【マティッチへの采配で見えたモウリーニョの苦悩】チェルシー対サウサンプトン

マッチレポ1516×プレミアリーグ

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試合は1-3でチェルシーがホームで敗戦。モウリーニョのチェルシーはホームで無類の強さを誇っていたと記憶しているのですが、今季の結果を見て行くと、今は昔のようです。昨年のプレミアリーグ王者のチェルシーがなぜこのような状況になってしまったのかを探るために、しばらくはチェルシーを追いかけてみようかなと考えています。

対するはサウサンプトン。監督はロナルド・クーマン。バレンシアでの失敗からいい印象はないが、バレンシア以外ではむしろ成功しているという経歴の持ち主。細かく見て行くと、失敗もあるものの、フェイエノールトでの成功からサウサンプトンに移動。そして、主力を引きぬかれながらもチーム力を維持している印象を受けています。

■すべての局面でまずいチェルシー

チェルシーのシステムは4-1-4-1。マティッチとセスクを並べる形がおなじみでしたが、ラミレスをアンカーとし、セスクとオスカルをインサイドハーフに起用していました。4-2-3-1のときは4-4-2に変化して守備をしていた記憶があります。その守備を4-1-4-1に変化させたということは、守備に不安があり、その解決方法という可能性が高いでしょう。プレッシング開始ラインを前に置いても効果的ではない、というちょっとした苦悩がすけて見えます。ちなみに、マティッチはベンチに座っていました。

チェルシーの攻撃の形を見ていると、オスカルとセスクがビルドアップをサポートする形が目立ちました。サイドバックがボールを持ったときにサイドに流れる動きによって、相手のサイドハーフを孤立させる狙いををオスカルに何度も行います。インサイドハーフがサイドに流れて相手から自由になる動きは、グアルディオラのバイエルンが良く行う手法になります。中でプレーしたいアザールへのパスコースの確保を意味する動きでもあるのでしょう、隣り合うポジションは同じ列にいてはいけない、という格言通りの動きになります。

サウサンプトンのシステムは4-4-1-1。別に4-4-2でも構いません。マネがラミレスにつく配置に見えますが、一緒にデートする、というよりはたまたまそばにいるから観るくらいの形でした。この守備の形の場合、セスクやオスカルがビルドアップをサポートすると、サウサンプトンは2列目の守備から誰かを飛び出させる形になります。つまり、オスカルたちのプレーエリアによってセントラルハーフ、またはサイドハーフが飛び出すかは決定されます。オスカルやセスクをフリーにすると、運ぶドリブルやパスで前線に時間とスペースを供給されてしまう状況をサウサンプトンは避ける必要があります。そして、サウサンプトンの選手をおびき出して、空いたスペースを使うんだろうなとチェルシーの攻撃を眺めていました。

しかし、そういった場面は特に観られませんでした。チェルシーの攻撃は今までどおりにサイドバックがそこまで高い位置を取らず、攻撃の起点(自分でどうこうするのではなく、相手をひきつけることで、ウイングに配置されているスペシャルな選手たちにスペースを与えること)となることから始まる攻撃が観られました。しかし、オスカルとセスクの位置がビルドアップのサポートのために全体の重心が下がり気味でした。よって、ウィリアンとアザールは特攻気味の攻撃になり、ファルカオは孤立していました。

セスクとオスカルの役割については賛否両論があると思います。チェルシーのセンターバックは試合を作れません。よって、攻撃の貢献はほとんどありません。この試合でもケイヒルの攻撃参加からボールを失う流れは何度も観られました。よって、中盤の選手たちがセンターバックがすべき攻撃の役割をする必要があります。この負荷は前線に影響を与えます。だったら、オスカルをトップ下に配置して、セスクとラミレスにサポートをさせればいいとなりますが、オスカルもサポートをしたほうがボールを保持するという意味では安定感が出ます。あくまで攻撃を仕掛けずに地道に前進していけばの話ですけど。

ボールを保持しながら地道にアザールたちが個人技を炸裂させることを待つ、というのはなかなか勝てないチームにおいて悪くない考えだと思います。リスクも少ないなかで、質的有利で相手に迫り続けることは理にかなっています。ただし、チェルシーの攻撃はボールを保持を続けるようなものでなく、特攻や可能性の低い攻撃を繰り返すことで、相手にボールを与えてしまう場面が目立ちました。つまり、どのように攻撃を仕掛けていくかの意思統一ができていないように感じました。特に、ウィリアンのフリーキックが炸裂してからのファルカオへ繰り返される放り込みは、まるで可能性を感じさせないものになっていました。

スーペルなウィリアンのフリーキックが炸裂して、チェルシーは10分で先制に成功します。ここからのチェルシーは迷いに迷います。ときどき攻守は一体であるという表現が使われます。この言葉はいろいろな解釈がありますが、ポジショニングに攻守両面の意味を持たせることが重要なポイントとなります。つまり、ぼくはこのポジショニングによって攻撃にも守備にも対応できるよ!ということが重要です。もちろん、配置されたエリアによってどちらを重視するかは変化していきますが。

チェルシーの攻撃は徐々に単発になっていきます。その流れでボールを失います。そして、どのように守るかが次に決定されるべきなのですが、この決定が曖昧でした。レアル・マドリーはクリスチャーノ・ロナウドが守備をしません。しかし、それを割りきって守備を基本的(マドリードダービーではなぜかしませんでした)に行います。ディ・マリアがインサイドハーフをしながらサイドハーフの守備をしていたことを思い出してください。つまり、いるべき場所に誰かがいなかったらそのときはどうする?という約束事が必要になります。

