収斂していくレアル・マドリーとバルセロナ【レアル・マドリー対バルセロナ】

マッチレポ1617×リーガエスパニョーラ

 

あくまで自分の中では、という話になるのだが、クラシコを相反するスタイルのぶつかりあいと認識していた。そのように認識したきっかけは、グアルディオラ対モウリーニョの時代の印象が強いからだろう。バルセロナのポゼッションサッカーに対して、レアル・マドリーがどのように対抗するか。そして、レアル・マドリーの対抗策にバルセロナがどのように順応していくか。そのストーリーをただただ眺めているのが、とても楽しかった。楽しかった日々に反して、クラシコを見たのは久しぶりな気がする。クラシコに対して、以前ほどの興味を抱かなくなった理由は、クラシコが相反するスタイルのぶつかりあいから遠くなっていた印象を受けていたからだ。そして、この試合のクラシコを見て、その印象が間違っていなかったことが証明されてしまう。

かつてのバルセロナを、このように評したことがある。これは何試合やっても勝てそうもないね、という絶望を相手チームに与えると。かつてのレアル・マドリーをこのように評したことがある。次の対戦ではもしかしたら勝てるんではないかという淡い希望を相手チームに与えると。撤退守備やプレッシングの発達によって、バルセロナはポゼッションサッカーに別れを告げる。もちろん、シャビの離脱やグアルディオラとの別れなどもその別れの要因として考えられ、守備戦術の発達がバルセロナスタイルとの決別との直接的な因果関係に当たるかはわからない。ただし、カウンターでネイマール、スアレス、メッシが強さを見せるサッカーは、トランジションの重要性を世界に示したことも紛れもない事実だ。ただし、その方向性がかつてのバルセロナスタイルからの離脱を示し、気がつけば、バルセロナは徐々にレアル・マドリーのようなスタイルになっていく。相反するスタイルのチームが収斂していけば、試合内容が正面衝突のようになっていくのは、必然なのかもしれない。

苦労するクリスチャーノ・ロナウドとメッシの守備問題

左サイドに配置されたクリスチャーノ・ロナウドと右サイドに配置されたメッシ。言うまでもなく、この二人の長所は、ボールを保持したときに発揮される。そして、相手ゴールに近いポジショニングにいればいるほど、相手に脅威を与える。よって、サイドの守備タスク(例えば、相手のサイドバックの攻撃参加についていくとか)をこのスペシャルな二人に行わせるのは、効率が良いとは言えない。よって、両チームの出した答えは、相手がボールを保持しているときは二人のポジショニングを上げて、4-4-2に変化するだった。その代償に負担が大きくなるのは、逆サイドのサイドハーフとなる。バルセロナならネイマール、レアル・マドリーならベイルだ。ただし、レアル・マドリーはクリスチャーノ・ロナウド以外は簡単に交代できるので、リードしているときは守備のできるサイドハーフと交代することで、守備の穴を塞ぐことができている。

過去のバルセロナは、ボール保持する時間を長くする戦術をとっていた。よって、相手陣地からプレッシングを行い、一秒でも早くボールを奪い返そうとしていた。また、ボールを奪われたときの切り替えの早さは、世界中に大きな影響を与えたと言っていいだろう。相手がボールを保持するときの最近のバルセロナは、相手陣地からのプレッシングを、行ったり行わなかったりしている。この試合で言えば、レアル・マドリーのビルドアップ隊からボールをすぐに奪い返す意図を、あまり見せなかった。レアル・マドリーに攻め込まさせ、カウンターでしとめるという意図がどれだけあったかはわからないが、レアル・マドリーにボールを持たれてもしょうがないと割り切っていたのは事実だろう。よって、かつてのクラシコとは異なり、レアル・マドリーが積極的にバルセロナのゴールにボール保持攻撃で迫っていけるようになった。その景色はこの試合でも同じで、レアル・マドリーはお得意のカウンターを交えながらも、テア・シュテーゲンの出番が多い前半戦となった。レアル・マドリーが正面衝突をできるようになったのも、バルセロナの守備戦術が変化してきたからだといえる。かつてボールを取り上げられていたレアル・マドリーは、バルセロナを相手に正面衝突をすることすらできていなかった。

バイエルン戦のセカンド・レグで、クリスチャーノ・ロナウドとベンゼマの2トップで攻守に試合に臨んだレアル・マドリー。相手がボールを保持していないときは4-4-2になるのだったら、ボールを保持しているときも4-4-2で始めても良いよねというのは、効率を考えれば悪くない策と言えるだろう。しかし、この作戦を邪魔したのは、クラシコで復活したベイルだった。レアル・マドリーの守備は3センター+1というような形で行われた。本来は4(クロース、カゼミーロ、モドリッチ、ベイル)と表現したいのだが、実際には3センター+サイドハーフという形で行われた。よって、ベイルのいないサイドのバルセロナのサイドバックは、余裕をもってプレーすることができていた。試合開始序盤のベイルは左サイドでプレーしていたが、ジョルディ・アルバの危険性を考慮して右サイドに移動となっている。よって、セルジ・ロベルトが時間を得られるため、ラキティッチは安定したプレーをすることができていた。

