決勝戦をオオトリにして、EURO祭りを終わらせようと思っています。よって、さきに大会の雑感、かっこ良く言えば、テクニカルレポート的なことを書きます。平たく言うと、試合を通じて、感じたことをつらつらと書いていくだけです。
24チーム出場!のメリット・デメリット
今大会のEUROから、出場国が24チームに増加した。増加した理由は、よくわからない。事実としては、初出場の国が増えた。そして、試合数の増加によって、経済的なメリットがあっただろう。本大会へ出場するハードルの低下は、今までは予選に参加するだけだった国々のモチベーションを上げたと思う。その結果、大会出場のハードルが下がったにも関わらず、常連国(オランダやデンマーク)が予選で敗退するようなレベルの予選となった。欧州全体のことを考慮すれば、多くのチームに希望を与える出場国の増加は、幅広いレベルアップをもたらす可能性が高い。
本大会に話を移すと、グループリーグの3位突破が試合内容に大きな影響を与えた。勝点3でも突破できたチームがあったように、できるかぎり得失点差を少なくして、ポイントを積み上げることを優先しているチームが多かった。1勝2敗よりも、3分のほうがファイナルラウンド進出の可能性が高まるレギュレーションは、得点よりも失点を少なくしたほうが恵まれているという状況になった。よって、スコアが動いても試合内容に変化を生む必要のない状況が最終節に多々生まれた。これはルールが悪いと思う。
最終節を思い出してみると、公平性という観点から考えても3位抜けのレギュレーションは非常に怪しかった。最終節を早めに終えるチームは、このポイントで3位の上位になれるかどうかを、希望的観測によって判断する必要があった。対して、最終節を終盤に残しているチームは、具体的に何ポイント、得失点差を考慮して臨むことができた。グループE.Fのチームがそろって3チームもファイナルラウンドに出場できたことは偶然ではないだろう。
試合数の増加は、過密日程となって各チームに試練を与えた。決勝戦の中二日対中三日の問題もあったように、コンディション対策が命運をわけるようになっている。または、過密日程に対して、いかに23人の力で戦うようにチームを設計できるかどうか。偶然か、必然だったのか。ポルトガルがグループリーグとファイナルラウンドの戦いかたの変更にともない、選手をがらっと入れ替えたことは、過密日程対策として機能していた。層の厚さが重要になると、23人の質を高く揃えられる強豪国のほうがどうしても有利となる。ウェールズやアイスランドも健闘してみせたが、同じメンバーでの戦いは累積や怪我、疲労を考えると、いつか力が尽きることは明白だった。
改善点はあれど、初出場の国々のはつらつとしたプレー、予選を厳しいものにすることによる欧州全体のレベルアップを考えると、チーム数の増加は面白い取り組みだろう。経済的なメリットもあることから、次の大会から縮小することは考えにくい。ただし、3位抜けのレギュレーションについては公平さを保つためにももっと工夫が必要とされるだろう。
小国の秩序と大国の無秩序さ
ベルギーとイングランドが多くの人を失望させた一方で、ファイナルラウンドに進出したハンガリー、アイルランド、アイスランド、ウェールズ、北アイルランドといった面々の戦術能力の高さは、特筆すべきものがあった。ハンガリーはキラーイを使ったプレッシング回避で世界中を驚かせた。アイルランドは気合だけでなく、相手によって自分たちの形を変化させることで、自分たちの勝率を上げるという意味での正しさを証明した。レスターにも例えられたアイスランドは、4-4-2での堅牢な守備とロングスロー、セットプレーによる得点でジャイアント・キリングを連発させた。ウェールズはスウォンジー組を中心としたボール保持とカウンターで攻撃の幅を魅せつけた。北アイルランドもあの手この手で相手の長所を消していったことが印象に残っている。
ベルギーやイングランドを個人能力を中心に相手を叩くとすると、ハンガリーなどの国々には、個人能力で相手を叩くことができる選手は多くない。よって、彼らには別の武器が必要とされる。自分たちに与えられたカードでどのように戦うか?を突き詰めることで、彼らは武器を手に入れた。自分たちのやるべきことを明確にし、しっかりと遂行することで、それぞれの国々のサッカーは、とても魅力的だった。明確な意思を全員で共有することが、ジャイアント・キリングを起こす上での絶対条件であることを再確認させてくれた。
