5レーンから+1をしたり-1をしたり 2021.11.23 チャンピオンズ・リーグ第五節 マンチェスター・シティ対パリ・サンジェルマン

2021/22欧州サッカー

マンチェスター・シティのスタメンは、エデルソン、ルベン・ディアス、ストーンズ、カンセロ、ウォーカー、ロドリ、ジンチェンコ、ギュンドアン、マフレズ、スターリング、ベルナルド・シウバ。デ・ブライネがコロナ、グリーリッシュ、フェラン、トーレスは怪我、フォーデンはコンディション不良で、彼らはベンチにもいない。パーマー、マケティ、ジェズスくらいしか攻撃のカードが残っていないマンチェスター・シティ。しかし、配られたカードで勝負するっきゃないのさ、それがどうゆう意味であれ。

PSGのスタメンは、ナバス、キンペンベ、マルキーニョス、ヌーノ・メンデス、ハキミ、パレーデス、ゲイェ、アンデル・エレーラ、ネイマール、メッシ、エンバペ。ネイマール、メッシ、エンバペのウイイレでよく見る3トップを現実に目にすることには夢にも思わなかった。8人で守って3人で攻める古風なサッカーを現代で再現するPSGの命運やいかに。

+1と-1

マンチェスター・シティはノーマルな【433】で試合に臨んだ。ボールを繋ぎたいPSGに対して、ナバスまでプレッシングに行く意図を見せるマンチェスター・シティは、相手にボールを持たせたくなかったのだろう。序盤はスターリング、マフレズのウイングコンビは外切りプレッシングを行い、中央に配置されたベルナルド・シウバはパレデスを監視する仕組みでスタートした。

ボールを簡単には保持させたくない意思をみせるマンチェスター・シティに対して、正面から向き合い続けるPSGの意思の強さも異常だった。パスコースのないなかでもボールを受けるマルキーニョスとキンペンベは自己寸前の機会を何度も迎えながらも致命的なミスをしないまま、根性で時を過ごしていった。

マンチェスター・シティがPSGにボールを持たせたくなかったと考えた理由は、メッシ、ネイマール、エムバペのプレー機会を減らしたかったためだろう。この試合ではヴェラッティがいなかったが、準備万端でボールを受けた状態のPSGの選手からボールを奪い返す労力は普段よりも増している印象を受けた。さらに、前線トリオはボールを受けるために自由な移動を繰り返すため、PSGがボールを持っていれば、前線トリオのプレー機会は自然と増える展開となっていった。

PSGが落ち着いてボールを持つまでに6分の時間が過ぎたが、ボールを持てば流石だった。前線トリオがフリーに動き回る代わりに、アンデル・エレーラが彼らに合わせた立ち位置をとり、ボールを引き出して繋いでいくプレーは簡単にできる芸当ではない。しかし、それを簡単にやってのけるアンデル・エレーラは自身の価値をプレーで証明していた。

ボールを奪い取ることに苦労していたマンチェスター・シティは外切りプレッシングから【442】で構える機会を増やしていった。恐らく、アンデル・エレーラにライン間でボールを受けられる機会を増やしてしまったことも原因のひとつだろう。PSGのセンターバックにインサイドハーフっで起用されたジンチェンコが出ていくようになったことがそのターニングポイントとなった。

冷静にPSGのボール保持の時間を耐え忍びながら、マンチェスター・シティは自分たちの時間を増やしていく。PSGが根性で繋ごうとするゴールキックもロングボールに逃げる回数のほうが圧倒的に多かった。そして、ロングボールをマイボールにできるような仕組みはPSGにはなかったので、基本的にはマンチェスター・シティがボールを延々と保持し、ときどきPSGがボールを保持するか、カウンターで駆け抜ける前半戦となった。

マンチェスター・シティの配置を見ていると、ベルナルド・シウバのゼロトップが気になるところだが、いわゆるメッシのゼロトップとは様相が違う雰囲気だった。メッシのゼロトップはメッシが中盤に参加することで数的優位を形成することがメインタスクだったが、ベルナルド・シウバのゼロトップはもう少しタスクが多い。

ノーマルな【433】と表現しているマンチェスター・シティだが、ボールを保持しているときに左サイドに枚数が偏る習慣がある。それはカンセロの存在意義や、左で作って、右にサイドチェンジからのマフレズという狙いがあるからだろう。序盤はウォーカーやルベン・ディアスを控えめにすることも計算のうちだったのかもしれない。

話をベルナルド・シウバに戻すと、ベルナルド・シウバのタスクはフリーマンとしてボール保持をサポートする。この役割はメッシのゼロトップに似ているかもしれない。もうひとつの役割が、ギュンドアンとのタスクチェンジにある。実際にベルナルド・シウバはフリーマンとして振る舞う場面と右インサイドハーフとして振る舞う場面が多い前半戦となった。その代わりに空いた中央のエリアに飛び出してくることがスペースアタッカーとして有名になったギュンドアンという差配になっている。

5レーンを埋める意味では【433】も【325】もたいした差はないかもしれない。しかし、5レーンアタックへの対策も進んできている。その対策への対策が+1のカンセロだったのが昨シーズンの目玉であった。今季の目玉はサイドから二人組のコンビネーションで崩す&トライアングルで崩す&いざとなった4人組で崩す、【325】以前の【433】を混ぜているところだろう。

