【2種類のセンターバックの攻撃】チェルシー対マンチェスター・ユナイテッド【6バックの理由】

マッチレポ1617×プレミアリーグ

チェルシーのスタメンは、クルトワ、アスピリクエタ、ダビド・ルイス、ケイヒル、カンテ、マティッチ、モーゼス、マルコス・アロンソ、アザール、ペドロ、ジエゴ・コスタ。新戦力としてチームに馴染んでいるマルコス・アロンソ。レアル・マドリーの下部組織出身だ。スタートダッシュからの連敗によって、コンテの伝家の宝刀である3バックを導入したチェルシー。3バックの導入とともに、今季は国内の大会に集中できる環境も相まって、一気に順位を上げてきている。スペシャル・ワンがスタンフォード・ブリッジに帰ってきたという文脈で伝えられるこの試合だが、優勝、チャンピオンズリーグ圏内を目指す上では両チームにとって、負けられない試合だ。

マンチェスター・ユナイテッドのスタメンは、デ・ヘア、バレンシア、エリック(バイリー)、スモーリング、ブリント、エレーラ、ポグバ、フェライニ、リンガード、ラッシュフォード、イブラヒモビッチ。リバプール戦での引き分け上等プランによって、世間を騒がしたモウリーニョ×マンチェスター・ユナイテッド。リバプール戦後のヨーロッパ・リーグでは、フェネルバフチェに快勝。その一方で、木曜日に試合が行われるヨーロッパ・リーグの日程に苦労しているらしい。木曜日のあとに週末に試合では何もできないではないか!みたいな。ターンオーバーをしながら、チェルシー戦に臨む。なお、怪我のため、ルーニーはベンチ外となった。

マンチェスター・ユナイテッドの準備を壊す最初の失点

リヴァプール戦で、6バックでリヴァプールの攻撃に対抗したマンチェスター・ユナイテッド。その姿勢は、この試合でも観ることができた。モウリーニョのプランとしては、しっかり守ってセットプレーやサイドハーフの走力を活かしたカウンター、イブラヒモビッチの質的優位で得点を奪えたらいいね!というものだったと思う。そのしっかり守っての部分が6バックも辞さない!という考えなのだろう。若くて献身的な選手をサイドハーフで使うモウリーニョの姿勢は、レアル・マドリーのベニテスの采配を思い出させる。

チェルシーのシステムは3-4-3。マンチェスター・ユナイテッドの守備の役割を整理していく。イブラヒモビッチは、ダビド・ルイスとデート。イブラヒモビッチが3バックの中央にポジショニングすることで、チェルシーは3バックのみによるサイドチェンジは不可能となる。カンテとマティッチを抑えるのは、ポグバとフェライニ。前の列に移動することもあったポグバだが、基本の役割はカンテを観るだった。つまり、6-3-1のようになる。マンチェスター・ユナイテッドのサイドハーフは、チェルシーのウイングバックを牽制する。そして、本来の4バックはペナルティエリア幅を遵守しながら、ペドロ、アザール、ジエゴ・コスタを撃退する役割となっていた。

しっかりと準備をしてきたことが伺えるマンチェスター・ユナイテッド。しかし、モウリーニョのプランがあっさりと崩れ去る。30秒でチェルシーに先制点が生まれたからだ。単純なロングボールをスモーリングが処理を失敗する。抜け目のないペドロが裏抜けに成功し、デ・ヘアをかわして、スタンフォード・ブリッジに歓喜をもたらした。早すぎるゴールが試合展開にもたらしたものは、マンチェスター・ユナイテッドの積極的なプレッシングだろう。両脇のセンターバック(アスピリクエタ、ケイヒル)には、守備の基準点をおいていなかったマンチェスター・ユナイテッド。しかし、失点後は、ポグバ、フェライニ、もしくはサイドハーフが果敢に飛び出していくようになり、その空いたエリアをエレーラが移動して埋めるようになっていった。

2種類のセンターバックの攻撃参加

センターバックの攻撃参加と言えば、運ぶドリブルがポピュラーだろう。運ぶドリブルの特徴は、オープンな状態のセンターバックが、前方へのドリブルによって、特定の相手をひきつけて、特定の味方をフリーにする技術だ。なんとなく前方にボールを運んでも何も起きない。何も起きないどころか、ボールを奪われたときに、相手にカウンターチャンスを許すエリアを与えてしまっている。なお、このエリアを相手に与えないために、マンチェスター・シティは、ストーンズとフェルナンジーニョの位置を交換することがある。トライアングルのスイッチとも表現できるが。

チェルシーがマンチェスター・ユナイテッドの6バック攻略で大きなポイントになっていたのが、センターバックの列を上がるオフ・ザ・ボールの動きだ。列を上がるオン・ザ・ボールの技術を運ぶドリブルとすると、オフ・ザ・ボールの動きで運ぶドリブルと同じような働きをする。

マンチェスター・ユナイテッドの守備の狙いを改めて整理する。

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アスピリクエタが運ぶドリブルをしてきても、パスコースはない。また、エレーラを前の列に上げることで、ポグバがアスピリクエタまでプレッシングにいけるように設計されている。空きそうなペドロに関しては、サイドバックの撃退で対応することができる。サイドハーフの役割は、あくまで相手のウイングバックを抑えることだった。アトレチコ・マドリーなどはハーフスペースを使わせないように、中よりにポジショニングさせるケースが多い。リヴァプール戦でも見られたように、マンチェスター・ユナイテッドの守備は人を基準にしているケースが多い。

