はじめに
ありがたいことに日本代表の感想は、基本的にフットボリスタに載せてもらっている。日本代表の定点観測は前回の最終予選から始まり、まさかのE-1まで対象となる作業となった。
しかし、今回のパラグアイ戦は対象外でっせ!ということになり、自分のブログでの掲載となる。他意はない。ここまで定点観測をしてきたので、辞めるのはもったいない精神である。
こんな感じでフットボリスタにも書いているぜ!というお試し版のようなものと思ってくださいな。でも、今回は箇条書きスタイルに近いけれども。
チームの約束事か、選手の自由な発想かを判断する基準
初に目についたプレーは田中碧のサリーだった。
ザイオンからのボールを受ける鈴木淳之介の位置が左サイドバックのようだったことがサリーの始まりである。鈴木淳之介が高い立ち位置を取ることを促すような田中碧のサリーは3分25秒周辺で起きている。この早い段階でサリーをしたということは、試合前からの計画の可能性が高い。
後方の枚数を増やし、相手のプレッシングの形を観察するプレーだった可能性もあるけれど。この段階での断言は危険であり、伏線くらいに思っておくことが肝心である。
4:18の場面でも田中碧はサリーをしている。今度は渡辺と瀬古の間に降りている。この短い時間に二連打で行われているので、試合前から計画されたプレーといえるだろう。
パラグアイの配置が【442】であることを考えると、田中碧のサリーで配置がかみ合うと考えるかもしれないが、田中碧を加えた歪な4バックはパラグアイからすると、物事を単純化できる状況でもなかった。開始早々でハイプレッシングのリスクを冒すこともやぶさかでないだろうし。
この場面の直後にパラグアイのセントラルハーフが日本のシャドーに立ち位置を依存する格好となったので、小川の降りるプレーからシュートまでたどり着いている。これがこの試合の解答だったのではないだろうか!?という伏線は最後まで回収されなかったことが切ない。
時間の経過とともに、パラグアイのボール保持の局面も増えていく。ゴールキックは蹴っ飛ばすパラグアイだが、セカンドボールを回収すると、後方からやりなおしていた。日本のハイプレッシング対策かもしれないし、相手にあわせた彼らの日常の振る舞いなのかもしれない。
パラグアイの【4231】に対して、日本は相手陣地ではほぼマンマーク。内側に移動して自陣に降りていくウイングに対しても、特に鈴木淳之介の迎撃、9番のポストワークには渡辺剛がどこまでもついていくことで優位性を相手に与えなかった。
ただし、ボールを奪えて味方に繋げれば日本のチャンスに、相手からボールを奪っても相手に渡ってしまえば、日本の整理されていない状況を利用してボールを保持するパラグアイと一進一退の状況となった。
ハマらないプレッシングとボックスビルドアップ
ミドルで構えたときの日本は【541】というよりは、【523】。パラグアイのボックスビルドアップの前に、基準点の設定は苦しそうだった。変幻自在の立ち位置をとるセントラルハーフコンビと降りてくるウイングによって、ボール保持を安定させるパラグアイ。サイドバックで息ができることもパラグアイにとっては幸運だったかもしれない。
パラグアイの8番と7番は日本のセントラルハーフの脇を狙っている印象。
10分には佐野が渡辺と瀬古の間にサリー。三回目なので、断言OKの事例。13分のゴールキックでも佐野がセンターバックの位置へ。ボール保持は【433】も使う意思表明ということだろうか。この場合、瀬古が右サイドで後方支援ができるかどうかが鍵となる。結論から言うと、できていなかったので、橋岡のほうは良かったかもしれないという結果論。
佐野の競り合い、渡辺の競り合いから相手がボールを守ることに成功し、速攻が炸裂。相手のクオリティに助けられる格好で、失点は免れた日本。しかし、その後のパラグアイのボール保持から失点をする。文脈としてはボックスビルドアップに対して、ミドルで構えたときの基準点の設定のミスの繰り返しを利用された形。相手がアシストをする直前に小川航基が、中盤が出てくるんじゃないの?と身振りで表現していたのが印象に残っている。
強引な伏線回収をすると、9番の降りる動きに8番と7番が裏に飛び出す形は一度だけ見ることができた。この場面では10番だけれど、パラグアイの十八番なのかもしれない。
