター・ユナイテッド。そして、マタとエレーラが相手のライン間にポジショニングをする。サイドの選手(ウィリアンとか)が引っ張られれば、サイドバックの攻撃参加を促すことになる。中央の選手(ミケルとか)が引っ張られるようになれば、中央のルーニーが中盤に落ちてきて攻撃の起点となることができる。そして、左サイドからがマーシャルとダルミアンが突撃を繰り返す。右で作って左サイドから蹂躙する。左サイドでひきつけて、ヤングのクロスにつなげると、マンチェスター・ユナイテッドは効果的に攻撃の形を繰り返していった。
相手の型やレベルが違えど、ストーク戦では共通する文脈のようなものを感じなかった。しかし、この試合ではシュナイデルラン、シュバインシュタイガー、ルーニー、マタ、エレーラ、ブリントを中心とするポジショニングサッカーでチェルシーに防戦一方の試合をさせることに成功している。これがファン・ハールの手腕なのかどうかはわからない。ストーク戦から選手が交代したことでもたらされたものなのかもしれないからだ。試合に出場する選手の差によって、同じポジションでも役割が大きく変わりすぎることがポジティブなことだとは、ちょっと思えない。選手によって、内容に大きな差が生まれれば、安定した結果に繋がらないからだ。
共通する絵を描いたマンチェスター・ユナイテッドは、見事な攻撃でチェルシーのゴールに迫っていく。チェルシーはクルトワのスーパーセーブで事なきを得ていく展開となる。もちろん、このために起用された守備的な面々も執拗な粘りをみせた。守備の枚数が足りなくなることはなく、ウィリアンたちもサボらずに戻る。そして、アザールとオスカルを中心としたカウンターに望みをかけた。スモールラインナップによるカウンターの勢いはあった。特に孤立気味のアザールだったが、得意のドリブルでファウルをもらう。味方を休ませる時間を稼げるし、相手にはカードも提示された。
後半のチェルシーはスペースを重視して守備をするようになる。前半は人に気を取られスペースを空けてしまう場面が目立ったからだ。このエリアまでは相手につかない。ここからは相手についていくことをはっきりさせたことで、前半よりもマンチェスター・ユナイテッドの攻撃精度を落とすことに成功するチェルシー。最大のチャンスはコーナーキックからのカウンター。フィニッシャーはなぜかマティッチ。しかし、デ・ヘアの飛び出しのプレッシャーに耐えられなかったのか、ボールは枠との外へ飛んでいった。
もしもこのゴールが決まっていればとチェルシーの面々は言うかもしれない。しかし、決定機が明らかに多いのはマンチェスター・ユナイテッド。マーシャルの突撃は得点の香りを感じさせ、エレーラ、マタ、ルーニーのポジショニングアタックはチェルシーを苦しめていた。しかし、立ちはだかる守備を重視した面々とクルトワ。クルトワがいれば、モウリーニョも解任しなくてすんだのではないか?という活躍を見せていた。
攻めに攻めるマンチェスター・ユナイテッド。クロスに飛び込んだシュートもクルトワに塞がれ、ルーニーのボレーは枠の外。自陣に撤退したら最強だろう布陣を引いてきたチェルシーの前に効果的な攻撃を仕掛けることもできた。さらに、決定機もたくさんあった。それでも得点は最後まで奪えず。困ったときのセットプレーも発動せずと試合は0-0で終える。
ヒディンクからすれば、守備を最優先にし、カウンターで得点が取れたら良いなくらいの試合だったと思う。よって、引き分けで上出来。
ファン・ハールからすれば、4連敗という記録が止まったことはセーフ。試合の内容も決して悪くなかった。その信頼感を取り戻すだけのサッカーをしていたと思う。ただし、結果が出なかったことがネガティブ。ルーニーが決めていれば、大団円で終わった試合だったのだが、クルトワをこえることは最後までできなかった。ただし、デ・ヘアも止める場面はそれなりにあったので、良いキーパーが試合をしめたともいえる。
■ひとりごと
チェルシーが現実的なサッカーをしたことは、ヒディンクの自己紹介みたいなもの。ひとまず結果だと。負けないことが大事だと。そのためには守備だと。内容がどうこうではなく、結果が今は求められているのだと。
マンチェスター・ユナイテッドはブリントのセンターバックも機能し、相手の型を殴る直前まで言っていた。しかし、殴り続けてもクルトワが砕けなかった。それでも、ストーク戦から比べれば、内容は遥かにまし。そういう意味ではポジティブ。ただし、選手を入れかえるなかで、各々の役割が違いすぎることがチームに与えられたものなのか、個人の差なのかは不明。この部分が重要中の重要。特にビルドアップは相手の型に応じてどのようにすべきかの型が存在する。よって、相手の型に関わらず、選手が変わればこちらの形も変わるではちょっと話にならない。
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