シャビ、シャビ・アロンソの代表引退、ワールドカップでの失敗、ドイツの隆盛、バルセロナのサッカーの変化が相まって、スペイン代表の注目度は下がっている。注目度の低下は観客動員数の低下をもたらした。ワールドカップ制覇以来、スペイン国内で行われる代表戦の観客は常に多かった。しかし、予選の首位攻防戦という状況にあったスロバキア戦の観客動員数さえ、減ってしまっている現状だ。
注目度が下がっていても、スペイン代表はスペイン代表。スタメンを眺めれば、ビッククラブで活躍する選手がずらり並んでいる。スロバキアが首位という予選の現状だが、安定した結果でここまで来ているのは間違いない事実だ。スロバキア戦の敗戦によって失った信頼や誇りを取り戻すためのリベンジマッチ。そして、スペイン代表の今がどのような状況にあるのか探っていく。
■スペインらしい戦い方で一蹴
最初にスロバキアの守備の狙いを整理しておく。
スロバキア代表のシステムは4-1-4-1。ハーフラインからのワントップの選手がプレッシングを開始する。ワントップの守備の特徴は、スペイン代表のセンターバック同士のパス交換を防ぐポジショニングをすること。このポジショニングによって、どちらかのセンターバックに前進を強いる。センターバックからの楔のボールに対して、人に強くマークすることで、ボールを奪う。そして、ボールを持ち上がっていたセンターバックの裏をカウンターで狙うというストーリーがしっかりしていた。
色々と問題を起こしたピケが国内での試合でもブーイングを受けていたこと(この試合も例外でなく)もあって、スペイン代表の攻撃は不自然なまでにセルヒオ・ラモスの運ぶドリブルから開始されることが多かった。序盤にセルヒオ・ラモスの裏、ビルドアップミスでスロバキアの狙いが炸裂する展開となったが、失点に繋がらなかったのは幸運だったと言えるだろう。スタジアムにネガティブな雰囲気を漂わせるには十分すぎるスロバキアの奇襲から始まった。
そんなネガティブな雰囲気を払拭したのはシルバとジョルディ・アルバだった。右サイドに配置されたシルバのクロスを大外からサイドバックが飛び出してくる形で、あっさりとスペイン代表が先制する。バルセロナだったなら、イニエスタのクロスにアウベスが飛び出してくる形に似ている。ポゼッションチームの得点パターンとして、相手のブロックの大外から、または視野外から選手を飛び出させて得点を奪う形は定型化している。
この大外からの飛び出しは何度もこの試合で繰り返されるスペイン代表の攻撃パターンの1つであった。アトレチコ・マドリーのように、スロバキアはスペインの中央攻撃を警戒し、サイドを捨てて中央密集で守りを固めるパターンが目立った。よって、クロスに対して、大外からの侵入という形は非常に理にかなっている。得点にこそ繋がらなかったが、相手の形に対して、様々な準備ができている証拠であった。
早すぎる先制点は試合にあまり多くの影響を与えなかった。首位のスロバキアだが、大切なことは本大会へのストレートインになる2位で予選を終えること。3位のウクライナが迫ってきている状況で優先されるべきことは、大量失点で負けないことだったのだろう。よって、得点や時間経過が試合に与える影響はまだ少なかった。
守備を固める相手へのスペインのアプローチは続く。
サイドチェンジをして、相手のスライドを強制させたいが、ピケは相手のポジショニングによって、使えない。ここで、出番がきたのがブスケツだった。バルセロナ対策でワントップの選手にブスケツのマンマークを担当させる方法がある。しかし、スロバキアはセンターバック同士のパス交換阻止にワントップを使っている。スロバキアの守備の形が4-2-3-1ならば、トップ下に配置された選手がブスケツ番になる。だが、スロバキアの守備は4-1-4-1。インサイドハーフに起用された選手は、自分の対面や相手のインサイドハーフのポジショニングに対応する仕事があったので、ブスケツがフリーになる場面が多かった。
いわゆる、1列目(スロバキアのワントップ)と2列目(スロバキアのMF)の間のスペースをスペインに支配されてしまった。このエリアをどのように死守するかが、ポゼッションチームに対抗するためには重要になる。もちろん、このスペースをあけわたして、ゴール前にバスを並べる作戦もあるが、それはそれ、これはこれ。
そして見えてきたスペイン代表のアプローチがインサイドハーフ、サイドバック、ウイングによる崩し。それぞれの役割を整理すると、サイドバックが攻撃の横幅を取り、相手を横に広げる。ウイングは相手の四角形(相手のセンターバック、サイドバック、インサイドハーフ、サイドハーフ)の間にポジショニングするか、サイドバックと一緒にサイドにはりだし、外外でボールを前進させる。インサイドハーフはそのエリアへのボールの供給源、サイドバックのサポート、四角形の間にポジショニングする(この場合のボールの供給はブスケツか、ボールを持ちだしたセンターバック)
