アヤックスのスタメンは、パスフェール、リサンドロ・マルティネス、ティンベル、ブリント、マズラウィ、アルバレス、ベルフハイス、フラーフェンベルフ、アントニー、タディッチ、アレ。デ・リフトとデ・ヨングと愉快な仲間たちによる大ブレイクから今は昔。しかし、生き残っているメンバーもいれば、新加入のメンバーもずらり。それでチャンピオンズリーグでまたも勝ちまくっているので、アヤックスはやはり一味違うと言うか。ドルトムントとの首位攻防戦で進化が問われている。
ドルトムントのスタメンは、コーベル、フンメルス、アカンジ、シュルツ、ムニエ、ヴィツェル、ブラント、ベリンガム、ロイス、マレン、ハーランド。バイエルンが独走する国内リーグでも2位に位置しているドルトムント。チャンピオンズリーグでも連勝!と良い感じではある。気がつけば、両チームの選手構成が期待の若手、中堅、ベテランのバランスが何か似ているというか。
プレッシングの差
序盤はお互いにリスクを減らすような立ち上がりとなった。お互いに[4-3-3]を基本配置とする両チームのプレッシングの掛け合いは、配置の噛み合わせうんぬんを速さで凌駕する展開となっていった。よって、両チームともにゴールキーパーからボールを繋ごうとするけれど、無理しないでロングボールで陣地回復を狙う序盤戦となった。ドルトムントよりもアヤックスのほうがその割り切り感が強かったことは印象に残っている。
余談だが、ライプツィヒグループから監督を連れてきて、「おれたちもストーミング派閥になるんや!」と目指しても、「あれ?ポジショナルプレーやん」となることはあるあるである。というわけで、割り切るアヤックスに対して、割り切らないドルトムントのほうが根性でボールを保持していく展開となっていった。
速さによる解決は時間とともに緩んでいくことがサッカーの原則だ。なお、マンマークをベースにした解決は後半20分過ぎからゆっくりと瓦解していくこともサッカーの原則となっている。ボール保持で休憩できれば、マンマークベースのサッカーでも90分は持つけれど。というわけで、両者の命運をわけたものはプレッシングだった。
ドルトムントのプレッシングを見ていくと、時間の経過とともに[4-3-3]の配置が濃くなっていった。リヴァプール式の[4-3-3]のように見えるが、ウイングの狙いも曖昧なものだったので、アヤックスにサイドからボールを前進させられてしまう場面が目立った。サイドにボールが出たときにインサイドハーフが根性をみせる設計になっているのだが、アヤックスからすると、与えられた時間と空間で十分なようだった。
よって、時間の経過とともに、アヤックスのボール保持が試合の中心になっていった。ドルトムントからすればボールを奪ってカウンターで自分たちのメリットを享受したいところだ。しかし、アヤックスに完全に押し込まれる展開にポジションバランスも崩されることとなった。こうなれば、奇跡にすがるしかなく、そのハーランドの奇跡も前半に一度だけしかチャンスをもらえなかった。
アヤックスのボール保持を眺めていると、オランダ式[4-3-3]に5レーンのエッセンスを加えているようだった。例えば、ウイングのアントニーが大外レーンにいれば、サイドバックのマズラウィが内側レーンに立つ場面が多かった。なお、左サイドを眺めてみると、タディッチは内側に入りたがるので、ブリントが懸命に追い越す場面が見られた。
大切なことは5レーンに人を並べて、3人目をどのように準備するかだ。平たく言えば、インサイドハーフ、ウイング、サイドバックの関係性で崩すことが多い。大外レーン、内側レーン、後方でサポートする選手のトライアングルがぐるぐるしたり、2人のシンプルなコンビネーションで崩したり、3人目の動きを有効利用したりと、5レーンに人を並べるだけではだめだよ、古来ある[4-3-3]とはこのようにやるのだ!と教科書を見ているようだった。なお、最近のグアルディオラも[3-2-5]をやらなくなった理由は3人目のサポートが準備しにくいからじゃないかと邪推している。実質はウォーカーとカンセロがやっていたけれども。
ドルトムントからすると、最近のトレンドである自分の位置を頑なに守る、相手が攻めてくるのを待つことができずに相手に振り回される展開となった。前線で残っている3人もボールが来なければ守備に参加する献身性はあるようだった。それならば、最初からプレッシングに組み込んだ状態でなんとかしてあげればこのような内容にならなかっただろう。後の祭りだが。振り回されればファウルも増える!というわけで、11分にタディッチのFKをロイスがオウンゴールしてしまい、アヤックスが先制する。その後もチャンスを量産していくアヤックスは、ブリントがミドルシュートを決めた。
