【相手の構造上の弱点を見つけろ】ローマ対レアル・マドリー

マッチレポ1516×チャンピオンズ・リーグ

ローマのスタメンは、シュチェスニー、フロレンツィ、マノラス、リュディガー、デュニ、ヴァンクール、ナインゴラン、ピアニッチ、エルシャラウィ、サラー、ペロッティ。リーグ戦では4位につけているローマ。決して結果が出ていないわけではないが、監督が交代。久々にスパレッティが戻ってきている。スパレッティ時代から時がたっているが、ペロッティをスタメンで使っているところが時の流れを唯一感じさせないポイント。ベンチにはデ・ロッシ、トッティと豪華になっている。

レアル・マドリーのスタメンは、ケイラー・ナバス、マルセロ、セルヒオ・ラモス、ヴァラン、カルバハル、クロース、モドリッチ、イスコ、ハメス・ロドリゲス、クリスチャーノ・ロナウド、ベンゼマ。怪我のため、ベイルは欠場。そのため、出場機会の減少で色々騒がれていたハメス・ロドリゲスがスタメンに定着している。ベンチには地味だが働ける選手がたくさん。ジダン監督になって、なんだかんだの連勝街道。真価が問われるのはチャンピオンズリーグだったり、リーガの強豪とあたったときだったり。今日がその第一ステージとなった。

■アンチェロッティスタイル対策

レアル・マドリーがボールを保持しているときのシステムは4-1-4-1。ジダン監督になってからのレアル・マドリーは、アンチェロッティスタイルで攻撃を構築している。アンチェロッティスタイルは、インサイドハーフの列を下げてビルドアップをするスタイルだ。冬休み前までのドルトムントが、この形を採用していた。モドリッチ、イスコがビルドアップの中心となり、サイドバックが高いポジショニングで大外の役割を担い、ウイングが常にライン間を狙うことが最大の特徴といえるだろう。そんな最大の特徴を消すために、スパレッティのローマはしっかりと対策をしてきた。

相手がボールを保持しているときのローマのシステムは、4-1-4-1。レアル・マドリーのセンターバックがボールを持っていても、プレッシングに行かない。1列目のペロッティの役割は、アンカーのクロスを執拗にマーク。モドリッチやイスコの列を降りる動き(サイドバックとのポジションチェンジ)に対しては、インサイドハーフが前に残って対応。高いポジショニングをとるレアル・マドリーのサイドバックに対しては、ローマのサイドハーフが下がって対応。レアル・マドリーのビルドアップ隊(センターバックやインサイドハーフ)から、ライン間でボールを受けようとするウイング(クリスチャーノ・ロナウドやハメス・ロドリゲス)への直接的なパスを制限することを、最優先していた。

ローマのプレッシング隊が、センターバックまで来ない。前にスペースがあるので、ボールを運ぶという選択肢もある。しかし、ライン間で受けようとするウイングと降りない場合のインサイドハーフのポジショニングは、重なりやすくなる。よって、誰をひきつけて誰をフリーするかが、曖昧な状況になってしまう。誰をひきつけて、誰をフリーにするかが明確で無い状態で運ぶドリブルをすると、あまり効果的でない。

よって、相手のプレッシングが届かないエリアからセルヒオ・ラモスのサイドチェンジや、クロースのロングボールでボールを前進させる。または、外外の循環でウイングにサイドからボールを届ける場面を増やしていくレアル・マドリー。相手が慎重に守備から入ってきているので、レアル・マドリーはボールを回しながら相手の守備に対してどのように戦っていくかを探っていった。

ボールを保持しているときのローマのシステムは4-1-4-1。ただし、ペロッティはゼロトップのように振る舞う。ローマの攻撃は、レアル・マドリーの守備の曖昧さを利用する場面が多かった。ローマはサイドバックを高いエリアにポジショニングさせる、またはオーバラップを積極的にさせる。高いポジショニングをサイドバックに取らせることで、レアル・マドリーのサイドバックに守備の基準点を用意する。本来の基準点であったローマのウイング(サラーやエルシャラウィ)と新しい基準点であるサイドバックを用意することで、数的優位のエリアを作る。このエリアで起きる現象は、ライン間でボールを受けようとするウイングに対して、レアル・マドリーのサイドバックが撃退で対応できないことだった。

ライン間でボールを受けようとする選手に対して、どのように対応するかはチームの約束事次第だろう。サイドバックによる撃退が最近の流行になっている。よって、ライン間でボールを受けようとするウイングに対して、サイドバックが遠慮なくついていけるように周りの構造を整える必要がある。例えば、ローマは相手のサイドバックに対してサイドハーフが下がって対応していた。よって、ローマのサイドバックはレアル・マドリーのウイングに集中できる。逆にレアル・マドリーのウイングの守備は曖昧なので、レアル・マドリーのサイドバックは撃退守備ができないとなる。