サイドバック以外は役割が複雑に共有化されている。つまり、ポジションチェンジが頻繁に行われるのだが、このときの約束事がいわゆるビラノバドリルと同じ。ボールを出したら動く。他の選手がその動きと逆の動きをする。つまり、選手が交差する。この交差の動きによって、空いたスペースを有効利用するのはバルセロナの得意技であった。この動きをみるたびに、ビラノバがピッチに生きているんだなと実感し切なくなる同盟を増やしたい。
スロバキアは相手につくのか、スペースにつくのかをそのたびに判断させられる。しかし、アンカーが間に合えば危機的状況にはならない。枚数が足りているからだ。しかし、わずかなスペースでも中央突破(ワンツーによる突撃)を繰り返すスペイン代表はなかなか勇敢。もちろん、相手を中央に寄せて、大外を使う囮なのだが、そのまま突破してしまいそうな勢いがあるからこそ囮として機能するのだろう。アンカーが間に合わなければ、サイドチェンジすることで、相手にスライドをさせる。そして、枚数が足りない状況、またはスペースのある状況でウイングとサイドバックが単純な連携(オーバーラップやインナーラップ)で相手を強襲する。
さらにこの攻撃に変化を加えるのがジエゴ・コスタ。チェルシーに移籍してしまったジエゴ・コスタ。スペイン代表はワントップに苦しんでいるが、我慢してジエゴ・コスタが起用されている。彼の役割は前線での守備、センターバックとのどつきあいがメインなのだが、サイドに流れるという重要な仕事がある。
前述したように、サイドからの仕掛けはインサイドハーフ、ウイング、サイドバックが連携して行う。その攻撃に対して、相手も自分たちの形を相手のポジショニングに変容させながら対応する。しかし、このエリアに計算外の選手が突然現れたらどうなるだろう。その選手がジエゴ・コスタ。ジエゴ・コスタはボールサイドに流れることで、相手の守備形が変化することを拒ませる。サイドバックが四角形の間で受けようとするシルバたちを捕まえにいこうとすると、とつぜん現れる。これで、シルバはフリーになれるし、もしも、シルバにマークをついたらジエゴ・コスタを使えばいい。
こうしたジエゴ・コスタの献身性に相手がセンターバックを動かして対応してくれば、サイドチェンジを行う。ジエゴ・コスタが移動しただけ、相手のスライド、密集はさらに強いものになり、逆サイドには広大なスペースが広がっている。そのエリアから突破をするのか、またクロスを上げるのかは状況による。だが、ジョルディ・アルバ、ファンフランと攻撃性能に優れたサイドバックを擁しているスペイン代表には適した戦い方と言えるだろう。
スペイン代表の最後の仕上げが裏への飛び出し。いわゆる速攻だ。ペドロ、ジエゴ・コスタがチームにもたらすのが縦への深さ。シルバ、イニエスタ、セスクがチームにアイディアとテクニックをもたらし代わりに、チェルシーコンビは相手の裏に突撃する。攻撃に緩急が生まれるので、常にボール保持者にプレッシングをかけないと、スペイン代表はポゼッション攻撃と裏への突撃を使い分けることができる。その飛び出しからジエゴ・コスタが抜け出し、相手からPKを奪うことに成功する。このPKを決めたのがいイニエスタなんだけど。ジエゴ・コスタが蹴らないあたりに本当はいい人であろうジエゴ・コスタの本性が伝わってくる。
2-0になってからのスロバキアは後半から自分たちでボールを保持する姿勢を見せ、スペインのゴール前に迫ることに成功する。スペイン代表は相手にボールを保持されて、セットオフェンスを仕掛けられたときにもろさを見せるのは今までと変わらない。その代わりに、攻守の切り替えはしっかりと装備されており、ボールを失ってもすぐに奪い返すことで、今までどおりの姿勢を見せた。途中出場はアーセナルの隠れたボスことカソルラ、アトレチコ・マドリーのボスことコケ、そして期待のパコと選手層も凄まじい。
無理に攻める必要もないときのスペイン代表はボール保持を安定させるために、インサイドハーフを相手にブロックの外でプレーさせる。四角形の中にはウイングを配置し、相手にブロック外にインサイドハーフとアンカーの3枚を配置することで、サイドチェンジを円滑にすすめ、時間をつぶしながら延々と攻撃を仕掛け続けることに成功した。
こうして、試合は2-0のまま終了。ホームでのリベンジに成功し、スペインは首位を奪還することに成功した。
■独り言
スロバキアも悪いチームではなかったが、スペインの前に完敗。試合後にスロバキアの監督がこんなことを言っていたらしい。スペイン代表はこのあとのEUROもワールドカップも優勝するよって。この試合のスペイン代表はそれくらいの強さとらしさを見せた。中央密集というトレンドの相手に対する準備も含めて、いい試合だったと思う。EUROが王の帰還になるのかどうか。それとも、直接はやられていないけど、今までのようにレーヴにトラウマをうえつけられるのか、先が楽しみになりそうな試合だった。
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