レスター、アトレチコ・マドリー、スウォンジーが示したように、バロンドールをとるようなタレントがいなくても、やるべきことをやれば結果がついてくる、という近年の流れにそっている小国たちの振る舞い。クラブチームに比べると、戦術的な訓練をする時間のない代表チーム。しかし、勝つために必要ならばやるしかない。個の能力で劣るからといって、試合を諦める必要はない。大切なことは、自分たちの選手にあった戦術で相手を叩くことだと。そして、それをもっとも証明してみせたのが、優勝国のポルトガルだったことは、なかなかの巡り合わせである。
イタリアとドイツの現在位置
両チームに共通していることは、方法論の違いはあれど、クラブチームなみの完成度を持っているところだろう。近年のスペインの成功が、バルセロナのプレーモデルを導入したことだとすれば、イタリアはユベントス、ドイツはレーヴが長年チームを率いることで、代表チームのクラブチーム化に成功している。
イタリアのメンバーを見ると、コンテの元でプレーした選手が多い。コンテ式の特徴は、サッカーの形が驚くほどに明確ということだ。どのようにプレーすべきかの設計図が明確であればあるほど、どのようにプレーすべきかを覚えるまでの時間は短くなる。最近のサッカーの流れが、プレーエリアごとの役割を決めて、ポジションで役割を明確にしないことだとすると、コンテ式で行っていることは、まるで時代と逆行している。ときには周りの状況を観察しないでプレーすることもあるコンテ式の未来がどうなるかは置いておくとして、時間の少ない代表チームを短い時間で構築していくとすれば、大いに可能性を感じさせる方法論だと思う。
イタリア、フランスへの戦い方を見ても、その戦術の幅の広さをみせつつけたのがドイツ。レーヴの志向と協会の育成方針が一致しているだろうこともあって、ドイツは決まりきった形を持たない状態で、クラブチームのように振る舞えるようになっている。それこそ、アイルランドや北アイルランドが示してきたように、相手によって形をかえることもお手のものだ。ドイツくらい選手がそろっていて、このように戦えるようになると、手がつけられなくなる。
グループリーグでの波に乗れない感じや、キミッヒ、マリオ・ゴメスの起用など、大会前にもっとチームとしてのベストな解を見つけていれば、もっとスムーズに物事が進んでいたかもしれない。また、長い期間を同じ監督に託すことで、不可解な起用もどうしても起きてしまう。今大会の戦い方ならば、ドルトムント組はもっと起用しても良かっただろうし、マリオ・ゴメスの代役にキースリンクがいれば、フランスを相手にしても自分たちの方法を変えずに戦えたかもしれない。また、シュバインシュタイガーの重用も疑問が残る。同じ監督を継続することによるクラブチーム化にもメリット・デメリットがあるということだ。
ポルトガルをどのように解釈したか
フェルナンド・サントスとの最初の記憶は、2012年のEUROだった。このときのギリシャは、ファイナルラウンドの初戦でドイツに破れている。ギリシャといえば、守りに守ってのセットプレー、カウンターのイメージが強い。しかし、2012年のギリシャは、ボールを繋ぐこともあれば、サマラスにボールを放り込むこともあり、今までのように自陣に撤退することもあった。なお、ドイツの意図もあって、ファイナルラウンドではギリシャがボールを持たされて敗北している。なお、その後のワールドカップで日本とギリシャが対峙したのは懐かしい記憶だ。
このときの印象をざっと思い出してみると、試合に勝つ可能性を高めるためには、色々な策が必要になる。そのためには、色々なことができなくてはいけない。自陣に守ってカウンター、セットプレーだけでは先制されてしまえば終わりだ。だから、ギリシャでもボールを保持できなくてはいけない。よって、そのトレーニングを行なうみたいな。個人的な希望的観測をいうと、様々な引き出しを持ち、状況に応じて、適切な引き出しを出せるようにしなければならない。たぶん、2010年前からこの考えは変わらない。自分たちがボールを保持することを苦手としていても、相手がボールを渡してきたり、スコアが動けば、ボールを持つ必要ができるだろう。チャンピオンズ・リーグの決勝でボールを持たされたアトレチコ・マドリーのような場面で何かをできなければいけない。
