【リスク管理をするグアルディオラ】マンチェスター・シティ対ワトフォード【奇襲のマッツァーリ】

マッチレポ1617×プレミアリーグ

チャンピオンズ・リーグのグループリーグは無事に突破したマンチェスター・シティ。しかし、リーグ戦では当初の評判よりも結果が出ていない。結果が出ていないと言っても、4位にいる。ハードルが高く設定されているグアルディオラ。エバートンにアーセナルが負けたこともあって、ポイント差をつめるには負けられない試合となった。チェルシー戦での乱闘によって、フェルナンジーニョとアグエロは出場停止となっている。

マッツァーリに率いられたワトフォードは7位。解説者曰く、非常に健闘しているといっていた。ワトフォードの当初の目的は、残留くらいだったのかもしれない。プレミアリーグといえば、4-4-2。雑誌の題名にもなっているくらいだ。そんなプレミアリーグに3バックおじさんことマッツァーリが登場。そして、しっかりと結果を残しているのだから注目に値する。プレミアリーグには戦術的に特徴のある監督が集まってきている。よって、戦術的な進化、基準の再構築がイングランドに何をもたらすかは非常に興味深い。

4バックというサプライズ

3バックおじさんのマッツァーリの奇襲は、まさかの4-4-2だった。相手チームへの対策をしっかりと行なうグアルディオラの狙いを外す奇策と言えるだろう。実際に15分までのマンチェスター・シティは、相手の形に対してとまどいを感じさせる場面が目立った。この15分をどのように捉えるかは人それぞれだろう。相手への対応に15分もかかったとも言えるし、15分で相手に対応することができたとも言える。

3バックの特徴は、相手の守備の基準点がずれやすくなるというメリットを求めて行われることが多い。システム噛みあわせ論でいえば、システムが噛み合わないことによる時間とスペースの発生を最大限に活かすということだ。よって、マンチェスター・シティの形にあわせた格好となる4バックの採用は、守備ではメリットこそあれど、攻撃ではデメリットが多いように感じさせる。そのデメリットを解決するためのマッツァーリの策は、ロングボールだった。

パスの出発点は、ブリトスに限らない。守備が噛み合うなら、無理にボールを前進させる必要はない。ロングボールでマンチェスター・シティの弱い部分を狙い撃ちにする。特にイガロはマンチェスター・シティのセンターバックにも競り勝つ場面が目立っていた。とうか、イガロばかりの空中戦となった。マンチェスター・シティの弱点であるプレミアリーグを戦うには全体的に軽すぎる問題を狙うことで、攻撃のデメリットをなくそうとするマッツァーリの策であった。

前線がサイドアタッカーだらけの理由

15分が過ぎると、ヤヤ・トゥーレを中心にマンチェスター・シティがボールを落ち着けるようになっていく。相手の2トップに対して、ヤヤ・トゥーレがセンターバックの間に下りることで、マンチェスター・シティはいつもの形を取り戻していった。ある意味でプレミアリーグ仕様のフィジカルを持つヤヤ・トゥーレの存在は、マンチェスター・シティのなかで貴重なものに見えた。また、ヤヤ・トゥーレも果敢にマンチェスター・シティの新しいサッカーに取り組んでいるように見える。かつてのバルセロナでの失敗をやり直しているように見える姿には好感が持てた。

マンチェスター・シティのビルドアップの特徴として、サイドバックがサイドバックらしい大外にポジショニングしている場面が多く見られた。アラバロールのような動きをする場面はまれで、ノーマルな形になってきていることを感じさせる。ちなみに、相手がボールを保持したときは4-4-2で守っている。攻守に非常にノーマルな形にしたのは、ちょっとした混乱から立ち直るためのリハビリかもしれない。バイエルン時代もノーマルな形とグアルディオラらしい意味不明な形を前後半で行ったり来たりすることがあった。

サイドバックが高い位置をとらないと、サイドハーフがライン間を狙ったポジショニングを狙いにくくなる。守備の基準点を持たない相手のサイドバックがライン間ポジショニングを撃退守備で対抗できてしまうからだ。また、大外の高い位置に攻撃側の選手がいなければ、相手に中央圧縮の守備を許してしまう。スターリングやヘスス・ナバスがワイドにいるならば、サイドハーフの選手にライン間ポジショニングをとれる状況を作らなくても問題はないだろう。しかし、普通に戦っても面白くはないし、こんなときのためにノリートとデ・ブライネを中央で起用している。

主なパターンは2つ。サイドハーフのハーフスペースへの侵入で相手のサイドバックを動かす。そして、2トップがサイドに流れることで、横のポジションチェンジを成立させる。特にデ・ブライネの裏への飛び出しが非常に目立った。もうひとつは、2トップが大外にポジショニングする。サイドハーフを横幅タスクから開放し、ライン間のポジショニングを可能とする。