双方がかかえる守備の問題や、守備戦術の変化が、相手に時間とスペースを与えることとなった。その勢いに先に乗ったのはレアル・マドリー。エリア外からのシュートが多かったものの、隠れたMVPのテオ・シュテーゲンのセーブが、試合を成り立たせたといっても過言でない。バルセロナは、中央でプレーするメッシが存在感を発揮していた。パコ・アルカセルを中央にラキティッチをサイドへ移動させることで、メッシを中央でプレーさせる。メッシの相手はカゼミーロだったが、12分でカゼミーロにイエローを出させ、その後も質的優位を示し続けた。最近のカゼミーロは懐疑論がなくなるくらいに、レアル・マドリーの確固たるスタメンとしての地位を築いている。そんなカゼミーロを相手にしても、優位性を示し続けたメッシは、両チームのなかでも異次元だった。カゼミーロの退場を想像することは難しいことではなく、カゼミーロは残り20分を残して、交代を余儀なくされている。

かつてリージョがバルセロナの高さ不足を心配する声をこのように評していた。ずっとバルセロナがボールを保持しているんだから、そもそもコーナーキックなんてほとんどないよと。しかし、ボールを保持しなくなったバルセロナは、高さとも向き合わなければいけなくなるのかもしれない。相手にコーナーキックを与える回数が増えていけば、高さを求める声も高まっていくだろう。バルセロナの最初の失点は、コーナーキックからのこぼれ球をカゼミーロ。そして、バルセロナの同点ゴールは、バルセロナらしい相手ゴール前でのダイレクトのパス交換からのメッシの個人技炸裂であった。

ルイス・エンリケとジダンの采配を振り返る

ジダンの最初の采配は、ベイル→アセンシオだった。39分の交代は、アクシデントだったと言っていいだろう。ジョルディ・アルバ番をしながらも、アセンシオは存在感を示していた。ベイルが特別に悪いプレーをしていた印象はないが、怪我から復活したのにまた怪我をしてしまうというのは、なぜ試合に出したのか?と疑われても仕方がないだろう。バイエルン戦でも示したように、ベイルの代役はアセンシオやイスコでも構わない。欠場するのがカゼミーロやモドリッチだったら、無理して試合に出場させることも理解できるのだが。

70分にカゼミーロ→コバチッチ。カゼミーロの退場を嫌がった采配だ。試合がオープンになりつつある展開でカゼミーロを交代するのは嫌だっただろう。しかし、退場しては元も子もない。バルセロナの最初の手は、同じ時間にパコ・アルカセル→アンドレ・ゴメス。守備の強度を維持しつつも、高さを補強といったところか。後半の試合内容を振り返ると、レアル・マドリーのプレッシングにバルセロナがたじたじになる場面が多かった。また、マルセロがラキティッチサイドから執拗に攻撃を仕掛けていた。ラキティッチとセルジ・ロベルトはマルセロに苦戦していたのだけど、このマッチアップをバルセロナがいじることはなかった。もしも、結果が出なかったら、なんで放置したの?と批判されていたに違いない。

ベンゼマの至近距離からのヘディング、クロースの狙いすましたミドルシュートを防ぐテオ・シュテーゲン。試合は徐々にオープンなものになっていき、カウンター合戦になれば、バルセロナもチャンスを掴めるようになる。本来はその役目は、レアル・マドリーのものだったのだけど。ケイラー・ナバスもテオ・シュテーゲンに負けないセービングで試合を壊させなかった。先に得点を決めたのはラキティッチ。クロースを外して、コバチッチのカバーリングが遅れた瞬間に放たれたミドルシュートは、見事なゴラッソだった。メッシのために走り回っているラキティッチのゴールは、感慨深いものがある。

そして、77分にはセルヒオ・ラモスが退場する。コバチッチがセンターバックになっていて笑った。流石にレアル・マドリーも終わったかと思いきや、ジダンの采配が当たる。退場後に登場したベンゼマ→ハメス・ロドリゲス。マルセロのクロスをニアで合わせて同点ゴールを決める。エリア内での横断する移動にジョルディ・アルバはついていけず、ブスケツのカバーも間に合わずで、ハメス・ロドリゲスのオフ・ザ・ボールの動きが秀逸だった。そして放置され続けたラキティッチサイドがとうとう決壊した瞬間だった。なお、同点後にクロースがセンターバックに、コバチッチが中盤に戻っている。

