【狙われた構造と、その構造を創りだしたパリ・サンジェルマンの戦術】チェルシー対パリ・サンジェルマン

マッチレポ1415×チャンピオンズ・リーグ

ファーストレグを1-2で落としたチェルシー。ホームにパリ・サンジェルマンを迎える。グループリーグを1位で突破したのに、パリ・サンジェルマンと試合になるなんて、今季のチェルシーはなかなかついていない。

チェルシーのスタメンは、クルトワ、ケネディ、ケイヒル、イバノビッチ、アスピリクエタ、セスク、ミケル、アザール、ウィリアン、ペドロ、ジエゴ・コスタ。センターバックは誰も帰ってこなかった。さらに左サイドバックにはケネディを起用。最終ラインの怪しさの一方で、前線はモウリーニョスタイル(セスクがセントラルハーフ)で臨む。

パリ・サンジェルマンのスタメンは、トラップ、マルキーニョス、チアゴ・シウバ、ダビド・ルイス、マクスウェル、チアゴ・モッタ、マテュイディ、ラビオ、ルーカス、ディ・マリア、イブラヒモビッチ。ベラッティの代わりに、注目を集めているラビオが登場。

狙われたチェルシーの構造

パリ・サンジェルマンのシステムは4-3-3。ボールを保持しているときは2(センターバック)-3(アンカーとインサイドハーフ)-4(ライン間のウイングと横幅のサイドバック)-1(イブラヒモビッチ)になる。ウイングのディ・マリアとルーカスはサイドバックのパスコースを作るためにサイドラインに張り出すこともあるが、基本的にはライン間に生息している。2-3-5と解釈すれば、冬休み前のドルトムントや両サイドバックがアラバロールをしているときのバイエルンに似ている。

この選手の配置で思い出させるチームがビラス・ボアスのポルト。サイドバックがウイングの位置、ウイングがインサイドハーフの位置、インサイドハーフがサイドバックの位置に移動して攻撃を組み立てていた。左サイドを例に出すと、右回り(右サイドだったら左回り)にポジションチェンジをしているこの形を旋回と表現することもあった。

チェルシーのボールを保持していないときのシステムは4-4-1-1。トップにジエゴ・コスタ、トップ下にウィリアン。もちろん、相手のセンターバックに同数でプレッシングを仕掛けるときは4-4-2に変換する。列ごとのかみ合わせをしていくと、なかなか興味深い状況になっている。

パリ・サンジェルマンのセンターバック(ダビド・ルイスとチアゴ・シウバ)に対しては、ジエゴ・コスタのワントップ。アンカーのモッタ(ただし、パリ・サンジェルマンの3センターは役割を入れかえることが多い)にはウィリアン。ウィリアンの横のスペースにはインサイドハーフ(ルビオとマテュイディ)。4-4-2の守備に対して、1列目の脇のスペース(2トップの横)をセンターバックやサイドバックの横に落ちたインサイドハーフ、アラバロールをするサイドバックに使われるケースが多いが、パリ・サンジェルマンの場合はインサイドハーフが普通に配置されている。チェルシーにとってはウィリアンの横のスペースを使われる状況は何とか解決しなければならないエリアとなる。

横幅をとるサイドバックのポジショニングは高めに設定されている。アンカー落としのビルドアップでもサイドバックは高めのポジショニングを取ることが多い。このサイドバックに対しては、ゾーン・ディフェンスでスルーするか、サイドハーフをおろしてマンツーのように対応するかが定跡となっている。このサイドバックの高いポジショニングもチェルシーは解決しなければならない。ちなみに、チェルシーはサイドハーフ(ペドロとアザール)を降ろして対応した。よって、時には6バックのようになることもあった。

サイドから中に入って活動するウイング(ディ・マリアとルーカス)、ゼロトップのようにフリーロールで活動するイブラヒモビッチは中央を活動エリアとしている。ライン間で活動することが多いので、チェルシーは解決策として中央に絞って対応していた。サイドハーフが横幅の守備をしてくれた関係もあって、サイドバックが中央よりで活動できる状態にあったことはチェルシーにとって、人を余らせておけるという意味で大切なポイントであった。

つまり、チェルシーに残された解決すべき事柄は、センターバックとジエゴ・コスタの数的不均衡と、浮いているインサイドハーフをどうするかであった。前者のセンターバックエリアでの数的不均衡は、パリ・サンジェルマンがビルドアップの起点でなく、逃げ場としてセンターバックを使っていたので、あまり問題にはならなかった。問題になったのは、浮いているインサイドハーフであった。