で、問題は-1となる。かつて2トップを外にはらせることで相手の4バックを2枚でピン留めする荒業を使用したチームがあった。あれからセンターバックは迎撃をデフォルトにするチームが増えてきたこともあって、5枚で5枚をピン留めするチームが増えてきたことは言うまでもない。ただし、冷静に考えれば5枚もいらない。4枚でも相手の5枚た4枚のディフェンスラインをピン留めすることは可能だろう。

マンチェスター・シティはこのマイナス1がうまい。気がつけば、5レーンが4枚で構成されていることが多い。空けるエリアは中央レーンが多いが、他のレーンが空くこともある。枚数が少ない状態で相手をピン留めできているから、中盤でのボール保持は安定する仕組みと、空いたレーンに誰かが飛び込んでくることで+1が+2になることもある。スペースメイクとスペースアタックとボール保持の安定を同時にこなすマンチェスター・シティの荒業が+1と-1の両立なのだと個人的に思っている。

PSGの前線トリオが守備をしないことは明白だった。ただし、この試合では彼らのゴーストが囁いたのだろう。基本は【43】で守っているが、【451】で守っている場面も何度も見られた。ただし、安定的ではなく、誰かがロドリ番すらしなかったこともあって、マンチェスター・シティの無限ボール保持にさらされたPSGは失点は時間の問題であった。しかし、最後はゴールに来るんだろう?精神でゴールを固めるPSGは何とか前半は0で終えることに成功する。

繰り返される大外アタック

マンチェスター・シティのクロス爆撃を凌ぎきったPSG。後半も似たような展開でスタートするが、相変わらず、前線トリオにボールが入るとどうにかなりそう感はすごかった。前半に孤立したヌーノ・メンデスがシュートまで持っていった場面があったが、PSGの本質はあの場面に象徴されるような気がする。孤立してもそれぞれが鬼。でも、連動したら鬼に金棒、みたいな

そして、まさかの48分にPSGが先制する。メッシのクロスが流れにに流れて、ファーサイドで待つエムバペが決める。理不尽過ぎる展開だが、理不尽を相手に押し付けることを狙っているPSGからすれば、願ったり叶ったりの展開なのだろう。

53分にジンチェンコ→ジェズスが登場する。他のカードはなさそうなシティだった。結論から言えば、交代で登場した選手はジェズスだけだった。なお、リードしたPSGが【44】で守るように変更するかなと予想したが、前線トリオは交代してはいけない縛りでもあったのだろう。そのままだった。60分にアンデル・エレーラが負傷し、ダニーロ・ペレイラへ交代する。

ジェズスは中央に配置されていた。登場してすぐにシザースで相手を交わし、二人目も同じ技で交わしにいってボールを奪われていた。ジェズスの登場で左インサイドハーフに移動したベルナルド・シウバだったが、左大外レーンに移動する場面が多かった。そしてスターリングを中にしたのが、クロスを上げることよりも、ゴールに近い位置でスターリングにプレーシてほしかったのだろう。カンセロのサポートを得ながら、ベルナルド・シウバは左サイドを支配していった。

両サイドから効果的な攻撃を繰り出せるようになり、中継地点のロドリも相変わらず自由だったこともあって、マンチェスター・シティは相当に相手を押し込んで試合を進めることとなった。さらに、ウォーカー、ルベン・ディアスも攻撃参加するようになり、エンジンは全開となる。

そして63分、75分と逆転に成功するが、このゴールの形がバルセロナ時代から続くグアルディオラの得意技だったので、少しだけ説明を試みてみる。ボール保持で相手を押し込むチームへの対策はゴール前にバスを並べることだ。ゴール前にバスを並べる相手にいつも怒っていた選手はシャビだった。

ゴール前のバスをどかすためにメッシがバルセロナには存在していたが、それでも無理なときは無理だった。よって、世界中でコピーされる策をグアルディオラはチームに授ける。大外アタックである。先制点を例に出すと、左ハーフスペースから逆サイドの大外にクロスを供給する。相手にブロック外、視野外から侵入してくる選手はウイングか、サイドバックの選手だ。そして、ボールの行方とともに相手の視野を動かし、クロスを受ける選手はボールを中に折り返して、さらに相手の視野を動かす。そしてゴール前にいる選手が押し込むという流れだ。是非ハイライトで確認してほしい。

同点ゴールを決めた選手がスターリングで、逆転ゴールを決めた選手がジェズスだったこともにくい。同点ゴールはロドリ→ウォーカー→スターリングで、逆転ゴールはマフレズ→ベルナルド・シウバ→ジェズスとポジションが違う選手がそれぞれ仕事をこなしているところもにくい。

試合はそのままに終了。マンチェスター・シティがリベンジを果たし、一位突破を無事に決定。交代選手がジェズスしかいない状況を乗り切ったことは大きいだろう。PSGは前線トリオが守備をしてくれない問題をどのように解決するかは非常に興味深い。

ひとりごと

シャビがバルセロナで何かを成し遂げそうな雰囲気を醸し出しているなかで、師匠のグアルディオラは流石だった。年内のハードなプレミアリーグの日程をこなすなかで、新戦力が台頭してくればレベルアップするだろう。そんな若手に期待。

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