逆足カットイン。ウイングにさせるか、サイドバックにさせるか、ではなくて、どのエリアでさせるか。2021.7.9.28 プレミアリーグ 第6節 チェルシー対マンチェスター・シティ

2021/22欧州サッカー

チェルシーのスタメンは、メンディ、アスピリクエタ、クリステンセン、リュディガー、ジョルジーニョ、カンテ、コバチッチ、ジェームス、マルコス・アロンソ、ヴェルナー、ルカク。昨年のチャンピオンズ・リーグの覇者はルカクを補強。[3-2-5]を基準としている印象があったが、この試合ではヴェルナーとルカクの2トップを起用。ボール非保持では[5-3-2]になっていた。昨年もマウントの位置で[3-2-5]と[3-2-1-4]を行ったり来たりしていたが、第二のオプションを確立する時期なのかもしれないし、マンチェスター・シティ対策かもしれない。

マンチェスター・シティのスタメンは、エデルソン、カンセロ、ラ・ポルト、ルーベン、ウォーカー、ロドリ、ベルナルド・シルバ、デ・ブライネ、グリーリッシュ、フォーデン、ジョズス。昨年は[3-2-5]で第二回グアルディオラを真似しようキャンペーンを世界中で展開することなった。しかし、[3-2-5]対策として、持ち場をと離れずじっと耐える作戦が確立されると、相手を動かすにはどうしたらいいか路線に昨シーズンの終盤に地味に変更している。今季は[2-3-5]にチャレンジしているらしいが、今季のマンチェスター・シティのテーマは[ボールを動かすんじゃない、相手を動かすんだ。そのためのボール保持と位置的優位]になるんじゃないかと想像している。

逆足サイドに起用される理由

マンチェスター・シティのボール保持に対して、[5-3-2]で構えるチェルシー。最初の肝はロドリだろう。アンカーはボール保持の中心として君臨すべき論がある一方で、相手の多角形の中心に位置することで、相手を中央にひきつける役割が最近の流行になってきている。よって、ボールを保持するサッカーをしているのにアンカーを経由する回数は以前と比べると減っているような感覚になる。

この試合のロドリの役割は、ルカクとヴェルナーを引きつけることで、マンチェスター・シティのセンターバックを自由にすることだろう。もちろん、余裕があればボールを受けてより相手の視野を引きつけることになるのだが。というわけで、アンカーの役割はボールを経由しなくても味方に時間とスペースを与え、ボールを前進させる知性となってきている

チェルシの多角形プレッシング[3-2]によって、中央よりもサイドからの前進機会が増えていくマンチェスター・シティ。ノーマルなサイドバックの立ち位置に対して、チェルシーはインサイドハーフ、ウイングバックのどちらが出ていくかは、状況により判断しているようだった。

余裕があるときはウイングバックが前に出ていくことで、マンチェスター・シティのサイドバックに前を向かせないことが理想のようだったが、グリーリッシュやジェズスが大外レーンの位置することによって、ウイングバックが前に出られなくなっていく展開となった

いや、別にそれでもウイングバックが出ていけばいいじゃねえか?となりそうだが、その場合は最終ラインの選手がサイドにカバーリングを行くことになる。そして、おそらくだが、ジョルジーニョも最終ラインに落ちるかもしれない。ちなみに、インサイドハーフが出ていけば、ジョルジーニョは動くことになっているようだった。

つまり、マンチェスター・シティの狙いは相手を動かすこと。もっと言えば、内側レーンにセンターバックとインサイドハーフが鎮座している状況をどうにかしたい。相手を動かしてなんぼなのである。そういう意味では、インサイドハーフが相手のサイドバックまで動かなければいけないという最初からの設計でトゥヘルがしくじったという感想もまた間違いではないだろう。

よって、大外レーンでビルドアップの出口となる選手がキーとなる。配置の噛み合わせで発生するもっとも相手のプレッシングが届かない位置にどれだけ危険な選手を配置できるか大会。マンチェスター・シティの答えはベルナルド・シルバとカンセロだった。このコンビはいわゆる逆足サイドに配置されている。つまり、縦突破よりもカットイン。中央に自然とボールを送りやすい選手を配置することで、多角形プレッシングで封鎖されている中央エリアにサイドからボールを送り込む作戦。

そして、どうせマンマークをされそうなデ・ブライネではなくて、フォーデンに列を降りる動きでポストプレーを乱発させることで、さらに相手を動かす、もしくは中央を経由して逆サイドから強襲するプランだったのだろう。デ・ブライネが左インサイドハーフに起用された理由も、ベルナルド・シルバを右に置きたかったからではないかと推察している。

耐えるチェルシー

[5-3-2]で構えるチェルシーは、自陣に撤退しても[5-3-2]だった。ヴェルナーとルカクの存在を相手につきつけたかったのかもしれない。その可能性がゼロとは言えない前半戦だったが、カウンターに繋げるためのボール保持は、マンチェスター・シティのプレッシングにたじたじだった。[4-2-3-1]のような形で構えるマンチェスター・シティだったが、基本的にはほとんどマンマークと速さで解決していた。

ヴェルナーとルカクへのロングボールに対しては、センターバックが根性でどうにかする!というものだったが、その機会を減らすことができれば、どうにかなるだろうという信頼感。機会を減らすためのボール保持の時間と素早いプレッシングによる分断。そして、逆サイドのウイングはボールサイドにスライドすることで、逆サイドを捨てる細かい芸も仕込まれていた。

