【ウナイ・エメリの準備の質】パリ・サンジェルマン対バルセロナ【4-4-2が悪手の理由】

マッチレポ1617×チャンピオンズ・リーグ

イブラヒモビッチやダビド・ルイスの移籍で、サイクルが終わった感のあったパリ・サンジェルマン。ついでに、監督もウナイ・エメリになっている。ウナイ・エメリといえば、強豪を率いる監督というよりは、中堅どころで相手への対策をさせたほうが力を発揮するタイプの監督だ。絶対王者の監督としてどうなるかは未知数の監督と言えるだろう。実際に今季のパリ・サンジェルマンは、チャンピオンズ・リーグのグループリーグを2位で通過(別に悪い結果ではないが)、リーグ戦では首位をモナコに明け渡している。そういう意味では、今季のパリ・サンジェルマンはどうなんだろうね?ということを試されるチャンピオンズ・リーグのファイナルラウンドとなった。

イニエスタやブスケツの復帰によって、役者が揃ってきた感は強いバルセロナ。しかし、ラキティッチがポジションを失い、インサイドハーフの片割れは誰がやるのか不透明な状態だ。そして、マスチェラーノもいない。チームとして、結果は残しているものの、恐ろしく評判が良くないルイス・エンリケにとって、結果が出なくなったときが運命の別れ道になってしまうことは、火を見るよりも明らかだ。ターンオーバーでリーグ戦で躓くのとは結果の持つ意味合いが大きく異なってくるチャンピオンズ・リーグ。もちろん、リーグ戦でのタイトルの可能性が残っているとしても、チャンピオンズ・リーグで16で敗退するわけにはいかないはずだ。

悪手だった4-4-2

パリ・サンジェルマンがボールを保持しているときのバルセロナのシステムは、4-4-2。メッシとスアレスを前に出し、中央にイニエスタとブスケツを配置する形だ。自陣からボールを繋いでいくパリ・サンジェルマンの前進に対して、バルセロナはメッシとスアレスが相手のセンターバックに果敢にプレッシングをかける場面が見られた。ルイス・エンリケの設計としては、2トップ&2セントラルハーフで相手の2センターバックと2セントラルハーフを捕まえる予定になっていたのだろう。何となくだが、引いて守るイメージがついてきたバルセロナだったが、この試合では相手陣地からのプレッシングを行った。

2トップが相手の2センターバックにプレッシングを行う場合は、後方の選手も連動しなければならない。後方の選手が連動しなければ、前の選手のプレッシングは無駄になる。アーセナルのアレクシス・サンチェスが試合ごとに怒り(なぜ連動しない!?)を爆発させているように、メッシやスアレスも怒ったに違いない。別に彼らを怒らせないためではないし、チームの約束事として、バルセロナの後方の選手たちはしっかりと連動するようになっていた。個人的には2セントラルハーフに多大な負荷がかかるなかで、本職でないイニエスタとブスケツにその仕事を行わせるのかという疑問はあるが、ここまでは理屈が通っている。

ただし、昨年のドルトムントが陥ったように、香川、ギュンドアン、ヴァイグルの3センターでは守りきれなかった。ボールを保持する時間が長かったり、後方にセルヒオ・ラモスやプジョルのような単独で相手の攻撃を止めてしまうタレントがいれば話は別だろう。そうでなければ、レスターやアトレチコ・マドリーのように、全員が守備をしなければいけない。全員が守備をしなければ、各々がさらされ、質的優位で相手が迫っていくる機会が多くなる。質的優位ではがされれば、あとの祭りだ。ボールが取れそうで取れないという意味では、パリ・サンジェルマンの3点目はその象徴のようなゴールだった。

