【カウンターの恐怖】ドルトムント対レアル・マドリー【ジダンの采配をどのように評価するか?】

マッチレポ1617×チャンピオンズ・リーグ

ドルトムントのスタメンは、ビュルキ、ピスチェク、ソクラティス、ギンター、シュメルツァー、ヴァイグル、カストロ、ゲッツェ、ゲレイロ、デンベレ、オーバメヤン。サイドハーフにどの選手を起用するかを注目していた。トゥヘルの答えは、デンベレとゲレイロ。便利屋のゲレイロはサイドハーフ、サイドバック、インサイドハーフをこなす、オシム的に言えば、ポリバレントな選手として重宝されている。なお、香川真司はベンチ外。シュールレが復活したことと、守備固め要員のローデのほうが試合に出る確率が高いと考えたため、ベンチから外れたのだろう。

レアル・マドリーのスタメンは、ケイラー・ナバス、カルバハル、ヴァラン、セルヒオ・ラモス、ダニーロ、クロース、モドリッチ、ハメス・ロドリゲス、ベイル、ロナウド、ベンゼマ。カゼミーロの怪我の代役が、ハメス・ロドリゲス。つまり、チームのプレーモデルを変更している。前節のラス・パルマス戦で見せたように4-2-3-1と4-4-2を使い分ける形だ。また、マルセロの代役にダニーロ。本職は右サイドバックだが、両サイドで出場している印象が強い。また、怪我で試合に出ていなかったケイラー・ナバスがスタメンに復活している。

レアル・マドリーの抱え続けている弱点

カペッロ時代から抱えている弱点が、レアル・マドリーにはある。もしかしたら、カペッロ以前から抱えている弱点といえるかもしれない。弱点の始まりは、11人によるハードワークが標準装備になってきたことから始まる。かつてのイタリアのように、9人で守って、2人で攻めきるというサッカーで勝ち続けることは難しくなっている。その一方で、スペシャルな選手たち、つまり、試合を動かすことのできる選手たちが守備をしない問題が、ハードワークの標準装備を妨げる要因となっていた。よって、監督に求められる能力は、それらの弱点をいかに隠すか。または、彼らに守備をさせられるかどうかだ。

カゼミーロの離脱によって、4-4-2に変更するジダンの気持ちは理解できる。ディフェンスラインの前をカゼミーロが単独(+モドリッチ、クロース)で守る形から、最初から2人(モドリッチとクロース)を配置して守る形にかえたほうが守れそうだ。しかし、4-4-2に変更したときの問題点が両サイドハーフとなる。この試合では、ロナウドとベイルがサイドハーフに配置されていた。彼らがアトレチコ・マドリーで言えば、カラスコやサウールほどに守備をするかといえば、絶対にしない。1列目のベンゼマとハメス・ロドリゲスがアトレチコ・マドリーで言えば、グリーズマンやガメイロほどに守備をするかといえば、絶対にしない。

よって、カゼミーロの離脱を4-4-2で凌ぐつもりが、4-2で守備を強いられる場面が目立ったレアル・マドリー。この状況でもセルヒオ・ラモス、ヴァランの能力の高さでどうにかしてしまうところが、非常にレアル・マドリーらしい。個人的にオーバメヤンはそろそろビッククラブを相手にしても、リーグでプレーしているようにできると考えていた。しかし、セルヒオ・ラモス、ヴァランを相手にすると、借りてきた猫のようになってしいまっていたことが印象的だ。レアル・マドリーもオーバメヤン獲得候補に上がっていたが、今日のようなプレーだと移籍は難しいかもしれない。ドルトムントにとっては、好都合かもしれないけれど。

さらに言えば、この怪しい守備の状況を引き換えに、レアル・マドリーはカウンターに選手を残すことができていた。17分のレアル・マドリーの先制点は、まさに不安定な守備を引き換えに手に入れた数的優位で迫るカウンターで決まった。恐らく、このトラウマは再戦のときも引きずりそうだ。例えば、残り時間が少ないとか、負けている、死なばもろともでも攻めないといけない段階では、全員攻撃に全力を尽くすことができるだろう。しかし、同点、カウンターの差し合い、どちらがボールを握るかわからない状態で、ドルトムントがいつものようなポジショニングを取れるかは、非常に怪しくなった。

