【充実の首位攻防戦とレーヴの仕込み最新版】ドイツ対ポーランド

EURO2016

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ワールドカップ優勝と自国リーグの隆盛から勢いにのるドイツ代表。しかし、EURO予選は少し苦戦している。ポーランドにつぐ2位。2位でも問題ないのだが、予選では圧倒的な結果を残し続けてきたドイツ代表からすると、非常にらしくない。ラーム、メルテザッカー、クローゼの代表引退と怪我人増加により、予選の序盤ではポーランドに敗戦、アイルランドと引き分けと結果を残せないでいる。しかし、その後はしっかりと立て直し、ホームでポーランドとの首位攻防戦を迎えることとなった。

■四角形の攻略

相手がボールを保持しているときのポーランドのシステムは4-4-1-1。レヴァンドフスキを頂点とする。レヴァンドフスキの役割は相手のセンターバックの間にたつことで、センターバック同士のパス交換を阻止すること。そしてその状況を維持したまま、ボールを奪いに行くことで、相手にボールを前進させるタイミングを自由に決めさせないことだった。トップ下に配置されたマチニスキは中盤の枚数調整(4→5)や味方が空けたスペースのカバーリングと自分のエリアにいるシュバインシュタイガー、クロースを捕まえる役目だった。相手の陣地からポーランドはプレッシングをかけた。ドイツに勝利したことで、呪いが解けたのかもしれない。そのわかりやすい意味での積極的な姿勢に非常に好感が持てた。

ドイツはサイドバックを高い位置にポジショニングさせる方法をとった。かつてバルセロナがよく行っていた、サイドバックは横幅、ウイングが相手のライン間で行動する仕組みを彷彿させた。フンメルスたちがボールを保持しているときに、ドイツのサイドバックはビルドアップに目もくれずに、おれのポジショニングはここだと言わんばかりのポジショニングを見せた。アラバロールだ、外外の起点だ、対角のサイドチェンジの砲台だとサイドバックの役割が増えていくなかで潔さを感じさせるものだった。

ドイツのビルドアップ隊はセンターバックのフンメルス、ボアテング、そして中盤のシュバインシュタイガー、クロース。2センターバック、2ボランチにビルドアップを任せるのは、ブレンダン・ロジャーズ時代のスウォンジーを彷彿とさせる。ポーランドの積極的な姿勢、高いエリアからの攻撃的な守備に対する防護策として、数的同数にならないように自分たちの形を変容させる定跡がある。トゥヘルが得意技としている数的同数プレスをくらわないためには、相手の守備の基準点を狂わせる必要がある。

そのポイントはクロースとシュバインシュタイガーにあった。よく見られた形はクロースがセンターバックの真ん中に落ちて3バック、その前にシュバインシュタイガーを配置することで、菱型を形成すること。この時点でレヴァンドフスキの守備の役割はぼやける。他には、クロースがサイドバックのエリアに移動すること、シュバインシュタイガーがサイドに移動することで、サイドバックからのボールを受けることなどなど。つまり、クロースたちはサイドバックのプレーエリアで活動する事が多かった。まさに、偽ボランチ。

偽ボランチによって、ボールを落ち着かせたドイツはポーランドの守備を崩しにかかる。多く繰り返された形は相手の四角形(センターバック、サイドバック、ボランチ、サイドハーフ)の前から仕掛ける形だ。四角形の真ん中にサイドから動かしたサイドハーフを置く。そして、サイドにはサイドバックを置く。パスを供給するのはクロースたちかボールを持ち上がったフンメルス。サイドにボールが出れば、四角形の真ん中に位置するサイドハーフの選手はその場でボールを受けるか、相手のサイドバックの裏に飛び出すことで、さらにボールを前進させる意図を見せた。

スペイン代表とは異なり、それぞれの役割は固定気味で行われる。役割が曖昧にされているのはエジル。パスの供給も行えば、ボールの受け手にもなる。先制点はエジルがパスの出し手になってから生まれている。他に役割が曖昧にされているのがゲッツェ。この試合では相手の左サイドバックと左センターバックの間にポジショニングすることが多かった。この位置からの裏抜けも行うのだが、ゲッツェがこの位置にいることで、相手の左サイドバックと左センターバックはピン止めされ、四角形でボールを受けようとするサイドハーフを助ける役割を地味に行っている。なお、ドイツの2点目このエリアにゲッツェがいる、相手が絞る、サイドバックにボールが出る、サポート気味にボールを受けてゲッツェの個人技炸裂であった。