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よって、このような枚数が増える攻撃に弱い。センターバックが運んでくる技術には、人のスライドで対応ができる。しかし、センターバックが列を上げて突然に現れると、カンテエリアでの守備の計算が狂うことになる。特にサイドチェンジでセンターバックが登場すると、効果的だった。最近のドルトムントもセンターバックが中盤(ヴァイグル)のと同じ列に移動してきてボールを受けるような場面が出てきている。この試合ではアスピリクエタ、ケイヒルともに、効果的な攻撃参加によって、マティッチ、カンテたちに時間とスペースを与えることができていた。

なぜ6バックを採用しているのか

効果的にボールを保持するチェルシーを、人海戦術で対抗していくマンチェスター・ユナイテッド。しかし、アスピリクエタたちまで攻撃参加してくると、かなり自陣に押し込められるようになる。そして、コーナーキックから追加点を許してしまう。形としては、ニアでクリアーできなかったボールが味方に当たってケイヒルのもとに溢れるという不運な形だった。先制点は凡ミスから、追加点はこぼれ球が相手のもとへという、ストレスのたまりそうな失点場面が続いてしまう。

さすがに2失点しては攻撃に出なければならないマンチェスター・ユナイテッド。ボールを保持して相手に迫っていく。狙いとしては、イブラヒモビッチとアスピリクエタとの空中戦勝負の機会を増やすというものだった。得点には繋がらなかったが、この機会を何度も作られてしまったのはチェルシー側からすれば、要修正だろう。単純にでかい選手を起用すれば、この穴は埋まるけれども。ただし、アスピリクエタほどに攻撃で貢献できる選手がいるかはわからないが。

チェルシーはボール保持と撤退守備を組み合わせている。その姿は、少しサンフレッチェ広島を連想させる。もちろん、高い位置からの守備も行なうこともあるのだが、基本は5-4-1撤退。撤退からのボール保持攻撃とカウンターの組み合わせは、なかなか脅威だった。アザール、ペドロ、ジエゴ・コスタは迷わずに縦を目指すので、様々な攻撃方法を相手に見せることができるのは、得点力につながっていくだろう。ただし、5-4-1の泣き所であるジエゴ・コスタと2列目の間のエリアと、セントラルハーフエリアを狙われると、かなり苦しくなる。マンチェスター・ユナイテッドの立場からすれば、ボールを保持することで、相手の攻撃機会を削るが、かなりチームを救っていた。

後半になると、マンチェスター・ユナイテッドはマタを投入。ラッシュフォードをイブラヒモビッチの横に移動させ、4-4-2に変更する。フェライニが交代してしまったので、ポグバとエレーラのセントラルハーフコンビとなった。ジエゴ・コスタと2列目の間のエリアを支配できることがわかったモウリーニョ。ボールを保持したときに強さを発揮できる選手を並べることで、その精度を向上させることを狙った。さらに、マタは神出鬼没のポジショニングで味方にスペースを与えたり、自分がフリーになったりと、マンチェスター・ユナイテッドの攻撃を牽引した。

この試合では結果として無失点に終わったチェルシーだが、撤退守備の精度はまだ高くない。エリア内からのシュート、エリア内にボールを運ばれる場面も多かった。残念そこはクルトワで事なきをえたが、少し不安の残る守備だった。もちろん、その前にカウンターで相手の息の根を止めるという計算をコンテがしているのかもしれないけれども。

後半のマンチェスター・ユナイテッドの守備は、4バックでできるだけ守りたいけれど、6バックになることもある、という感じだった。チェルシーのカウンター場面では、4バックで耐える場面が多かった。マンチェスター・ユナイテッドは4バックのときに問題を抱えている。人への基準が強い守備を採用しているため、センターバックとサイドバックの間にスペースができてしまうケースがとても多い。サイドハーフが下ってこないと、サイドバックが横幅の守備を優先しすぎてしまう。また、サイドバックとセンターバックの間をどのポジションの選手がどのようにカバーリングするかの決まりごとも非常に怪しい。特に守備の準備が整っていない状態だと、この現象が顕著になる。だとすれば、6バックでわかりやすくするというのもわからなくはない。なお、チェルシーは5バックのため、センターバックとサイドバックの間がそもそも存在しない仕組みになっている。

結果として、チェルシーは、マンチェスター・ユナイテッドのセンターバックとサイドバックの間を利用し、アザールが3点目、カンテが4点目を決めて、試合を終わらせた。モウリーニョからすれば、守備重視で入るとミスで失点し、攻撃重視で入ると、自分たちの弱点が露呈するというかなり切ない状況で試合を終えた。悲しみのモウリーニョだが、ミッドウィークにはマンチェスター・シティとのカップ戦が控えている。

ひとりごと

国内の大会に集中できるコンテに比べると、チームの完成度で差がついている印象のマンチェスター・ユナイテッド。また、選手配置の最適解も未だに見つかっていないし、見つかりそうな気配もない。餅は餅屋大作戦にかえるのが鉄則だが、ポグバとイブラヒモビッチの共存に頭を悩ませている予感。問題はセントラルハーフか。インサイドハーフが本職の選手ばかりで、編成に問題があるとも言える。ムヒタリアンはどこへ消えたのだろう。冬にセントラルハーフやアンカーの補強で巻き返すか、モウリーニョが最適解を見つけるのがさきかの勝負になりそうだ。

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