なお、スパーズ戦でリヴァプールがみせたように、元祖プレッシングのバルセロナの特徴は、スピードだった。ボール保持者に対して、迫力のあるスピードでプレッシングを行なう。そして、周りの選手がスペースやパスコースに対してアプローチすることで、ボール保持者の思考をスピードで奪いながら、選択肢も同時に奪っていった。あのころのバルセロナのプレッシングに比べると、ポジティブに言えば大人になった&ネガティブに言えば、迫力がなくなったバルセロナの選択は、相手にボールを保持する時間を与えることになり、自分たちがボールを保持する時間を減らすことに繋がっている。

マテュイディとディ・マリア

システム通りに試合が動くことはあるかもしれないし、ないかもしれない。この試合で言えば、ディ・マリアとマテュイディの役割がバルセロナを苦しめることとなった。ラビオ、ベラッティの2人だけだったら、ブスケツとイニエスタは迷わなくていい。しかし、3人目が登場すると、途端に怪しくなる。その3人目の役割を果たしたのがディ・マリアとマテュイディだ。バルセロナが前からプレッシングをかける→イニエスタとブスケツも連動する→バルセロナの2.3列目の間にスペースができる→そのスペースにポジショニングするディ・マリアとマテュイディがバルセロナの設計を狂わせていった。

マテュイディのポジショニングは、ブスケツの裏にいることが多かった。狙いとしては、ブスケツの後ろから攻撃を仕掛けることで、バルセロナの中盤のなかで最も守備で重要な役割のブスケツに守備をさせない狙いがあったのだろう。マテュイディのポジショニングに対するバルセロナのリアクションは、アンドレ・ゴメスが中央に絞ることで、マテュイディのパスコースを制限する。アンドレ・ゴメスのポジショニングに対するパリ・サンジェルマンのリアクションは、アンドレ・ゴメスが中央にいったことで時間を得られるクルザワからドラクスラーへボールを通すことで、質的優位でセルジ・ロベルトを殴り続けることだった。よって、困ったのはバルセロナ。結果として、ブスケツがマテュイディを気にするリアクションをするようになれば、ブスケツは前に出られなくなるので、バルセロナのプレッシングが機能しなくなるという流れになっている。

定跡としては、サイドバックの迎撃でマテュイディのポジショニングに対応したいバルセロナ。しかし、ドラクスラーでピン止めされている。だったら、ピケとなりそうだが、中央にカバーニがいる。だったら、逆サイドを捨てるか?となるが、ネイマールにそこまで守備を求められるか?というと難しい。試合を通じて、バルセロナの前からのプレッシングという設計に準じれなかったのは、バルセロナのディフェンスライン。高いラインを取ることができなかったので、ピケの列とイニエスタの列の間にスペースができる場面が何度も見られ続けた。

バルセロナの2トップ&2セントラルハーフの同数プレッシングにパリ・サンジェルマンは嫌そうにしている場面は、確かに存在していた。スアレスもメッシも気まぐれなりに守備をする意思は見せていたと思う。パリ・サンジェルマンのリアクションは、2センターバックと2セントラルハーフが距離を取ることだった。相手がマンツーベースでくるときの定跡だ。相手の走る距離を長くする&相手同士(ブスケツとイニエスタ)の距離を遠くすることで、前線のパスラインを作る狙いがある。この動きがうまくいくと、ディ・マリアへのパスコースができる。また、その他ではラビオがマルキーニョスの位置まで移動することで、2-2が3-1に変化する。イニエスタたちはついていくのかどうかの判断が必要になるので、非常に難しくなるという算段だ。

パリ・サンジェルマンのプレッシングと撤退守備

パリ・サンジェルマンのプレッシングは、ゴールキックなどのプレーの再開ではバルセロナの陣地深くから行われた。最近のトレンドにもなりつつある戦術だ。ビルドアップでシュテーゲンが非常に困っていたのが印象に残っている。パリ・サンジェルマンの2点目はそれでもボールを繋ごうとしたバルセロナのビルドアップミスから生まれている。メッシからボールを奪ったラビオが秀逸だった。ボールを持ったときに長所を発揮する印象があったラビオだが、ボールを持ったときは言うまでもなく、ボールを持たないときでも粘り強い守備でチームに貢献していた。