ハメス・ロドリゲスとヴァイグル

ボールを奪うとボールを誘導する。2つのプレーの難易度は異なる。もちろん、ボールを奪うほうが困難だ。ボールは奪えないけれど、相手の攻撃を特定のサイドに誘導することは決して難しい作業ではない。機能しなそうなレアル・マドリーの守備だったが、特定の狙いを見せることはできていた。

最初の狙いが、ハメス・ロドリゲスをヴァイグル番にすることだ。コバチッチを投入して4-3-3にするまでのレアル・マドリーは、4-4-2で守備をしていた。ときどきハメス・ロドリゲスが下りて3センターになる場面も見られたが、どのようなときに3センター、もしくは2センターで守るかが、やっぱり明確ではなかった。ドルトムントのビルドアップの中心は、ヴァイグルで間違いない。だから、ハメス・ロドリゲスをヴァイグルに当てる。そうすれば、ドルトムントの2センターバックは空いてしまう。ベンゼマが走って死んでをできればどうにかなるかもしれない。でも、できない。

よって、レアル・マドリーは、ベンゼマにソクラティスを担当させた。ドルトムントのビルドアップの武器のひとつが、センターバックの運ぶドリブルだ。ソクラティスとギンターを比較すると、ギンターのほうが効果的に運ぶドリブルをすることができる。だったら、ベンゼマにギンターを抑えさせたほうが相手の長所を止めるという意味では適している。

しかし、ソクラティスにボールをもたせると何が起きるか。必然的にレアル・マドリーの左サイドからボールを前進させる場面が目立つようになるだろう。すると、ロナウドの守備機会が増える。ついでにダニーロの出番も増える。レアル・マドリーからすれば、ロナウドよりは守備をするベイルとモドリッチ&カルバハルのサイドから相手が攻撃をしてくれたほうが、守備の計算が立ちやすい。この選択がドルトムントの長所と噛み合ってしまうとしても、自分たちの短所を攻められるよりはましと考えたのだろう。

このレアル・マドリーの計算は、そこそこに機能していたと思う。ただし、モドリッチとクロースが動かされる→サイドハーフがカバーリングをしない→しかたなくセンターバックが出てくると、非常に危険な状態だった。それでも、センターバックが何とかしてくれるという計算がさらにあったのだろう。ただし、この試合で復帰したケイラー・ナバスは怪しさでいっぱいだった。シュートをなぜかほとんどキャッチしない。このシュートはキャッチできるだろうと考えたヴァラン。しかし、はじくケイラー・ナバス。ケイラー・ナバスの弾いたボールがヴァランに当たり、ゴールに吸い込まれるという非常に切ないゴールでドルトムントは同点に追いついた。たぶん、押し込んだのはオーバメヤン。

ボックスビルドアップの修正

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ビルドアップ隊の枚数を何枚で行なうかは、相手のプレッシングの枚数に依存するし、自分たちの方法論によって決められるだろう。レアル・マドリーの怪しさは、4-4-2なのに、4-3-3のように振る舞ってしまうところにある。ラス・パルマス戦でもドルトムント戦の前半のようにボールを運ぶことに苦労していた。2-2でビルドアップをする場合は、セントラルハーフのポジショニングを固定しないことが大切となっている。よって、クロースがずっと中央にポジショニングする形ではなかなかボールを運べない。

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同点で後半を迎えたレアル・マドリー。前半の終了間際に失点してからの攻勢を強めた姿は立派だった。昨年のチャンピオンズ・リーグのファイナルでも見せた姿だが、自陣に撤退を選んだあとに、何事もなかったように攻勢に出られることは簡単にできる芸当ではない。レアル・マドリーの強さの秘訣は、試合の流れを自分たちで強制的に変更することができることだろう。

よって、ここがドイツだろうと関係ないレアル・マドリー。ボール保持からの攻撃を繰り返すようになる。前半にみせたチグハグ感は、モドリッチとクロースが横並びになることで解決された。この形だと、ヴァラン、セルヒオ・ラモスの運ぶドリブルも必要となる。彼らの積極的な攻撃参加も相まって、レアル・マドリーが安定して試合を進めることに成功する。

守備をしいられたドルトムント。自分たちもボールを保持したいが、カウンターがどうしても怖い。ちょっと攻めると、ベイルに裏を取られる地獄が待っていた。ある意味でかつてのバルセロナのようなポジショニングとボール保持をするドルトムントだけれど、マスチェラーノやプジョルがいるわけでもない。ボールを保持したときは強いが、相手のカウンターを止めるという意味では、ヴァイグルもまだまだブスケツには及ばない。そうなると、いつものような攻撃的なポジショニングを取れない。ポジショニングが整理されなければ、レアル・マドリーの守備を崩せないと、非常に厄介な流れになっていた。

