【ドイツのように!?】ドイツ対フランス【アトレチコ・マドリーのように】

EURO2016

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結果は2-0でフランスの勝利。シュバインシュタイガーのハンドで得たPKをグリーズマンが決めてフランスが先制。後半にはドイツのビルドアップミスからボールを奪い、最後はまたもグリーズマンが決める。ドイツは自分たちのプラン通りに試合を進めることができたが、得点だけが足りずに敗戦。3度目の事実上の決勝戦は、フランスが勝利した。そして、次が本当の決勝戦。

フランスのポグバ、マテュイディを抑えるために

アイスランドの4-4-2による守備は、レスターに例えられることもあった。ハイレベルのセットプレーと相まって、今大会で躍進を遂げたアイスランドだったが、準々決勝でフランスに大敗してしまった。その理由が、フランスの2センターバックと2セントラルハーフを抑えきれなかったことにある。オープンな状態でボールを持つことができたマテュイディとポグバが、アイスランド戦でのフランスの攻撃の起点となった。そして、彼らから始まるフランスの攻撃は、次から次へとゴールにつながっていったことは、記憶に新しいだろう。

ボールを保持しているときのシステムは、横に置いておく。相手がボールを保持しているときのドイツのシステムは、基本的に4-4-2だった。もちろん、アトレチコ・マドリーやレスターが証明したように、4-4-2の形でも、2センターバックと2セントラルハーフによるビルドアップを防ぐことはできるだろう。しかし、それなりの強度をもつアイスランドがフランスのビルドアップを防げなかったように、4-4-2での対応は、多少のめんどくささが残る。それならば、役割をはっきりさせたほうが守るのも楽だ。よって、クロースとエムレ・ジャンをポグバ、マテュイディにぶつけることで、フランスのビルドアップの破壊を試みたドイツだった。

コシェルニーとユムティティもボールを繋げないわけではない。実際にコシェルニーは長い楔のボール、ユムティティは運ぶドリブルからの相手をひきつけるプレーを見せていた。しかし、それらのプレーを日常的に行えるわけではない。じっとしていれば、ミュラーが追いかけてくる。フランスとしても、セントラルハーフを経由できないビルドアップをするくらいなら、ジルーへ放り込むプレーのほうが優先順位が高いようだった。実際にジルーはその空中戦の強さで、チームに質的優位を提供していたので、フランスの計算は間違っていなかった。

フランスの4-4-2を崩すために

カンテの復活によって、4-2-3-1か、4-3-3か、注目の集まったデシャン采配。デシャンの決断は、4-2-3-1だった。相手がボールを保持しているときは、4-4-2に変化する。

ドイツは4-1-4-1で守備を行っていたこともあって、ボールを保持したときも4-1-4-1でスタートしていた。相手の2トップを牽制するために、シュバインシュタイガーを列から下ろし、3バックでのビルドアップをすすめた。繋げるボアテングに対して、フンメルスの代役のヘーヴェデスには不安もあったのだろう。クロースがヘーヴェデスの前にポジショニングしていることが、とても印象的だった。

今大会のドイツは、トゥヘルのドルトムントに似ている。ビルドアップの形は、これまでは2センターバック、2セントラルハーフで行われていた。しかし、この試合では3バック+クロース、ときどきエムレ・ジャン、またはエジルという形になっていた。フランスが自陣に撤退したこともあって、インサイドハーフにあたる選手がブロックの外でプレーする必要性はなかった。よって、ドルトムントよりも、前線に人を配置できる形で、フランスの4-4-2に挑むことができていた。

レーヴの4-1-4-1の選択は、非常に理にかなっていたと思う。もしも、フランスが4-3-3で来たら、恐らくビルドアップの形を変えて挑んでいただろう。プレッシングの形も、エムレ・ジャンかクロースをトップ下にする4-4-1-1または、エジルを前に出す4-4-2で対抗すればいい。できれば、ボールを保持したいドイツにとって、フランスのビルドアップを破壊することと、フランスに前からプレッシングをさせないことを実現する4-1-4-1はうってつけのシステムであった。

バイエルンとの違い

グリーズマン、ジルーまでが自陣に下がって、4-4-2を形成するフランス。その姿は、アトレチコ・マドリーのようだった。グリーズマンが躍動していることもあって、アトレチコ・マドリーらしい中央からのカウンターも何度も披露していた。シメオネ監督がこの試合を見ていたら、ジルーを獲得しようぜとなっても不思議ではない。ジルーとグリーズマンの関係性は相手にとって脅威を与え、グループリーグでのよくわからなかったフランスを救ったとも言える。