 

パリ・サンジェルマンの撤退守備は、カバーニをブスケツにあてる形だった。非常に懐かしいバルセロナ対策だ。バルセロナのセンターバックは基本的に放置する。ピケやウムティティがサイドバックにボールをつけて、バックパスという流れになったら、プレッシングが発動したり、しなかったりする。30分過ぎにウムティティがパリ・サンジェルマンのペナルティーエリアまで運ぶドリブルで侵入していったように、できるかぎりバルセロナのセンターバックは放置だった。実際に、バルセロナのセンターバックが前の選手に時間とスペースを与えられたかというと、ほとんど与えられていなかった。よって、相手ブロックのそとでプレーするイニエスタという場面が見られたが、ブロックの外でプレーするイニエスタはちっとも怖くなかった。

孤軍奮闘していたのがネイマール。対面のムニエはかなり苦労の多い試合となった。パリ・サンジェルマンに守備の穴があったとすれば、サイドハーフだろう。サイドバックとサイドハーフのマークの受け渡しに難があった。ネイマールはムニエに質的優位を示し、繰り返されるカット・インで何度もパリ・サンジェルマンに迫っていった。ただし、そんなネイマールが紐を結んでいる間に、バルセロナの攻撃は続く。そして、ボールを奪われて、ネイマールのエリアからボールを運ばれて、直接フリーキックを与えてしまうくだりはなかなか切ないものがあった。

また、パリ・サンジェルマンの4点目はネイマールがムニエに殴り返されてから始まっている。軽率に抜かれたネイマールも説教されそうだが、ネイマールが抜かれたあとのカバーリングが誰もいないところがバルセロナの守備の危険さを物語っている。相手につられすぎて、カバーリングのポジショニングをを取れていない。ネイマールがかわされる→ゴール前まで相手のサイドバックがボールを運べるというのはなかなかショッキングな光景だった。本来だったら、ブスケツがいそうなのだが、セントラルハーフ仕事をしていると、ブスケツはその位置からいなくなってしまう。

ルイス・エンリケの采配を振り返ると、インサイドハーフの交代だった。攻撃面の問題はセンターバックから時間とスペースを作れないことだ。守備の問題を考えると、機能していないのに相手陣地からの守備をすることだ。インサイドハーフを交代したところで、あまり意味はない。リードをしたことによって、パリ・サンジェルマンがボールをバルセロナに渡してくれると、バルセロナがほんの少しだけらしさを見せて試合は終了した。

ひとりごと

デポるという言葉がチャンピオンズ・リーグには存在するので、セカンドレグも楽しみにしておこうと思う。4-4-2の相手陣地からの守備とウムティティとピケが困っている問題を最後まで修正しなかったルイス・エンリケに多くの期待をするべきではないかと。ただし、サイドバックが上がりっぱなしの死なばもろとも攻撃を仕掛ければ、何かが起こるかもしれない。ネイマールやスアレスがボールを引き出したライン間のポジショニングやジョルディ・アルバとセルジ・ロベルトの高いポジショニングを取り始めてからは、バルセロナらしかったのも事実なので。

ドラクスラーがブレイクしていた。通称・ドラちゃん。ヴォルフスブルクの移籍は多くの人の頭に?マークを浮かべさせたが、たどり着いたのはパリ・サンジェルマン。左サイドからの突破のドリブルは今日も尋常でなかった。ビルドアップからの定位置攻撃も見事ではあったんだけど、ゴールはほとんどトランジションだったり、相手の守備がぼろぼろすぎて勝手にカウンター状態になった場面が多かった。リーグ戦での苦戦は、引いた相手を崩せないからなのかもしれない。だとすれば、バルセロナも守備から入るなら撤退でスペース優位にスアレス突撃作戦のほうが良かったと思う。だからこそ、何故前から奪いに行ったのか。奪いに行くなら、以前のように3トップのまま行けなかったのかと、ルイス・エンリケの考えを聞きたくなるような試合だった。

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