ローマの攻撃は、基本的にはカウンターがメイン。中心はサラー。驚異的なスピードと高い技術によるボールを守るスキルでカウンターを牽引していた。レアル・マドリーは、ゴールを守ることはできれど、ボールを奪う&ボールを前進させない守備を苦手としている。よって、ローマはカウンターでボールを前進させる→相手を押し込んだ状態からの攻撃のリセットによる定位置攻撃への変換によって、自分たちがボールを保持して攻撃を仕掛ける時間を作ることに成功していた。

レアル・マドリーのウイングの守備は、いつもどおりに曖昧。相手陣地での守備では、後方の選手の連動を確認することなく、1列目に移動など。基本は4-3で守るという意識がチームにはありそう。約束事としては、ハメス・ロドリゲスが下がって4-4の形で守ることになっているようだった。開始直後はハメス・ロドリゲスが下がってこないこともあったが、時間がたつにつれて4-4で守る場面が増えていった。ローマの左サイドバックがかなり積極的に攻撃参加していたことも、守備でハメス・ロドリゲスが下がるようになった原因かもしれない。

ローマの守備に対して、レアル・マドリー。クロースにペロッティがどこまでもついてくる。よって、クロースは列を下げて3バックでビルドアップになる。本来ならばセンターバック同士の間におちてクロースを中心とする3バックになるのだが、ペロッティがついてくることを考慮して、クロースはときどき両脇のセンターバックの位置に降りる→逆サイドのセンターバックに展開でペロッティとボール保持者の距離を稼ぐことに成功した。そして、センターバックからの運ぶドリブルが発動するようになる。基本はクロースを中央とする3バック。また、イスコは相手のブロック内に移動し、モドリッチだけを下げる形が行われるなど、相手の守備の基準を狂わせる仕掛けを色々と行った。

25分が過ぎると、レアル・マドリーの攻撃のターンが延々と続くようになる。ローマの守備の構造上、どうしても、レアル・マドリーのセンターバックがフリーになる。レアル・マドリーのセンターバックが横幅をとってきたときに、ローマのウイングがレアル・マドリーのセンターバックとサイドバックを担当しなければならないエリアが生まれてしまう。レアル・マドリーはこの構造を利用(さらにサラーはボール保持者にくいつく癖があった)して、マルセロサイドからゆっくりとローマ陣内に侵入していくようになっていく。レアル・マドリーの左サイドは、チームにとってのストロングサイドとなる。イスコ、クリスチャーノ・ロナウド、マルセロが相手陣地でボールを持つようになり、試合の主導権が徐々にレアル・マドリーに傾いていく。

ボールを奪えなくなると、この状況を解決するために動き始める選手が出てくる。ローマはカウンターの機会さえなくなっていったしまった。よって、ボールを奪うために人への意識が徐々に強くなる。ゾーン・ディフェンスが機能しなくなってときに発生しやすい現象だ。自分の基準点への距離を近くポジショニングすることで、ボールがきたらすぐにボールを奪いに行けるポジショニングを優先するようになる。このような状況になると、レアル・マドリーは縦のパスコースを見つけるようになる。わずかなパスラインも見逃さないレアル・マドリーのビルドアップ隊は巧みであった。レアル・マドリーはボールを前進させられるようになり、さらにローマのゴールに迫っていった。

しかし、残り時間が少なくなると、サラーがまたも躍動する。サラーがボールを運べれば、ローマも自分たちの時間を作れるようになる。さらに、レアル・マドリーの攻撃が機能するということは、カウンターのチャンスも同時に広がる。肉を切らせて骨を断つというやつなので、非常にリスキーだが。エルシャラウィが相手の裏に飛び出した場面など、我慢していればローマにもチャンスが生まれそうだよねという予感を残して、前半は終了した。

■構造上の弱点

後半のローマは、ナインゴランとピアニッチの位置をスイッチ。両者のキャラを比較すれば、レアル・マドリーのストロングサイドにナインゴランを配置するのは理にかなっている。インサイドハーフの入れ替えとともに、相手陣地からもすきあらばプレッシングを発動させる場面が出てくるローマ。また、ヴァンクールも積極的にプレッシングに連動することで、前半よりも高い位置でのボール奪取を狙ったのだろう。