ドイツの攻撃がほとんど左サイドから行われた本当の理由は不明。ポーランドの右サイドを弱点と考えたのかもしれないし、単純にドイツの長所だったのかもしれない。右サイドはミュラーだったので、左でつくって右で仕留めるほうがドイツにとっては好都合であったのだけども。

他にはボアテングからのサイドチェンジが目立った。サイドバックが高い位置をとっているので、相手のサイドバックはドイツのサイドバックとサイドハーフを見ないといけない状況になることが多かった。ポーランドは基本的にゾーン・ディフェンスで守っていたので、高い位置をとるサイドバックにサイドハーフがついてくることはなかった。恐らくスカウティング通り。ベララビとヘクターで相手のサイドバックに襲いかかるさまはなかなかの迫力があった。

ポーランドの攻撃に対するドイツの守備を見ていると、基本は4-4-2のゾーン・ディフェンス。特徴は密集しない。ポーランドが相手のライン間でボールを受けることは少ないと考えたのだろう。ライン間を注意するよりも、サイドにボールがでたときにすばやく寄せきれる位置を優先してポジショニングを組んでいるように見えた。

ポーランドの攻撃はオーソドックスでサイドから人数をかけて攻撃を仕掛けるスタイル。ドイツの守備は理にかなっていたと言える。ただし、それでもドイツの守備者がそばにいても突破しきってしまう場面がたびたび。サイドに流れたレヴァンドフスキ、グロシツキ、ミリクはなかなかの能力を持ち、リブスは献身的なオーバーラップでチームの攻撃を支えた。

2点を先制されてしまったポーランドだが、心が折れることはなく。特に売り出し中のクリホヴィアクはなかなかの凄まじさだった。そんなクリホヴィアクの粘りのボール奪取からカウンターが発動し、レヴァンドフスキが決めて、ポーランドは1点差に迫ることに成功する。そして、ハーフタイムを迎える。地味にピスチェクが負傷退場していた。一時はレアル・マドリーに移籍か!なんて噂のあったピスチェクだが、怪我が多すぎていつのまにか曖昧な立ち位置になっている気がする。

後半になると、ポーランドが動く。四角形の前から仕掛けられる仕組みを防がねば、我々に勝機はないと。なので、前線のレヴァンドフスキ、マチニスキに+1で誰かがプレスに加わることで、シュバインシュタイガー、クロースを捕まえにかかった。前半に比べると、人への意識を強くしたポーランド。この変更によって、ドイツは再現性のある形が徐々に減っていくこととなった。

この状況を打破するために、ドイツはベララビ→ギュンドアン。ギュンドアンが幅広く動いてボールを引き出し、ボールを運びながら仕掛けることができるので、ドイツは流れを取り返したかに見えた。しかし、ポーランドの守備の勢いがドイツの論理をこえ、試合はどっちに転ぶかわからない展開で推移していった。

リードしているドイツは徐々に試合をコントロールする意志を見せる。無理矢理に攻めずにボールを回す。そのような姿勢がネガティブな方向にでることもあるが、今日はいたって論理的。前から潰そうとするポーランドの前戦隊への支援がどんどんついていかなくなる。つまり、ポーランドは体力の浪費から全体が間延びする展開になり、このスペースをドイツに使われるようになる。すると、残り10分の状態でサイドに流れたのは曖昧なゲッツェ。中央に切れ込んでミュラーにパスをし、ミュラーのシュートのこぼれ球を押し込んでとどめの3点目を決めることに成功した。

■独り言

ドイツ代表がすこぶる強い。スペイン代表を観たときと同じくらいの衝撃をうける。たぶん、次のEUROはこの2チームを中心に展開されることになるだろう。と、イングランド、イタリア、フランスを見ていないのに断言できるくらいにこの2チームは強い。願わくば、本大会で直接対決が観たいのだが、どうなることやら。ちなみに、ドイツの弱点はサイドバック。守備で相手を捕まえられない。レベルが高い相手になるとやばさが目立つこととなるだろう。

また、中堅国の躍進が目立つ今回の予選。バルセロナが与えた影響も大きいのだろうけど、アトレチコ・マドリーがもたらしたことのほうが中堅国には大きいのではないかと思うようになってきている。攻撃よりも守備のメソッドのほうがコピーは困難ではないからね。つまり、しっかりした監督に率いられた中堅国のレベルアップは尋常でないスピードで進んでいるのが現状です。

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