今大会のポルトガルは、カメレオンのように自分たちの姿を変えた。ボールを保持するシステムも4-3-3と4-3-1-2を使い分けた。守備が注目を集めるポルトガルだが、パスの成功率が高いことも見逃せない事実だ。このチームはボールを繋げるし、守ることもできる。守備では4-4-2、4-1-4-1、4-3-1-2と相手によって形を変えた。いつだって自分たちの形を相手に強いることなく、相手を尊重したうえで、しっかりと自分たちの形を変容させられるのは、フェルナンド・サントスが非常に細かいプランを頭に描けているからこそできる芸当と言えるだろう。
その姿勢は、現代サッカーの流れから見ても、まるで間違っていない。ボール保持の仕組みは、非常に練られていた。アドリエン・シルバ、ジョアン・マリオ、ウィリアム・カウバーリョ、レナト・サンチェス、モウチーニョ、ダニーロ、アンドレ・ゴメスのポジショニングは、自由奔放だった。ただし、その自由には規律がある。ボール、味方、相手の位置に応じて、サイドに流れる、列を下りる、縦のポジションチェンジと、相手からすれば捕まえにくいポジショニングを実現していた。ファイナルラウンドになってからはなかなか目に見える場面が少なかったが、ときおりみせるボール保持のうまさがパス成功率に繋がっていたのだろう。ポジショニングのわけのわからなさは、バイエルンのボール保持を思い出させるものだった。ただし、ポルトガルはゴールまで迫れないのだけど。
戦術のトレンド
全体を振り返ると、しっかりと守備を固めた相手を崩せない試合が多かったように思える。クラブチームのトレンドを見てみると、しっかりと固めた守備を壊すためにどうする?という流れが延々と続いている。その答えが、相手が守備の整っていないときという考えを生んだ。バルセロナがメッシ、スアレス、ネイマールの起用でカウンターや速攻を取り入れ、レアル・マドリーは相手にボールを持たせたように、相手の守備が整っていない状態をどのように生むか。また、相手の守備が整っていたとしても、選手のポジショニングや守れないエリアを攻撃の起点とするボール保持からの定位置攻撃でどうにかしてしまうチームも増えてきている。
前からのプレッシングよりも撤退守備が多かった印象は、この定位置攻撃の強度不足にあるのだろう。代表チームでも質が高いことを証明したかったドイツは怪我人に泣かされ、スペインはイタリアに屈した。そして、撤退守備でドイツを凌いだフランスも、決勝でポルトガルの守備に屈した。ボールを保持したほうが負けた大会になったかもしれないが、ボール保持が終わったわけではない。ボールを保持することもできるし、放棄することもできるという姿勢が大事なのは、クラブも代表も変わらないだろう。結局は、トレンドといっても、やるべきことは自分たちができる策を増やすということに尽きる。
また、準決勝で負けたドイツだが、恐らく何も感じていない。自分たちの目指す方向性をまるで疑っていないだろう。センターフォワードがいない問題についても、ドイツのことだからとうの昔に手をつけているに違いない。ドイツがボールを放棄するかというとそんなことはない。グアルディオラショックが起きたように、ドイツではボールを保持しても結果がでることを証明した。今季のドルトムントの躍進もボール保持から始まっている。というわけで、それぞれの練度を上げていくだけという身も蓋もない結論でとなってしまう。
ひとりごと
明日は決勝戦でEURO祭りは終わる予定です。最後に印象に残ったことをつらつらと書いていきます。
・ボヌッチのロングパスからのジャッケリーニ
・ハムシクとアラバの惜しいシュート
・アイスランドのどこからでもロングスローと試合後のセレブレーション
・ハンガリーのボール保持
・アイルランドとフランスの絶対に参加したくない球際対決
・ロシツキーの献身
・まさかのマリオ・ゴメスの復活
・グリーズマンのダンス
・グロシツキの突撃とミリクのシュートが入らない
色々ありましたが面白かったです。でも、一日に三試合はやめましょう。
コメント
初めましてsumicechと申します。
とても面白く読ませて頂きました!
特にポルトガルの分析は僕には難しいと思っていて、よく見ていらっしゃるんだなと思いました!
他の記事も読ませて頂きます!
ありがとうございます!!!!