【ゲッツェがとうとう消えた理由】ドイツ対スロバキア【諸刃の剣を持つドイツ】

EURO2016

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結果は3-0でドイツの勝ち。ベスト16決戦の中でも最も力の差があると予想された試合は、予想通りの結末となった。スロバキアは、守備的な選手をサイドで起用するドイツ対策を見せるものの、対策とはそういう意味でないことを知る前半となった。後半になると、スロバキアのドイツ対策が機能し始める。しかし、躍動するドラクスラーにとどめをさされ、スロバキアの挑戦は終わった。

ゼロトップの目的

グアルディオラの元で居場所を失ったゲッツェ。グアルディオラはクセが強い監督なので、相性が悪かったんだろうね、で話を済ますことはできる。しかし、次の監督のアンチェロッティにもポジションはない!と言われたらしいゲッツェ。それでも、レーヴなら僕を救ってくれるはずだと、代表チームに活路を見出してきたゲッツェ。しかし、ファイナルラウンドでスタメンから外れるという境遇は、本人も本人の周辺の人々も予想していなかっただろう。

ゲッツェのゼロトップは、バイエルンのグアルディオラ初年度に行われた対ドルトムントで機能性を発揮していた。ゼロトップの特徴は、相手のセンターバックの守備の基準点を失わせること&1列目から2列目に下りることで、中盤センターでの数的優位から試合を支配しよう、となる。中盤中央での数的優位が試合にもたらせるものは、相手陣地での時間と空間をボール保持者が得ることと言えるだろう。大切なことは、ボール保持者に時間と空間を与えることだ。もしも、ゼロトップをやらなくても前線の選手が時間と空間を得られるのであれば、ゼロトップを行なう必要性はない。

ドイツのビルドアップ隊を見ると、ノイアー、フンメルス、ボアテング、クロース、ケディラ。怪しいのはケディラだけで、他の選手は世界屈指と言っていいだろう。ビルドアップが円滑に行われる状況では、前線の選手が時間と空間を得やすいといえるだろう。そのときに、ゼロトップが必要なのかというと、はっきりって必要ない。ゼロトップが必要な状況は、ビルドアップが機能しない、中盤の選手が相手に捕まっている状況下となる。しかし、今大会のドイツは中盤が捕まっていれば、大外のサイドバックを使う選択肢を持っている。となれば、ゼロトップの出番は、ビルドアップ隊が機能しなくなったときと言えるだろう。

トゥヘル式と-1のビルドアップ隊

今大会のドイツは、スタメンをいじりながら正解を探している印象を受ける。スロバキア戦において、最適解を見つけることに成功したといえるかもしれない。トップにマリオ・ゴメス、左サイドにドラクスラー、右サイドバックにキミッヒで、ドイツらしさは増したように感じる。今大会のドイツのプレーモデルは、年が明けるまで(2015年)のドルトムントに非常に似ている。両サイドバックを上げる、大外からの崩し、クロスを大外に合わせるなどの形は、ほとんどコピーと言えるだろう。それゆえに、もう少しドルトムントの選手(シュメルツァーなど)が選ばれてもいいような気がするが、それは闇の中だ。

ドルトムントとの違いは、ビルドアップ隊の枚数となる。

ドルトムントのビルドアップ隊の枚数は、2センターバック(フンメルス、パパ)、アンカー(ヴァイグル)、2インサイドハーフ(香川、ギュンドアン)の5枚だ。香川のポジショニングでビルドアップ隊の枚数を調整することもあるが、基本的には5枚だ

ドイツのビルドアップ隊の枚数は、2センターバック(フンメルス、ボアテング)、2セントラルハーフ(クロース、ケディラ)の4枚となる。ノイアーを使えば5枚になるが、基本的にはフィールドの選手だけで完結させるようになっている。

枚数の違いは、前線にかけられる枚数の違いとなって現れる。ドルトムントは2サイドバック、2ウイング、オーバメヤンが前線にポジショニングする。ドイツは、2サイドバック、2ウイング、トップ下、センターフォワード(マリオ・ゴメスかゲッツェ)となる。ただでさえ前線にポジショニングできる選手が多いのに、ゼロトップをする必要があるのかと考えると、永遠に続く禅問答となりそうだ。