前半だけでもっと大差がつきそうな試合内容だったが、根性で0-2で終えることになったドルトムントは後半からシュルツ→エムレ・ジャンでアントニー対策を行う。さらに、ウイングの位置を下げてみんなで守ろうぜという意図を見せるようになる。ただし、このあたりは曖昧だった。場面によっては[4-4-2]で守ったり、[4-5-1]で守ったり。そんな曖昧さで壊れるほどアヤックスはやわではなかった。
56分にアントニーが華麗な個人技を炸裂させて3点差となる。
アヤックスのプレッシングは人を基準としているようだった。特にセンターバックやキーパーからクリーンな形で中盤の選手にボールが入らないように中盤はマンマークがデフォルトのようだった。その代わりに、前線の3枚がセンターバック、サイドバックを追いかけ回し、サイドバックへのプレッシングが間に合わないときは、アヤックスのサイドバックが前に出てくる場面が多かった。
ウイングの選手が相手のサイドバックのポジションに従属してしまうと、どこまでも下がっていってしまうことがある。そうなれば、カウンターにでていくときに物理的な距離がどうしても出てきてしまう。それを避けるためにも外切りプレスや[4-4-2]への変更があるあるとなっている。
ドルトムントもアヤックスも相手のサイドバックには時間と空間がある程度は与えられる差配になっていた。で、問題は誰がここに寄せるか。インサイドハーフか、サイドバックか。結論から言えば、ドルトムントはインサイドハーフが横スライド、アヤックスはサイドバックが縦スライドで解決していた。どちらのほうが相手に早く到達するか?はチームの方法にもよるし、選手の質にもよるだろう。ただし、中を捨てるよりは深さを捨てるほうがある意味で決断は早くなるケースが多い。中央にクリーンなボールを入れられるのは怖いからだ。
というわけで、相手のサイドバックに誰をぶつけるの?という姿勢で果敢な態度を見せたアヤックスがプレッシングでもドルトムントを凌駕した。むしろ、両者の差をもっとも隔てた部分はここだったのではないだろうか。いやいや、サイドバックがスライドしたら、センターバックたちが相手の前線と同数になるやんけ!となるが、それを受け入れることが[8対6]を[8対7]にし、相手のビルドアップを破壊するきっかけとなることは多くの世界で起こっている。同数を受け入れること、逆サイドを捨てることなどなど、サッカーの原則はどこだって変わらないってことなのかもしれない。
点差がひらいたこともあって、ドルトムントがボールを保持するようになっていく。人への基準が強い守備には列を降りまくることが友好な手となっている。0トップ、インサイドハーフ下ろし、アンカー下ろしなど、お前らどこまでついてくるんだ大会を何度も繰り返せば、相手が壊れることもサッカーの原則だ。相手をおびき出せば、ハーランドで勝負する手もドルトムントは持っている。きっかけはヴィツェルのサリーだったことも見逃せない。もちろん、アヤックスがテンポを落としたこともドルトムントのボール保持が可能になった原因のひとつだろう。
ゼロから何かを生み出すという点でもハーランドはこの試合でも鬼のようだったが、キーパーのファインセーブにあったり、明らかに小さいリサンドロ・マルティネスに止められたりと、今日はドルトムントの日ではないようだった。最後に繰り返されたブリントのオーバーラップからのクロスをアレに決められて4-0。84分付近ではスタジアムはオーレの大合唱でアヤックスの完勝で試合は終了した。
ひとりごと
アヤックスは普段着+チャンピオンズリーグという気合でドルトムントに完勝。ドルトムントは普段着で戦ったら、相手に飲み込まれた印象。普段着でも勝てると計算していたかどうかは不明だ。このまま戦えば、セカンドレグでもぼこぼこにされることは間違いないくらいに差をみせつけられてしまった。でも、アヤックス対策をすることで、どうにもでなるだけの選手は抱えているはずだ。それとも、本当ににっちもさっちもいかない状況なら、結果が出ているとしても、いいチーム状態とは言えないだろう。リベンジに期待。そして、リサンドロ・マルティネスは良い意味でチャラかった。あのサイズでセンターバックをこなしていることは驚異だった。
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