失点直後の日本はハイプレッシングを実行。間違いない判断。でも、パラグアイのボール保持に対して、ボールを奪い取るまでの労力が半端ない。ボックスビルドアップに対するプレッシングがこんなに苦手だっけ感。でも、この試合は、サンフレッチェ広島対町田ゼルビアのサンフレッチェ広島の振る舞いにパラグアイのボール保持が似ている。日本のセントラルハーフ周りにどのような負荷をかけるか?というコンセプトが。走らせるんじゃくて、迷わせる。
しかし、半端ない労力が必要ならやるしかない。無茶なサイドチェンジに追い込んだ日本。ボールを奪った日本は左サイドで中村敬斗が質的優位を相手に押し付ける。シンプルにパスをしてくれる鈴木淳之介の偉大さよ。二回目の突破でクロスをあげると、中盤のトランジションにつながり、こぼれ球をワンタッチで小川航基につける佐野海舟が素敵。小川航基がネオタイガーショットを放ち、日本が同点に追いつく。
サリーをやめる判断と南野の降りる動き
ちなみにサリーを全然しなくなったので、チームの指示かもしれないし、佐野と田中の判断かもしれない。28分くらいから佐野が前に出てプレッシングをかけることで、プレッシングの数合わせを行う。その代わりにセカンドボール回収隊が減るのでトレードオフでもある。個人的には正しい解決方法だと思うけれども。
28分以降で南野拓実はプレーを変化させていた。堂安、南野コンビのライン間でボールを受けたいコンビは、相手のセントラルハーフに注意深く監視をされ続けたので、ボールを受けようがなかった。ついでに、相手のサイドハーフが背中で消す意識もあったので、パスコースがない、パスコースがあっても相手を背負っている状況では難しいものである。
なので、相手のサイドハーフの脇まで降りる南野。そのまま中村敬斗を使ってもいいし、相手のサイドへのスライドを促してサイドチェンジを繰り返してもOK。田中碧たちが攻撃的な飛び出しをするようになったことも含めて、キリンカップあるあるである相手の足は残り10分くらいで止まる説を立証しているようだった。ちなみに、この動きはチーム森保の得意技だけれど、堂安はほとんどやっていなかった。この選手によってプレーが変わることが良さでもあり悪さでもある。
ちなみに32分くらいからサリーは復活。35分には田中碧が右サイドバックの位置に降りてプレーしていた。鈴木淳之介と比較しても同じような立ち位置でプレーしていた伊東にとっては朗報だったに違いない。
で、ここからが本題。シャドーやインサイドハーフの選手にボールが入らない理由が相手のほぼマンマークのような状況のときは、インサイドハーフたちがその場から消えることで、パスラインを作ったり、相手のセントラルハーフの間に選手を配置したりする解決策がある。コンテ式の【3142】が懐かしくなる具体例。
小川はこのプレーを2.3回やったけれど、確かに小川はゴール前に置いておきたい。となると、誰がやるか。おれたちの田中碧。残り5分くらいで、【3151】のようになる日本。これが答えだとばかりに。ようやくたどり着いた答えだったが、たぶん、田中碧周りの選手は田中碧のアドリブにあまりついてこなかった。小川のスペースメイクでできたエリアに田中碧が到達する前にパスが出るとか。これが答えならサリーをしている場合ではないとなるのが矛盾。
前半でその他に気になったことは、パラグアイの選手たちの相手を背負ってボールをキープする能力だろうか。いつもだったらボールを奪えるタイミングでも奪えない場面が多かった。それならば複数で対応となるけれど、そのまえにボールを逃されてしまうか、ファウルになってしまうので、ボールを奪いきれない日本。佐野海舟だけが中盤より前でボールを奪いまくっている姿が印象に残っている。
復活するサリー
後半開始から48分までに田中碧がサリーを二回しているので、サリーをすることはハーフタイムに再確認されたのだろう。右サイドバックの位置に降りて、伊東を高い位置に押し上げることをチームとしても狙っている可能性が高い。後半のほうが伊東チャレンジが多い背景になるのかどうか。
パラグアイのゴールキックは日本の中村敬斗サイドを狙うプレーが多かった。しかし、少し内側にボールが飛ぶことも多く、どちらかというと、自分たちのストロングサイドを活かすつもりだったのかもしれない。このサイドでは鈴木淳之介が空中戦で無類の強さを発揮する。後半に相手の頭に膝が当たるほどのジャンプ力で笑った。
55分のゴールキックでは、佐野が右サイドバックの位置に入っていたので、チームの約束事として断言してもよさそう。