試合に話を戻すと、圧倒的にボールを保持するドイツの攻撃をフランスが耐え忍び展開となった。フランスのカウンターは中央を経由して行われることが多かった。チャンピオンズ・リーグ準決勝のアトレチコ・マドリーとバイエルンのアトレチコ・マドリーが決めた中央カウンターのような場面を狙っているフランス。シュバインシュタイガーがグリーズマンを捕まえる計算だったのだが、グリーズマンを逃してしまう場面が目立ったシュバインシュタイガー。レーヴの計算ミスがあったとすれば、このシュバインシュタイガーのプレーぶりだろう。なお、前半の終了間際にハンドでPKを献上するシュバインシュタイガー。

ドイツの攻撃で再現性があった形は、エムレ・ジャンのサイドバック裏への突撃。キミッヒとの関係性は、非常に良かった。エムレ・ジャンの仕事は、非常に興味深かった。エムレ・ジャンが相手の裏への突撃をしてくれることによって、エジルが好き勝手にポジショニングをすることができていた。エジルの存在感も異常で、パイエは対応に非常に苦労していた。高いポジショニングをとるキミッヒを捕まえたいけれど、6バックになってしまうと、エジルにプレーエリアを与えてしまう地獄となる。パイエはできるかぎり自分のポジショニングを守りながら懸命に守備をこなしていった。

エムレ・ジャンの突撃の他にドイツの攻撃で目立っていたのは、ボアテングからのサイドチェンジだった。右サイドに位置するボアテングのサイドチェンジは、左サイドのヘクターに届く。

左サイドに目を移してみると、ヘクターの単騎特攻がメインだった。ドラクスラーのライン間のポジショニングで相手をひきつけることはできていたかもしれないが、ヘクターに単独でどうにかせえというスキルは、残念ながらない。エムレ・ジャンのようなサポートもなかった左サイドは、死んでいるは言い過ぎだが、あまり機能はしていなかった。後半になると、ドラクスラーをサイドに置いて、ヘクターを中という形も見られた。サイドチェンジの先に誰がいるかは非常に重要だ。バイエルンはアイソレーションの先にサイドバックを準備することはあまりない。サイドバックを準備するときは、エムレ・ジャンのようなサポートがしっかりとある。ドイツにとって切なかったことは、ドラクスラーでもサイドを突破できなかったことだろう。つまり、ドイツにはロッベン、リベリ、ドグラス・コスタ、コマンのようなタレントがいなかった。

ドルトムントとの違い

ドイツがトゥヘルのドルトムントに似ているとすれば、ドイツが解決すべき問題の答えは、ドルトムントが持っているかもしれない。ドルトムントは、攻撃の横幅をサイドバックに任せた。シュメルツァーとギンターは、ロッベンでもリベリでもない。しかし、ギンターは得点に絡みまくり、シュメルツァーもチャンスメイクで仕事をこなしてみせていた。

ドルトムントのサイドバックの仕事を思い出してみると、クロスの出し手と受け手をこなしていた。シュメルツァーのクロスを大外からギンターという場面が最も多かった。ギンターは、クロスをシュートに結びつけることもあれば、中へ折り返すこともあった。終盤のバイエルンもこの策を採用していたように、クロスを大外に放り込む→大外から中へ折り返す→中でフィニッシュに結びつけるという流れは、相手にとって非常に対応がしにくい。

大外には空中戦に強い選手はいない。サイドバックの背が高かったとしても、サイドバックからサイドバックへのクロスに対して、4バックで対抗することは困難だ。今大会のイタリアを思い出してもわかるように、トップ、インサイドハーフの選手も含めると、ゴール前に殺到する選手の物量を4枚で耐え切ることは不可能に近い。よって、大外を絶対に勝てるポイントとし、フィニッシュとチャンスメイクの準備をしていたことが、ドルトムントの策であった。

大外から大外へのクロスからの折り返しは、相手の視野を混乱させる役割もある。クロスに対してボールを視野から外してしまう選手はあまりいない。大外へのクロスボールを視野に入れる→ボールが中に戻ってくるの流れの中で、自分のマークすべき対象とボールを同時に視野に入れ続けることは不可能に限りなく近いと言っていいだろう。似たような場面がドイツにあったのが、ロスタイムに近い場面でゲッツェがクロスで合わせた場面くらいだった。バイエルンも行っていたように、ドイツでも行えそうな策(マリオ・ゴメスがいないならなおさら)だったが、ほとんど見られなかったのは残念だった。

バルセロナとの違い

攻めに攻めまくったドイツに決定機がなかったわけではない。ミュラーがいつもの調子だったら、得点が入っていてもおかしくなかった。しかし、ロリスのスーパーセーブに防がれ、キミッヒのミドルはバーに当たると、運がなかったことも見逃せない。

