「さて」
「スタメンの図を貼るだけの簡単なお仕事を終えたところでワールドカップが開幕した」
「開幕したな」
「会場で行われているカウントダウンが終わる前に試合が始まったところは笑ったけどな」
ワールドカップは特別な今日となるか
「まさに奇襲となったけれど、負けずとエクアドルもすぐに速攻を仕掛けたところは最高の立ち上がりだったな」
「序盤の強度の高さ、といっても主にエクアドルのプレーの強さを見て思い出したことがあるんだけど」
「なんや」
「かつてコパ・アメリカを観戦していたときに感じたことがある。90分間ハイプレッシングは無理やという定説がサッカー界にはある。例えば日本の夏は灼熱なので運動量を必要とされるプレーモデルは無理みたいに言われているだろ」
「言われているな」
「でも、ワールドカップは別やねん」
「別か」
「シーズンずっとは無理でも、特別な今日だけなら行けるというか」
「なるほど。ワールドカップは特別な今日やねんな」
「そんなことを思い出させる球際バトルで得たフリーキックでエクアドルが先制!したかと思いきや半自動オフサイドシステムが発動する」
「ボールに関与しているのか?と不思議に思ったが、半自動だから誰も止められないぜ」
機能しないカタールのポジショナルプレー
「試合内容に話を戻すと、カタールは3バックでボールを保持しながら試合を展開しようとしていた。エクアドルは442で迎え撃つ格好となった」
「3バックがボールを持つことにストレスはなさそうだったが、その先で待ち構えるエクアドルに対してカタールはいい手がなかなか出てこなかった」
「センターバックは落ち着いて相手をひきつけて、みたいなプレーができていたけど、肝心の次の選手が時間とスペースを無駄にしていた」
「恐らく緊張だろうな」
「緊張か」
「カタールの失点の場面もセンターバックは悪くない振る舞いをしていて、次の選手がパスミスをしている」
「チャレンジパスをするにはまだ早いというか」
「サイドチェンジも意図的に狙っているように見えたけど、パスの質と受け手の能力が足りないように見えたしな」
「ブチギレただろうアフィーフが35分過ぎからフリーマンとしてビルドアップに関わるようになって状況は変わるようになる」
「ただし、エクアドルも少し撤退風味な雰囲気が出ていたことも相まってなことは忘れてはいけない」
「その他で気になった点はカタールはビルドアップでキーパーを使わないし、自分たちのエリアを使うことで深さを相手に押し付けることもできなかった」
「自陣深くでボールを持つことも怖いやろ」
「カタールのボール保持は怪しいのではないかと感じただろうエクアドルは、実際にどんどん強度を増してきたしな」
現代版442のエクアドル
「続いて、エクアドルの振る舞いについて見ていく」
「エクアドルは442を基本としながら、セントラルハーフのサリーを特徴としている。日本戦でも同じふるまいだった」
「で、中盤の空洞化が起きると、エネル・バレンシアがさっとそのエリアに立ち位置を設定する」
「カタールの1列目が2トップだったこともあって、落ち着いてボールを保持したいエクアドルは必要のないサリーも連発していた」
「目的はボール保持を安定させるためのサリーだから問題ない」
「で、エクアドルは突然の速攻と地上戦を使い分けながら試合を展開していった」
「興味深い点は前線の4枚はユニットとして分裂と統合を繰り返しながら起点となっていた」
「分裂と統合か」
「エクアドルのサッカーは横幅をサイドバックに任せてる。地上戦でボールを前進していく場面では前線の4枚のうち2枚はサイドバックをサポートを行うことでユニットを形成する」
「速攻のときは4人が中央に集結することで空中戦を実行する選手とこぼれ球を拾う選手と役割がはっきりしていた」
「で、遅れてセントラルハーフたちが突っ込んでくると」
「見事な現代版の442だな」
「しかもリードしてからは全体のラインを下げてボールを保持してカタールをおびき出すようにしていたからな」
「で、おびき出したら速攻やスペースを使ってボールを前進させていくと。おびき出せなかったら休憩のボール保持と」
「えぐいな」
「2点差になってからは少しカタールにボールを持たせるようにも変化して」
「で、カタールサイドからすると、そのタイミングでアフィーフが登場してカタールのボール保持を改善したというストーリになるわけか」
試合を寝かせるエクアドルの振る舞い
「後半になると、カタールはボール保持者へのプレッシングを根性で行おうとする」
「しかし、根性ではどうしようもない」
「どうしようもないか」