パリ・サンジェルマンとのかみ合わせを解決するためにチェルシーのシステムは6-2-2のようになっていた。よって、中央エリアで数的不利状態になっている。得点を奪う必要のあるチェルシーに自陣に撤退して、相手の攻撃をひたすらに待ち続ける作戦をとるわけにはいかない。よって、浮いているインサイドハーフに対して、チェルシーはセントラルハーフ(セスクやミケル)を動かして、問題の解決をはかった。セントラルハーフが動いた場合にできたスペースはサイドハーフが中央に絞って対応することが定跡だが、サイドハーフはサイドバックの対応に追われていて持ち場を離れている。

では、どうするか。答えは余っているサイドバックが迎撃体制を取るしかなかった。しかし、パリ・サンジェルマンのインサイドハーフの低いポジショニング、ディ・マリアのライン間のポジショニングに、サイドバックの選手は迎撃体制を取ることができなかった。ちなみに、この役割を担わされたのがケネディだから酷な話になっている。ファーストレグで大活躍したアスピリクエタサイドを避けてパリ・サンジェルマンは攻撃を組み立てていった可能性は高い。パリ・サンジェルマンの先制点はこの形から生まれた。おびき出されたセスク→カバーリングする選手がいない→フリーで受けるディ・マリア。

ボールを保持しなければならないパリ・サンジェルマンの事情

パリ・サンジェルマンの攻撃は相手のブロック外にたくさん選手を配置することで、ポゼッションを安定させることが第一。そして、ブロック外の数的優位から発生するオープンな状態からの楔のパスで、相手のブロック内にいる選手に時間とスペースを供給する。ボールの受け手は、コンビネーションや個人技を炸裂させやすい状況を利用して攻撃を繋いでいく。

上述してきたように、パリ・サンジェルマンの攻撃は流動性なポジショニングに支えられている。よって、トランジションやボールを奪われたときに、いるべきスタートポジションが狂っていることが多い。1列目にいる選手のボール保持者への圧力はなかなかなのだけど、2列目が連動しないことが多い。さらに3列目の選手は、自分のマークが列を下げてもついていかない場合が多い。つまり、パリ・サンジェルマンの相手からすれば、ビルドアップのときには前線の選手を下げると、ボールを引き出せる現象がよく起こっている。よって、チェルシーのビルドアップはウイングの列をおろして、サイドバックからのボールを引き出す形が多く見られた。

つまり、パリ・サンジェルマンのプレッシングはなかなかひどい。1列目の圧力さえ回避できれば、相手陣地深くまで侵入することができる。よって、守備の機会を減らすためにもボールを保持する時間を長くする必要が出てくる。よって、センターバックをポゼッションの逃げ場とし、インサイドハーフをブロックの外に置き、さらにディ・マリアが頻繁にヘルプのくるような状況になっているのだろう。これだけボールを保持することに選手を投入していると、前線の枚数不足問題に繋がりそうだが、ディ・マリア、ルーカス、イブラヒモビッチの3枚にそんなことは関係ない。さらに、彼らに相手のマークが集中すれば、大外からサイドバックの攻撃が光るという罠もしっかりできている。

よって、パリ・サンジェルマンはバルセロナやバイエルンのように、かたくなに繋ぐ。蹴っ飛ばせばいい場面でも上手さをみせる場面がちらほら。トレーニングでも何度も何度も取り組むことで、習慣化しているのだろう。しかし、その習慣がときには命取りになる。

25分にチェルシーの同点ゴール。繋ぐことに強いこだわりをみせていたパリ・サンジェルマン。自陣のゴール付近でもクリアーの選択肢にはなかなかたどり着かない。そんなチャレンジ精神からくるずれを見逃さないチェルシー。中央でモッタからボールを奪うと、カウンター発動。最後はジエゴ・コスタがチアゴ・シウバを個人技で圧倒し、同点ゴールを決める。

チェルシーがボールを保持する展開になると、とたんに危なっかしさを露呈するパリ・サンジェルマン。自陣に撤退したときの守備の定位置がしっかり定まっていないようだった。30分過ぎからは試合の悪い流れを分断するように、ファウルをもらいながら時間を潰していく。さらに、チェルシーは守備を修正。出来る限り4-4-2で守り、チェルシーの2.3列目のライン間にいるパリ・サンジェルマンの選手は迎撃で潰す。失点の反省。頑張るケネディ。ジエゴ・コスタのゴールによって息を吹き返したチェルシーは地道に自分たちのやるべきことをやり続ける。それでも、ときどきは迎撃体制が間に合わずにこの構造を使われてしまっていたけれども。

