【香川とギュンドアンを抑えられても、ドルトムントにまだ残されていたパターン】ハノーファー96対ドルトムント

マッチレポ1415×ブンデスリーガ

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ブンデスリーガの昨年のトップ4は、バイエルン、ヴォルフスブルク、ボルシア・メンヘングラッドバッハ、レバークーゼンです。全チームがチャンピオンズ・リーグに出場します。ブンデスリーガの真の力が試される状況なのですが、バイエルン以外の3チームは決して好調とは言えない状況にあります。リーグ戦ではボルシア・メンヘングラッドバッハは絶不調、レバークーゼンも下位に沈み、ヴォルフスブルクがなんとか上位陣に踏みとどまっている状況です。ライバルたちの総崩れによって、今季もバイエルンがリーグ優勝を成し遂げそうな雰囲気がもう出てきていますが、そのライバルとしてドルトムントが名乗りを上げるしかない状況になっています。トーマス・トゥヘルにとって、この状況が好ましいのかどうかはわかりませんが、両チームの連勝がどこまで続き、直接対決を迎えるのかはドイツ国内で注目されているでしょう。

しかし、連勝が続けば、自然と相手もドルトムント対策をしてくるようになります。最初の刺客はハノーファー。怪我から復活した清武の所属するハノーファーはどのようにドルトムント対策をしたのでしょうか。そして、それは機能していたと言えるのでしょうか。

■バルセロナの置き土産

ドルトムントのシステムは4-1-2-3。特徴はインサイドハーフの香川とギュンドアンの役割の違いにあります。相手のブロックの中でプレーする役割が香川、ブロックの外でプレーする役割がギュンドアンです。もちろん、この役割が逆になる場面もありますが、あくまでプレー頻度の多いものを役割と定義しています。ウイングの動きはかなり自由に設定されています。そのために、相手を横に広げるための横幅はサイドバックの役割です。ビルドアップの場面でサイドバックをあまり使わないため、インサイドハーフがビルドアップのヘルプをしやすい選手配置になっています。

ハノーファーが最初に考えたことは、香川とギュンドアンを試合から追い出すことでした。相手がボールを保持しているときのハノーファーのシステムは、4-4-2。このシステムのまま相手にぶつかるよりも、香川とギュンドアンを止める役割を特定の選手に課すことで、曖昧さを回避する狙いを見せます。

具体的にいうと、右インサイドハーフのギュンドアンには清武、左インサイドハーフの香川には左サイドハーフのレオンを当てました。相手のセンターバックがボールを持っているとき、レオン以外はゾーン・ディフェンスの配置で守るのですが、ボールが動く、または前進の気配を見せると、清武は素早くギュンドアンのそばにいきます。ギュンドアンにボールを受けさせないというほど強烈には行きません。その代わりに、ギュンドアンがボールを持ったらパスコースを制限、またはドリブルによる持ち出しに備えて清武は守備を行いました。レオンは常に香川を見ている印象を受けました。

このような役割は本来の位置から離れることになりますので、相手にとってスペースを与えることになります。清武の動きによって、ソクラティス、レオンの動きによってシュメルツァー周りにスペースが生まれます。ソクラティスに関しては積極的にビルドアップを行うタイプではなく、横のフンメルスにボールを任せる場面が目立ちました。ここで、ソビエフをフンメルスにマンツーマンでつける方法もあるのですが、採用しなかった理由はフンメルスに攻撃機会を増やすことで、プレー機会の増加を狙ったのだと思われます。

ボールを触る機会の多かったフンメルスは、空いているシュメルツァーにボールを展開します。ハノーファーはこのエリアをボールの奪う場所として設定する、というほど大げさなものではありませんが、全体を一気にスライドさせることで、シュメルツァー周りのスペースを消すように守備を固めました。高いポジショニングをとりたいシュメルツァーに低いエリアでボールを触らせることで、ドルトムントの攻撃をいつもの形にさせない狙いがあります。そして、そのエリアのスペースを一気に圧縮させることで、カウンターを仕掛ける。そして、狙いはフンメルスの裏となかなか論理的な仕組みを見せます。

ハノーファーの守備の仕組みの前に、ドルトムントの最初の動きは香川の落ちる動きです。香川はサイドに流れることで、レオンのポジショニングをサイドに誘導します。外外のボール循環でシュメルツァーを高いポジショニングをさせることができればよかったのですが、真の狙いはレオンがいなくなったことによる、レオン、ソルクの間から前線のムヒタリアンにボールを通すこと。相手の四角形(センターバック、サイドバック、ボランチ、サイドハーフ)へのパスコースを確保することで、香川はポジショニングで攻撃を牽引しようとします。

しかし、ハノーファーはこの攻撃を読みきっていました。よって、四角形の形を崩してムヒタリアンにしっかりとついていきます。同サイドでの崩しを防がれたドルトムントはサイドチェンジを仕掛けます。しかし、ロイスの代役のホフマンのポジショニングには怪しさがつのり、ギュンドアンは清武の献身性でいつもの良さを発揮できない状態となります。こうして、ドルトムントがらしさを見せることはできずに、ハノーファーが攻撃を仕掛けていく展開に試合が推移していきました。