後半になって日本のプレッシングが修正されたかなと眺めていると、時と場合に寄るといったところか。相手のサイドバックに南野たちがプレッシングをかけることもあれば、前半と同じように伊東たちが飛んでくることもあった。ハイプレは前半と同じように、少しミドルで構えたら【541】のように修正した可能性が高い。押し込まれたときも【541】感が増している。
60分の南野のプレッシングの位置が二回目なので、日本の修正について追記。相手のボックスビルドアップに対して、南野と小川を並べる【442】の雰囲気が色濃くなる。準備する時間があれば、【442】に変化して守るみたいなノリなので、必ず【442】に変化するわけでもない。前半から右サイドバックなのか?という立ち位置をとる伊東への辛い境遇。だからこそ、ボールを保持したときの4バック化なのかもしれないけれど。餅は餅屋。
日本の失点場面がもっと顕著に【442】の雰囲気が出ている。前半と同じように、降りる動きを多発するパラグアイに対して、マンマークでどこまでもの日本。最初に瀬古、次に鈴木淳之介が降りる相手についていけずに一気にボールを運ばれてしまう。【442】のミドルならもう少し背中での管理を!となるが、根本のマンマーク!は変わらないところがにくい。
一度は相手の攻撃を食い止めることに成功したけれど、最終的にはクロスをあげる選手へのプレッシングがあまく、良いクロスに良いヘディングで勝ち越しゴールをパラグアイに許す形となった。でも、中村敬斗を責めるのは少し酷。
失点直後の65分に斉藤光毅と鎌田大地が登場する。交代は南野と中村。後半の中村が大人しかったのはチームとして伊東を使う意識の高まりだろうか。
田中碧のサリーは継続で、鈴木淳之介に内側を取れるかの実験開始。斉藤光毅はファーストチャレンジに失敗。左利きの怪我人続出で、鈴木淳之介がいろいろできることを試しているようだった。3バックの左CBと4バックの左SBの内側を一試合のなかで同時に試しているというか。
田中碧がサリーして4バックでボールを動かすけれど、次の一手がみつからない日本。鎌田がサイドハーフの脇に降りてくる前半の南野仕草を行うが、あまり効果的ではなく。70分に堂安の空けたエリアに佐野が入ってきた場面は良かった。解決策はシャドーがいなくなってできたエリアに誰かが入ってくることだけど、後半の小川はそのようなプレーを全くしなかったので、チームとしての意図があるのだろう。
前半の残り数分で見つけた答えのほうが効果的だとは思うが、この試合ではボール保持の4バックへのチャレンジを優先したのかもしれない。最適な回答は【3151】で、相手のセントラルハーフへの過負荷だったのだろうね。
鎌田が登場しても【442】感は消えず。堂安と鎌田の守備の役割の違いは明白だった。ただし、押し込まれたときは【541】のようになる。この境目が実に難しい。特に堂安と伊東サイドは難しかったろう。鎌田が守備でトップからサイドハーフに戻る仕組みの左サイドと比べると、二人で完結する必要がある。堂安が前から行けば、伊東は連動しないといけない。この部分の強度をあげろは言うは易く行うは難し。なので、トランジションなどは強さを見せる日本だけど、パラグアイがボール保持を安定させた状態からはなかなかボールを奪えない状態は継続。
77分に町野と相馬が登場する。このあたりからサリーと【442】の守備は終了し、ノーマルの配置で試合を進めていく展開となった。シャドーに配置された相馬は時間の経過とともに、大外レーンで勝負し、クロスまでたどりつくことに成功している。なお、選手を交代し、運動量の回復から試合の優位性を持ってこようとしても、パラグアイの配置への解答はだしていないこともあって、試合内容に大きな影響を与えることはなかった。ただし、セントラルハーフに鎌田を置くと、鎌田からの啓示が行われるので、その利点はある。
終了間際に登場する上田綺世。そして、セットプレー崩れから伊東のクロスにニアに飛び込む瀬古。瀬古につられるパラグアイの面々。ボールは誰もさわれずにファーに飛び込む上田綺世が頭であわせ同点ゴールを決める。たぶん、交代してからファーストタッチ。こうして試合は終了した。
■ひとりごと
最終的には引き分けと帳尻をあわせた結果となった。
一方で【3151】よりも伊東を前に出すサリーを添えた【433】を優先した形ととなる。前半と比べて伊東の出番が増えた感じはあったので、わからんでもない。
テスト優先の雰囲気は強い。チームの約束事を守ることを強く意識させられたサリーの頻度と回数と時間帯だったけれど、もう少し相手を見て、チームに優位性をもたらすならば、好き勝手にやってもいいんじゃない?と提案したそうな南野、鎌田、田中碧であった。
コメント