後半の試合内容に触れる前に、前半戦の試合内容をもう一度まとめておこう。序盤から前半の終わりまで、マンチェスター・シティが試合の主導権を握り続けていた。1列目と2列目の距離が離れてしまったこともあって、5-3-2によるチェルシーのプレッシングは全く機能しなかった。マンチェスター・シティのビルドアップの可変式に苦しめられたというよりは、前でボールを奪いたい前線と、でも現実的に無理な気がするんだけど考える2列目!という、2006年のドイツあたりで聞いたことありそうな現象は、どの時代になってもエターナルな現象として、僕らの前に現れるようだ。まるで90年代のJPOPのようである。冗談はさておき、マンチェスター・シティのやりたい放題だった前半戦だったけれど、幸運にもスコアレスの展開はコンテにとってラッキーだったと言えるだろう。そして、後半戦が始まる。
セスク・ファブレガスの動きで試合に起きた変化
前半の形からシステムを変えることがなかったチェルシー。1列目のプレッシング開始ライン問題を解決しないと、前半のリピートとなってしまう。前半のリピートを繰り返すほど、チェルシーは愚かではなかった。コンテのハーフタイムの策は、セスクをフェルナンジーニョ担当にすることであった。
セスクがフェルナンジーニョについたことで、チェルシーの1列目の役割がはっきりする。相手のセンターバックとのどつきあい。中央からのボール前進が困難になったマンチェスター・シティだが、サイドバックはがら空きである。これは罠か、それとも配置的な優位性か。時間とスペースを相手から与えられている事実には変わりないので、アラバロールを封印して試合を進めていくマンチェスター・シティであった。
マンチェスター・シティのサイドバックがボールを持つと、バカヨコとカンテが飛び出してくる。バカヨコとカンテが相手のサイドバックを捕まえにいったエリアを埋めるのは、基本はセスク。ただし、セスクのカバーリングが間に合わなければ、センターバックが前に出てきて埋める(相手のインサイドハーフを撃退仕事)となっていた。なお、デルフが高い位置でボールを受けたときは、アスピリクエタが縦スライドで対応する。ハーフライン付近だったら、インサイドハーフをサイドに動かしてもいいと判断するチェルシー。しかし、自陣になると、中央を空けることは賢くない。ウイングバックが対応するか、インサイドハーフが対応するかは、時と場合によるというお話だ。
相手への対応と、さらに相手を殴るための変化
現実的に考えて、セスクの仕事はまっとうなものか、過多なものか、というのは議論が必要だろう。この試合で起きたことは、途中からセスクがフェルナンジーニョまでいけなくなっていった。セットプレーなどのプレー再開ではしっかりとフェルナンジーニョまで行けるけれど、流れのなかで上下動するのはさすがにきつそうであった。よって、フリーでボールを受けるフェルナンジーニョという場面が出てくる。つまり、前半のリピートの雰囲気が出てきた。
さらに、チェルシーを苦しめたのがデ・ブライネのボールを受ける動き。3センターなので、バカヨコは相手のサイドバックへプレッシングを行う。隣にいるはずのセスクはフェルナンジーニョ番でいない。さすがに逆サイドのカンテがカバーリングするのは無理だ。となると、自動的にアロンソかケイヒルとなる。しかし、アロンソはスターリングにピン止めされている。となると、ケイヒルとなるが、どこまでついていくのだ問題が出てくる。その相手の論理を利用して、デ・ブライネはバカヨコの視野外から突然現れて、ボールを受けてビルドアップの出口となっていた。
53分くらいセットプレーの流れから、サネとスターリングの位置が交換される。チェルシーの変化はウィリアン。最初は自主的に2列目の守備に参加する場面が出てくる。60分のアザールのシュートに繋がったセットプレーのあとは、サイドハーフのような守備を始める。62分には5-4-1で守備をするようになる。
伝家の宝刀である5-4-1を出したチェルシーだったが
このチェルシーの変化によって、マンチェスター・シティのビルドアップ隊、つまり、ストーンズ、オタメンディ、フェルナンジーニョの周りには、アザールのみとなった。よって、時間とスペースを得たマンチェスター・シティのストーンズ、オタメンディ、フェルナンジーニョは好き勝手にプレーするようになる。ときどきアラバロールもやっていた。でも、基本は大外ポジショニングをとるマンチェスター・シティのサイドバック。
マンチェスター・シティの狙いは、相手のセンターバックの両脇をいかにして動かすか、であった。そのためには、インサイドハーフ(デ・ブライネとシルバ)へ迎撃守備を行わせるであった。興味深かったのが5-3-2と比べると、5-4-1のほうが中央が空きやすくなるので、センターバックの迎撃仕事が増える。また、サイドハーフを置いたことで、マークがはっきりするチェルシー。しかし、ポジションチェンジで撹乱されると、マークがはっきりしたことが裏目にもなる。よって、デ・ブライネたちの対応をするようになっていくケイヒルたちだったのだけど、前に出ていくと、そのエリアを使われる地獄であった。相手のセンターバックを動かして、そのエリアを使う狙いを見せるマンチェスター・シティに対して、チェルシーのセンターバックたちはどこまで迎撃、つまり、自分の持ち場を離れてプレーするべきか悩むようになっていく。
66分にマンチェスター・シティが先制。フリーのオタメンディからボールサイドでないインサイドハーフのデ・ブライネにボールが通り、ジョズスとのワンツーで中央に侵入したデ・ブライネが左足を振り抜いてゴール。バカヨコがデ・ブライネのパスコースを制限すべきだったか、それともケイヒルが前に出るべきだったかはチームの約束事によるだろう。ただし、前述のようにデ・ブライネについていったケイヒルは相手に決定機を与えたばかりだった。そんな伏線もあって動きづらかったケイヒルは、ボールを受けたデ・ブライネのまえになすすべもなくやられることとなった。
71分にアザール→ペドロ。バカヨコ→バチュアイ。チェルシーは3-4-3に戻して、攻勢に出る。最初からこの形でやればよかったのにという現象が起きる。ただし、その後もマンチェスター・シティのエデルソンのロングボールを活かした速攻とボール保持攻撃で失点してもおかしくない場面が多数であった。リュディガーのヘディングクリアーは、ファンタジーポイントを稼いだことだろう。試合は1-0のまま終了する。マンチェスター・シティの強さが際立った試合となった。
ひとりごと
モラタの負傷はとっても痛かったチェルシー。マンチェスター・シティにロングボール作戦は有効なのだけど、誰も競り勝てそうもないメンバーだと、さすがに心もとない。というか、有効でなくなってしまう。だったら、地上戦か裏へ放り込んでのカウンターとしかないのだけど、双方ともにマンチェスター・シティのプレッシングの強度にたじたじ。スコアが動いて、マンチェスター・シティの足が止まり始めてから、チェルシーも少しだけらしさをみせることはできていた。ジエゴ・コスタでもいれば、セスクとのコンビでどうにかできそうだけど、ジエゴ・コスタはもういない。そういう意味では、センターバックの面子も含めてなかなか厳しいチーム事情だったのかもしれないチェルシー。
マンチェスター・シティは圧巻の試合内容だった。相手の守備の形に応じて、自分たちの形もさっと変化できるのだから恐ろしい。わがままを言えば、チェルシーの5-4-1とスコアレスの状態でもう少しだけ過ごしてほしかった。再戦に期待しておきます。
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