構造上の穴を見えにくくするチェルシーだったが

後半のチェルシーは4-4-2で守る場面が増えていく。相手のサイドバックにボールが出るまでは下がりすぎずに対応するサイドハーフ。浮いているインサイドハーフに対しては、ボール保持者へのプレッシングよりも、スペースを守ることで出来る限り対応をする。パリ・サンジェルマンはさらに浮いた選手を作るために、センターバックの運ぶドリブルが目立ち始める。チェルシーにとっては、またも解決すべき問題が出てきたことになる。ただし、ボールを奪えればカウンターチャンスというご褒美付きだが、

パリ・サンジェルマンは重心を下げながらビルドアップを開始。チェルシーが前に出てきてくれれば、相手の2.3列目のライン間にいる選手に楔のボールを入れる場面が目立つ。我慢の守備からのカウンター機会に恵まれたチェルシーは、プレッシング開始ラインが自然と前に前にという姿勢に変化していく。しかし、チームの約束事とは異なるようで、最終ラインがまったく連動していなかった。スペースを守るのか、人を守るのかの判断を強いられるのだけど、それはチームの約束事によってことなるし、選手の力量にも左右される。終了間際にマテュイディからボールを奪ってイエローを出させたようにアスピリクエタはちょっとえぐい。

そんな構造上の危なっかしさよりも、試合に影響を与えていったのはチェルシーのボール保持だった。ルーカスよりもポジショニングがフリーダムなディ・マリア。守備のときにいるべき場所にいない。だからこそ、すぐにボールを奪い返す必要があるパリ・サンジェルマン。しかし、チェルシーは落ち着いて空いている選手を使いながら、下がってくる前線の選手にボールを入れて、しっかりボールを保持し前進しパリ・サンジェルマンのエリア内に入っていく。パリ・サンジェルマンは4-1-4-1の守備と4-4-2の守備を使い分けているようにも見えたが、両者の使い分けがウイングが帰ってくるかどうかくらいの基準しかなかったので、やっぱり守備は得意でないようだった。

58分にジエゴ・コスタが負傷退場。スタンフォード・ブリッジはスタンディングオベーションみたいな雰囲気。トラオレが登場する。逆転ゴールを決めればすべてが変わりそうなチェルシー。積極的な姿勢(前からのプレッシングも含めて)によって、シュートチャンスを得ていく。特にウィリアンのミドルからの連続攻撃はなかなかの迫力だった。しかし、キーパー大国からやってきたトラップに防がれてしまう。

66分にパリ・サンジェルマンに追加点。コーナーキックからのリセット守備。本来と違うエリアの守備から自分のエリアの守備に切りかえるタイミングは難しい。相手の裏に走るディ・マリアへの対応をセスクとアスピリクエタが失敗。ディ・マリアのクロスをイブラヒモビッチが合わせて勝ち越しゴールが決まる。

トータルスコアが2-4になった試合。パリ・サンジェルマンはボール保持を優先して攻撃を組み立てる。チェルシーはボールを奪いに行きたいのだけど、プレッシング開始ラインを上げ過ぎると、セントラルハーフの上がったスペースを使われてしまう構造は活きているので、何ともいえない状況になる。ボールを奪いに行ったらライン間を使われ、奪いに行かなかったら、延々と回される。

75分にはアザールも負傷交代。パリ・サンジェルマンは前線の選手を交代しながら、追加点を狙う。狙っているのは交代で登場した選手くらいだった。反撃のきっかけをつかみたいチェルシーだったが、個の判断とチームとしてのやるべきことがぐだぐだになっていく。状況解決のために個人が何をできるかは重要なんだけれど、その判断がチームの利益と噛み合っていないようだった。可能性の低いフィニッシュ、強引なドリブルの仕掛け、中の選手とタイミングの合わないショートコーナーなどなど。というわけで、チェルシーに決定機はとくに生まれずに試合はそのままに終了した。

ひとりごと

パリ・サンジェルマンはとっても強いのだけど、もろさも見せている。国内で攻め立てられることが少ないからかもしれないが、ボールを保持されたときに怪しさが見える。その代わりにボールを保持したときの破壊力と安定感は、バイエルンと同じくらいにありそうだが。そんなチームに対してボール保持で対抗できそうなチームや守備で対抗できそうなチームはチャンピオンズリーグにしっかりと出場しているので、そんなぶつかり合いが次の対戦で見られれば、非常に楽しみだ。

チェルシーはFAカップ優勝で手に入れたいヨーロッパ・リーグの出場権。そして、チャンピオンズリーグ出場権まではポイント差が10。全勝ずれば届くかもしれない。ヒディンクの評価もここで決まりそう。噂の新監督が来る前にしかっと来年も欧州の舞台にいてほしいチームであった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました