マンマークと移動の相性における考察 2021.10.20 チャンピオンズ・リーグ第三節 マンチェスター・ユナイテッド対アタランタ

2021/22欧州サッカー

マンチェスター・ユナイテッドのスタメンは、デ・ヘア、マグワイア、リンデロフ、ワンビサカ、ルーク・ショー、フレッジ、マクトミネイ、グリーンウッド、ラッシュフォード、ブルーノ・フェルナンデス、クリスチャーノ・ロナウド。ヴァランは怪我。スールシャールに常に解任の噂があるマンチェスター・ユナイテッド。しかし、土壇場でクソ力を発揮することで、なんだかんだスールシャールが続いている様子。昨シーズンから選手個々の戦闘能力がずば抜けていることは間違いない。そして、そんなメンバーにクリスチャーノ・ロナウドが帰ってきているのはより状況を複雑にしそうだ。

アタランタのスタメンは、ムッソ、デミラル、パロミーノ、デ・ローン、コープメイネルス、フロイラー、メーレ、ザッパコスタ、パシャリッチ、ムリエル、イリチッチ。怪我人だらけらしいアタランタ。デ・ローンがセンターバックでどうなん?が注目ポイントらしい。ガスペリーニに率いられ、チャンピオンズリーグの常連になれば、アタランタのチームとしての格もステップアップしていくのだろう。実は真面目に見るの初めてな気がする。

ガスペリーニ式マンマーク

アタランタと言えば、マンマークだ。ビエルサと行ってもマンマークだ。ついでにコンサドーレ札幌もマンマークらしい。なお、裏はとっていない。マンマークの良さは細かいことはいいんだよ大作戦と言えるだろう。マンマークで相手についていけば、相手の配置的優位を消すことができる。守備の基準点が明確になるので、誰のマークをしたらいいかで迷う回数も減るだろう。さらに、このレベルの選手達が相手の良さを消すことに集中すれば、質的優位の機会だって減らすことができるかもしれない。

ビルドアップの前提が数的優位であることは自明だ。グアルディオラだって、ピッチのすべてが同数で差配されているならば、ためらいもなくエデルソンに前線にボールを蹴っ飛ばすことを強いるだろう。ボールを蹴っ飛ばす時点で、相手の狙いやゲームモデルであるボール支配によるゲーム支配をぶっ壊していることもまた事実となる。

もちろん、GKも含めれば数的優位となるが、GKがペナルティエリアの外でドリブルでボールを運ぶことが一般化しているか?というと一般化していない。つまり、プレーエリアが限定されているキーパーがいるから数的優位ですとは気軽に言えない時代になってきている。プレーエリアが限定されているからこそ、そのエリアからどれだけ高精度のボールを蹴ることができるかが求められる時代とも言えるが。

マンチェスター・ユナイテッドはアタランタのマンマーク大作戦の前に苦しむ序盤戦となる。マンチェスター・ユナイテッドはセンターバックとセントラルハーフのコンビでボールを運んでいきそうな雰囲気だが、この4人にマンマークをアタランタはぶつけてくるのだから容赦がない。よって、ボールを持つ機会の多いデ・ヘアとなるが、デ・ヘアまで相手が追いかけることはほぼない。そして、センターバックとセントラルハーフが全員捕まっている状態なので、デ・ヘアはボールを飛ばすしか選択肢がなかった。

アタランタのマンマークのなかでプレッシングが緩そうなエリアは、マンチェスター・ユナイテッドのサイドバックのエリアだった。3バックで構えているアタランタにとって、マークの受け渡しに少しだけ時間がかかるのかもしれない。ただし、時間と空間を得られそうなルーク・ショーたちだが、他の選手はすでに捕まっているので、どこにパスを出せばいいねん状態であったことは言うまでもない。

マンチェスター・ユナイテッドにとって光明があるとすると、クリスチャーノ・ロナウドとブルーノ・フェルナンデスたちだろう。ワントップのクリスチャーノ・ロナウドだが、中央でじっとしていることはない。自由にピッチを動き回るので、マンマークで対応することが非常に難しい選手となっている。そのマークの受け渡しの隙をついて、フリーになることがうまいのはブルーノ・フェルナンデスだ。ひとりポジショナルプレーの達人でもあるブルーノ・フェルナンデスは、相手のマンマークに対してなぜかドフリーでボールを受ける才覚を発揮していた。

しかし、それらの機会はごく僅かなものだったこともあって、基本的にはマンマークの前にボール保持の精度を削られてしまったマンチェスター・ユナイテッドだった。

ガスペリーニ式ビルドアップ

相手をマンマークで機能不全に追い込むけれど、自分たちは配置的優位を得たいガスペリーニは3バックを基本配置としている。マンチェスター・ユナイテッドの基本配置が[4-2-3-1]であることから、3バックで相手の噛み合わせをずらしながらボールを運んでいった。

ビルドアップの特徴は、サイドエリアでひし形の形をつくることだろう。両脇のセンターバックがボールを持つと、ウイングバックの選手がサイドラインを踏みながら近くまで寄ってくるプレーは印象的だった。そして、ウイングバックの選手に並行サポートをするセントラルハーフの選手、そして、ひし形の頂点に2トップの選手が登場する流れは両サイドで共通だった。なお、ロティーナ時代のセレッソ大阪も似たような配置でボールを前進させることが得意だった。

ひし形による前進が成功すれば同サイドを突破し、相手が寄ってくれば、逆サイドに展開するアタランタのプレーにマンチェスター・ユナイテッドは守備の基準点をずらされたまま試合を展開していくこととなった。特に前から奪いに行くのか、撤退して迎え撃つのかが曖昧だったこともあって、押し込まれたらウイングが帰ってこない現象もマンチェスター・ユナイテッドをさらに苦しめる展開となった。

ボール保持でもボール非保持でも苦しめられたマンチェスター・ユナイテッドは15分に先制点を許してしまう。ザッパコスタの飛び出しに誰もついてこない時点でやるせない失点となった。しかし、失点後のマンチェスター・ユナイテッドは速さ、勢いでプレッシングを行うようになる。よって、アタランタも前にボールを運べる状況でなくなり、ピッチ全体を使ってボールを回そうとするが、マンチェスター・ユナイテッドに押し込まれる時間帯も出てくる。

面白いもので、アタランタは押し込まれると、マンマークよりもゴールを守るようになる。ボールラインより下がって守備をすることは原則中の原則なので当たり前なのだが。なので、マンマークから解き放たれると、少し嬉しそうなマンチェスター・ユナイテッドの面々。特にブルーノ・フェルナンデスを経由すると、ボール保持からのチャンスメイクの質がべらぼうに良くなることが面白かった。マンチェスター・ユナイテッドにも決定機が生まれるようになり、試合は徐々に一進一退の攻防担っていくかと思ってみていると、28分にコーナーキックからデミラルが渾身の一撃を決める。

最初の失点後はマンチェスター・ユナイテッドが力づくで流れを引き寄せていたように見えたが、何かが解決したわけではないこともあって、ときどきアタランタに殴られる展開でセットプレーからやられてしまった。ただし、その後にまたもブルーノ・フェルナンデスの演出でフレッジが決定機を得たり、またまたブルーノ・フェルナンデスのロングスルーパスからラッシュフォードが決定機を迎えるなど、ブルーノ・フェルナンデスのチャンスメイク能力の異常さがより際立つ展開となっていく。

前半は0-2で終わるが、マンチェスター・ユナイテッドの決定機も多く、スコアほどの差があるようには見えなかった。ただし、効率という点においては間違いなくアタランタに軍配が上がる。ただし、裏返せば、アタランタほどの工夫がなくてもどうにかできてしまうマンチェスター・ユナイテッドの底力が異常という前半でもあった。

動き回るアタランタに対抗して動き回るマンチェスター・ユナイテッドの面々

後半の頭から、デミラル→ロバート。デミラルは怪我の雰囲気だったので、仕方ない交代。なお、ロバートはまだまだこれからの若手でこの舞台ではまだ不安らしい。怪我人だらけのアタランタ。マンチェスター・ユナイテッドは交代はなし。不動のスールシャールである。

不動の理由を見ていると、スタメンのメンバーでも試合の主導権を握れると考えたのだろう。特に右サイドの関係性が修正されているようだった。前半の終盤から相手がそばにいてもボールを受けてどげんかせんとこの試合はいかんと考えたマクトミネイとフレッジのコンビ。後半になると、特にマクトミネイはサイドバックに高い位置への移動を促すような立ち位置を取るようになる。そして、グリーンウッドも前で待っていても相手に捕まえるので、列を降りてプレーをする機会を増やすことを画策する。

この動きにマンマークのアタランタはついてくのだが、上下動はきつい。だからこそワンツーを多用するアタランタなのだが、後半のマンチェスター・ユナイテッドはアタランタの得意技で殴り返しているようにも見えた。移動に移動を重ねることで、相手の疲労を加速させ、時間を味方につける作戦である。また、前半に見せていたように、とにかく追いかけようプレッシングは後半も健在で、ボールを保持したときは試合のテンポをコントロールしたいアタランタにその狙いを許さなかった。