「エクアドルがカタールの3バックに対して3枚を揃える色気を見せる場面があったけれど、カタールは人員の導入ができない」
「またボールを保持した場面でもエクアドルの守備の基準点を乱すような立ち位置をアフィーフやインサイドハーフができればおもろいけど基本はできていない。ハーティムはずっとアンカー周りにいれば面白いのに突然にいなくなってしまう」
「キーパーを使ってどうこうも行う雰囲気がないので」
「ボールは持てど笛は鳴らずみたいな展開に追い込まれていった」
「エクアドルはサリーなしでロングボールを中心に安全安心に試合を進めていったけれど」
「ボール保持の精度が看過できないレベルに落ちたと考えて55分前後からはサリーを再開し」
「オーレの合唱を起こせるレベルでボールを保持して試合を終わらせにかかった」
「まだ60分前だけどな」
「2-0なスコアも相まって、エクアドルは整理されていないときにカタールに攻撃を許さないように試合を消化していくと」
「残り15分でシフエンテスを入れる」
「その心は守備の強度を上げるだったな」
「5番の選手なのにトップ下のような振る舞いをしていてちょっとおもしろかった」
「433でカタールの偽セントラルハーフを捕まえる作戦にも少し見えたけどな」
「442と考えるほうが適切やろうな」
「そして速攻やカウンターからエクアドルはチャンスを量産するけれどスコアは動かず」
「カタールもロングボールからの裏抜けで見せ場を作ったけれどそれくらいだったな」
「盤石のエクアドルが2-0でカタールに勝った」
アフィーフとポジショナルプレー
エクアドルの442の前に、本来ならば442殺しである3142を採用したカタールだったが、エクアドルの強度の前に飲み込まれることとなった。エクアドルが必要のないサリーを必要としていたように、実際の選手の感覚に適応させることは机上の空論よりも大切なことである。アフィーフのフリーマンとしての振る舞いはポジショナルプレーの教科書的にはNGかもしれないが、バグとして機能するアフィーフのプレーは間違いなくカタールの選手を助けていた。しかし、一方でアフィーフは自分のポジションを守っていないという指摘も成り立つところがやるせないとこである。ポジショナルプレーとバグの両立は今後の必須になってくるだろうし、いつだって自分たちの配置でサッカーをするにはスペインほどの選手の質がなければ絵に描いた餅となるだろう。
また、個々の戦闘能力の差が浮き彫りになっていた。本来はボールを奪える状況で奪えない、本来は繋げる状況で繋げない状況が続くと、ピッチの中は不安で満たされるようになっていく。カタールの選手がファウルで試合を分断していったように、エクアドルの選手のボールを守るスキルは格段に上であった。結局のところ、ボール保持ですべてをごまかすためには相手からどのようにしてボールを奪うかが大切である。カタールの場合、死なばもろともを実行する勇気がなかったことがこの試合を苦しめる最大の要因になったのではないだろうか。もちろん、死なばもろともプレッシングを行った結果、よりぼこぼこにされた可能性もあるが、ボール保持でどうにかする!という意思を持つには必要とすることがとても多いという話であった。
エクアドルの現代版442
エクアドルは22ビルドアップを基本とし、必要としないサリーを行いながらボール保持を安定させる。速攻と地上戦を織り交ぜながら試合を展開していく。サイドバックは大外レーンを埋めることを基本とする一方で、前線の4枚はユニットとして動くことを義務付けられてる。役割の交換もスムーズに行われ、前半はエネル・バレンシアが、後半はゴンサロ・プラタがビルドアップの出口となるべく活躍していた。4枚のユニットの分裂と結合が難しい話ではなく、一人でも二人でも三人でも四人でも機能しましょうね、ということが優先され、この4人以外にセントラルハーフ、サイドバックが加わってユニットを構成するとしても頑張りましょうねというだけの話だ。彼らはペナ幅でプレーすることもあれば、サイドでプレーすることもある。相手と味方と試合の状況に応じて変幻自在に分裂と結合を繰り返す4枚を捕まえ続けることは難しい。その代わりに、お前らどこにおんねん!という状況も成立してしまう諸刃の剣であるが、その代わりにボール保持が落ち着いて立ち位置を整理するための必要のないサリーとよくできたチームだと感じた。
コメント
アジアカップで日本に完勝したカタールが日本と同じ4-4-2で守るエクアドルに完敗したのはちょっとした衝撃でした…
エクアドルはめちゃくちゃ良いチームですね!
質問なのですが、3バックでのビルドアップ に対して同数プレスを受けた場合はどうやって最終ラインで数的優位を作るのでしょうか?