残り時間を考えれば、引き分けで問題ないレアル・マドリー。しかし、速攻からフィニッシュに繋ぐなど、バルセロナの隙がレアル・マドリーの決断力を鈍らせていく。ロスタイムには相手陣地からのプレー再開に対して、10人なのに、まさかのプレッシングを選択する。このプレッシングをショートパスでかわしたバルセロナにはスペースが与えられ、セルジ・ロベルトの独走からのしめは、またもメッシであった。レアル・マドリーの勇敢な姿勢というよりは、無謀な決断が逆転ゴールを許すことになり、試合は終了する。こうしてリーガ・エスパニョーラの優勝争いの結論は先延ばしとなった。

ひとりごと

非常に潔い試合だった。両チームがお互いの良さを出していたと思うし、最後まで戦う姿勢を見せたレアル・マドリーも立派だったといえる。ただし、優勝できなければ、なんで10人なのにプレッシングにいったの?なんで?と延々と問われそうだけれど。その決断をしたのは、プレッシングがそこそこに機能していた&サンチャゴ・ベルナベウだった&10人になって同点に追いつけた&追いつけたあともフィニッシュまで行けていたと分からないでもない。そういう意味では、バルセロナの隙が、レアル・マドリーに勇敢な決断をさせてしまったといえるかもしれない。隙を見せるなんてバルセロナらしくないが、もしも隙を見せないバルセロナだったら、同点後のレアル・マドリーが愚直に引き分け狙いになっていたのは間違いないだろう。

一方で、ルイス・エンリケの采配がどうだったのか?と振り返ると、非常に評価が難しい。そもそも交代はアンドレ・ゴメスだけ。ただ、ラキティッチの位置に守れて走れる選手もいないので、ルイス・エンリケは手をうつという選択肢がそもそもなかったのかもしれない。ただ、祈るのみというか。

レアル・マドリーからしても、次にバルセロナと試合をしたら絶対に勝てるわという心持ちだろうなので、恐らく精神的なダメージは少なそうだ。その次は勝てるだろうという希望が、次回の対戦を終えたころに、あれ?また負けてるよ、なんでや!!となるのか、もうやりたくないわになっているのかは楽しみしておこうと思う。

コメント

  1. NNS より:

    ハメスの同点ゴールのシーンも、メッシの背後にクロースが居て、メッシは全く気付かずジョグ状態からでした。

    マルセロのマイナスを受けるためにポジショニングしているクロースへの寄せも遅いですが、スーパースターの難しさですよね…。

    • らいかーると より:

      難しさですね。逆に言えば、得点という結果を出せなくなったら一気にお払い箱になってしまうのかどうか。。。

  2. ととや より:

    絶好調時のメッシの怪物ぶりはもう表現できないですね。
    だからこそもっとローテーションを受け入れて欲しいのですが。

    バルサの変化に関してはやはり時代を感じます。
    ペップ時代はフィジカルの弱さをポゼッションでカバーする「攻撃は最大の防御」だったのが、堅守の壁に突き当たりました。
    エンリケも最初の半年はポゼッション主体のチームを目指していたはずですが、
    イニシャビの守備の限界が露呈し、フィジカルを重視するようになったと。
    今年になってから再びセットプレーが弱点になっていますけども、それまでは1年以上セットプレーでの失点がなかったのでその狙いもある程度は機能していたのでしょう。
    なにより国内の対戦成績ではアトレティコを圧倒したのがエンリケ最大の強みだと思います。
    ポゼッション主体のバルサが最も苦手としていたチームだったので。
    ただ、CLでは結局堅守のチームが最大の障壁になりましたけど(例外は決勝戦とイニエスタのゴラッソだけですね)。

    来季以降は刷新も考えられますが、ビルドアップの強化と、いい加減誤魔化しが効かなくなった守備の強化に取り組んで欲しいです。
    もはや決定機さえ量産すればウノゼロで負けても多めに見てもらえる時代ではないので。
    後者に関してはバルサだけに望み薄ですが・・

    • らいかーると より:

      決定機さえ量産すれば、ウノゼロで負けても、問題ない、そのうちに勝てるからって考えたのがスペイン代表の隆盛に繋がったので、そんな感じで頑張って欲しいです。守備に関しては、11人で守らない限りは、職人が必要となってしまうでしょうね。。

  3. shin より:

    審判に拍手したラモスへの追加処分は他の選手と違って一切なく、確かにレアルのダメージは少なかったようです。

    バルサの取りこぼしが多いためリードしていますが、上位5チームでの対戦成績でもレアルはバルサに負けています。
    今年は失点もかなり多くレアルが堅実なチームでいられるのはやはり1年が限度なのでしょうか。

    • らいかーると より:

      確かにダメージは少なかったってそういう意味じゃないし。

      レアル・マドリーはもともと堅実なチームでもないし。

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