相手が撤退に撤退を重ねているときのバルセロナの策は、ワンツー地獄とイニエスタからのアウベスパターンが鉄板となっている。正確には過去形で書くべきなのかもしれない。ワンツー地獄は、中央をワンツーで破壊するという身も蓋もない作戦だ。バルセロナのメンバーだからこそできる、スペースがない状態でもあると感じられる力量のなせるわざと言っていいだろう。

イニエスタからのアウベスパターンは、グアルディオラの得意技とも言える。バイエルンも行っていたので、マンチェスター・シティでも行われるかもしれない。左のインサイドハーフがカット・インで中に侵入し、逆サイドのサイドバックが大外からダイナゴルランで中へ侵入。イニエスタからのパスを受けたアウベスは、シュートかパスでゴールに繋いでいく。サイドバックにこのような仕事ができなければ、バイエルンが行っているようにアラバロールをやらせて、ゴール前での侵入が得意な選手をサイドに置く策もあっただろう。イニエスタのようにクロースがボールを放り込む場面がたくさんあったので、少しもったいなかった。

デシャンの地味な好手

4-2-3-1、もとい4-4-2を選択したデシャンの決断は、素晴らしかったと思う。なんとなくカンテを復活させての4-3-3で来るんじゃないかと予想していたけれど、期待は良い意味で裏切られた。1列目の守備も自陣に下がって行われたことで、アトレチコ・マドリーを彷彿とさせる守備で、ドイツの攻撃を耐え切ることに成功した。

試合の全体を見ると、基本的にはドイツがボールを保持して、フランスが耐える展開に終止した。ドイツからすれば、殴り続けていれば、得点が入るだろうという計算だったのだろう。前述のように策が少し足らなかったし、サネの投入は、奇跡でも待っているのだろうかと思わされた。サネの実力に疑いの余地はないが、こういう場面でこれまで試合に出場していなかった若手にすべてを託す采配を見かけるのは偶然ではないだろう。不確定要素に頼るしか無いというとか。

カンテの投入直後に、ドイツのビルドアップミスからフランスは追加点を決めている。カンテの投入が4-1-4-1への変更かと見ていたが、マテュイディが左サイドハーフにいたので、4-4-2を維持していた。もちろん、1点差だったら、4-1-4-1だったかもしれない。真意はデシャンのみしるだが、グリーズマンとジルーの関係性を壊さなかったことで、カウンターチャンスからのグリーズマンのハットトリックもありえたので、4-4-2の維持は正解だったろう。

さらに、リードで迎えた後半戦のフランスのカウンターは、非常にスピードが落ちていた。正確に言えば、落としていた。前半にボアテングに何度も中央からのカウンターが潰されたように、カウンターのカウンター返しが一番怖い。だったら、サイドからボールを展開すればいいし、少しでもボールを保持したほうがいいのではないか?と後半から様変わりしたことも、フランスの逃げ切りの要因になっていたと思う。

最後の最後でアトレチコ・マドリーというプレーモデルを手に入れたフランスが、決勝戦への切符を手に入れた。バイエルンのメンバーからすれば、チャンピオンズ・リーグに続いての圧倒的に自分たちのやりたいことをやり通したのに勝てなかったという切ない試合になってしまった。

ひとりごと

シュバインシュタイガーのハンドがすべてだったかもしれない。怪我明けのシュバインシュタイガー(クラブでのあまり出ていなかった)と心中という意味では、レーヴも本望だったかもしれないけれど。これだけドルトムントしているチームにドルトムントのメンバーがいないというのも、なかなか不思議だった。だからこそ、イタリア戦でも見せたように、色々なことができるようになっているのだろうけども。ただし、ドルトムントもドイツがやっていたようなサッカーを途中で捨てたので、レーヴの気持ちがわからないでもない。

開催国では最強らしいフランス。グリーズマンがスタメンから外れるなんてことは今は昔。ようやく最適解を見つけたチームは強い。ただし、ラスボスがポルトガル。ボールを持てるし、ボールを放棄しても強いというめんどくさいチームとの対決でフランスがどのように振る舞うかは注目だ。さながら、チャンピオンズ・リーグの決勝戦のような試合になりそう。

コメント

  1. ととや より:

    決定機を量産しつつ負ける。
    こうまで繰り返されるともはや偶然じゃないでしょうね。
    応援しているチームがこうなれば悔しさは計りきれないでしょうが、
    逆に自陣での守備さえ出来れば押し込まれる展開が絶望的に感じられる時代は過去のものになったのだなぁ、と。

    • らいかーると より:

      クラブレベルでは、これくらいの撤退守備(フランス)は、いとも簡単に破壊されます。

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