ローマの変化に対して、レアル・マドリーは苦しみを見せる。前半に見られたような相手のウイングがこちらのセンターバックとサイドバックで数的優位エリアは、ローマのサイドハーフがパスコースを制限することで、うまく使えない状態になっていた。ただし、サラーのポジショニングだけが高め。このポジショニングの理由はカウンターで利用したかったのだと思う。そのためにサラーの後方にナインゴランを配置している。よって、レアル・マドリーは前進に苦労するようになり、ロングボールの比重が増えていく。ロングボール合戦はローマに分があり、レアル・マドリーの攻撃が延々と続くような展開にはならなそうな序盤戦であった。

しかし、56分にレアル・マドリーが先制。サラーの位置が高いゆえに空いているマルセロを起点に使われる。前に移動するサラー。そのポジショニングを見逃さないクロース。マルセロがボールを受けると、走りだすクリスチャーノ・ロナウド。マルセロはボールを供給し、後は見守るだけ。フロレンツィでクリスチャーノ・ロナウドによく対応していたと思うが、この場面では役者が違った。クリスチャーノ・ロナウドのシュートが炸裂する。結局はローマの構造を狙い撃ちにした形が実った先制点となった。

60分にはレアル・マドリーの攻撃にオーレの大合唱。先制されたローマは1.2列目の守備の意思統一がぐちゃぐちゃになる。前から奪いに行くのか、今までと同じように守るのか。その結果、選手同士の距離が空いてしまい、レアル・マドリーの攻撃にさらされるようになっていく。

62分にエルシャラウィ→ジェコ。ローマは4-4-1-1に変更。ジェコの下にナインゴラン。イスコ→コバチッチ。レアル・マドリは。システムの変更なし。この交代直後のプレーで、レアル・マドリーがトランジションで続けて相手にボールを渡して一気に試合の流れがローマに傾くこととなる。オーレの大合唱も今は昔。71分にはヴァンクールのスーペルなミドルで同点ゴールかと思わせる場面もちらほら。そして、攻撃の機会が増えればサラーが目立ち始める。まさに、諸刃の剣。レアル・マドリーも72分にクリスチャーノ・ロナウドのヘディングで殴り返す。この展開がどちらのチームにとって歓迎すべきかはよくわからない。

76分にヴァンクール→デ・ロッシ。デ・ロッシがセンターバックになり、右サイドバックだったフロレンツィが中盤になる。4-3-3に戻るローマ。しかし、守備の混乱(前から奪いに行くのか、今まで通りに守るのか)は統一されていなかった。それゆえに、レアル・マドリーに決定機の回数が多い。ローマも決定機を作ることはできていたので、危険な賭けには勝てていたと言えそうだが、肝心のゴールは生まれず。

81分にハメス・ロドリゲス→ヘセ。徐々に守備を固め始めるレアル・マドリー。しかし、このヘセが大きな仕事をする。

85分にレアル・マドリーが追加点。ヘセが長いドリブル。ローマの選手はボール保持者の寄せきれずに、ヘセはそのままペナルティエリアに到達。そして、シュートを決める。さすがにペナルティエリアまでドリブルをさせたら駄目。

失点直後に、フロレンツィ→トッティ。88分にクリスチャーノ・ロナウド→カゼミーロ。クリスチャーノ・ロナウドの交代はなかなか記憶に無い。でも、得点を決めているし残り時間も少ないので、特に文句もないのだろうか。監督もジダンだし。ベニテス時代にも見られたが、リードしたら両翼に守備的な選手を配置することはレアル・マドリーの典型的なパターンとなっている。そして守り切りに成功し、2-0でレアル・マドリーが勝利した。

■ひとりごと

ローマのアンチェロッティスタイル対策は見事だったが、構造上の問題を狙い続けたレアル・マドリーも立派だった。その構造ゆえの弱点を隠そうとしながらもカウンターでどうする、というせめぎあいは見応えがあった。同点で終わってもおかしくない試合だったとも言えるし、レアル・マドリーがもっと大差をつけていてもおかしくない試合でもあった。存在感を見せたサラーだが、得点を決められれば一気に世界デビューとなったのだろう。セルヒオ・ラモスとの戦いはかなり迫力があった。セカンドレグも楽しめそうなカードだが、何を捨てて何を優先するかのスパレッティの計算がファーストレグの繰り返しになるのか、新しい表情をみせる試合になるのか決まるだろう。

コメント

  1. 匿名 より:

    とても丁寧な分析ありがとうございます。レアルが大好きなので、非常に面白かったです。

    読んでいて一つ気になったのですが、内容が文章だけだったので、細かい分析の部分を図式化であったり、実際の試合のスクリーンショットを引用して説明していただけたら、もっとわかりやすかったのではないかと思います。

    突然の投稿、失礼いたしました。

    • らいかーると より:

      匿名様

      スクリーンショットって違法じゃありませんでしたっけ。でも、図式化はまたやろうかなと思っています。でも、想像することも素適だと思います(・∀・)

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