スロバキアのプレッシングのモデルは、4-1-4-1と4-4-1-1だった。ドイツの先制点後は4-1-4-1に変更したように見えたが、どのようなプランだったかは、監督に聞いてみないとわからないだろう。ドイツのビルドアップに対して、スロバキアは明確なプランを持たなかった。よって、サイドに流れるクロースの動きに対して、ほぼ無策での対応となる。最近のビルドアップの特徴として、横幅はサイドバックでなく、ビルドアップを行なう選手たちで必要ならば確保しましょうという約束事が存在するようになっている。ザッケローニ時代の遠藤保仁や、サイドバックの位置からドリブルを始めるディ・マリアの流れが一般化した結果だ。

オープンになってからのドイツの攻撃は、ボールサイドの大外(サイドバック)、ライン間への楔のパス(サイドハーフとエジルとマリオ・ゴメス)、逆サイドの大外(サイドバック)と選択肢が多彩だ。クロース、ボアテングがサイドチェンジを行い、フンメルスは運ぶドリブルからの楔のパスで味方を自由にする。サイドバックとサイドハーフのコンビネーションで、相手のサイドバックとサイドハーフを自陣に押し込み、3人目としてクロースやケディラが後方のサポートをする形は、バイエルンの形に似ている。サイドから押し込んだあとのサイドチェンジでは、センターバックが前に出てくることもドイツのどこからでも始まる攻撃を表している一例となる。先制点がクロースのサイドチェンジをきっかけに生まれたことも偶然ではない。

バイエルン式プレッシングと強度の低さ

基本的にボールを保持したいドイツは、積極的にボール保持者へのプレッシングを行なう。相手の形など関係なく、ガンガン行こうぜスタイルだ。つまり、ボール保持者から時間を奪ってしまえば、プレスの連動性など関係ないという姿勢を見せる。特にクロースが自分のエリアを飛び出してプレッシングをかけていく姿が目撃されていく。このプレッシングスタイルは諸刃の剣だ。プレッシングを回避されたら一気にピンチとなる。そして、ドイツは高い位置でのボール奪取からのカウンター機会を手に入れるとともに、相手にプレス回避からの速攻を許してしまっていた。

連動していないというよりは、無茶なプレッシングが多い。そして、発生したエリアをカバーさせるために、ドイツはセンターバックを躊躇なく動かす。クロースを動かしている次点で、躊躇する理由もないのだが。ドイツの考えとしては、プレッシングを回避されても一対一で負けなければいいし、時間を稼げればみんな戻ってくるし、ノイアーがいるし、ということなのだろう。このリスクの代わりに、ショートカウンターの機会を手に入れたり、自分たちがボールを持つ時間を長くするほうが、チームの結果に繋がると考えているのだろう。

ウクライナ戦でも見られたように、この試合でもノイアーの出番は、試合を思い通りにすすめているわりには多かった。相手がプレッシング回避の達人となってきたときに、ドイツはどのように守備の準備をするのかは今後の注目となる。

ただでは転ばぬスロバキアのドイツ対策

前半で2-0とされたスロバキア。後半から4-3-2-1で勝負にでる。その心はクツカとハムシクに、クロースとケディラへマークをつかせる。ジュリシュは懸命にセンターバックの周りを走る。クロースとケディラのポジショニングが厄介ならば、はりついてしまえ作戦は、ドイツのビルドアップを機能させなくすることはできていた。

こういう状況になったときのドイツは、エジルやドラクスラーが下りてくることで解決となりそうなのだが、相手にボールを保持させることで解決をはかった。ボールを保持するときに問題があるならば、ボールを保持しなければいい。ただし、撤退守備のドイツは、自由に動き回るハムシクとクツカを捕まえられずに、危なっかしい場面を作られてしまっていた。でも、最後はノイアーが止めるのだけど。

チャンスを作るスロバキアだが、コーナーキックからとどめをさされてゲームオーバーとなった。ドイツは累積が怖い選手をどんどん交代させ、次の試合への準備を始める。時間が経つにつれて、スロバキアのドイツ対策も適当になっていき、シュバインシュタイガー、ポドルスキーが追加点を狙うものの、スコアは動かずに終了した。

ひとりごと

ドイツはクロースの存在感が尋常ではない。後半にクロースを消されたときにらしさが消えたようにチームの中心となっている。クロースを消されたときにどのようにドイツが振る舞うかはなかなか見えてこないけれど、準備をしていないということはないだろう。いざというときにチームを救うのがゼロトップだったら、できすぎたストーリーでかっこいいのだけど。ドラクスラーとキミッヒの躍動は、嬉しかった。

コメント

  1. ドイツファン より:

    クロースの無茶なプレスがかわされたときはヒヤッとしました。
    イタリア戦が楽しみです。
    ミュラーの裏抜けが鍵になりそうです。

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