52分に相手のパスミスをワンタッチでスルーパスにするブルーノ・フェルナンデスが鬼。ラシュフォードが決めて反撃の狼煙があがる。それまではシュートの感覚がどうしてもずれているようにしか見えなかったラッシュフォードだが、この場面では怖いくらい冷静にゴールを決めていた。

嫌な予感のするアタランタは55分にムリエル→サパタ。サパタはワンビサカ方面からの攻略を狙っていた。マンチェスター・ユナイテッドがワンビサカサイドから来るなら、そっちから攻めてやるという強気な姿勢だ。しかし、強気な姿勢はマンチェスター・ユナイテッドも同じだ。前半には見られなかったサイドバックの攻撃も増え、リードを許したことでリスクを許容できるようになると、マンチェスター・ユナイテッドは化けるのかもしれない。マンチェスター・ユナイテッドの勢いに飲まれていくアタランタはカードトラブルに襲われていく。

マンチェスター・ユナイテッドの後半の修正を整理すると。サイドバックが列を上がる。サイドハーフは列を下がる。セントラルハーフは幅広くレーンを横断し、列も上下する。そして、クリスチャーノ・ロナウドはゴール前に集中しながら、神出鬼没を繰り返し、ブルーノ・フェルナンデスは気がついたらフリーになっている。肝はマンマークに対する幅広い動きだろう。

65分にカバーニとポグバが登場する。マクトミネイとラッシュフォードが交代。この流れを加速させたかったに違いない。なお、カバーニは左サイドハーフを普通にやっていてちょっと違和感だった。ブルーノ・フェルナンデスがいるからだろうか、クリスチャーノ・ロナウドとカバーニの2トップは機能しそうだが、披露はされていなそうだった。アタランタもこの流れはやばいとミランチュクとマリノフスキが登場する。なお、マリノフスキにはいつかマリノスに来てほしい。

ミランチュクとマリノフスキをひし形の頂点、三角形の点とすることで、サパタは相手の最終ラインとのバトルに集中することができる。[3-4-1-2]のときのアタランタは2トップの選手にひし形の頂点になることを求め、トップ下の選手をフリーマンとする。[3-4-2-1]のときは、フリーマンの代わりにセンターフォワードを配置することになるのだろう。アタランタはもう少し見てみたい。マンチェスター・ユナイテッドの勢いがかげったこともあって、アタランタもボール保持から殴り返す場面が出てくると、70分にアタランタに決定機。得意の大外サポートからサパタへ放り込むがデ・ヘアの連続セーブが見事だった。

71分にサンチョ。グリーンウッドと交代。後半のグリーンウッドはボールに何度も絡み、サイドチェンジで、相手のスライドを促していた。時間と空間を得られるサイドバックにサイドチェンジは好手だったと思う。

74分にマンチェスター・ユナイテッドが同点においつく。コーナーキックを急に始めたブルーノ・フェルナンデス。相手も味方も欺いたプレーはアタランタの集中をきることに成功する。失敗したコーナーキックはまたもブルーノ・フェルナンデスのもとに戻ってきて、そのクロスをファーで待っていたマグワイアが決める。そして、80分。またもコーナーキックの流れから今度はルーク・ショーのクロスをクリスチャーノ・ロナウドがヘディングで決めてマンチェスター・ユナイテッドが逆転に成功する。

まさかの後半に3得点という結果に歓喜に包まれるオールド・トラッフォード。残り時間はアタランタの反撃が始まるものの、デ・ヘアを焦らせる場面は特に記憶にない。こうして、チームスールシャールの旅はもうちょっとだけ続くんじゃとなった。

ひとりごと

マンチェスター・ユナイテッドはブルーノ・フェルナンデスが凄い。一人だけ時を止めながらプレーしているようだった。この試合のチャンスメイクの量と質は異常。ブルーノ・フェルナンデスが最も輝きそうな差配にしていることがスールシャールの功績なのかもしれない。ちょっと次元が違う。噂には聞いていたが、本当に次元が違って笑ってしまった。前半のゆるい試合の入り方を見ていると、スールシャールがチームを掌握しているかは謎だが、失点をしてからの反発力を見ていると、マンチェスター・ユナイテッドが強いことも間違いないだろう。

アタランタは非常に面白い。マンマークで相手の配置的優位を消す。自分たちは配置的優位を得る。サイドでひし形か三角形を作る。肝はサイドラインを踏みながら近寄ってサポートするウイングバック。そこから繰り出されるパターン攻撃とアドリブの組み合わせは、わかっていても止められないサッカーの原則を逆用しているようだった。選手の質に関わらず、戦術でどこまで戦えるかチャレンジの結果としてアタランタのチャレンジの結末は見届けようと思う。

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