両監督の采配

最初に動いたのはトゥヘル。ゲッツェ→シュールレ。ゲレイロをインサイドハーフに移動させる。最初に交代したことでわかるように、実はゲッツェのインサイドハーフとしての序列は決して高くはない。ちなみに、この交代の影響はほとんどなかった。シュールレがサイドに固定されたことによって、インサイドハーフとサイドハーフのポジションチェンジも減ったくらいだった。

そして、68分にレアル・マドリーにゴールが決まる。コーナーキックからのクイックリスタート。ドルトムントがファーサイドのマークを見逃すと、ベンゼマが強襲。こぼれ球をヴァランが押し込んで勝ち越しに成功する。

69分にハメス・ロドリゲス→コバチッチ。4-3-3に変更するレアル・マドリー。守備固め。守備固めをするなら、4-4-2で両サイドハーフに守れる選手を配置するベニテス采配で良かったような気がするのだが。カゼミーロがいない次点で、その考えはなかったのかもしれない。ただし、ハメス・ロドリゲスを交代したことで、ヴァイグル番がなくなる。インサイドハーフのコバチッチとモドリッチがヴァイグルを抑えに行く場面も見られたが、ヴァイグルがこの交代をきっかけに存在感を示し始めたのは偶然ではない。

73分にデンベレ→プリシッチ。明確な結果を見せられなかったデンベレ。最初はダニーロに苦戦するものの、徐々にらしさを発揮して、フィニッシュまでドルトムントの攻撃を牽引していた。ゴールでも決めていれば、世界中が多騒ぎしていたかもしれない。右サイドにはいったプリシッチ。ドルトムントのビルドアップをヴァイグルが経由するようになっていたので、プリシッチの強引な仕掛けの出番も増えていった。

コバチッチはポジショニングと運ぶドリブルで、レアル・マドリーの攻撃にしっかりと貢献はしていた。また、カウンターでドルトムントにとどめをさせそうな場面もちらほら出てくるレアル・マドリー。ドルトムントはミドルシュートなどを放つが、今日ははじきまくるケイラー・ナバスに止められる展開となる。カウンター防ぎのファウルでイエローがかさむと、ゲレイロ→エムレ・モルが登場する。インサイドハーフでエムレ・モルは、そんなに機能していなかった。香川がベンチに入れば、出番があったかもしれない。

話を戻すと、レアル・マドリーはロナウドサイドの守備を不安に感じていた。だから、ドルトムントの攻撃をギンターサイドに誘導する作戦を取っていた。しかし、ヴァイグルを解放したことで、ドルトムントはどちらのサイドからも攻撃を仕掛けられるようになっていた。というよりは、シュールレはドリブルで破壊するタイプではないので、プリシッチサイドにボールを運ぼうとしていた。そして、ドルトムントの同点ゴールは、このロナウドサイドから生まれる。突破のきっかけとなったのは、ダニーロだが、ダニーロとプリシッチのマッチアップになるまでに、何かできなかったのかと言いたくなる守備であった。

プリシッチのクロスは、シュールレのもとにこぼれる。シュールレはニアの天井にシュートをつきさして、ドルトムントが同点に追いつく。残り時間が5分くらいであったが、レアル・マドリーはやっぱり攻勢にでる。ベンゼマ→モラタであと少しでゴールという場面を作るのだから立派だ。しかし、ゴールは決まらずに、試合は引き分けで終わった。

ひとりごと

ジダンの采配を振り返ると、2つのチェックポイントがある。

・ケイラー・ナバスの起用。

・4-3-3への変更。

前者は選手を信じるジダン采配として、非常に論理的だったろう。気持ちはわかる。でも、ケイラー・ナバスが不必要にボールをはじきまくる姿を見ていると、起用は早かったのではないかと誰もが感じたに違いない。最初の失点のゲレイロのフリーキックへの対応も怪しさ満点だった。

後者はロナウドとベイルをどのように隠すか。ベニテスがときどき行っていたように、両サイドに守れる選手を配置する。前線にベイルとロナウドを並べるが、守りきりをはかるうえでは、最適解のような気がしている。最後にモラタが登場したように、ベンゼマをどうしても残す必要は感じない。もちろん、交代するのは、ベンゼマ、ベイル、ロナウドの誰でもいいのだけど。

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