感覚としては亜種のゼロトップのような形となった。イヘアナチョはどこへ消えたと言いたくなるが、サイドから徹底的に相手を攻略しようという意図をグアルディオラは見せる。なお、サイドバックが攻撃参加するときは、前方に誰もいなくなったときだ。サイドハーフがライン間、2トップも中央にいるときは、サイドバックの攻撃参加が許可される。ただし、2トップにサイド適正がある選手ばかりなので、サイドバックの攻撃参加はまれであった。この守備残りがマンチェスター・シティの守備を安定させる役割と、相手のサイドハーフの守備の役割を狂わせる狙いがあったのだろう。

ワトフォードのファウル連発に苦しみながらも、マンチェスター・シティは徐々にらしさを見せていくようになる。そして、33分には、サイドに流れたデ・ブライネのクロスを攻撃参加したサバレタが大外で決めるという懐かしい形でマンチェスター・シティが先制して前半が終了した。このゴールはマンチェスター・シティの定位置攻撃から始まっていて、大外は空く法則に従ったグアルディオラらしいゴールだったと思う。なお、この失点に絡んでしまったのが登場したばかりのスニガというのが切なかった。

出番の減ったブラボ

先制されたことで、交代の早いワトフォード。両チームともに怪我人が出て交代枠をひとつ消化しなければならなかったのは計算外か。ワトフォードはペレライアが負傷でスニガ。このスニガの位置を決めるのに苦労したワトフォード。最初は左サイドハーフ。そして右サイドバックで落ち着いた。マンチェスター・シティはギュンドアンが負傷でフェルナンドが登場する。ヤヤ・トゥーレとフェルナンドという重量級のセントラルハーフコンビとなった。

試合の展開としては、前半から大きく変わらず。システムが噛み合っても知らねえ!とばかりに、ショートパス主体のビルドアップにワトフォードが変更してきたのには驚いた。ただし、ヤヤ・トゥーレとフェルナンドでひっかかる場面が多く、カウンターをマンチェスター・シティに許す嫌な形が増える。ワトフォードの計算としては、相手のセンターバックにワトフォードの2トップは勝てるだろうということだった。実際に相手が側にいても、もろともしない場面が多かった。ただし、だからといってフィニッシュまで行けたかといえば、ブラボの出番は決して多くはなかった。

マンチェスター・シティのサイドバックを落としたビルドアップの目的はリスク管理にあるのだろう。サイドバックが攻撃参加しないかわりに、2トップがサイドに流れる設計になっている。その他で気になったのがブラボの出番だ。シュートがこないという意味ではなく、バックパスがまったく来なくなった。多分、バックパスをできるだけするな!という約束事に変化した可能性は高い。相手がキーパーまでプレッシングにこないならば、キーパーを使ったビルドアップは緊急避難にはなる。一方で、相手に守備を定位置に戻す時間を与えることにもある。ブラボのミスが目立ったという理由もあるのだろうけど、グアルディオラがリスク管理に着手してきた印象を強く受ける試合となった、

ベンチに控えていたイヘアナチョだったが、グアルディオラがピッチに送ったのはサネとヘスス・ナバス。どこまでもいってもサイドアタッカー。そんな走れる選手たちは相手へのプレッシングを行い続け、ボールを奪ってからのショートカウンターでワトフォードにとどめをさすことに成功する。リーグ戦に限って言えば、久々にホームでの勝利となった。内容からいっても、妥当な勝利だったと思う。ようやく妥当な勝利を手に入れたことで、一息つけたことだろう。

ひとりごと

奇襲のマッツァーリだったが、結果は出なかった。ボールを保持したときは3バックで、守備のときは4バックでという形にしてほしかったが、そういう意味での可変システムは採用されなかった。マンチェスター・シティのサイドを蹂躙する攻撃に対して、サイドバックとサイドハーフでしっかりと守ろうぜという策は成功していたと思うけれど。同点においつけそうな場面がなかったわけではないが、あの決定機がゴールに入ったらよくできたお話すぎる気がする。

マンチェスター・シティはノーマルな形で結果を出した。サイドアタッカーによるサイドでの共演は少しノーマルではないかもしれないけれど。ヤヤ・トゥーレがどのような存在になっていくかは興味深い。試合の出番も増えているようなので、幸福な関係になってくれればいいけれども。

コメント

  1. やまもと より:

    素晴らしい解説です。欧州サッカーはほぼ全部の試合見てて戦術には詳しいと自負していますが、私もそう思いました。

  2. ヴィバルディ より:

    ヤヤが前よりかなり守備の時走ってた印象の試合でした
    でもギュンドアンの負傷がが今季無理かもしれないとの事で残念です

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