チェルシーはこの決まり事がないように見えました。この試合の攻撃はバラバラ。だからボールの失い方も悪い。さらに、セスク、オスカル、ウィリアン、アザールの攻守の切り替え、攻守両面の意味をもつポジショニングもできない。そして、彼らがいるべき場所にいないときの守備の準備もできていない。しかし、残念そこはクルトワは怪我で離脱。試合を作れないけれど、本来の仕事である相手の攻撃を跳ね返すことにDFラインの面々は衰えを隠せないと、とんでもない悪循環に陥っています。

だったら、最初から守備から入ればいい気もします。しかし、今日は4-1-4-1。もちろん、ワントップに岡崎やエトーならいけます。でも、ファルカオです。前からプレッシングをかけるにはちょっと適していません。チェルシーの2列目には攻撃的な選手も配置されていますし。この流れにさらに拍車をかけたのがサウサンプトンの正しさです。相手にリードされてもうっすら笑みを浮かべながらベンチに座っているクーマンは恐怖です。サウサンプトンのセンターバックはボールを運べます、試合も作れます。ロメウやワニアマのサポートを得ながらどんどん相手の陣地に侵入していきます。ファルカオだけで相手のビルドアップを抑えられるわけはありません。サウサンプトンの正しさは相手の1列目に応じたビルドアップの枚数で前線に選手が足りませんという状況にしなかったことと言えます。

まとめると、チェルシーは自陣で守備の準備が整っていても1列目の守備の枚数が足りない問題から相手のセンターバックから始まる攻撃で後手を踏みました。そして、攻守の切り替えでも前述のように厳しい状況です。だったら、ボールを保持して時間を潰すことを考えられるのですが、セスクたちから縦パスに可能性が低くても奔走するファルカオです。

普通に考えると、どこからの局面では相手を超えることができるものです。自分たちがボールを保持していたらやばい、でも、相手がボールを保持していればどうにかなる!とか。カウンターはとにかく機能している!とか。しかし、今日のチェルシーはどの局面を考えても、非常に不利な状況になっていました。

こんな状況では勝てまいと見ていると、前半に追いつかれます。ケイヒルが競り合い、こぼれだまに反応したのはサウサンプトンの選手だけ。チェルシーの2列目は反応せずで、デイビスに叩きこまれます。後半になると、マネーの対応をテリーが失敗し、逆転ゴール。最後にはアザールのボールロストからカウンターをくらい、ペッレにダメ押しゴールを決められてジ・エンドでした。

モウリーニョも迷いに迷っています。後半の頭からラミレス→マティッチ。ラミレスは可も不可もなかったので、システム変更ならばぎりぎり理解できる交代です。セスクとマティッチで原点回帰だみたいな。しかし、システムは4-1-4-1のまま。そして、逆転されると、ウィリアン→ペドロ。これはわからなくない采配です。そして、逆転されると、マティッチ→レミー。後半から出場したマティッチが後半に交代。セスクとオスカルが中央で組んだわけですが、なかなかひどい采配でした。でも、ベンチを眺めても、他に誰もいないので、切なくなるモウリーニョの気持ちはよくわかるのですが。

試合はそのまま終わります。死なばもろともアタックになってからのチェルシーは相手のペナルティエリアに侵入できるようになっていきますが、それまではサウサンプトンのほうが決定機も多かった印象です。3失点で叩かれそうなベゴビッチですが、確実に何点かは失点を防いでいます。むしろ、ステケレンブルグのほうがナイスセーブは少なかったと感じました。

この試合のチェルシーは攻撃と守備、そして攻守の切り替えも含めて、どの局面でも良さを出せませんでした。攻守が一体であるならどちらかを改善すれば、ひとまずは息をつくことができそうです。この試合ではセスクとオスカルを並べることで、ボールを保持した状態をどうにかしようと画策しましたが、どうにもならず。そして、繋げないし守れないセンターバックとイバノビッチをどうするのだなどと考えていくと、かなり厳しい状況です。同時に様々なことが起こっているチェルシーですが、モウリーニョを解任したところで、どうにかなるものではないので、モウリーニョに丸投げが正解に見えます。でも、キャプテンのテリー、副キャプテンのケイヒルを残しながらどうにかするってのはなかなか骨の折れる問題のような気がします。

2列目のタレントを活かしながら問題を解決するなら、ボールを保持した攻撃を改善する必要があります。ひらきなおって結果を求めるなら、中央の4枚(センターバックとセントラルハーフ)に守れる選手を配置する必要があります。どっちの道をモウリーニョが取るのか、それとも第三の手で来るのか、ファルカオとジエゴ・コスタを並べてひたすらに放り込んでも面白いと思いますけれども。どのようにモウリーニョが動いてくるのかは非常に興味深いです。

■気になった選手

サディオ・マネ。セネガル生まれ、フランス経由、ザルツブルグでたぶんブレイクしたのでしょう。シュミットのザルツブルグでプレーしていたので、かなり厳しく育成されていそう。守備をサボるなんてありえないみたいな。実際にこの試合でも守備を頑張り、攻撃でも中心選手。わかりやすい意味でスピードにあふれるドリブラー。それで守備をサボらないので、中央でもプレーできる。相手にすると、非常にめんどくさい。ゲームの世界でも活躍しそうな選手でした。

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