ハノーファーの攻撃は速攻とフンメルス狙いが目立ちました。ドルトムントのセンターバックは判断はあっていても、力の差で押し切られてしまうことがたびたびあります。特にトップレベルでは。よって、ハノーファーはフンメルス周りを狙います。もともとセンターバックだったギンターのいる右サイドを狙うのは適切とは考えなかったのでしょう。攻撃に守備にフンメルスを忙しくさせることで、エラー待ちな雰囲気も感じられる攻撃でしたが、セットプレーでは精度の高いボールを清武が蹴られるので、非常に可能性を感じさせる攻撃でした。

そして、先制点はハノーファー。ロングボールから始まったボールの奪い合いのなかで清武が見事なスルーパスを通し、最後はソビエフが決めます。

ドルトムントは香川、ギュンドアン経由の攻撃ができないので、非常に苦しみます。しかし、ドルトムントの攻撃にはもうひとつのパターンが残されていました。それがクロスに大外のサイドバックが飛び込んでくるバルセロナの得意技です。ドルトムントはサイドチェンジを繰り返しながらゆっくりと前進し、クロスで相手を揺さぶる展開になっていきます。ハノーファーはボールサイドに全体をかなりスライドさせることで、ドルトムントに中盤の隙間を使わせない意図を明確にしていたので、この大外クロスに徐々に苦しんでいくようになります。

そして、そのクロス爆撃からドルトムントはPKを得ます。ギンターの折り返しをホフマンが倒されてPKを奪い、これをオーバメヤンが冷静に決めます。そして逆転ゴールはまたもギンター。左サイドからのサイドチェンジを受けると、マイナスのクロスでムヒタリアンのゴールを演出。こうして残されたパターンを使うことで、ドルトムントは前半のうちに逆転することに成功します。

後半もとくにハノーファーの方法に変化はなし。その立ち上がりにドルトムントは同点ゴールを決められてしまいます。問題だったギュンドアンのいるサイドでのボールの奪い合いから一気に抜けだされると、クロス処理を失敗したフンメルス。あとはソビエフが決めるだけでした。

困ったドルトムントはホフマン→ヤヌザイで勝ち越しゴールを狙います。同点になってからようやくバイグルがボールに絡むようになり、香川の周りにスペースができるようになっていきます。センターバック→バイグルの経由により、相手の守備が乱れるようになると、トーマス・トゥヘルはカストロを投入し、バイグルの位置にギュンドアンを投入することで、相手の対策に対抗するようになります。相手はこの変化に守備の形を変化させる必要がありますが、そんなうんぬんのまえに勝ち越しゴールが決まります。

ムヒタリアンとポジションチェンジして、中でボールを受けた香川はチームの決まり事通りにサイドチェンジ。これをまたもギンターが折り返して、最後はオウンゴールにつながりました。ここからのハノーファーは死なばもろともアタックを見せます。最初に4-3-1-2。いわゆる香川、ギュンドアン番をなくしました。この変更によって、ドルトムントの攻撃は一気に機能性を増す展開となります。ただし、ヤヌザイだけはボールを持ちすぎていましたが。

ドルトムントが相手のセンターバックとサイドバックの間に選手を走らせて、ペナルティエリアへ何度も侵入するようになります。このままではまずいと4-4-2に変更しますが、攻撃的な選手をずらりと並べた普通の4-4-2でドルトムントを止めるのはかなり厳しい作業となりました。ドルトムントはサイドから中央からと攻撃を繰り返し、最後に相手のハンドからまたもPKをオーバメヤンが決めて試合は4-2で終了します。

■独り言

香川とギュンドアンをおさえられたことで、いつものらしさを見せられたのは番人がいなくなった80分以降。それでも勝ち越すのだから困ったときの形をもっていくことの重要性を感じさせられる試合です。特に右サイドのギンターがクロス、またはサイドチェンジの受け手としてかなり機能しています。大外を守るのはゾーン・ディフェンスの仕組みから考えても難しく、選手の距離をサイドにヘルプにいけるように調整すれば、中央が空くという相手の狙いが機能してしまいます。だからといって、サイドハーフを下げる6バックになれば、今度は自分たちの攻撃がどうなると悩みはつきません。現実的なのは5バックにして撃退となりそうですが、ドイツは4バックが基本ベースになっているので、その攻略法としてはトーマス・トゥヘルはなかなか嫌らしい仕組みをチームに装備させたと言えそうです。

■気になった選手

清武。日本代表のセットプレー問題に終止符を打てそうな選手。年齢的にも次のワールドカップが大勝負なので、ぜひともドイツで結果を残して代表に復活して欲しい。ハノーファーの先制点の演出はすばらしかった。そして、守備でもギュンドアン番をしっかりとこなしていた。

サリフ・サネ。フランス育ちのセネガル代表。もともとはセンターバックだったらしいが中盤にコンバートされたよう。守備の人だったようで、守備力、スペースか人かを守る判断も優れていた。また、攻撃面でも技術を発揮していたので、順調に経験を積んでいけば大化けするかもしれない。

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