20分が過ぎると、じわじわとチェルシーの陣地に侵入していくマンチェスター・シティ。きっかけはラ・ポルトの運ぶドリブル。ルカクに向かったり、カンテに向かったり。相手を押し込んだときはベルナルド・シルバは内側レーンに、ウォーカーとルベン、ラ・ポルトの3バックのように変化していく形は、チェルシーからすると厄介極まりなかっただろう。

22分にようやくチェルシーがボールを持つ時間となるが、裏返せば、22分までは守りっぱなしだったことを意味している。恐らくだが、トゥヘルはこの状況を是としていないようで、ラインを上げてプレッシングをかけろ!と指示しているように見えた。ただし、ラインを上げればシンプルに裏を狙う意図も見せていたマンチェスター・シティだったので、安易に列やレーンを移動する相手についていくわけにもいかないチェルシー。そんな構図で試合は展開していった。

27分にジェームスが怪我で交代。アスピリクエタがウイングバックへ、登場したのはチアゴ・シウバ。ジェームスの治療と交代中にこのままではあかんぞ!となったチェルシーは、2トップがマンチェスター・シティのセンターバックたちにプレッシングに行くようになる。ロドリは少し放置。つまり、ラインを上げて勝負である。となれば、マンチェスター・シティ側にもスペースができる。マンチェスター・シティのボール保持で特徴的だったのは、左で作って右で仕掛ける。サイドから中央にボールを入れるロティーナ時代のセレッソの得意技の連発であった。

センターバックへのプレッシングによって、後方の選手も連動する。よって、動くチェルシー。よって、自由になるデ・ブライネという流れになり、マンチェスター・シティのシュート回数がどんどん増えていく流れとなった。つまり、前半のチェルシーはシティのボール保持に対して耐えに耐え、最後にゴールを割らせなければいいんだろ!状態で終えることとなる。

後半の頭から、チェルシーはボール非保持の役割を修正してきた。相手陣地にボールがあるときは、[5-2-3]。コバチッチはベルナルド・シルバの位置に応じて列を変化する。そして、各々のマーカー、スライドする役割をはっきりさせているように見えた。相手に自由を与えるよりも、相手の自由を奪おう作戦。ただし、押し込まれたときは[5-4-1]のようになるはずなのだけど、そのまま[5-2-3]のような動きになる場面もあり、多少の混乱からマンチェスター・シティに崩される場面が増えていった。修正あるある。ある選手は3センターの感覚でプレーしているのに、実際には2センター。そしてコーナーキックから待望の先制点がマンチェスター・シティに生まれる。ジェズスの見事なターンが秀逸だった。

無秩序もどんとこい

先制されたことでどげんかせんといかんチェルシー。思い出していればホームスタジアムでの試合でもある。というわけで、反撃開始。根性でボールを繋ぎながらマンチェスター・シティにカウンターを許してもしょうがない!という姿勢で相手のゴールに迫っていった。ずっと守ってばかりだったのにさっと切り替えされるのは流石である。なお、プレッシングに関して言えば、シティの勢いにかげりも見えていたし、先制したことで少し守りの意識も高まった要素から、チェルシーに反撃機会を与えた流れになったのかもしれない。

この流れを加速させるために、60分にはカンテ→カイが登場。慣れ親しんだ形に戻したチェルシー。攻撃モードのチェルシーに対して[4-2-3-1]でプレッシングを機能させるためには速さと献身性が必要となる。多くのチームが3バックでチェルシーに対抗していた昨年のチャンピオンズ・リーグを思い出してみよう。マンチェスター・シティはそのままの形で正面衝突となるが、相手の[3-2-5]に対してプレッシングがはまらないだけでなく、相手の攻撃を加速させることとなっていった。しかし、マンチェスター・シティもカウンターで殴り返す気は満々。チェルシーのオープンへの誘い乗ることになってしまったが、上等だよ!という姿勢を見せるマンチェスター・シティ。

なお、ボール保持で試合の展開をコントロールすればいいではないか?となりそうだが、死なばもろともだべ状態のチェルシーは、前半にマンチェスター・シティが見せていたようなプレッシングを行っていた。一対一で誰かが負けたらゲームオーバーなので、思い切ってやること。困ったらチアゴ・シウバがなんとかしてくれる精神でマンチェスター・シティにまったりとしたボール保持を許さないチェルシーだった。

しかし、70分が過ぎると、さすがのオーバーペースに両チームが疲れを見せる。よって、試合はときどき落ち着いた表情、基本的にマンチェスター・シティがボールを保持する時間が増えていった。試合を振り返っても追加点を取りそうなのはマンチェスター・シティだったわけで、チャンピオンズ・リーグのリベンジに成功したマンチェスター・シティとなった。

ひとりごと

チェルシーのMVPはメンディ。止めすぎ。

マンチェスター・シティのMVPはベルナルド・シルバ。ボール保持での活躍は言うまでもなく、パスカットやクリアー数でもチームで目立っていたのではないかと。

試合を振り返ってみると、前半は戦術が一様だった。マンチェスター・シティのボール保持に対して、チェルシーはプレッシング開始ラインの修正で対抗するがあまり効果はなく。後半に変えてみるが、それも大きな効果はなく失点。失点後に死なばもろともにしてから良くなったので、最初からできないか?となるが、できないだろう。オーバーペースの代償も大きい。オープンな殴り合いになってからもマンチェスター・シティの決定機のほうが多く、75分過ぎからはマンチェスター・シティのプレッシングも復活するなど、この試合はマンチェスター・シティのものだった。ルカクとヴェルナーでワンチャンという計算も悪くはないし、二人共にプレーも悪くなかったが、撹乱という意味でカイやマウントなどなどの存在も大きいと感じさせられた一戦となった。

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